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かつて
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就寝前のひと時。
今日も疲れたなぁ、なんて思いながらペディキュアを塗っていたら、デスクに置いていたスマホがメッセージの受信を現す短い音を鳴らした。
≪ほまれちゃん、こんにちは! 話したい―! 連絡できる時間あったら教えて≫
かわいいな。
疲れた心が、ちょっと温まった。
メッセージの送り主は、私がマレと呼んでいる女の子。柳沢希。
私がバレエスクールに通っていた時に、慕ってくれていた後輩だ。
私の舞台を観客席で見ていて、その姿に憧れ、両親にねだって同じスクールに通うことを決めたのだと、当時小学生だった彼女は興奮気味に語っていた。
幼少期から始める子が多いバレエの世界。
十歳は幼いともいえるが、バレエの世界にあっては始めるには少し遅い年齢だった。
私との年齢差は三歳。
コースがわかれてしまうため、普段は別々の教室での練習となるが、たまにある自由練習や合同練習の場などでは、いつも私を目ざとく見つけ、近くで練習し、隙があれば話しかけてくれた。
自分で言うのもこそばゆいが、本当に私のことを好いていてくれていた。
当時、スクール内で私は同世代の中でトップクラスのバレリーナだった。
コンクールに出れば、大抵何らかの賞を獲得していた。
マレはそんな私の舞踊を高い完成度でコピーし、瞬く間に頭角を現した。
才能などという言葉で片づけるのはマレに失礼だろう。不断の努力で勇往邁進する姿を、私は間近で見てきた。
でも、私も努力で負けていたとは思わない。
本当に、バレエ以外のすべてを最小限に抑えて、使える時間と体力のすべてをバレエに捧げてきたつもりだ。
評価の高いスクールの、優秀な指導者に師事しての努力は、その方向を間違っていたとも思えない。
努力の質も量も、身体的な資質も、多分私は持っていたことは、獲得した賞の数々が証明してくれていた。
業界内にて比較的評価の高かったスクールにあっても、当時の現役生徒の中では上位に位置する実績だ。
著名な講師を目当てに、遠方から通っている生徒もいるくらい、層の厚い生徒数を誇るスクールの、ホームページで紹介される数人の生徒の内のひとりが、私だったのだ。
しかし、数多獲得したその賞のどれもが、最優を現す評価ではなかった。
だからきっと、始めた時期が決して早くなかったにもかかわらず、あらゆるコンテストで片っ端から最優秀賞を掻っ攫っていたマレは、やっぱり資質に恵まれていたのだと思う。
マレが持っていた勝利を掴み取るための気質を、私は持っていないことを自覚したとき。
私は自分の限界を悟ってしまった。
手続きを済ませ、スクール内に残置が許されていた座学用のテキストや資料などの荷物をまとめ、スクールを後にする私を、マレは悲しさと悔しさをにじませた顔で見送ってくれた。
私の退会の要因のひとつに、自分が影響しているのではないかという想いと共に。
その時のマレは、まだ小学生だった。私の決断は、私のためのもので、悔しさも寂しさもあれど後悔は無かった。
しかし、私を慕ってくれる幼い妹分を、間違いなく傷つけてしまった事はしこりとして残った。
今日も疲れたなぁ、なんて思いながらペディキュアを塗っていたら、デスクに置いていたスマホがメッセージの受信を現す短い音を鳴らした。
≪ほまれちゃん、こんにちは! 話したい―! 連絡できる時間あったら教えて≫
かわいいな。
疲れた心が、ちょっと温まった。
メッセージの送り主は、私がマレと呼んでいる女の子。柳沢希。
私がバレエスクールに通っていた時に、慕ってくれていた後輩だ。
私の舞台を観客席で見ていて、その姿に憧れ、両親にねだって同じスクールに通うことを決めたのだと、当時小学生だった彼女は興奮気味に語っていた。
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自分で言うのもこそばゆいが、本当に私のことを好いていてくれていた。
当時、スクール内で私は同世代の中でトップクラスのバレリーナだった。
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マレはそんな私の舞踊を高い完成度でコピーし、瞬く間に頭角を現した。
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でも、私も努力で負けていたとは思わない。
本当に、バレエ以外のすべてを最小限に抑えて、使える時間と体力のすべてをバレエに捧げてきたつもりだ。
評価の高いスクールの、優秀な指導者に師事しての努力は、その方向を間違っていたとも思えない。
努力の質も量も、身体的な資質も、多分私は持っていたことは、獲得した賞の数々が証明してくれていた。
業界内にて比較的評価の高かったスクールにあっても、当時の現役生徒の中では上位に位置する実績だ。
著名な講師を目当てに、遠方から通っている生徒もいるくらい、層の厚い生徒数を誇るスクールの、ホームページで紹介される数人の生徒の内のひとりが、私だったのだ。
しかし、数多獲得したその賞のどれもが、最優を現す評価ではなかった。
だからきっと、始めた時期が決して早くなかったにもかかわらず、あらゆるコンテストで片っ端から最優秀賞を掻っ攫っていたマレは、やっぱり資質に恵まれていたのだと思う。
マレが持っていた勝利を掴み取るための気質を、私は持っていないことを自覚したとき。
私は自分の限界を悟ってしまった。
手続きを済ませ、スクール内に残置が許されていた座学用のテキストや資料などの荷物をまとめ、スクールを後にする私を、マレは悲しさと悔しさをにじませた顔で見送ってくれた。
私の退会の要因のひとつに、自分が影響しているのではないかという想いと共に。
その時のマレは、まだ小学生だった。私の決断は、私のためのもので、悔しさも寂しさもあれど後悔は無かった。
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