21 / 23
仕事中も
しおりを挟む仕事中も紗杜の頭の中は相変わらず企画のことが七割程度は頭を占めていた。ほぼ既定路線に乗っている。人員の配置に関する確認事項は残っているが、確認作業は進めていて、あとは答えを待つだけだから、今具体的に何が得なくてはならないことがあるわけではない。それでも、未了のままタスクが残っていることが、紗杜はどうしても気になってしまうのだ。
しかしその状態も、周囲の動きも迅速だったおかげで数日もたたずに必要な情報は出そろってきた。
企画自体は概要を『ソルエス』メンバーにはあらかじめ打診はしてある。どの会場で何をするかまでは伝えきれていないメンバーもいたが、日程は押さえてある。
チーム外の助っ人については早急に確認が必要だった。
ZENZぃは『ソルエス』の代表を指す『プレヂデンチ』であるハルから話してもらっていて、翌日には紗杜のもとに快諾の返事が届いた。プロのミュージシャンだが、出演料も謝礼程度で良いという。ZANZぃも今回の対象エリアからは少し離れているが、市内でバーを経営している。市内のイベントに協賛したい、紗杜の考えには共感している、『ソルエス』との縁の三点から、基本的には好意的で強力的だ。
のん経由でアイとリコについても連絡があった。アイは可能だが、リコは通っている大学のオープンキャンパスに、在学生として出ることになっているそうで出られないというメッセージが、お詫びと共に届いたのだそうだ。
残念だが予定が合わないのは仕方がない。
ベース不在でも成立はするが……。
決して広くはない、無理して作った演奏スペースだ。演奏者は歌い手含めて三名くらいがちょうど良いとも思えたが、紗杜はコントラバスが不在で音の厚みが減る分、アクセントを加えたいなと考えていた。
朗読中は歌は無い。
あくまでもBGMだから、楽器二つで足りないということも無い。
完全に溶け込んでしまう演奏もまさに融合という感じで良いと思う一方、せっかく音楽も存在しているのだからしっかり立たせたいとの考えの方が強かった。
バテリアからひとり引っ張ることになってしまうが、『タンボリン』奏者のミャーが『アゴゴ』も演奏できる。アゴゴは三角錐の鉄を叩いて鳴らす楽器だ。大小二連の三角錐で音色を使い分けて演奏する。三連や四連のものもあり、三角錐の数が増えるほど、アレンジの幅が増える。カウベルよりも甲高く澄んだ音が鳴り、優しい音色が詩の朗読やボサノバの歌に彩を沿えると思えた。
静謐な空間に高い音は耳障りな効果を与える恐れがあったが、灯影書房の扉を開けると鳴る鐘の音は店内にとてもマッチしている。アゴゴを密やかに演奏すれば、澄んだ音が心地よく館内に居る人の心に染みわたるのではないだろうか。
ミャーはのんの級友の妹で、のんやとは縁が深い。のんの学祭バンドメンバーとも相性は良い。今回の企画で、高く大きな音が鳴るパレード向きの『タンボリン』はそこまで大人数は必要ない。
バテリアから抜いてのんと一緒に灯影書房の方に来て貰うことにしよう。
0
あなたにおすすめの小説
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
キャラ文芸
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。
代わりに得たもの。
色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。
大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。
かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。
どれだけの人に支えられていても。
コンクールの舞台上ではひとり。
ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。
そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。
誉は多くの人に支えられていることを。
多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。
成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。
誉の周りには、新たに人が集まってくる。
それは、誉の世界を広げるはずだ。
広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる