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やってみようか
しおりを挟む「お客さんの邪魔しちゃっててごめんね。志貴さんて言うのね。先日もお店にいたよね? このお店、良いよね?」
紗杜はにこにこと少女に声をかけた。
「はい」
紗杜のテンションとは対照的に、少女は抑えた声で答えた。
そんな結の様子を気にした素振りもなく紗杜は変わらない元気の良い張りのある声で言葉を続ける。
「私は伊礼紗杜って言います。圭ちゃんとは大学時代のゼミの仲間だったの」
「あ、はい。私は志貴結です。この町には春頃から住んでいましたが、『灯影書房』のことは夏休みに入ってから知って……たまに来て、本を買ったり読書スペース使わせてもらったりしています」
結と名乗った少女は、当初は紗杜の勢いに飲まれていたが、意外と礼儀正しい紗杜につられるように丁寧に自己紹介をして、その流れで落ち着きも取り戻していた。
「結ちゃんかー。良い名前! うんうん、お店、雰囲気は良いんだけどちょっとわかりにくいよね。ね、ほらー? もっとお店知ってもらう意味でも、イベント良いと思うんだよねー」
勢いよく言う紗杜に、圭吾は困ったように笑い、
「まあ、わかるよ。ただ、うちはあまり人を集める店ではないからなぁ」
言いながら結を読書スペースへといざなった。
「この店舗は、不動産屋でもある彼女の紹介でね。昔なじみのよしみで良い物件を融通してもらったことには感謝してるんだ」
結は圭吾の言葉を受けながら、思案顔で席に着いた。
「別に、感謝を嵩に要求するつもりはないんだけどね。『灯影書房』には静かな魅力がある。町に古くから居る人は知ってるかもしれないけど、新しい市民や外部の人にも知ってもらいたいんだよ。この町には、こんな素敵な場所があるって」
圭吾はしばらく黙っていた。そして、ふと尋ねた。
「……紗杜は、どうしてそれほどまでにこの町のことを考えているの?」
真剣な表情の紗杜に問う圭吾も、真剣な顔をしていた。
紗杜は少し考え、少しだけ笑った。
「……この町で育ったから。昔は、何もないって思ってたし、今も世の中が取り上げるほどに実態がある町ではないとは思ってる。でも、“何もない”ことが、価値になることもあるのかなって思うようになって」
読書スペースに通された結は、ノートを広げていたが書く手は止まっていて、ふたりのやり取りを聴いていた。
紗杜の言葉に、また圭吾は少し考えて、そして静かにうなずいた。
「……そうか。紗杜の思う、この店ができること。俺もこの町に生かされている身だからね。やれることがあるなら、やってみようか」
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