35 / 123
本章 計画と策動
慈杏の決意20
しおりを挟む
その日、慈杏とミカが得た結論としては、商店街の活性化は、ひとつの要素になるという点だ。
自分の店が地域外の顧客への集客装置になれた時、売り上げのことではあまり一喜一憂しない父が殊の外上機嫌で珍しく酒に酔っていたのを慈杏は良く覚えていた。
開業の時に快く迎え入れてくれて、あれこれと世話を焼いてくれた上の世代の経営者たちに少しでも恩返しができただろうか。次は自分達の世代がこの商店街を盛り上げていこうと、語り合った同世代の経営者や、数は少ないが先代から受け継いだ若い経営者や、自分と同じように外部から来て開業した若い経営者たちの助けになれただろうか。そんな思いを慈杏は父から聞かされていたのだった。
そう、普段は冷静な父にも、若い頃は燃える情熱と、思いを一にする仲間がいた。
この商店街を盛り上げることに賭けた青春があった。それを慈杏は知っていた。
駅から北に伸びる『スターロード商店街』と、南に伸びる『サンロード商店街』は、かつて農地と植林、空地しかなかったこの地に、駅ができたことで自然発生的に生まれた商店街だった。
同時に宅地も整っていくことになるこの地の発展を担ってきた両商店街は、それぞれが街の中心であるという自負を持っていた。
街が発展するにつれ、次第に顧客を奪い合い、不毛な安売り合戦の様相を見せ始め、双方とも疲弊と徒労を伴う泥沼の消耗戦が延々と続きそうに思えた頃、その関係性に終止符を打ったのもこの世代の取り組みによってだった。南北の商店街は繋げば一大商圏となる。
まとまることで市場を拡大したり、スケールメリットを創出して広報や仕入れ、配送費、人件費などのコストを圧縮したり、規模の大きいキャンペーンやイベントで値下げに依らない付加価値づくりや集客企画などが実現できた。
中でも初秋の土日に日夜通しで行われる『サンスターまつり』は地域を大いに盛り上げた。『サンロード商店街』が仕切る昼の部『おひさまカーニバル』と『スターロード商店街』が仕切る夜の部『お星さまフェスティバル』には、地域のサークルや団体、学校や企業のクラブがパフォーマンスを披露していた。昨今では外部からも出演希望が届いている。
商店街からは、南北それぞれの中心メンバーが発起人となって立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』が、昼はパレードで来場者を巻き込んで大盛り上がりし、夜はステージで魅惑のショーを披露していた。
南北の商店街をつなぐ象徴であり、慈杏の父も母もこの日ばかりは演者として大いに張り切ったものだった。
慈杏も幼い頃から大人たちに混ざって踊っていて、地域のちょっとしたアイドルだった。商店街の催しは、商店街が活気付くほど盛り上がっていった。
催しは今でも大勢の見物客が訪れるが、商店街側に衰えが見えはじめていたため、ピーク時に比べれば翳りがあり、遠くない将来の衰退も予感させた。
自分の店が地域外の顧客への集客装置になれた時、売り上げのことではあまり一喜一憂しない父が殊の外上機嫌で珍しく酒に酔っていたのを慈杏は良く覚えていた。
開業の時に快く迎え入れてくれて、あれこれと世話を焼いてくれた上の世代の経営者たちに少しでも恩返しができただろうか。次は自分達の世代がこの商店街を盛り上げていこうと、語り合った同世代の経営者や、数は少ないが先代から受け継いだ若い経営者や、自分と同じように外部から来て開業した若い経営者たちの助けになれただろうか。そんな思いを慈杏は父から聞かされていたのだった。
そう、普段は冷静な父にも、若い頃は燃える情熱と、思いを一にする仲間がいた。
この商店街を盛り上げることに賭けた青春があった。それを慈杏は知っていた。
駅から北に伸びる『スターロード商店街』と、南に伸びる『サンロード商店街』は、かつて農地と植林、空地しかなかったこの地に、駅ができたことで自然発生的に生まれた商店街だった。
同時に宅地も整っていくことになるこの地の発展を担ってきた両商店街は、それぞれが街の中心であるという自負を持っていた。
街が発展するにつれ、次第に顧客を奪い合い、不毛な安売り合戦の様相を見せ始め、双方とも疲弊と徒労を伴う泥沼の消耗戦が延々と続きそうに思えた頃、その関係性に終止符を打ったのもこの世代の取り組みによってだった。南北の商店街は繋げば一大商圏となる。
まとまることで市場を拡大したり、スケールメリットを創出して広報や仕入れ、配送費、人件費などのコストを圧縮したり、規模の大きいキャンペーンやイベントで値下げに依らない付加価値づくりや集客企画などが実現できた。
中でも初秋の土日に日夜通しで行われる『サンスターまつり』は地域を大いに盛り上げた。『サンロード商店街』が仕切る昼の部『おひさまカーニバル』と『スターロード商店街』が仕切る夜の部『お星さまフェスティバル』には、地域のサークルや団体、学校や企業のクラブがパフォーマンスを披露していた。昨今では外部からも出演希望が届いている。
商店街からは、南北それぞれの中心メンバーが発起人となって立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』が、昼はパレードで来場者を巻き込んで大盛り上がりし、夜はステージで魅惑のショーを披露していた。
南北の商店街をつなぐ象徴であり、慈杏の父も母もこの日ばかりは演者として大いに張り切ったものだった。
慈杏も幼い頃から大人たちに混ざって踊っていて、地域のちょっとしたアイドルだった。商店街の催しは、商店街が活気付くほど盛り上がっていった。
催しは今でも大勢の見物客が訪れるが、商店街側に衰えが見えはじめていたため、ピーク時に比べれば翳りがあり、遠くない将来の衰退も予感させた。
0
あなたにおすすめの小説
スルドの声(交響) primeira desejo
桜のはなびら
キャラ文芸
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。
高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。
ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。
出会ったのは、スルド。
サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。
姉のこと。
両親のこと。
自分の名前。
生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。
※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。
千紫万紅のパシスタ 累なる色編
桜のはなびら
キャラ文芸
文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。
周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。
しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。
そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。
二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。
いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。
※表紙はaiで作成しています
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
キャラ文芸
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。
代わりに得たもの。
色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。
大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。
かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。
どれだけの人に支えられていても。
コンクールの舞台上ではひとり。
ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。
そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。
誉は多くの人に支えられていることを。
多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。
成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。
誉の周りには、新たに人が集まってくる。
それは、誉の世界を広げるはずだ。
広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スルドの声(共鳴2) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
何も持っていなかった。
夢も、目標も、目的も、志も。
柳沢望はそれで良いと思っていた。
人生は楽しむもの。
それは、何も持っていなくても、充分に得られるものだと思っていたし、事実楽しく生きてこられていた。
でも、熱中するものに出会ってしまった。
サンバで使う打楽器。
スルド。
重く低い音を打ち鳴らすその楽器が、望の日々に新たな彩りを与えた。
望は、かつて無かった、今は手元にある、やりたいことと、なんとなく見つけたなりたい自分。
それは、望みが持った初めての夢。
まだまだ小さな夢だけど、望はスルドと一緒に、その夢に向かってゆっくり歩き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる