63 / 69
第60話 宝石を巡る事件②
しおりを挟む
数日後、良質な宝石が手に入ったということで、カトリーヌに出来栄えを見ていただけないだろうかと連絡が入った。
「兄ですわ」
その日は兄のリチャードを連れた宝石商を訪れた。
出迎えた宝石商は、一瞬だけ表情をしかめた。それもそのはずだろう。宝石商にとってリチャードは忘れもしない育成学校時代の同期生だったのだ。
「久しぶりだな、ベネス」
「リチャード、お前の妹だったのか…」
育成学校卒業以来、同じ王都に居ながらも顔を会わせなかったリチャードと宝石商のベネス。お互いに王宮に出入りしているはずなのに、顔を会わせなかったのは、リチャードはエテ王子が住む棟へ頻繁に出入りし、ベネスは第一王女や第二王女が住む別の棟に出入りしている事が関係している。
「お兄様、お知り合いでしたの?」
「育成学校時代の同期だ。騎士団の入団を断ったんだよな?」
「なぜ宝石商に?」
「ベネスは手先が器用で、武器の手入れとか修理をするのが得意だったんだよ。それに何かを作る才能に恵まれていて、特に宝石を扱ったアクセサリーのデザイン力が買われて、王宮に出入りする宝石商に就職した。間違っているか?」
「……いや、合っている。よく覚えているな」
「ライバルは忘れない記憶力を持っているんでね。だけど、お前が独立している事は知らなかった。王女様に気に入られて、エテの婚約式で使うアクセサリーを担当するとはね」
「俺の才能を買ってくれた人がいただけだ。お前、結婚するのか?」
「ああ。運命の出会いをしてしまってね、とんとん拍子に話が進んだ。お前もいつまでも独り身でいるなよ」
「うるさい! 俺は仕事を優先にしたいんだよ!」
「行き遅れるなよ」
「うるさい! うるさい!!」
育成学校時代、ことあるごとに衝突していた2人。リチャードはエテ王子を最大のライバルと認めていたが、同時に親友としても認めていた。王族だからとか、自分の出世の為とか、そういう考えは一切持たず、心から本音を言い合える日とと認めていた。ベネスに対してはただのライバルだった。…と、いうよりもベネスが事あるごとに突っかかってきて、勝手に喧嘩を売り、勝手に騒いでいただけの事。敵対する気持ちはなかったが、売られた喧嘩を可哀想に思いながら買っていただけのこと。
リチャードにとってべネスは息抜きの相手であり、ベネスにとってリチャードは絶対に認めたくない相手なのである。
「だいたい、お前の婚約者なんだからどっかの大貴族様なんだろ? 俺と違って身分があるんだから」
「いいや、ただの村娘」
「はぁ!? 侯爵家の跡取りが身分もないただの村娘を嫁にするのか!? よく侯爵が反対しなかったな?」
「むしろ大歓迎。彼女の一家…というより親族が王族と仲がいいんでね。国王様もすんなりと認めてくださった。まぁ、周りの貴族連中が何というか気になるが、そこは国王様や王妃様が何かしてくれるだろう」
「どうせ侯爵家の権力でも使ったんだろ」
「生憎、わたしはそういう物が嫌いだ。わたしもカトリーヌも自分の実力で今の地位にいる。国王様も権力を振りかざす貴族を嫌っている。実力があれば何でもできる。お前も実力を買われて今の宝石商のオーナーをやっているんだろ?」
「……そりゃそうだけど……」
ベネスはリチャードほどの身分はないが、一応爵位のある家に生まれた。爵位があっても貧困な生活をする貴族もあり、一般市民よりも貧しい生活をしていたベネスは、爵位を貰ったことで浪費家となってしまった両親を憎んでいた。いつか大金持ちになってやるという思いがあり、騎士団の幹部になれば給料も多く貰える為、軍の育成学校に入学した。
だが、そこには小さい頃から戦うための教育を受けてきた貴族の子息たちが沢山おり、すぐに自分には向かない事がわかった。元々、手先が器用で武器の手入れや修理を簡単にやっていた。それに目を付けた卒業生がスカウトにやってきたが、所詮は武器の手入れ。幹部ほどの給料は貰えず、騎士団の団員というよりも職員といった感じが嫌ですべて断った。
それでもなんとかして職を手に入れないと生きていけない。その時声をかけてくれたのが、実家が宝飾のアトリエを経営していた王宮使用人育成学校の同級生だった。物は試しとアトリエで働くことになり、自分が考えるアクセサリーが店に並ぶようになり、そこそこ売れていたが夢の「大金持ち」には程遠かった。
そんなある日、王宮で芸術家たちが作品を持ち寄って競売にかけられることになった。なんでも国王に【オークション】なる競売方法を教えた人がいたらしく、まだ売れていない若手の芸術家たちの作品を貴族たちが買い取って位くれるというのだ。
ベネスはアトリエの親方に許可を得て、自分で考えたアクセサリーを出品した。今までのアクセサリーは使われる宝石が一つ又は一色のみだった。ベネスが考えた複数の種類の宝石を使い、二色以上の色を持つアクセサリーは斬新で貴族たちに気に入られた。いくつか持ち込んだアクセサリーは高値で買われ、合計は一年分の給料以上に相当した。
更にある貴族がその才能を買ってくれた。自分専用のアトリエを作ってくれたり、店まで用意され、国王と面識があるからと王族にも売り込んでくれた。そのおかげで王宮御用達の宝飾デザイナーとなり、今はその貴族の援助で宝石商を立ち上げる事まで出来た。ここ1~2年の出来事だ。
自分の実力で手に入れたベネスにとって、リチャードの言葉はよくわかる。わかるからこそ、本当に実力で今の地位にいるのか窺わしいリチャードが憎かったりもする。
「で、ベネス。わたしの妻への贈り物を作ってくれたと聞くが、見せてくれるかね?」
「お前が客なら断ればよかった」
「おいおい、そんなこと言ったら、本気で侯爵家の権力を使うぞ」
ニッコリ笑顔で低い声を出すリチャード。その後ろに控えるカトリーヌも意味ありげな黒いオーラを漂わせながら笑顔を見せていた。
王族との繋がりも深い彼らを敵に回すことは、自分の首を絞めるという事。仕事の為にもここは我慢しなくてはならない。
ベネスは応接間に2人を通し、頼まれたアクセサリーを見せた。
とても数日で仕上げたとは思えない装飾で、中央に置かれた薄紫色のアメジストは光が乱反射することで輝く様にコーティングされ、それを囲むように銀色の土台はハート型になっており、その土台には薄い黄色の小さな宝石が12個散りばめられていた。大きさはコロリスの物よりも一回り小さいが、細部まで丁寧に作られている為が豪華に見える。
「王子様のご婚約者の物より豪華に見えますわ」
コロリスが贈られた物を直接見ているカトリーヌが、ため息交じりに呟いた。
「王子からのご注文はあまり派手にして欲しくないと要望がございましたので、一番簡単なデザインで、それでも豪華さを出すように宝石自体を大きくしています。こちらは宝石は小さいのですが、その分土台となる周りの装飾を派手目にしてみました。最も、こちらに使っている宝石は手に入れにくい物を使っていますので、同じ物は作ることはできないでしょう」
「お兄様、素敵ですわ。きっとお義姉様も喜びますわ!」
カトリーヌは本気で喜んでいた。
リチャードはベネスの実力に脱帽だ。たしかに育成学校時代にデザイン画を見たことがある。細部まで拘って描かれたデザイン画は出来上がりが楽しみだった。実際に王宮使用人育成学校の女子に頼まれ、髪留を作ったことはあったが、それから10年以上の歳月が流れ、更に才能が開花している。
べネスはじっと見つめるリチャードが言葉を失っている光景に、満足気にふんぞり返っていた。
「お兄様、一度、お義姉様にお見せしませんこと? お義姉様の喜ぶ顔が見たいですわ」
「あ…ああ、そうだな」
「こちらを一度、お借りすることはできませんか?」
「まだ試作ですよ? いいんですか?」
「構いませんわ。箱はわたくしが用意しましたの。こちらに入れてもよろしいですか?」
カトリーヌは自分で用意したという、白い長細い箱をテーブルの上に出した。中を開けると、内装はパステルピンクの布で覆われ、ペンダントトップを収めるところには、薄い緑色の布で作られた小さなクッションが置かれてあった。
箱を用意されたことに、ベネスは小さく舌打ちをした。その音はとても小さく目の前に座る2人には気づかれなかった。
「わたくしが作りましたのよ。可愛いでしょ」
「そうですね。まるで花のように見えます」
心では(余計な事をしやがって)と悪態をつくベネスは、何とかして営業スマイルを保っていた。
「お兄様、近いうちに結婚式の打ち合わせでお義姉様の処へ行かれるのでしょ? お持ちになったらいかがかしら?」
「そうだな。ベネス、悪いな。少しの間借りるぞ」
「どうそご自由に。持ち出し料でも徴収しようかね?」
嫌みったらしく言うベネスの前に、布の小袋が突然現れた。
リチャードが彼の前に袋を差し出していたのだ。
「なんだよ、これ」
「追加の前金。足りない分はまた持ってくる」
差し出された小袋を受け取ると、ずっしりと重みを感じた。
どうせ悪戯で鉄貨(10エジル)か銅貨(100エジル)を大量に詰め込んだんだろうと、興味なさそうに口を開けると、そこのは黄金に輝く金貨が数十枚詰め込まれていた。
「お…おい、これ…」
「言っただろ、追加分だ」
「多すぎる! 前にも金貨30枚置いていったんだぞ。いくらなんでも多すぎる」
「気にするな」
「気にするわ! これだから金持ち貴族は嫌いだ。何も考えずに金さえ払えばいいって考えしか持っていない」
「生憎、わたしもカトリーヌも普段から金を使わないんでね。騎士団にいるとアクセサリーとは無縁だし、服も最低限の私服さえあればいい。王宮に参上する時も、国王主催の舞踏会も、騎士団の正装を義務付けられている。一般の騎士団団員なら、それなりに身だしなみに気を使うだろうが、幹部まで来ると色々と規制があるんだよ」
リチャードが言う様に、目の前にいる2人は騎士団の幹部。今は私服を着用しているが、他の貴族のように着飾っていない。リチャードは何処にでもいる様な若者の服装をしているし、カトリーヌもシンプルなワンピースを着てる。身に着けているアクセサリーといえば、リチャードは赤いガラス玉のピアス、カトリーヌは同じく緑のガラス玉のペンダントと、同じ緑のガラスを使用したイヤリングだけだ。いつもこの店に来る大貴族とは雲泥の差だ。
大貴族が、しかも王族に近い侯爵家の跡取りが、そんな質素な服装をしている事に疑問を感じるが、確かにリチャードが言う様に騎士団に居れば正装は騎士団の制服と義務付けられているし、業務に差し支えるアクセサリーの着用は禁止されている。
「どおりで騎士団幹部からの依頼がないわけだ」
「もう少し軍事力に力を入れている国だったら、騎士団からも依頼があっただろうな」
「はぁ? なんでだよ」
「それは過去の歴史を調べろ。これは借りていくぞ。二週間は貸してくれ」
「勝手にしろ」
ソファにふんぞり返ったベネスは、応接間を出ていくリチャードとカトリーヌを見送りもしなかった。
テーブルの上に置かれた小袋から覗く金貨が嫌でも目に入る。
応接間で一人になってしばらくしてから、再び応接間の扉が開いた。
「お前らか」
応接間に入ってきた3人の人物たちを見て、ベネスは力なく声を出した。
「客でも来ていたのか?」
「なんだ!? この金貨!」
「上客か!?」
三人の男たちがテーブルの上に置かれた小袋から覗く金貨に興奮していた。
「育成学校時代の同期生が来ただけだ。近々結婚するから、贈り物をしたいんだってさ」
「何を頼まれたんだ?」
「ペンダント一個。前にも前金で金貨30枚置いていった」
「凄い上客だな。次のターゲットか?」
「いや、あいつは狙えない。隙が無いんだ、あいつは」
「仲間で組んでもダメか?」
「辞めておけ。あいつは騎士団の王宮警備の隊長だ。妹は王都警備の隊長、親父さんは国境警備の幹部だ」
「超エリート」
「そりゃ手は出せないや」
本当に手は出せないのだろうか?
リチャードが注文したアクセサリーは、夏の終わり頃に行う結婚の披露宴で使うと言っている。披露宴はきっと貴族たちが大勢集まるだろう。王族に近い侯爵家の跡取りが嫁となる娘に偽物の宝石を使ったアクセサリーを渡したらどうなるだろうか……。
べネスは急にニヤつき始めた。
「何かいいアイデアでも浮かんだか?」
仲間の一人である赤毛の男が、ベニスの隣に滑り込んできた。
「オレたちも手伝うぜ」
茶髪の男がテーブルの反対側から身を乗り出してきた。
「他の連中にも声を掛ける。言ってくれ、何をやるのか」
ベニスの後ろに大柄の男が立った。
「今すぐにはやらない。夏までまて。それまでは俺一人で動ける」
「楽しい事か? 楽しい事か?」
茶髪の男はテンションが上がりっぱなしだ。
「それよりも、【アレ】はどうなった? うまく行ったのか?」
「ああ、ばっちりだ。今頃、偽物と知らずに大切に保管されているだろう」
赤毛の男はテーブルの上に置かれた葉巻に手を伸ばしながら答えた。
「もうひとつは?」
「そっちも無事に任務完了だ。だが、本物を1つ、どこかで無くしてしまったらしい」
「おいおい」
「だが、安心しろ。もう一つの任務は本物と偽物をすり替えることが最前提だ。国王の前で恥をかかせることが本当の任務なら、差し支えはないだろう」
葉巻を吸いながら、赤毛の男は話を続けた。
その前で、茶髪の男が白い布に包まれた荷物をテーブルの上に置いた。布を剥がすと、そこからはサファイアの指輪、ダイアのイヤリング、そしてダイヤの首飾りが姿を見せた。それはセリーヌ王女が一時的に無くしたアクセサリーと瓜二つだ。
「本物は外国で売りさばけよ。国内では絶対に足がつく」
「わかってる」
「こっちはどうする?」
大柄の男が後ろから小さな箱を差し出してきた。
「これは俺が西の国で売ってくる。近々、西の国に出かけることになった。丁度いいから王族に買わせるさ」
「次はどうする。なにをすればいい?」
「しばらくは様子見だ。それぞれの仕事をしてくれればいい。また次に移る時は上からの指示が出るだろう」
ベネスはテーブルの上の金貨を、1枚ずつ3人の男に投げた。
金貨を受け取った3人の男は臨時収入を喜び、近くの酒場に繰り出す計画を始めた。
「これが……ハーブを使ったお酒ですか?」
出来上がった飲み物に、エミーは目をキラキラと輝かせていた。
メアリーに頼んで王都で働いていた時の酒場から、何種類かの酒を取り寄せたヴァーグは、エテ王子が持ってきたハーブを使って、いくつかのお酒を造った。
ラム酒、ミント、砂糖、炭酸水を混ぜ合わせたモヒートと呼ばれる酒は、中に入れる果実を変えるだけで味が変わる。定番のライムという緑色の柑橘が手に入らなかったので、代わりにブルーベリーを使っている。
シャンパンにオレンジリキュールという酒を入れ、ローズマリーとレモンピール(女神から購入できた)を注いだローズマリーのシャンパン。
洋ナシという果実から作ったジュースに白ワインを注ぎ、タイムの葉を浮かべたタイムペアネクター。
パソコンを使って調べたカクテルというメニューをいくつか作ったが、どれも材料を混ぜるだけの簡単に作れるものばかりだった。それでも、グラスの中で綺麗な色を作り出し、王都でも見たことがない飲み物が並んでいる。エミーが歓声をあげるのも頷ける。
「簡単に作れるものばかりだけですけどね。エミーさんにはこちらの方がいいかしら?」
そう言いながらヴァーグが差し出したのは、長細いシャンパングラスの中に角切りにした何種類物のフルーツを入れ、そこにシャンパンを注いだフルーツポンチ(シャンパンバージョン)だった。
去年の芸術祭の時、ミゼル侯爵家で振る舞ったフルーツポンチを、お洒落にシャンパングラスに移しただけだ。
「綺麗ですね!」
「盛り付け一つで料理の見栄えが変わりますからね。侯爵家の披露宴で出してみますか?」
「いいんですか? あ……でも、この細長いグラスだと食べにくいですよね?」
「言われてみれば…。普通のグラスでも代用は可能だけど、お洒落に決めたいのよね」
「ゲンさんに頼んでみてはいかがでしょうか?」
「それも考えていて、今日、お酒の新しいメニューを作るから飲みに来てって宣伝してあるの。後はお酒に合おう料理ね」
「どんなお料理なんですか?」
「お酒にも合うし、子供も食べられる物よ。もうすぐポールさんがお買い物から帰ってくるから、そしたら作る予定」
「楽しみです。もうすぐここの料理ともお別れだと思うと寂しいですね」
王都から引っ越してきてもうすぐ一年。初めは見慣れない料理に歓声を上げていたエミーだったが、ここの料理が当たり前になり、皆で楽しく食べる時間もいつもの光景になった。
それがもうすぐ何もかもが変わってしまう。王都に嫁げば、ここの当たり前の料理も食べられなくなり、皆で楽しく食べることもなくなるだろう。
エミーは今の生活から180度も変わってしまうことに、今も不安に駆られている。
「その為にポールさんが修行に来ているんですよ。エミーさんもお茶を入れたり、軽い食事の盛り付けもできるじゃないですか。ここの料理はいつでも食べる事は出来ます」
「でも、侯爵家の跡取りとなるリチャード様のお嫁さんが、こんな庶民的な事をして…って、怒られないでしょうか?」
「そこはリチャードさんや侯爵が守ってくれますよ。それに、侯爵は王都にこの味を再現できるレストランを作りたいって言ってました。もしそれを実現する時が来たら、エミーさんが指導者として動かなくてはならなくなるんですよ」
「わたしが?」
「このレストランのノウハウを知っているのはエミーさんとポールさんだけですからね。いっそうの事、侯爵家の一角で喫茶店でも開けばいいのにって、思っているんです」
「喫茶店を? それはいいアイデアですね」
「このレストランの味を再現できるポールさんと、ホールの仕事全般が出来るエミーさんが一緒にお店を開いたら、侯爵は喜んで出資してくれると思うんです」
「そのお店の常連は侯爵様と国王様…とか?」
「かもしれませんね。国王様は毎日入り浸ってしまうかも」
エミーは「それはそれで大変ですね」とクスクス笑い出した。
やっと笑顔が戻ったことにヴァーグは安心した。ここ最近、沈んだ顔を見せるエミーに、大きな悩みがある事は分かっていたが、それを聞き出していいのか分からなかった。メアリーに相談したところ、マリッジブルーではないかとの答えが返ってきた。結婚とは無縁のヴァーグがアドバイスできることではないので、しばらく様子を見ていたが、やはりこの村を離れる淋しさが原因のようだ。
その後、酒メニューに合う料理を2人で作っていると、ケインがやってきた。
「ヴァーグさん、3日後、リチャードさんが来るって」
「また急に」
「デルサート王国の祭りの事じゃないかな。ヴァーグさん、祭りの時、色々と道具を貸して貰えませんか?」
「道具を? 別に構わないけど、どうして?」
「使い慣れた道具じゃないと、失敗しそうなんだよね。この間の『妖精の里』に持って行った道具を一式借りたいです」
「いいわよ。出発までに揃えておくね」
「ありがとう、ヴァーグさん。それからもう一つ、お願いがあるんだけど…」
「わたしに出来る事?」
「前に、魔法玉の威力を確かめる時、イヤリングを貸してくれたじゃないですか。あれを貸して欲しいんです」
「このエメラルドのイヤリングの事? どうして?」
「あれって、体力を回復する効果があるんですよね? 万が一、向こうで何かあった時に役に立つと思うんです。本当は攻撃を防ぐ物が欲しいんですけど…」
ケインが言う事にヴァーグはハッとした。
今までは王都に出向くだけだったので、万が一の出来事など考えてもいなかった。だが、今回は国外へ出る。国の外がどんな情勢かも知らないし、デルサート王国の王子が性格に難がある事、もし向こうの国王を怒らせるようなことがあれば、ケインの命も危うい。ケインだけではなく、クリスティーヌ王女や、ステラ王国の王族として参加するエテ王子やコロリスに何かがあれば、国同士の戦いに発展するかもしれない。
今まで、戦いという戦いはマイケルの時とジャンの時だけで、あれも運が良かったこともあり、ケインに防具や身を守るアクセサリーなど装備させていなかった。最も、最前線に出るエテ王子やリチャードたちも、武器一つで飛び出して行くので、彼らに防具を与えていなかったこともあるのだが…。
その時、
「こんにちは~」
と、ランとサラがレストランに顔を出した。
サルバティ神父は一旦王都に戻ったが、ランとサラの2人はこの村に留まっている。夏の始まり頃に、ヴァーグが前にいた世界では普通にあった学校のシステムを開始する為、その手伝いをしてくれている。
2人の顔を見た途端、ヴァーグは「ああぁ!!!」と叫んだ。
「な…なんですか?」
突然の大声にすぐ傍に居たエミーが一番驚いた。
「ランちゃん! サラちゃん! 聞きたい事があるんだけど!!」
「な…なんでしょうか…?」
「2人は宝石に体力回復などの効果を付加できるんだよね!?」
「え…ええ、出来ますが…」
「それって、宝石の大きさにも関係する?」
「いえ、特に関係はありません」
「その宝石をガラスで覆ってあっても大丈夫!?」
「宝石そのものに付加しますので、身に着けていただける物なら大丈夫です」
「じゃあじゃあ! これの中身を宝石に変えてもいける!?」
ヴァーグは身に着けていたペンダントを取り出した。そのペンダントは、ケインがクリスティーヌ王女への誕生日プレゼントを作った時に、自分で作ったビーズをガラスの中に閉じ込めた物だった。
「綺麗ですね。中はビーズですか?」
「そう。どうしても欲しかったから作ったの。もし、この中身を宝石に変えれば効果の付加は可能?」
「はい、大丈夫です。中に入れる宝石によって効果は変わりますが、身に着けている者に効果を与えることはできます」
「ただ、この構図を考えると、中に入れた宝石がガラスとぶつかることで砕ける可能性があります。いくら宝石に効果をつけてもその宝石が砕けてしまっては意味がありません」
「そこは大丈夫。ちゃんと考えているから」
自分が思っていた通りの答えが返ってきたことで、ヴァーグは満足気だった。
話に着いていけていないケインとエミーは何の話をしているのか意味不明のようだが…。
「後は宝石よね。宝石によっては付加できる効果は違うの?」
「どの宝石でも可能ですが、お姉ちゃんに渡したエメラルドは体力を回復する効果が、ダイヤモンドは攻撃を防ぐ効果が倍増します。わたしはエメラルドに与える付加が、ランはダイヤモンドに与える付加が得意です」
「と、なるとダイヤモンドを入手しないといけないのか……」
宝石はこの世界でも高価な物。いくら女神から買う事が出来るリストに載っていても、人数分の宝石を買うには多額のお金が必要だ。採取などで見つけた宝石はお金の為に売り飛ばしてきたヴァーグは、ここに来て売らなければよかったと後悔している。
唸りながら頭を抱えるヴァーグに、ランがある提案をした。
「お姉ちゃんの周りで、物作りが得意な人はいませんか? 例えばアクセサリーを作る人だったり、ガラスを加工することが得意な人だったり」
「村の職人に頼めば作ってもらえるけど…」
「でしたら、その職人の中に【スキル】を持っている方がいらっしゃれば、宝石でなくても可能です」
「「…どういうこと…???」」
側で聞いていたケインとエミーが同時に言葉を発した。
ヴァーグも頭の上に「?」を飛ばしている。
「人間にはそれぞれ【スキル】という物を持っています。目に見えない効果もありますので気づかない人がほとんどです。その【スキル】を持っている人が物を作れば、その作られた物に効果が付加されるんです」
「それって、俺が料理を作ると体力を回復させたり、友好度が上がったりするのと一緒ってこと?」
「そうです。作る人によって付加される物は変わります。職人の中に【スキル 防御付加】を持っている方がいれば、その方が作ったアクセサリーにわたしたちが更に効果を付加することができます」
ランとサラの説明に、ヴァーグはすぐにパソコンを立ち上げ、【人物】と書かれたアイコンをクリックした。
立ち上がった画面には今までヴァーグが接してきた人物の一覧が、顔写真入りで綺麗に並べられていた。
数ある中から絞り込みの機能を使って【スキル 防御付加】を持っている人物を調べた。
そこに映し出されたのは3人の人物で、ランとサラはもちろんの事、もう1人よく知る人物の詳細が映し出された。
「言われてみれば…」
「確かに…」
そこに映し出された人物を見て、ヴァーグもケインも納得していた。
<つづく>
「兄ですわ」
その日は兄のリチャードを連れた宝石商を訪れた。
出迎えた宝石商は、一瞬だけ表情をしかめた。それもそのはずだろう。宝石商にとってリチャードは忘れもしない育成学校時代の同期生だったのだ。
「久しぶりだな、ベネス」
「リチャード、お前の妹だったのか…」
育成学校卒業以来、同じ王都に居ながらも顔を会わせなかったリチャードと宝石商のベネス。お互いに王宮に出入りしているはずなのに、顔を会わせなかったのは、リチャードはエテ王子が住む棟へ頻繁に出入りし、ベネスは第一王女や第二王女が住む別の棟に出入りしている事が関係している。
「お兄様、お知り合いでしたの?」
「育成学校時代の同期だ。騎士団の入団を断ったんだよな?」
「なぜ宝石商に?」
「ベネスは手先が器用で、武器の手入れとか修理をするのが得意だったんだよ。それに何かを作る才能に恵まれていて、特に宝石を扱ったアクセサリーのデザイン力が買われて、王宮に出入りする宝石商に就職した。間違っているか?」
「……いや、合っている。よく覚えているな」
「ライバルは忘れない記憶力を持っているんでね。だけど、お前が独立している事は知らなかった。王女様に気に入られて、エテの婚約式で使うアクセサリーを担当するとはね」
「俺の才能を買ってくれた人がいただけだ。お前、結婚するのか?」
「ああ。運命の出会いをしてしまってね、とんとん拍子に話が進んだ。お前もいつまでも独り身でいるなよ」
「うるさい! 俺は仕事を優先にしたいんだよ!」
「行き遅れるなよ」
「うるさい! うるさい!!」
育成学校時代、ことあるごとに衝突していた2人。リチャードはエテ王子を最大のライバルと認めていたが、同時に親友としても認めていた。王族だからとか、自分の出世の為とか、そういう考えは一切持たず、心から本音を言い合える日とと認めていた。ベネスに対してはただのライバルだった。…と、いうよりもベネスが事あるごとに突っかかってきて、勝手に喧嘩を売り、勝手に騒いでいただけの事。敵対する気持ちはなかったが、売られた喧嘩を可哀想に思いながら買っていただけのこと。
リチャードにとってべネスは息抜きの相手であり、ベネスにとってリチャードは絶対に認めたくない相手なのである。
「だいたい、お前の婚約者なんだからどっかの大貴族様なんだろ? 俺と違って身分があるんだから」
「いいや、ただの村娘」
「はぁ!? 侯爵家の跡取りが身分もないただの村娘を嫁にするのか!? よく侯爵が反対しなかったな?」
「むしろ大歓迎。彼女の一家…というより親族が王族と仲がいいんでね。国王様もすんなりと認めてくださった。まぁ、周りの貴族連中が何というか気になるが、そこは国王様や王妃様が何かしてくれるだろう」
「どうせ侯爵家の権力でも使ったんだろ」
「生憎、わたしはそういう物が嫌いだ。わたしもカトリーヌも自分の実力で今の地位にいる。国王様も権力を振りかざす貴族を嫌っている。実力があれば何でもできる。お前も実力を買われて今の宝石商のオーナーをやっているんだろ?」
「……そりゃそうだけど……」
ベネスはリチャードほどの身分はないが、一応爵位のある家に生まれた。爵位があっても貧困な生活をする貴族もあり、一般市民よりも貧しい生活をしていたベネスは、爵位を貰ったことで浪費家となってしまった両親を憎んでいた。いつか大金持ちになってやるという思いがあり、騎士団の幹部になれば給料も多く貰える為、軍の育成学校に入学した。
だが、そこには小さい頃から戦うための教育を受けてきた貴族の子息たちが沢山おり、すぐに自分には向かない事がわかった。元々、手先が器用で武器の手入れや修理を簡単にやっていた。それに目を付けた卒業生がスカウトにやってきたが、所詮は武器の手入れ。幹部ほどの給料は貰えず、騎士団の団員というよりも職員といった感じが嫌ですべて断った。
それでもなんとかして職を手に入れないと生きていけない。その時声をかけてくれたのが、実家が宝飾のアトリエを経営していた王宮使用人育成学校の同級生だった。物は試しとアトリエで働くことになり、自分が考えるアクセサリーが店に並ぶようになり、そこそこ売れていたが夢の「大金持ち」には程遠かった。
そんなある日、王宮で芸術家たちが作品を持ち寄って競売にかけられることになった。なんでも国王に【オークション】なる競売方法を教えた人がいたらしく、まだ売れていない若手の芸術家たちの作品を貴族たちが買い取って位くれるというのだ。
ベネスはアトリエの親方に許可を得て、自分で考えたアクセサリーを出品した。今までのアクセサリーは使われる宝石が一つ又は一色のみだった。ベネスが考えた複数の種類の宝石を使い、二色以上の色を持つアクセサリーは斬新で貴族たちに気に入られた。いくつか持ち込んだアクセサリーは高値で買われ、合計は一年分の給料以上に相当した。
更にある貴族がその才能を買ってくれた。自分専用のアトリエを作ってくれたり、店まで用意され、国王と面識があるからと王族にも売り込んでくれた。そのおかげで王宮御用達の宝飾デザイナーとなり、今はその貴族の援助で宝石商を立ち上げる事まで出来た。ここ1~2年の出来事だ。
自分の実力で手に入れたベネスにとって、リチャードの言葉はよくわかる。わかるからこそ、本当に実力で今の地位にいるのか窺わしいリチャードが憎かったりもする。
「で、ベネス。わたしの妻への贈り物を作ってくれたと聞くが、見せてくれるかね?」
「お前が客なら断ればよかった」
「おいおい、そんなこと言ったら、本気で侯爵家の権力を使うぞ」
ニッコリ笑顔で低い声を出すリチャード。その後ろに控えるカトリーヌも意味ありげな黒いオーラを漂わせながら笑顔を見せていた。
王族との繋がりも深い彼らを敵に回すことは、自分の首を絞めるという事。仕事の為にもここは我慢しなくてはならない。
ベネスは応接間に2人を通し、頼まれたアクセサリーを見せた。
とても数日で仕上げたとは思えない装飾で、中央に置かれた薄紫色のアメジストは光が乱反射することで輝く様にコーティングされ、それを囲むように銀色の土台はハート型になっており、その土台には薄い黄色の小さな宝石が12個散りばめられていた。大きさはコロリスの物よりも一回り小さいが、細部まで丁寧に作られている為が豪華に見える。
「王子様のご婚約者の物より豪華に見えますわ」
コロリスが贈られた物を直接見ているカトリーヌが、ため息交じりに呟いた。
「王子からのご注文はあまり派手にして欲しくないと要望がございましたので、一番簡単なデザインで、それでも豪華さを出すように宝石自体を大きくしています。こちらは宝石は小さいのですが、その分土台となる周りの装飾を派手目にしてみました。最も、こちらに使っている宝石は手に入れにくい物を使っていますので、同じ物は作ることはできないでしょう」
「お兄様、素敵ですわ。きっとお義姉様も喜びますわ!」
カトリーヌは本気で喜んでいた。
リチャードはベネスの実力に脱帽だ。たしかに育成学校時代にデザイン画を見たことがある。細部まで拘って描かれたデザイン画は出来上がりが楽しみだった。実際に王宮使用人育成学校の女子に頼まれ、髪留を作ったことはあったが、それから10年以上の歳月が流れ、更に才能が開花している。
べネスはじっと見つめるリチャードが言葉を失っている光景に、満足気にふんぞり返っていた。
「お兄様、一度、お義姉様にお見せしませんこと? お義姉様の喜ぶ顔が見たいですわ」
「あ…ああ、そうだな」
「こちらを一度、お借りすることはできませんか?」
「まだ試作ですよ? いいんですか?」
「構いませんわ。箱はわたくしが用意しましたの。こちらに入れてもよろしいですか?」
カトリーヌは自分で用意したという、白い長細い箱をテーブルの上に出した。中を開けると、内装はパステルピンクの布で覆われ、ペンダントトップを収めるところには、薄い緑色の布で作られた小さなクッションが置かれてあった。
箱を用意されたことに、ベネスは小さく舌打ちをした。その音はとても小さく目の前に座る2人には気づかれなかった。
「わたくしが作りましたのよ。可愛いでしょ」
「そうですね。まるで花のように見えます」
心では(余計な事をしやがって)と悪態をつくベネスは、何とかして営業スマイルを保っていた。
「お兄様、近いうちに結婚式の打ち合わせでお義姉様の処へ行かれるのでしょ? お持ちになったらいかがかしら?」
「そうだな。ベネス、悪いな。少しの間借りるぞ」
「どうそご自由に。持ち出し料でも徴収しようかね?」
嫌みったらしく言うベネスの前に、布の小袋が突然現れた。
リチャードが彼の前に袋を差し出していたのだ。
「なんだよ、これ」
「追加の前金。足りない分はまた持ってくる」
差し出された小袋を受け取ると、ずっしりと重みを感じた。
どうせ悪戯で鉄貨(10エジル)か銅貨(100エジル)を大量に詰め込んだんだろうと、興味なさそうに口を開けると、そこのは黄金に輝く金貨が数十枚詰め込まれていた。
「お…おい、これ…」
「言っただろ、追加分だ」
「多すぎる! 前にも金貨30枚置いていったんだぞ。いくらなんでも多すぎる」
「気にするな」
「気にするわ! これだから金持ち貴族は嫌いだ。何も考えずに金さえ払えばいいって考えしか持っていない」
「生憎、わたしもカトリーヌも普段から金を使わないんでね。騎士団にいるとアクセサリーとは無縁だし、服も最低限の私服さえあればいい。王宮に参上する時も、国王主催の舞踏会も、騎士団の正装を義務付けられている。一般の騎士団団員なら、それなりに身だしなみに気を使うだろうが、幹部まで来ると色々と規制があるんだよ」
リチャードが言う様に、目の前にいる2人は騎士団の幹部。今は私服を着用しているが、他の貴族のように着飾っていない。リチャードは何処にでもいる様な若者の服装をしているし、カトリーヌもシンプルなワンピースを着てる。身に着けているアクセサリーといえば、リチャードは赤いガラス玉のピアス、カトリーヌは同じく緑のガラス玉のペンダントと、同じ緑のガラスを使用したイヤリングだけだ。いつもこの店に来る大貴族とは雲泥の差だ。
大貴族が、しかも王族に近い侯爵家の跡取りが、そんな質素な服装をしている事に疑問を感じるが、確かにリチャードが言う様に騎士団に居れば正装は騎士団の制服と義務付けられているし、業務に差し支えるアクセサリーの着用は禁止されている。
「どおりで騎士団幹部からの依頼がないわけだ」
「もう少し軍事力に力を入れている国だったら、騎士団からも依頼があっただろうな」
「はぁ? なんでだよ」
「それは過去の歴史を調べろ。これは借りていくぞ。二週間は貸してくれ」
「勝手にしろ」
ソファにふんぞり返ったベネスは、応接間を出ていくリチャードとカトリーヌを見送りもしなかった。
テーブルの上に置かれた小袋から覗く金貨が嫌でも目に入る。
応接間で一人になってしばらくしてから、再び応接間の扉が開いた。
「お前らか」
応接間に入ってきた3人の人物たちを見て、ベネスは力なく声を出した。
「客でも来ていたのか?」
「なんだ!? この金貨!」
「上客か!?」
三人の男たちがテーブルの上に置かれた小袋から覗く金貨に興奮していた。
「育成学校時代の同期生が来ただけだ。近々結婚するから、贈り物をしたいんだってさ」
「何を頼まれたんだ?」
「ペンダント一個。前にも前金で金貨30枚置いていった」
「凄い上客だな。次のターゲットか?」
「いや、あいつは狙えない。隙が無いんだ、あいつは」
「仲間で組んでもダメか?」
「辞めておけ。あいつは騎士団の王宮警備の隊長だ。妹は王都警備の隊長、親父さんは国境警備の幹部だ」
「超エリート」
「そりゃ手は出せないや」
本当に手は出せないのだろうか?
リチャードが注文したアクセサリーは、夏の終わり頃に行う結婚の披露宴で使うと言っている。披露宴はきっと貴族たちが大勢集まるだろう。王族に近い侯爵家の跡取りが嫁となる娘に偽物の宝石を使ったアクセサリーを渡したらどうなるだろうか……。
べネスは急にニヤつき始めた。
「何かいいアイデアでも浮かんだか?」
仲間の一人である赤毛の男が、ベニスの隣に滑り込んできた。
「オレたちも手伝うぜ」
茶髪の男がテーブルの反対側から身を乗り出してきた。
「他の連中にも声を掛ける。言ってくれ、何をやるのか」
ベニスの後ろに大柄の男が立った。
「今すぐにはやらない。夏までまて。それまでは俺一人で動ける」
「楽しい事か? 楽しい事か?」
茶髪の男はテンションが上がりっぱなしだ。
「それよりも、【アレ】はどうなった? うまく行ったのか?」
「ああ、ばっちりだ。今頃、偽物と知らずに大切に保管されているだろう」
赤毛の男はテーブルの上に置かれた葉巻に手を伸ばしながら答えた。
「もうひとつは?」
「そっちも無事に任務完了だ。だが、本物を1つ、どこかで無くしてしまったらしい」
「おいおい」
「だが、安心しろ。もう一つの任務は本物と偽物をすり替えることが最前提だ。国王の前で恥をかかせることが本当の任務なら、差し支えはないだろう」
葉巻を吸いながら、赤毛の男は話を続けた。
その前で、茶髪の男が白い布に包まれた荷物をテーブルの上に置いた。布を剥がすと、そこからはサファイアの指輪、ダイアのイヤリング、そしてダイヤの首飾りが姿を見せた。それはセリーヌ王女が一時的に無くしたアクセサリーと瓜二つだ。
「本物は外国で売りさばけよ。国内では絶対に足がつく」
「わかってる」
「こっちはどうする?」
大柄の男が後ろから小さな箱を差し出してきた。
「これは俺が西の国で売ってくる。近々、西の国に出かけることになった。丁度いいから王族に買わせるさ」
「次はどうする。なにをすればいい?」
「しばらくは様子見だ。それぞれの仕事をしてくれればいい。また次に移る時は上からの指示が出るだろう」
ベネスはテーブルの上の金貨を、1枚ずつ3人の男に投げた。
金貨を受け取った3人の男は臨時収入を喜び、近くの酒場に繰り出す計画を始めた。
「これが……ハーブを使ったお酒ですか?」
出来上がった飲み物に、エミーは目をキラキラと輝かせていた。
メアリーに頼んで王都で働いていた時の酒場から、何種類かの酒を取り寄せたヴァーグは、エテ王子が持ってきたハーブを使って、いくつかのお酒を造った。
ラム酒、ミント、砂糖、炭酸水を混ぜ合わせたモヒートと呼ばれる酒は、中に入れる果実を変えるだけで味が変わる。定番のライムという緑色の柑橘が手に入らなかったので、代わりにブルーベリーを使っている。
シャンパンにオレンジリキュールという酒を入れ、ローズマリーとレモンピール(女神から購入できた)を注いだローズマリーのシャンパン。
洋ナシという果実から作ったジュースに白ワインを注ぎ、タイムの葉を浮かべたタイムペアネクター。
パソコンを使って調べたカクテルというメニューをいくつか作ったが、どれも材料を混ぜるだけの簡単に作れるものばかりだった。それでも、グラスの中で綺麗な色を作り出し、王都でも見たことがない飲み物が並んでいる。エミーが歓声をあげるのも頷ける。
「簡単に作れるものばかりだけですけどね。エミーさんにはこちらの方がいいかしら?」
そう言いながらヴァーグが差し出したのは、長細いシャンパングラスの中に角切りにした何種類物のフルーツを入れ、そこにシャンパンを注いだフルーツポンチ(シャンパンバージョン)だった。
去年の芸術祭の時、ミゼル侯爵家で振る舞ったフルーツポンチを、お洒落にシャンパングラスに移しただけだ。
「綺麗ですね!」
「盛り付け一つで料理の見栄えが変わりますからね。侯爵家の披露宴で出してみますか?」
「いいんですか? あ……でも、この細長いグラスだと食べにくいですよね?」
「言われてみれば…。普通のグラスでも代用は可能だけど、お洒落に決めたいのよね」
「ゲンさんに頼んでみてはいかがでしょうか?」
「それも考えていて、今日、お酒の新しいメニューを作るから飲みに来てって宣伝してあるの。後はお酒に合おう料理ね」
「どんなお料理なんですか?」
「お酒にも合うし、子供も食べられる物よ。もうすぐポールさんがお買い物から帰ってくるから、そしたら作る予定」
「楽しみです。もうすぐここの料理ともお別れだと思うと寂しいですね」
王都から引っ越してきてもうすぐ一年。初めは見慣れない料理に歓声を上げていたエミーだったが、ここの料理が当たり前になり、皆で楽しく食べる時間もいつもの光景になった。
それがもうすぐ何もかもが変わってしまう。王都に嫁げば、ここの当たり前の料理も食べられなくなり、皆で楽しく食べることもなくなるだろう。
エミーは今の生活から180度も変わってしまうことに、今も不安に駆られている。
「その為にポールさんが修行に来ているんですよ。エミーさんもお茶を入れたり、軽い食事の盛り付けもできるじゃないですか。ここの料理はいつでも食べる事は出来ます」
「でも、侯爵家の跡取りとなるリチャード様のお嫁さんが、こんな庶民的な事をして…って、怒られないでしょうか?」
「そこはリチャードさんや侯爵が守ってくれますよ。それに、侯爵は王都にこの味を再現できるレストランを作りたいって言ってました。もしそれを実現する時が来たら、エミーさんが指導者として動かなくてはならなくなるんですよ」
「わたしが?」
「このレストランのノウハウを知っているのはエミーさんとポールさんだけですからね。いっそうの事、侯爵家の一角で喫茶店でも開けばいいのにって、思っているんです」
「喫茶店を? それはいいアイデアですね」
「このレストランの味を再現できるポールさんと、ホールの仕事全般が出来るエミーさんが一緒にお店を開いたら、侯爵は喜んで出資してくれると思うんです」
「そのお店の常連は侯爵様と国王様…とか?」
「かもしれませんね。国王様は毎日入り浸ってしまうかも」
エミーは「それはそれで大変ですね」とクスクス笑い出した。
やっと笑顔が戻ったことにヴァーグは安心した。ここ最近、沈んだ顔を見せるエミーに、大きな悩みがある事は分かっていたが、それを聞き出していいのか分からなかった。メアリーに相談したところ、マリッジブルーではないかとの答えが返ってきた。結婚とは無縁のヴァーグがアドバイスできることではないので、しばらく様子を見ていたが、やはりこの村を離れる淋しさが原因のようだ。
その後、酒メニューに合う料理を2人で作っていると、ケインがやってきた。
「ヴァーグさん、3日後、リチャードさんが来るって」
「また急に」
「デルサート王国の祭りの事じゃないかな。ヴァーグさん、祭りの時、色々と道具を貸して貰えませんか?」
「道具を? 別に構わないけど、どうして?」
「使い慣れた道具じゃないと、失敗しそうなんだよね。この間の『妖精の里』に持って行った道具を一式借りたいです」
「いいわよ。出発までに揃えておくね」
「ありがとう、ヴァーグさん。それからもう一つ、お願いがあるんだけど…」
「わたしに出来る事?」
「前に、魔法玉の威力を確かめる時、イヤリングを貸してくれたじゃないですか。あれを貸して欲しいんです」
「このエメラルドのイヤリングの事? どうして?」
「あれって、体力を回復する効果があるんですよね? 万が一、向こうで何かあった時に役に立つと思うんです。本当は攻撃を防ぐ物が欲しいんですけど…」
ケインが言う事にヴァーグはハッとした。
今までは王都に出向くだけだったので、万が一の出来事など考えてもいなかった。だが、今回は国外へ出る。国の外がどんな情勢かも知らないし、デルサート王国の王子が性格に難がある事、もし向こうの国王を怒らせるようなことがあれば、ケインの命も危うい。ケインだけではなく、クリスティーヌ王女や、ステラ王国の王族として参加するエテ王子やコロリスに何かがあれば、国同士の戦いに発展するかもしれない。
今まで、戦いという戦いはマイケルの時とジャンの時だけで、あれも運が良かったこともあり、ケインに防具や身を守るアクセサリーなど装備させていなかった。最も、最前線に出るエテ王子やリチャードたちも、武器一つで飛び出して行くので、彼らに防具を与えていなかったこともあるのだが…。
その時、
「こんにちは~」
と、ランとサラがレストランに顔を出した。
サルバティ神父は一旦王都に戻ったが、ランとサラの2人はこの村に留まっている。夏の始まり頃に、ヴァーグが前にいた世界では普通にあった学校のシステムを開始する為、その手伝いをしてくれている。
2人の顔を見た途端、ヴァーグは「ああぁ!!!」と叫んだ。
「な…なんですか?」
突然の大声にすぐ傍に居たエミーが一番驚いた。
「ランちゃん! サラちゃん! 聞きたい事があるんだけど!!」
「な…なんでしょうか…?」
「2人は宝石に体力回復などの効果を付加できるんだよね!?」
「え…ええ、出来ますが…」
「それって、宝石の大きさにも関係する?」
「いえ、特に関係はありません」
「その宝石をガラスで覆ってあっても大丈夫!?」
「宝石そのものに付加しますので、身に着けていただける物なら大丈夫です」
「じゃあじゃあ! これの中身を宝石に変えてもいける!?」
ヴァーグは身に着けていたペンダントを取り出した。そのペンダントは、ケインがクリスティーヌ王女への誕生日プレゼントを作った時に、自分で作ったビーズをガラスの中に閉じ込めた物だった。
「綺麗ですね。中はビーズですか?」
「そう。どうしても欲しかったから作ったの。もし、この中身を宝石に変えれば効果の付加は可能?」
「はい、大丈夫です。中に入れる宝石によって効果は変わりますが、身に着けている者に効果を与えることはできます」
「ただ、この構図を考えると、中に入れた宝石がガラスとぶつかることで砕ける可能性があります。いくら宝石に効果をつけてもその宝石が砕けてしまっては意味がありません」
「そこは大丈夫。ちゃんと考えているから」
自分が思っていた通りの答えが返ってきたことで、ヴァーグは満足気だった。
話に着いていけていないケインとエミーは何の話をしているのか意味不明のようだが…。
「後は宝石よね。宝石によっては付加できる効果は違うの?」
「どの宝石でも可能ですが、お姉ちゃんに渡したエメラルドは体力を回復する効果が、ダイヤモンドは攻撃を防ぐ効果が倍増します。わたしはエメラルドに与える付加が、ランはダイヤモンドに与える付加が得意です」
「と、なるとダイヤモンドを入手しないといけないのか……」
宝石はこの世界でも高価な物。いくら女神から買う事が出来るリストに載っていても、人数分の宝石を買うには多額のお金が必要だ。採取などで見つけた宝石はお金の為に売り飛ばしてきたヴァーグは、ここに来て売らなければよかったと後悔している。
唸りながら頭を抱えるヴァーグに、ランがある提案をした。
「お姉ちゃんの周りで、物作りが得意な人はいませんか? 例えばアクセサリーを作る人だったり、ガラスを加工することが得意な人だったり」
「村の職人に頼めば作ってもらえるけど…」
「でしたら、その職人の中に【スキル】を持っている方がいらっしゃれば、宝石でなくても可能です」
「「…どういうこと…???」」
側で聞いていたケインとエミーが同時に言葉を発した。
ヴァーグも頭の上に「?」を飛ばしている。
「人間にはそれぞれ【スキル】という物を持っています。目に見えない効果もありますので気づかない人がほとんどです。その【スキル】を持っている人が物を作れば、その作られた物に効果が付加されるんです」
「それって、俺が料理を作ると体力を回復させたり、友好度が上がったりするのと一緒ってこと?」
「そうです。作る人によって付加される物は変わります。職人の中に【スキル 防御付加】を持っている方がいれば、その方が作ったアクセサリーにわたしたちが更に効果を付加することができます」
ランとサラの説明に、ヴァーグはすぐにパソコンを立ち上げ、【人物】と書かれたアイコンをクリックした。
立ち上がった画面には今までヴァーグが接してきた人物の一覧が、顔写真入りで綺麗に並べられていた。
数ある中から絞り込みの機能を使って【スキル 防御付加】を持っている人物を調べた。
そこに映し出されたのは3人の人物で、ランとサラはもちろんの事、もう1人よく知る人物の詳細が映し出された。
「言われてみれば…」
「確かに…」
そこに映し出された人物を見て、ヴァーグもケインも納得していた。
<つづく>
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる