詩片の灯影③ 〜言葉を音に乗せて〜

桜のはなびら

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結の挑戦

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 話がまとまり、望む方向に進められそうになった紗杜はにこにこしながら読書スペースに向かった。勝手に淹れたコーヒーが入ったマグカップを持って。両手にそれぞれ手にしていたカップのうちのひとつを、結の椅子の前にあるテーブルに置き、自らも開いている席に腰掛けた。
 
「このお店で、何かするんですか?」

「あー、うん、そりゃあ聴こえてたよね。うるさくしてごめんなさい。このお店で生演奏をバックにして、朗読会とか読書会とかやりたいなって思って」

「そうなんですね」

「……結ちゃんは、何か書いてるんだっけ?」

「言葉のこと、草壁さんに聴いて。言葉って、形にすると良いって……だから、いろいろ考えちゃったりするとき、この場所で書かせてもらうことがあります」

「ここは、心を整理したりまとめたり、吐き出したりするのに良い場所だよね。……ねえ、結ちゃん。このお店でやるイベント、朗読会にしようと思うんだけど、結ちゃん出てみない?」

「え……」

「そうね、詩にしよう。好きな詩でも良いけど、オリジナルがあったらオリジナルが良いかなぁ」

「え、え、私、詩なんて授業でちょっと書いたことしかないです」

 紗杜には結が、落ち着いた少女に見えた。熱の低い子どもにも。しかし紗杜は、この年代の少女がぱっと見の印象だけではないことを知っている。
 結が垣間見せた”熱”の種のような感情を、紗杜は見逃さない。

「頭の中に現れた想いを、言葉にして書いているなら、それってもはや詩じゃない?」
 いたずらっぽっく笑う紗杜に結は戸惑った表情を見せた。

「おいおい、紗杜……無茶言うなよ」
 自分のカップを手にした圭吾も空いている席に腰掛け、結に助け船を出す。が、
「前にも言ったかもしれない。削がれた言葉が持つ力について。その意味では、想いをそのまま書き連ねた言葉は、きっと強いのだろうね。紗杜のはいわゆる無茶振りってやつなのだろうけれど、表現すること……誰かに、露にすること自体は、推奨したいな」

「え……でも、ほんとに、ただ脈絡もなく書いてるだけで……とても詩とは呼べない」

「そのままでは、そうだね。どんなに強いエネルギーも、人が扱うためには何らかの形を与えてあげなくてはならない」
 圭吾は言った。
 生み出された原始的な想い、純粋な言葉。
 それを、誰にどうやって伝えたら伝わるだろうかと、意思を持って指向性を与えてあげる。そうすることで、研ぎ澄まされた詩になるのだと。

「もしその想いが、誰かに伝えたい気持ちでもあるのなら。知ってもらいたい、志貴さんを現す言葉であるのなら。詩にしてみる、朗読で届けてみる、というのも、志貴さんにとって良い体験になると思う。それに、少なくとも俺は、志貴さんの詩、聴いてみたいと思っているよ」
 
 圭吾に言われた結は、「それなら。じゃあ……」と、ささやかに頷いてみせた。その様子を紗杜は満面の笑みで見つめていた。
 
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