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監督の洗練
しおりを挟む(小国さん)
小国さんに導かれ、入室した会議室で私たちは、早速しょーちゃんの言う「癖つよ」の洗礼を受けた。
「おいおいおいおい、この場で最も作品作りから遠い連中が最も遅いってのは、俺らぁお貴族様のご令嬢でも接待しなきゃなんないのかねぇ?」
うわぁ……。こういう感じかぁ。
突如浴びせられた敵意を感じる言葉に硬直する。硬直したまま室内を見渡すと、すでに会議室には関係者が揃っているようだ。十人が着席できる大きい会議室テーブルに既についている一同は入り口付近の私たちに注目している。
すました顔で背筋を伸ばして座っている、つややかな黒髪が印象的な透明感のある女性が多分主演の女優さん。席を空けず隣に座っている、明るい茶髪にライトグレーにタータンチェック柄のスリーピースという出で立ちの会社員にしては軽そうな雰囲気の二十代後半くらいの男性はマネージャーさんだろうか。
そして、その向かいに座っている先ほど悪態をついていた白髪交じりの短髪に丸メガネ、ネイビーのワークシャツの五十代くらいの男性がおそらく監督の人だろう。
遅刻なんてもちろんしていない。むしろだいぶ早めに着いているはずだ。
大物感出している監督なら、むしろ遅れてきそうなものだが、この業界は相当早く来るのが習わしというか、プロ意識の現れだったりするのだろうか。
「時間を指定されたのはそちらでは? こちらは時間前に着いています。それで差し障りがあるのであれば、最初から差し障りのない時間を指定すべきだと思いますが」
要さん⁉︎ それはまずいのでは......⁉︎
威圧的な監督の言葉に萎縮しながらも、ノータイムで返す刀で切り掛かった要さんの対応にはさすがに危うさを感じ、監督の方をチラリと覗く。瞬間で顔色を変えた監督が言葉を発しようと口を開いた瞬間、
「時間の発信はうちからさせてもらっていました。配慮足らずすみません!」
「千屋監督、時間が貴重なのは仰る通りです。なので余計なやり取りは省いて進めましょう。人間関係も、わざわざ悪化させてスムーズにいくことなどありませんよ」
意外と喧嘩っ早い要さんが脊髄反射で挑みかかろうとするも、同じく瞬間鋭い目つきになったものの、もっと反応の速かった要さんに気付き慌ててフォローする側に回ったしょーちゃんと、小国さんが、それぞれへの素早く火消しを行い、機先を制された監督は不承不承押し黙って、腕を組んでのけぞった。
剣呑な雰囲気は残しながらも、とにかく自己紹介を進めることとなった。
といっても、全員と初対面なのは私と要さん。どちらかと言えば私たちの紹介からとなる。
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