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夏の月14日(水の曜日)~夏の月15日(木の曜日) 動物屋
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村長たちが吐いていたため息の理由は動物屋に来て分かった。
「だって……だって……姐さん(あねさん)が『ユーキ様のお孫様だ。断る理由はないよな?』って、怖い顔で言ってくるから……」
グスグスとしゃくりあげながら、白い髪のエリオは、その赤い瞳から大粒の涙をボロボロと流していた。
俺よりも年下に見えるけど、まだ成人前なのかな? 幼い顔をしている。
「断ってもよかったんだぞ?」
「断る理由なんてないですよ! 僕だってユーキ様に助けていただいた恩があるんです。その恩返しの為にも、お孫様を預かるのは当然です! でも……でも……姐さんの顔が~~!!!」
凄く怖い顔だったんだね、ナタリアさん。
エリオはそれをまた思い出したのか、声をあげて泣き出してしまった。
村長は大きな溜息を吐いている。
「エリオ、もっとしっかりしてもらわないと困る。お前はハヤト君の何倍ものの時間を生きているんだ」
村長の言葉に、俺は目を丸くした。
は?
俺の何倍ものの時間を生きている?
聞き違いですか?
だって、目の前にいるエリオっていう子、どう見ても俺よりも年下じゃないですか!
「ああ、ハヤト君にはちゃんと紹介した方がいいかな。エリオは魔物の血が流れているんだ」
「ま…魔物!? どういうこと!?」
「エリオの母親が魔物なんだ。昔、ハヤト君の祖父様が魔物退治をしていた頃、同じパーティーにエリオの父親がいた。Sランクの魔物を退治してほしいという王都からの依頼を受けて、祖父様一行が現場に向かったとき、その土地の案内をしてくれたのがエリオの母親だったそうだ」
ちょ…ちょっと待って。Sランクの魔物退治の依頼って、今、サラッと言ったよね?
しかも王都からの依頼?
さすが虹色カード所持者だよ、祖父ちゃん…。
「僕の母は羊族の一人だったんです。母は族長の娘で、人間に姿を変えることができる能力を持っていたので、ユーキ様の旅に同行させていただきました。その旅で父と特別な感情を持つようになり、ユーキ様が族長を説得させて父と母の結婚を許してくれたんです」
「当時は魔物と人間の結婚なんてありえなかった。でも、祖父様が『人間も魔物も手を取り合わないと、平和な時代なんて来ない』と族長を説得させ、更に羊族をこの村で暮らせるように王都に掛け合ったくれたんだ。羊族は家畜の世話に長けている種族でな、今、この村に酪農が根付いているのは羊族のお蔭なんだ」
「ユーキ様は僕たち羊族が安心して暮らせる土地を与えてくださり、仕事まで与えてくださいました。本当に感謝しかありません。僕たちの命の恩人であるユーキ様のお孫様をお預かりできる事は、とても光栄な事です! 僕、頑張って動物のお世話をお教えいたします! よろしくお願いします!」
「こ…こちらこそお願いします……」
いや~~……祖父ちゃんのことを話されても、俺が知っている祖父ちゃんは牧場を営む姿しか知らないから、若い頃のことは何も知らないんだよね。ギルドにいたドラゴン族のエリーも感謝しているって言っていたけど、何も知らない俺はどう返事をしていいのか困るんだよ。
でも、エリーにしても、エリオにしても、祖父ちゃんの事を大切に思ってくれている事だけは伝わってきた。
俺も彼らに祖父ちゃんの事を大切にしてくれた恩返しをしないとな。
エリオの動物屋には、ニワトリと牛がいる。
「僕が担当しているのはこの二種類です。他にも馬と羊も取り扱っているんですが、村の外で飼育しているんです」
「村の外?」
「この村に来るときに気付きませんでしたか? この村は魔族が収める土地に囲まれているんですよ」
へ? そうだっけ?
俺、馬車に乗っている間、ずっと寝ていたから外の景色なんか見ていなかった。
「ユーキ様が僕たち羊族に与えてくださった土地は北側と東側になります。東では馬の飼育を、北では羊の飼育をしているんです。因みに南は大きな湖があり、ここは人魚族がお魚を育てています。湖の畔では植物の精霊たちが季節に合った花を育てているんですよ。西側は今は誰も使用していませんが、昔はドワーフが収めており、沢山の鍛冶場があったんです」
「…えっと……なんで村を囲むように魔物が住む土地があるの?」
「それはこの村を守るための城壁の代わりをしていたからです!」
「村を守る…ため?」
「ユーキ様はこの村にも大きな城壁を作ることを考えていましたが、それでは美しい風景を壊してしまうので、代わりに助けていただいた魔族たちが村を守る様に集落を築くことにしたんです」
「祖父ちゃんは魔族を助けていたの? 魔物使いの力を使って従えていたんじゃないの?」
「そんなことはありません! 僕たちはユーキ様に助けていただいたお礼に、食べ物や着る物、道具などを提供していました。確かにユーキ様は各魔物の族長と一戦を交えています。でもユーキ様はとても素晴らしい方で、誰も傷つけない方法で戦われています。僕たち羊族との対決は羊の毛刈り競争で競ったと伺っています」
「毛刈り競争?」
「人魚族とはどちらが多くの海産物を採取できるかの対決をされ、ドワーフとはどちらが最強の武器を作れるかの勝負をされています。どの種族もユーキ様には敵わず、またアスカ様も勝負に参加され、アスカ様に敵う者はいなかったと伺っています」
え……っと……なんか、俺が想像している冒険者とは違うイメージなんですけど…。
なんか、こう、熾烈な戦いを繰り広げて魔物もどんどん退治して…ってイメージだったんだけど……俺の祖父ちゃんは違うのか?
村長さん、話を盛ったな? どうせ祖父ちゃんが話したことを、勝手なイメージをくっつけて皆に広げたんだろうな。
「ですが、ユーキ様が亡くなられてからは、土地を収める魔族たちもやる気を無くしてしまったのか、土地を出ていく者が多くなりました。ドワーフはもう1人もおりません。人魚族は数名が残っていますが、前のようにお魚を提供することは無くなりました。植物の精霊たちもどこかへと言ってしまい、今、この村に残っているのは羊族の血を引く僕たちだけとなりました」
「『僕たちだけ』ってことは、エリオの他にもいるってこと?」
「はい。僕はニワトリと牛を担当してますが、馬の飼育を担当しているワイズと、羊を担当しているジャックと一緒に暮らしています。もうすぐ仕事を終えて帰ってくるはずなんですか…」
エリオは窓の外を見た。
外はいつの間にか日が傾き、オレンジ色に染まっていた。
日も落ち、そろそろ寝ようか…っと思ったその時、
「おい! ユーキ様の孫が来たって本当か!?」
「さっき、ギルドに寄ったら姐さんに会って『孫様を宜しく~』って言われたんだけど、引き受けたのか!?」
と、2人の声が家中に響いた。
驚いた俺が、声のした方を向くと、そこにはエリオと同じ白い髪に赤い眼をした2人の男が立っていた。ただ、エリオと違って2人の男には羊の丸まった角が生えており、一目で人間と違うとわかる。
かなり酔っぱらっているのか、顔は赤く、足取りもおぼつかない。
「しかもEランクだって言うじゃないか。黒カード所持者がユーキ様の孫だなんて笑えるよな~」
「本当にユーキ様の孫なのか? 騙されているんじゃないの?」
豪快に笑い出す2人。
この光景にはもう慣れた。今朝、ギルドでも同じような体験をしたから。
「ワイズ! ジャック! 本人を目の前に失礼だよ!」
エリオが必死になって2人を説得しているが、一度笑い出した2人は止まらなかった。
「いいよ、エリオ。俺がEランクだったのは本当だし、祖父ちゃんの過去を何も知らないから、本当にあの祖父ちゃんが皆が尊敬する人だなんて、俺も信じられないんだ」
「でも!」
「明日も朝が早いんだろ? 俺は先に休むよ」
「本当にごめんなさい! 2人には僕がちゃんと話しておきます!」
「気にすんな」
エリオが頭を下げるその後ろで、ワイズとジャックという名前の2人は、再び酒盛りを始めた。
王都のレストランで働いていた時も、酔っぱらったお客は放っておいた。下手に関わると碌な事がないと言うマスターの言葉通り、従業員は見て見ぬふりをしていたのだ。何か騒ぎを起こしたら騎士団を呼べばよかったし。
翌朝、俺の目の前では2人の男が土下座をしていた。
「ユーキ様のお孫様ご本人がいらっしゃるとは知らず、大変失礼いたしました!!」
「昨夜のことはどうかお許しください!!」
朝早くから土下座をし、俺に許しを請う2人。
状況が飲み込めず、俺は呆然としてしまった。
あ、今、どこかでニワトリが鳴いた。
「ハヤト様、2人もこうして謝っていますので、どうか昨夜のことは…」
エリオまで俺に謝っている。
えっと……昨日の夜、俺、何かした?
「あの~……何を許せば……」
「昨夜の暴言は酒に酔っていた為、心にもない事を発してしまいました。深く深くお詫び申し上げます!」
たぶんワイズだと思うんだけど、おでこが床にめり込んでいるように見える。
ジャックっていう人も、床を突き抜けてしまいそうなほど頭を床に付けている。
暴言って言っても、俺は気にしていないんだけどな~。本当の事だし。
「俺がEランクとか言ってた事なのかな?」
「その通りでございます!! ギルドでユーキ様のお孫様がEランクの黒カード所持者だと言う話を聞き、ご本人がいらっしゃるとも知らず大変失礼な事を申してしまいました! 先ほど、エリオから聞きましたが、生産者Bランクに昇格されたそうで…本当に本当に申し訳ございません!!!」
いや~…それって暴言じゃないと思うんだけどな~。事実を言っているだけであって、俺は気にしていないんだけどな~。
だけど、どうやって返事をしたらいいんだ?
「ハヤト様、2人もこのように反省しておりますので、どうかお許し願えないでしょうか?」
エリオも今にも泣きだしそうだな。
一応形だけでも許しておいた方がいいのかな?
「許すも何も、俺は何も傷ついていないんだけど。だからさ、頭をあげてもらえないかな?」
「心優しいお心遣い、大変感謝いたしまする!!」
いや、ワイズ、言葉が変だから。
一向に頭をあげてもらえず、俺は困り果ててしまった。
「う~…ん……じゃあ、俺のお願いを聞いてくれるかな?」
「何なりとお申し付けください!」
「その1、俺に動物の飼い方を教えてください。俺、牧場とか経営したことがないから、何もわからないんだよね」
「そ…それはもちろんでございます」
「その2、俺と友達になってください」
「え? 友達?」
「その3、俺に敬語を使わない事。もちろん『様』も禁止。普通にハヤトって呼んで。この三つのお願いを聞いてくくれるかな?」
意外なお願い事だったのか、顔を上げたワイズもジャックもキョトンとした顔をしている。
「そのようなお願い事でよろしいのですか?」
「あ~も~敬語禁止!!!」
「申し訳……あ、いえ、ごめんなさ……いや、その……ごめん」
俺がちょっと睨み付けたらワイズは敬語を辞めた。
いや、悪気はなかったんだけど、こうでもしないと直してくれないと思ったんだ。
「ハヤト様……いえ、ハヤト、そんなお願いでいいのですか?」
「もちろん」
頷きながら答えると、エリオも、ワイズも、ジャックも、ぱぁ~と顔を明るくさせた。周りに花でも咲いているんじゃないかってぐらい3人の周りが急に明るくなった。
「改めまして、ハヤトです。今日から宜しくお願いします」
そう挨拶をしながら俺が頭を下げると、少し間があってゴン&バキっという音が鳴り響いた。
3人が俺の目の前で、土下座の格好のまま頭を床に打ち付けていたのだ。もう床には3つの穴が開いている。
「ユーキ様より教わりました技術、必ずお教えいたします」
「「「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします!!!」」」
……大丈夫かな、この3人。
<つづく>
「だって……だって……姐さん(あねさん)が『ユーキ様のお孫様だ。断る理由はないよな?』って、怖い顔で言ってくるから……」
グスグスとしゃくりあげながら、白い髪のエリオは、その赤い瞳から大粒の涙をボロボロと流していた。
俺よりも年下に見えるけど、まだ成人前なのかな? 幼い顔をしている。
「断ってもよかったんだぞ?」
「断る理由なんてないですよ! 僕だってユーキ様に助けていただいた恩があるんです。その恩返しの為にも、お孫様を預かるのは当然です! でも……でも……姐さんの顔が~~!!!」
凄く怖い顔だったんだね、ナタリアさん。
エリオはそれをまた思い出したのか、声をあげて泣き出してしまった。
村長は大きな溜息を吐いている。
「エリオ、もっとしっかりしてもらわないと困る。お前はハヤト君の何倍ものの時間を生きているんだ」
村長の言葉に、俺は目を丸くした。
は?
俺の何倍ものの時間を生きている?
聞き違いですか?
だって、目の前にいるエリオっていう子、どう見ても俺よりも年下じゃないですか!
「ああ、ハヤト君にはちゃんと紹介した方がいいかな。エリオは魔物の血が流れているんだ」
「ま…魔物!? どういうこと!?」
「エリオの母親が魔物なんだ。昔、ハヤト君の祖父様が魔物退治をしていた頃、同じパーティーにエリオの父親がいた。Sランクの魔物を退治してほしいという王都からの依頼を受けて、祖父様一行が現場に向かったとき、その土地の案内をしてくれたのがエリオの母親だったそうだ」
ちょ…ちょっと待って。Sランクの魔物退治の依頼って、今、サラッと言ったよね?
しかも王都からの依頼?
さすが虹色カード所持者だよ、祖父ちゃん…。
「僕の母は羊族の一人だったんです。母は族長の娘で、人間に姿を変えることができる能力を持っていたので、ユーキ様の旅に同行させていただきました。その旅で父と特別な感情を持つようになり、ユーキ様が族長を説得させて父と母の結婚を許してくれたんです」
「当時は魔物と人間の結婚なんてありえなかった。でも、祖父様が『人間も魔物も手を取り合わないと、平和な時代なんて来ない』と族長を説得させ、更に羊族をこの村で暮らせるように王都に掛け合ったくれたんだ。羊族は家畜の世話に長けている種族でな、今、この村に酪農が根付いているのは羊族のお蔭なんだ」
「ユーキ様は僕たち羊族が安心して暮らせる土地を与えてくださり、仕事まで与えてくださいました。本当に感謝しかありません。僕たちの命の恩人であるユーキ様のお孫様をお預かりできる事は、とても光栄な事です! 僕、頑張って動物のお世話をお教えいたします! よろしくお願いします!」
「こ…こちらこそお願いします……」
いや~~……祖父ちゃんのことを話されても、俺が知っている祖父ちゃんは牧場を営む姿しか知らないから、若い頃のことは何も知らないんだよね。ギルドにいたドラゴン族のエリーも感謝しているって言っていたけど、何も知らない俺はどう返事をしていいのか困るんだよ。
でも、エリーにしても、エリオにしても、祖父ちゃんの事を大切に思ってくれている事だけは伝わってきた。
俺も彼らに祖父ちゃんの事を大切にしてくれた恩返しをしないとな。
エリオの動物屋には、ニワトリと牛がいる。
「僕が担当しているのはこの二種類です。他にも馬と羊も取り扱っているんですが、村の外で飼育しているんです」
「村の外?」
「この村に来るときに気付きませんでしたか? この村は魔族が収める土地に囲まれているんですよ」
へ? そうだっけ?
俺、馬車に乗っている間、ずっと寝ていたから外の景色なんか見ていなかった。
「ユーキ様が僕たち羊族に与えてくださった土地は北側と東側になります。東では馬の飼育を、北では羊の飼育をしているんです。因みに南は大きな湖があり、ここは人魚族がお魚を育てています。湖の畔では植物の精霊たちが季節に合った花を育てているんですよ。西側は今は誰も使用していませんが、昔はドワーフが収めており、沢山の鍛冶場があったんです」
「…えっと……なんで村を囲むように魔物が住む土地があるの?」
「それはこの村を守るための城壁の代わりをしていたからです!」
「村を守る…ため?」
「ユーキ様はこの村にも大きな城壁を作ることを考えていましたが、それでは美しい風景を壊してしまうので、代わりに助けていただいた魔族たちが村を守る様に集落を築くことにしたんです」
「祖父ちゃんは魔族を助けていたの? 魔物使いの力を使って従えていたんじゃないの?」
「そんなことはありません! 僕たちはユーキ様に助けていただいたお礼に、食べ物や着る物、道具などを提供していました。確かにユーキ様は各魔物の族長と一戦を交えています。でもユーキ様はとても素晴らしい方で、誰も傷つけない方法で戦われています。僕たち羊族との対決は羊の毛刈り競争で競ったと伺っています」
「毛刈り競争?」
「人魚族とはどちらが多くの海産物を採取できるかの対決をされ、ドワーフとはどちらが最強の武器を作れるかの勝負をされています。どの種族もユーキ様には敵わず、またアスカ様も勝負に参加され、アスカ様に敵う者はいなかったと伺っています」
え……っと……なんか、俺が想像している冒険者とは違うイメージなんですけど…。
なんか、こう、熾烈な戦いを繰り広げて魔物もどんどん退治して…ってイメージだったんだけど……俺の祖父ちゃんは違うのか?
村長さん、話を盛ったな? どうせ祖父ちゃんが話したことを、勝手なイメージをくっつけて皆に広げたんだろうな。
「ですが、ユーキ様が亡くなられてからは、土地を収める魔族たちもやる気を無くしてしまったのか、土地を出ていく者が多くなりました。ドワーフはもう1人もおりません。人魚族は数名が残っていますが、前のようにお魚を提供することは無くなりました。植物の精霊たちもどこかへと言ってしまい、今、この村に残っているのは羊族の血を引く僕たちだけとなりました」
「『僕たちだけ』ってことは、エリオの他にもいるってこと?」
「はい。僕はニワトリと牛を担当してますが、馬の飼育を担当しているワイズと、羊を担当しているジャックと一緒に暮らしています。もうすぐ仕事を終えて帰ってくるはずなんですか…」
エリオは窓の外を見た。
外はいつの間にか日が傾き、オレンジ色に染まっていた。
日も落ち、そろそろ寝ようか…っと思ったその時、
「おい! ユーキ様の孫が来たって本当か!?」
「さっき、ギルドに寄ったら姐さんに会って『孫様を宜しく~』って言われたんだけど、引き受けたのか!?」
と、2人の声が家中に響いた。
驚いた俺が、声のした方を向くと、そこにはエリオと同じ白い髪に赤い眼をした2人の男が立っていた。ただ、エリオと違って2人の男には羊の丸まった角が生えており、一目で人間と違うとわかる。
かなり酔っぱらっているのか、顔は赤く、足取りもおぼつかない。
「しかもEランクだって言うじゃないか。黒カード所持者がユーキ様の孫だなんて笑えるよな~」
「本当にユーキ様の孫なのか? 騙されているんじゃないの?」
豪快に笑い出す2人。
この光景にはもう慣れた。今朝、ギルドでも同じような体験をしたから。
「ワイズ! ジャック! 本人を目の前に失礼だよ!」
エリオが必死になって2人を説得しているが、一度笑い出した2人は止まらなかった。
「いいよ、エリオ。俺がEランクだったのは本当だし、祖父ちゃんの過去を何も知らないから、本当にあの祖父ちゃんが皆が尊敬する人だなんて、俺も信じられないんだ」
「でも!」
「明日も朝が早いんだろ? 俺は先に休むよ」
「本当にごめんなさい! 2人には僕がちゃんと話しておきます!」
「気にすんな」
エリオが頭を下げるその後ろで、ワイズとジャックという名前の2人は、再び酒盛りを始めた。
王都のレストランで働いていた時も、酔っぱらったお客は放っておいた。下手に関わると碌な事がないと言うマスターの言葉通り、従業員は見て見ぬふりをしていたのだ。何か騒ぎを起こしたら騎士団を呼べばよかったし。
翌朝、俺の目の前では2人の男が土下座をしていた。
「ユーキ様のお孫様ご本人がいらっしゃるとは知らず、大変失礼いたしました!!」
「昨夜のことはどうかお許しください!!」
朝早くから土下座をし、俺に許しを請う2人。
状況が飲み込めず、俺は呆然としてしまった。
あ、今、どこかでニワトリが鳴いた。
「ハヤト様、2人もこうして謝っていますので、どうか昨夜のことは…」
エリオまで俺に謝っている。
えっと……昨日の夜、俺、何かした?
「あの~……何を許せば……」
「昨夜の暴言は酒に酔っていた為、心にもない事を発してしまいました。深く深くお詫び申し上げます!」
たぶんワイズだと思うんだけど、おでこが床にめり込んでいるように見える。
ジャックっていう人も、床を突き抜けてしまいそうなほど頭を床に付けている。
暴言って言っても、俺は気にしていないんだけどな~。本当の事だし。
「俺がEランクとか言ってた事なのかな?」
「その通りでございます!! ギルドでユーキ様のお孫様がEランクの黒カード所持者だと言う話を聞き、ご本人がいらっしゃるとも知らず大変失礼な事を申してしまいました! 先ほど、エリオから聞きましたが、生産者Bランクに昇格されたそうで…本当に本当に申し訳ございません!!!」
いや~…それって暴言じゃないと思うんだけどな~。事実を言っているだけであって、俺は気にしていないんだけどな~。
だけど、どうやって返事をしたらいいんだ?
「ハヤト様、2人もこのように反省しておりますので、どうかお許し願えないでしょうか?」
エリオも今にも泣きだしそうだな。
一応形だけでも許しておいた方がいいのかな?
「許すも何も、俺は何も傷ついていないんだけど。だからさ、頭をあげてもらえないかな?」
「心優しいお心遣い、大変感謝いたしまする!!」
いや、ワイズ、言葉が変だから。
一向に頭をあげてもらえず、俺は困り果ててしまった。
「う~…ん……じゃあ、俺のお願いを聞いてくれるかな?」
「何なりとお申し付けください!」
「その1、俺に動物の飼い方を教えてください。俺、牧場とか経営したことがないから、何もわからないんだよね」
「そ…それはもちろんでございます」
「その2、俺と友達になってください」
「え? 友達?」
「その3、俺に敬語を使わない事。もちろん『様』も禁止。普通にハヤトって呼んで。この三つのお願いを聞いてくくれるかな?」
意外なお願い事だったのか、顔を上げたワイズもジャックもキョトンとした顔をしている。
「そのようなお願い事でよろしいのですか?」
「あ~も~敬語禁止!!!」
「申し訳……あ、いえ、ごめんなさ……いや、その……ごめん」
俺がちょっと睨み付けたらワイズは敬語を辞めた。
いや、悪気はなかったんだけど、こうでもしないと直してくれないと思ったんだ。
「ハヤト様……いえ、ハヤト、そんなお願いでいいのですか?」
「もちろん」
頷きながら答えると、エリオも、ワイズも、ジャックも、ぱぁ~と顔を明るくさせた。周りに花でも咲いているんじゃないかってぐらい3人の周りが急に明るくなった。
「改めまして、ハヤトです。今日から宜しくお願いします」
そう挨拶をしながら俺が頭を下げると、少し間があってゴン&バキっという音が鳴り響いた。
3人が俺の目の前で、土下座の格好のまま頭を床に打ち付けていたのだ。もう床には3つの穴が開いている。
「ユーキ様より教わりました技術、必ずお教えいたします」
「「「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします!!!」」」
……大丈夫かな、この3人。
<つづく>
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