祖父ちゃん!なんちゅー牧場を残したんだ!相続する俺の身にもなれ!!

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夏の月14日(水の曜日) 武器屋

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「ばっかやろーーーーー!! こんな物で作れるか!!!」
と、店の中から大きな声が響き、同時に中から1人の冒険者が転がり出てきた。
 転がり出てきた冒険者の後から、かなりガタイのいい40ぐらいのおっさんが仁王立ちで立った。
「で…ですが、これは商人から大金で買った物で…」
「あぁ!?」
「ひぃっ!!!」
 見下ろすように睨み付けたおっさんに、冒険者は悲鳴を上げながら腰を抜かしたまま逃げ出した。
「二度と来んじゃねーーーーー!!!」
 おっさんは手に持っていた鉱石っぽい物を、逃げ出した冒険者に向かって投げつけた。
 その鉱石っぽい物は冒険者の頭にヒットし、慌てて拾い上げると砂埃と共に何処かへと走り去っていった。
「フンっ! この俺様を欺くとは、いい度胸じゃねーか」
 走り去った冒険者の姿が見えなくなると、おっさんは店の中に入ろうとした。
 その時、すぐ側で平然とした様子で立っていた村長と目が合った。
「よぉ、ガンツ。相変わらずの威勢だな」
 村長が声を掛けると、おっさんの顔が急にほころび、周りに花でも飛ばしているんじゃないかって思える、ほんわかした空気が漂った。
「村長! 来るなら来ると言ってくださいよ!」
「急に用事が出来たんだ。今、時間あるかね?」
「村長の為なら時間ぐらい作りますよ。今、くだらない冒険者を追い出した所なんです。さ、中へどうぞ!」
 さっきまでの厳つい怖いおっさんとは違う様子に、俺は村長の後ろから顔を出す事が出来なかった。
 だって、怖いし。


 店の中は綺麗に整頓された武器屋だった。
 壁には0が沢山ついた値札が張られた剣や弓、大きな鎗などが飾られており、入り口近くの樽の中には、さほど高くない剣が大量に突き刺さっていた。
 唯一の窓の近くには色々なサイズの包丁が並べられ、その隣には何故か鍋やフライパンなんかもあった。

 ここ、武器屋……なのか?
 雑貨屋なのか?


 そして、テーブルを挟んだ目の前には、無表情のガタイのいいおっさんが、俺の事を見つめている。
「そうか。ユーキの孫か」
 おっさんは小さくウンウンと頷くと、急に俺の顔を見てニカッと笑った。
 いや、それが普通に怖いんですけど~~!!!
「いや~~、こんなにでっかくなったんだな。お前がこの村に来たのは、たしか5歳か6歳の時だろ? 随分と立派になったじゃないか!」
 俺、このおっさんと昔、会ったことあんの? 記憶にないんですけど?
「ユーキにはいつも希少価値の鉱石を分けてもらっててな、色々な武器や道具を作っていたんだよ。お前が親の処に帰る時、ユーキはピンクダイヤモンドを持ってきて、これで髪飾りを作ってくれって依頼してきたんだ。生まれた孫娘に渡したいって、頬なんか染めちゃってよ。いや~~可愛かったね~~」
 ん? あの髪飾り、このおっさんが作ったの?
 だって、凄く繊細に作ってあったよ?
 このおっさんが?
「だけど、その髪飾り、村長んとこの娘さんが付けていなかったけ?」
「本人はハヤト君に貰ったと言っている。どういう経緯で貰ったかはわからん」
「ベアちゃんの初恋かな~?」
 いい年したガタイのいいおっさんがベアちゃんって……。
 やべ、笑いたくなってきた…。でも、笑ったら失礼だよな。
 うん。笑いたい(笑)
「で、今日は何の用だ?」
 あ、普通に本題に入った。
「実はね、ハヤト君が牧場を継ぐことになってね、それで必要な道具を揃えようと思ってね」
「何!? ユーキの牧場を継ぐのか!? あの牧場を継いでくれるのか!?」
「え…ええ、まあ…」
「それはよかった!! ユーキもアスカも喜んでいるだろうな! こんな立派な孫が継いでくれるんだから!! で、何が欲しい? 武器か? 防具か? 調理道具も揃っているぞ。なんだったらオーダーメイドで作ってやろうか!?」
 おっさん、興奮してないかい?
 牧場を継ぐと言っているのに、なんで武器や防具が欲しいと思うんだろう? 普通、農具じゃね?

 一人で勝手に興奮して、変な方向に話を持って行こうとするおっさんの暴走は村長にも止められないらしい。呑気のお茶なんか飲み始めた。
 俺、どうなっちゃうの?と心配しかけたその時、ハイテンションのおっさんの頭部目掛けて誰かのチョップが飛んできた。
「あんた! 客を困らせないの! ちゃんと話を聞きなさい!!」
 キーンと耳に響く甲高い声を出したその人物は、おっさんの頭部に右手をめり込ませたままだった。
 さすがのおっさんも怒るだろ?と思ったが、
「それもそうだな。止めてくれたありがとうな」
と、素直に自分の暴走を認め、その人物にお礼を言った。
 おっさんにチョップを食らわせたのは、栗色のソバージュの髪をポニーテールにし、黄色いバンダナを巻いている女性だった。物凄く胸が大きくて、腰のクビレもきゅっと締まっており、ものすっごい美人だ。
「おお、ナタリア君。お邪魔しているよ」
「村長も村長ですよ。この人の暴走はこうすれば止められるって何度も教えているじゃないですか」
「いや~、ガンツの暴走は見てて楽しいからね。それにナタリア君が絶対に止めてくれるから、安心して見ていられるんだ」
「もぉ~いつもあたしがいるとは限らないんですよ。お客さんもごめんなさいね。この人が勝手に暴走してしまって」
「い…いえ……」
「君がギルドで有名になっているユーキの孫だね? あたしはナタリア。この武器屋で武器や鉱石の鑑定をしているんだ。よろしくな」
 見た目超美人なのに、口調はサバサバしている感じで、どちらかというと男っぽいと言った方がいいんだろうか? そんな感じがナタリアという女性からは感じる。
「ナタリア君はガンツの奥さんだ」
「お…奥さん!?」
「あたしが一目惚れしちゃってさ、追いかけて追いかけてやっと振り向いてくれたんだ。あたしの最高の旦那だよ」
 ほのかに赤く頬を染めながら話すナタリアさん。その横でおっさんも嬉しそうにウンウン頷いている。

 えええぇぇぇええぇぇええ!?
 おっさん、どうやって言い寄られたんだよ!
 てか、ナタリアさんはおっさんのどこに惚れたんだ!?

「ガンツ、ハヤト君の為に農具を作ってくれないかね?」
「農具? そんなのでいいのかい?」
「あの荒れ果てた牧場を整備するには農具が必要だろ? 本当は祖父様の使っていた農具があればいいのだが、親戚がすべて売ってしまったから、何もないんだ」
「わかった。少し時間をくれないか?」
「今、彼はわしの家に泊まっている。あの家には住めないからな」
「だったら、オレからラッツィオに頼んでみようか? あの牧場の建物は元々ラッツィオの親が建てたものだし、図面も残っているだろうから、彼に任せた方がいいだろ?」
「頼めるか?」
「話はしておく。ただ、来週になりそうだがいいか?」
「ああ。構わない」
 え? 来週!?
 それまで俺の住む家はないのか?
「ちょっと、ちょっと。ちゃんと説明してあげなさいよ。ハヤトが困っているじゃないか」
 オロオロしていた俺に気付いたナタリアさんが、村長とおっさんに注意してきた。
「こめんね、ハヤト。実は二日後、この村で夏祭りがあるんだ。その準備で主だった職人たちが出払ってて、君の依頼を受ける事が出来ないんだよ。夏祭りが終わればちゃんと仕事するからさ、それまで待っててもらってもいいかい?」
 あ、そういう事ね。
 俺も思い付きでこの村に来たし、予定にはなかった相続だったわけだから、こちらの準備も出来ていないに等しい。忙しい中、俺の我儘に付き合ってもらうのも申し訳ない。

 ただ……牧場の家屋が出来るまで村長の家にご厄介になるのもな……。

「あの、ナタリアさん。この村に宿屋はないんですか?」
「あるよ。だけど、二日後の夏祭りの関係で、観光客で満室だ。元々、宿屋自体も少ないからね」
「そうですか……」
 宿の部屋が空いていたら、そこでしばらく住もうと思っていたんだけど、それは無理っぽいな。
「わしの家では不満かね?」
「いえ、そういうわけではないんですけど…」
 これ以上、村長に迷惑かけられないし、それに、あの家にはベアトリスがいるし……。
 本音は後者。いい年頃の男女が一つ屋根の下っていうのもそうかと思うんだよね。
 そんな俺の気持ちを察したのか、
「わかった。じゃあ、動物屋のエリオに話をしてみるよ。あそこなら男しかいないし、ハヤト君も気を使う心配はないよ」
と、ナタリアさんが提案してくれた。
 その言葉に村長もおっさんもハッと何かに気付いたらしく、「それがいい」と口を揃えて賛成してくれた。

 ナタリアさんって、男っぽいけど、周りの空気を読んでくれるっていうか、何かを察知する能力が優れている気がする。
 ただ、納得できないのが、あの美貌で、いかついおっさんと結婚しているってことだよ。
 2人の馴れ初めとか凄く聞きたい!


 その後、ナタリアさんは動物屋に行くと言って店を出た。
 店の中で男3人(主に村長とおっさんに2人だけだけど)で、夏祭りの事を話していた。
 そこに、
「親方~、配達終わりました~~」
と、俺とそんなに年が変わらない青年が店に入ってきた。
「おお、ご苦労。少し休んでいいぞ」
「ありがとうございま~す」
 少し間の抜けたような返事をする青年は、背負っていた大きい籠を床に降ろすと、店の奥へと姿を消した。
「あ、そうだ。アルベール! ちょっと来い!」
「は~い、なんですか~?」
 店の奥へと姿を消した青年を、おっさんが呼び戻した。
 再び姿を見せた青年は、女にでも間違えるんじゃないかってほど、綺麗な顔をしていた。
「アルベール、今度ユーキの牧場を継いでくれる事になったハヤト君だ。年はお前と同じぐらいだろう」
「アルベールです。宜しくお願いします」
「ハ…ハヤトです」
「村の外に採取に出かける時は声を掛けてくださいね。お供しますよ~」
 お…お供って、こんなのほほ~んとした彼に出来るのか?
 俺も冒険者としての経験がないから、採取中に2人ともやられるっていうオチだけは勘弁してくれよ。
「アルベールはこう見えて冒険者ランクBだ。2年前まで王都の騎士団に所属していた」
 へ!? 人は見かけによらないんだな…。
「親方、今度の祭りの時に、僕の友達をハヤト君に紹介してもいいですか? きっと役に立つと思いますよ」
「ああ、そうだな」
「皆、ユーキ様のファンだから、喜びますね~~」
 うわぁぁぁぁ!! 大きなプレッシャーが~~~!!
 村人たちの祖父ちゃんのイメージが偉大過ぎて、呆れられないか不安だよ~!!!!


 しばらくしてナタリアさんが戻ってきた。
 牧場の母屋が直るまで動物屋で研修を兼ねて下宿させてもらえるように、話を付けてきてくれた。なんでも動物屋のエリオっていう人はナタリアさんの昔からの知り合いらしく、快くOKしてくれたらしい。
「……え?」
 その話を聞いて、アルベールは表情を無くした。
 なにやら疑いの目をナタリアさんに向けている。
 村長も「わしからもお願いしておこう」と、少し声のトーンを落として呟いていた。
 あの、何でため息吐いているんですか?
 ガンツのおっさんも、村長も、アルベールも、なんで大きな溜息を吐いているんですか!?


     <つづく>
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