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1年目
冬の月8日(月の曜日) 伯爵家からのお誘い
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サツマイモ祭りの翌日、ふれあい広場では夏祭りのように店先にテントを張って臨時の出店を出店していた。昨日の祭りが中止になってしまった為、余った食材を売りつくす為らしい。
他の村の料理人もアンナのお店やケイトさんのお店などを借りて、自慢の料理を提供している。
ケイトさんの店先にはベアトリスとステラの姿があった。
「こんにちは、ハヤトくん」
「ごきげんよう、ハヤト」
元気に挨拶してくる2人の手にはスイートポテトが握られていた。
「こんにちは。珍しいね、2人が一緒だなんて」
「オルベリザス伯爵が王都へ出かけてしまったので、ステラはわたしの家に泊まっているんですよ」
「へ?」
「伯爵のお供で主だった使用人も一緒に王都に行っているそうで、お父さんが護衛を兼ねて我が家で預かることにしたんです。来週には戻るそうですよ」
「王都に何の用事で?」
「例のサツマイモ農家の方を王宮で裁く為ですって」
「お父様があの農家に事情聴取をしたところ、畑の改善のための援助金を二回も不正に受給しただけでなく、領地内で使用を禁止している肥料を使っていた事、その肥料を高値で他人に売っていた事がわかって、国王様を交えての裁判になるそうですわ」
あの農家さん、そんなに悪事に手を染めていたのかよ…。
「しかも、サツマイモ御殿の主にまで肥料を売っていたっていうんですもの。幸いなことに御殿の主は使用禁止の肥料だと気づいていましたので、被害には遭いませんでしたわ」
「この村の数件の農家さんも、その肥料を購入してしまったそうで、畑の復旧に時間が掛かるそうです」
「王都の研究院から調査に来ている研究員のお話だと、かなり毒性の強い薬剤が含まれていたそうで、使用した量にもよるけど、短くても3年は作物を植える事が出来ないんですって」
「じゃあ、その間、被害に遭った農家さんは…」
「心配はいりませんわ。わたくしのお父様がちゃんと援助しますから!」
「わたしのお父さんも生活に支障が出ないように援助するそうです」
村長と伯爵が援助してくれるのなら、被害に遭った農家さんたちも安心だね。
ただ、あの伯爵が無償で援助するかな? でも損害の補償はするって言っていたし、こんな小さな村の農家さんに多額の借金はさせないと思うけどね…。
「ハヤトの畑は大丈夫でしたの? あの農家に荒されたんでしょ?」
「俺の所はノームとリーフが手助けしてくれたから大丈夫だよ。今月頭に冬の作物の苗を植えて、今はすくすく育っているから、なんの被害もない」
「やっぱり、お父様が仰っていたことは本当だったんですね」
「伯爵が何か言っていたの?」
「ハヤトの経営する牧場は、他の農家の畑とは作りが違うって仰っていたのよ。わたくしは興味はなかったので詳しくは聞かなかったんですが、お父様は『女神に守られている土地』と仰っていったわ」
「女神?」
「ええ。ハヤトのお祖父様とお祖母様は女神の加護を受けているはずだ。あの土地に手を出した者は必ず女神の怒りを受けるだろうって、ここ最近、口にするようになりましたの。あの農家がハヤトの畑に手を出したから、罪を犯したことを考えると本当のようね。わたくしもあの土地に手を出さなくて正解でしたわ」
あ~…そういえば別荘を建てるとかなんとか言って、祖父ちゃんの牧場を欲しがっていたな~。俺が正式な手続きをしてからは、一切口を出した来なくなったけど、本当に諦めていたんだ。
「でも、ハヤトくんはどうやって畑を作り直したの? あの農家さんは作物を枯らす薬剤を撒いたって聞いたけど…」
「あ、それはリーフが持っているスキル【再生】と【成長】を使ったんだよ」
「「スキル??」」
初めて聞くであろう言葉に、ベアトリスとステラは同じ方向に首を傾げた。
「簡単にいうと、リーフの得意技ってこと。畑が荒らされてすぐにリーフがサツマイモの苗を復活させたんだ。その後も作物が育つってことは、畑に撒かれた薬剤も浄化してくれたんじゃないのかな? それにノームは畑を耕すことが得意で、かなり深い所から掘り返してくるんだ。祖父ちゃんたちは畑の土自体の品質を上げていたらしいから、土の中に眠っていた高品質の土をノームが掘り起こしてくれたみたい」
「まあ、あのスライムはとても有能なのね! お父様にお話したら商売にしそうですわ」
「それが本当かは分からないけどね」
「じゃあ、ハヤトくんの畑は本当に被害がないのね」
「ああ。春になれば牧草地にも新芽が芽吹くし、もう少ししたら果樹園も手入れしようと思っているんだ。今は畑と仔牛の世話で忙しいから、他の事に手は付けられないけど」
って言っても、仔牛の世話はリーフ(No37)が手伝ってくれているから、そんなに手がかかっていないんだけどね(笑) それに今は一匹だけだし。
「今度、遊びに行ってもいい?」
「わたくしもお伺いしたいわ!」
「もちろんだよ」
俺が返事をすると、ベアトリスとステラが嬉しそうに顔を見合わせた笑った。
この2人、どんどん仲良くなっていくんですけど。
そういえば、ノームやリーフの事について、何もわかっていないんだよね。
時々、ガイが学校で習ったことを教えてくれるけど、俺の契約しているスライムは特殊なのか、授業で習ったこと以外の発見があるらしく、休みの度に牧場に来ては一日中、スライムの観察をしているんだよね。
俺もノームたちを鑑定できる力があればな~。
祖父ちゃんは自分の個人情報(ステータス)とか、自分のスキル、装備品とかを見ることはできるって話していたけど、パートナーとなった魔物の事は何も話してくれなかった。最も、牧場にいた三匹のペットが魔物かどうかすら分かっていないけど。
前にミントさんが『最上級ランクの魔物』とか言っていたけど……本当かな?
最上級ランクって、テイム出来る最上級ランクだよね? 前に魔物のランクについて教えてもらったことあるけど、たしかあの時教えてもらった最上級ランクって、伝説とされている魔物じゃなかったっけ?
俺、何も知らずにあの三匹と遊んでいたのね…。
一回目のダイコンの収穫が終わり、ハクサイも順調の育っているある日、牧場に意外な人物が訪れた。
「旦那様より、こちらを預かってまいりました」
俺に一通の手紙を差し出してきたのは、以前、オルベリザス伯爵と共に牧場を訪ねたことがある、伯爵の付き人だった。
「俺に?」
「その場で目を通してくださいとの伝言です」
伯爵からの手紙なんて珍しい。(って言っても、今までに一度も手紙なんか来たことないけどね)
中を開くと、二つ折りになっている厚紙が出てきた。表紙はとても豪華な花の絵が描かれている。
そこには伯爵家で行われるお茶会へのお誘いが書かれてあった。伯爵の知人が王都からやってくるらしく、その知人を紹介したいという言葉も書かれてあった。
王都に住む知人って……あんまり関わりたくないんだよね~。伯爵って王室とも何らかの関係がありそうで、その知人っていう人が俺の両親と繋がっていそうで怖いんだよ。
でも、断ると失礼だし…。
なんて考えながら、招待状を折りたたもうとした時、隅の方に伯爵の直筆だと思われる走り書きを見つけた。
『土属性のスライムと、植物属性のスライムも一緒に連れてきてほしい』
なんで伯爵がノームたちを?
まさか、この間ステラが言っていたように、何かしらの商売を始めるとか!?
その為にノームとリーフを貸してくれとか言うんじゃないんでしょうね!?
「お返事はいかがいたしましょうか」
相変わらず表情がないお付き人さん。言葉も淡々としている。
「断ったら……ダメですよね?」
そこ言葉に、お付き人さんが、少しだけ睨んできた。…気がする。
「わかりました。お伺いします」
「ありがとうございます。旦那様にお伝えいたします」
「あ…あの、伯爵家に行くのに服装とか気を付けた方がいいですか?」
「いえ、特に決まりはございません。ご必要ならこちたでご用意させていただきます」
伯爵家で用意…って、ゴテゴテの貴族!ていう服になりかねない! それだけはお断りだ!
「自分で用意します…」
「かしこまりました。では、二日後、お迎えに上がります」
お付き人さんはカクカクっとしたお辞儀をして、乗ってきた馬車に乗り去っていった。
伯爵家のお茶会…か。
この間、この牧場で伯爵が勝手にセッティングしたのは、お茶会とは言えないよな。
ってことは、ちゃんとした礼儀が必要なのかな?
この村に貴族のお茶会に詳しい人、いる?
その前に服を何とかしなくちゃ。
急だけどポールさんに頼んでみよう。既製品でもいいから、お茶会に相応しい服、用意しなくちゃ。
午後、俺はポールさんの店を訪れた。
店に入るとミカエルの姿を見つけた。
「ミカエルも来ていたんだ」
俺が声を掛けると、ミカエルは小さく頭を下げただけで、一言も発せずに店を出ていった。
あれ? いつものミカエルに戻っている。先月は色々と話してくれたのにな。
「いらっしゃい、ハヤト君。お店に来るなんて珍しいね」
カウンターの中からマーガレットさんが声を掛けてくれた。
「こんにちは。ミカエルも買い物で来たんですか?」
「仕立て直しよ。ローズちゃんが毎年冬に着るコートの手直しを依頼してきたの」
そう言いながらマーガレットさんはカウンターに置かれた一枚のコートを広げて見せてくれた。内側にもこもこっとしたボアが入っており、フードの中にもボアが付けられていた。外側はオレンジ色だけど、袖や裾にはレースがあしらっており、ボタンが薔薇の花を象っていた。
これはポールさんが作ったのかな?
「これはね、ミカエル君が初めてのお給料でローズちゃんに買ってあげた物なの。もう5年ぐらい前になるかな?」
「五年!? 物持ちがいいですね」
「ローズちゃんが勿体ないって言って、冬のイベントの時しか着ていなかったからね。でも、さすが王都で売られていた物ね。デザインも使っている物もいい物だわ。有名なデザイナーさんのコートを初任給で買うなんて、ミカエル君も奮発したものよ」
「え? そんなに凄い物なんですか?」
「ええ。ここにブランドのタグが付いているでしょ? このブランドは王室御用達で、歴代の王族の結婚式のお衣裳を担当している老舗なの」
そんな有名な店のコートなら大事にするよな。
でも、騎士団って本当に給料がいいんだな。老舗の王室御用達の店のコートをポーンと買えるんだから。
「おや、ハヤト君。いらっしゃい」
店の奥からポールさんがやってきた。
「こんにちは」
「うちに何か用かい?」
「あ、はい。実は二日後までに、ちょっとした余所行きの服が欲しいんです。既存の物でもいいので、見繕ってもらえませんか?」
「どこかにお出かけかい?」
「オルベリザス伯爵のお茶会に呼ばれました」
「まぁ! 伯爵のお茶会に!? 素晴らしいわ!」
うわぁ~…マーガレットさんのテンションが上がった~~。
「マーガレットは昔から伯爵に対してテンションが上がるね」
「ええ! ええ! 伯爵はわたしたちの間でもとても人気があったのよ! 直接お会いしたことはないけど、とても素敵で、カッコよくて、領民想いの素晴らしい方だと噂されているのよ!」
マーガレットさんは伯爵に対していいイメージを持っているんだ。なんか意外。村長とか村人はいいイメージを持っていなかったようで、この間のサツマイモ祭りの時の謝罪を見て、伯爵っていい人なんだっていう声が聞こえてきたぐらいなんだよね。
「マーガレットは、伯爵の領地に屋敷を構える貴族の屋敷で働いていたんだよ」
「へぇ~」
「二番目のお嬢さま付きのお衣装係をしていたんです。お嬢さまのお衣裳を仕立ててくださったのがポールで、何度か会うたびに恋仲になってしまいましたの」
ポッと顔を赤らめて自分の話をしだすマーガレットさん。
「一年前にお嬢さまのご結婚が決まって、嫁ぎ先には付いていけなくなったとき、ポールがプロポーズしてくれたのよ」
「お嬢さまも喜んでくださったね」
「ええ! 結婚のお祝いにってポールの作るドレスを沢山お嫁入りに持って行ってくださったの。春になったら遊びに行きますって、この間お手紙が届いたの」
マーガレットさんとポールさんは、お互いに顔を見合わせて「ね~♪」と声を揃えた。
これが俗にいうバカップルというものですか? 違いますか?
マーガレットさんは貴族の屋敷で働いていたのか。
ん? ってことは、お茶会とかに詳しいかな?
「あ…あの、マーガレットさん。貴族のお屋敷で働いていたってことは、お茶会も詳しかったりしますか?」
「ええ。給仕として何度か立ちあったことありますよ」
「もしよければ、お茶会のマナーとか教えてもらえませんか? 俺、貴族の屋敷に行くのも初めてだし、お茶会っていうのがどういうのかもわからないんですよ」
「あら、それは大変だわ。わたしでよければお教えしますよ」
「ありがとうございます」
「そうと決まれば、二日間で猛特訓しなくちゃね! ポール、ハヤト君の服も急いで作ってね!」
「もちろんだとも。それじゃ、寸法を測らせてもらうよ」
「え!? お…俺は既製品でもいいんですけど!」
「ダメよ。伯爵家にお呼ばれされたのなら、新調しなくちゃね! わたしは茶器の用意をしてくるわ」
「頼んだよ」
マーガレットさんはそれはそれは楽しそうに奥へと走り込んでいった。
ポールさんはというと……メジャーを両腕一杯に伸ばして、「にへへへ」と変な笑い声と共に、不気味な笑みを浮かべて俺に迫っていた。
俺、ちゃんと生きて帰れますかーーーー!!??
<つづく>
他の村の料理人もアンナのお店やケイトさんのお店などを借りて、自慢の料理を提供している。
ケイトさんの店先にはベアトリスとステラの姿があった。
「こんにちは、ハヤトくん」
「ごきげんよう、ハヤト」
元気に挨拶してくる2人の手にはスイートポテトが握られていた。
「こんにちは。珍しいね、2人が一緒だなんて」
「オルベリザス伯爵が王都へ出かけてしまったので、ステラはわたしの家に泊まっているんですよ」
「へ?」
「伯爵のお供で主だった使用人も一緒に王都に行っているそうで、お父さんが護衛を兼ねて我が家で預かることにしたんです。来週には戻るそうですよ」
「王都に何の用事で?」
「例のサツマイモ農家の方を王宮で裁く為ですって」
「お父様があの農家に事情聴取をしたところ、畑の改善のための援助金を二回も不正に受給しただけでなく、領地内で使用を禁止している肥料を使っていた事、その肥料を高値で他人に売っていた事がわかって、国王様を交えての裁判になるそうですわ」
あの農家さん、そんなに悪事に手を染めていたのかよ…。
「しかも、サツマイモ御殿の主にまで肥料を売っていたっていうんですもの。幸いなことに御殿の主は使用禁止の肥料だと気づいていましたので、被害には遭いませんでしたわ」
「この村の数件の農家さんも、その肥料を購入してしまったそうで、畑の復旧に時間が掛かるそうです」
「王都の研究院から調査に来ている研究員のお話だと、かなり毒性の強い薬剤が含まれていたそうで、使用した量にもよるけど、短くても3年は作物を植える事が出来ないんですって」
「じゃあ、その間、被害に遭った農家さんは…」
「心配はいりませんわ。わたくしのお父様がちゃんと援助しますから!」
「わたしのお父さんも生活に支障が出ないように援助するそうです」
村長と伯爵が援助してくれるのなら、被害に遭った農家さんたちも安心だね。
ただ、あの伯爵が無償で援助するかな? でも損害の補償はするって言っていたし、こんな小さな村の農家さんに多額の借金はさせないと思うけどね…。
「ハヤトの畑は大丈夫でしたの? あの農家に荒されたんでしょ?」
「俺の所はノームとリーフが手助けしてくれたから大丈夫だよ。今月頭に冬の作物の苗を植えて、今はすくすく育っているから、なんの被害もない」
「やっぱり、お父様が仰っていたことは本当だったんですね」
「伯爵が何か言っていたの?」
「ハヤトの経営する牧場は、他の農家の畑とは作りが違うって仰っていたのよ。わたくしは興味はなかったので詳しくは聞かなかったんですが、お父様は『女神に守られている土地』と仰っていったわ」
「女神?」
「ええ。ハヤトのお祖父様とお祖母様は女神の加護を受けているはずだ。あの土地に手を出した者は必ず女神の怒りを受けるだろうって、ここ最近、口にするようになりましたの。あの農家がハヤトの畑に手を出したから、罪を犯したことを考えると本当のようね。わたくしもあの土地に手を出さなくて正解でしたわ」
あ~…そういえば別荘を建てるとかなんとか言って、祖父ちゃんの牧場を欲しがっていたな~。俺が正式な手続きをしてからは、一切口を出した来なくなったけど、本当に諦めていたんだ。
「でも、ハヤトくんはどうやって畑を作り直したの? あの農家さんは作物を枯らす薬剤を撒いたって聞いたけど…」
「あ、それはリーフが持っているスキル【再生】と【成長】を使ったんだよ」
「「スキル??」」
初めて聞くであろう言葉に、ベアトリスとステラは同じ方向に首を傾げた。
「簡単にいうと、リーフの得意技ってこと。畑が荒らされてすぐにリーフがサツマイモの苗を復活させたんだ。その後も作物が育つってことは、畑に撒かれた薬剤も浄化してくれたんじゃないのかな? それにノームは畑を耕すことが得意で、かなり深い所から掘り返してくるんだ。祖父ちゃんたちは畑の土自体の品質を上げていたらしいから、土の中に眠っていた高品質の土をノームが掘り起こしてくれたみたい」
「まあ、あのスライムはとても有能なのね! お父様にお話したら商売にしそうですわ」
「それが本当かは分からないけどね」
「じゃあ、ハヤトくんの畑は本当に被害がないのね」
「ああ。春になれば牧草地にも新芽が芽吹くし、もう少ししたら果樹園も手入れしようと思っているんだ。今は畑と仔牛の世話で忙しいから、他の事に手は付けられないけど」
って言っても、仔牛の世話はリーフ(No37)が手伝ってくれているから、そんなに手がかかっていないんだけどね(笑) それに今は一匹だけだし。
「今度、遊びに行ってもいい?」
「わたくしもお伺いしたいわ!」
「もちろんだよ」
俺が返事をすると、ベアトリスとステラが嬉しそうに顔を見合わせた笑った。
この2人、どんどん仲良くなっていくんですけど。
そういえば、ノームやリーフの事について、何もわかっていないんだよね。
時々、ガイが学校で習ったことを教えてくれるけど、俺の契約しているスライムは特殊なのか、授業で習ったこと以外の発見があるらしく、休みの度に牧場に来ては一日中、スライムの観察をしているんだよね。
俺もノームたちを鑑定できる力があればな~。
祖父ちゃんは自分の個人情報(ステータス)とか、自分のスキル、装備品とかを見ることはできるって話していたけど、パートナーとなった魔物の事は何も話してくれなかった。最も、牧場にいた三匹のペットが魔物かどうかすら分かっていないけど。
前にミントさんが『最上級ランクの魔物』とか言っていたけど……本当かな?
最上級ランクって、テイム出来る最上級ランクだよね? 前に魔物のランクについて教えてもらったことあるけど、たしかあの時教えてもらった最上級ランクって、伝説とされている魔物じゃなかったっけ?
俺、何も知らずにあの三匹と遊んでいたのね…。
一回目のダイコンの収穫が終わり、ハクサイも順調の育っているある日、牧場に意外な人物が訪れた。
「旦那様より、こちらを預かってまいりました」
俺に一通の手紙を差し出してきたのは、以前、オルベリザス伯爵と共に牧場を訪ねたことがある、伯爵の付き人だった。
「俺に?」
「その場で目を通してくださいとの伝言です」
伯爵からの手紙なんて珍しい。(って言っても、今までに一度も手紙なんか来たことないけどね)
中を開くと、二つ折りになっている厚紙が出てきた。表紙はとても豪華な花の絵が描かれている。
そこには伯爵家で行われるお茶会へのお誘いが書かれてあった。伯爵の知人が王都からやってくるらしく、その知人を紹介したいという言葉も書かれてあった。
王都に住む知人って……あんまり関わりたくないんだよね~。伯爵って王室とも何らかの関係がありそうで、その知人っていう人が俺の両親と繋がっていそうで怖いんだよ。
でも、断ると失礼だし…。
なんて考えながら、招待状を折りたたもうとした時、隅の方に伯爵の直筆だと思われる走り書きを見つけた。
『土属性のスライムと、植物属性のスライムも一緒に連れてきてほしい』
なんで伯爵がノームたちを?
まさか、この間ステラが言っていたように、何かしらの商売を始めるとか!?
その為にノームとリーフを貸してくれとか言うんじゃないんでしょうね!?
「お返事はいかがいたしましょうか」
相変わらず表情がないお付き人さん。言葉も淡々としている。
「断ったら……ダメですよね?」
そこ言葉に、お付き人さんが、少しだけ睨んできた。…気がする。
「わかりました。お伺いします」
「ありがとうございます。旦那様にお伝えいたします」
「あ…あの、伯爵家に行くのに服装とか気を付けた方がいいですか?」
「いえ、特に決まりはございません。ご必要ならこちたでご用意させていただきます」
伯爵家で用意…って、ゴテゴテの貴族!ていう服になりかねない! それだけはお断りだ!
「自分で用意します…」
「かしこまりました。では、二日後、お迎えに上がります」
お付き人さんはカクカクっとしたお辞儀をして、乗ってきた馬車に乗り去っていった。
伯爵家のお茶会…か。
この間、この牧場で伯爵が勝手にセッティングしたのは、お茶会とは言えないよな。
ってことは、ちゃんとした礼儀が必要なのかな?
この村に貴族のお茶会に詳しい人、いる?
その前に服を何とかしなくちゃ。
急だけどポールさんに頼んでみよう。既製品でもいいから、お茶会に相応しい服、用意しなくちゃ。
午後、俺はポールさんの店を訪れた。
店に入るとミカエルの姿を見つけた。
「ミカエルも来ていたんだ」
俺が声を掛けると、ミカエルは小さく頭を下げただけで、一言も発せずに店を出ていった。
あれ? いつものミカエルに戻っている。先月は色々と話してくれたのにな。
「いらっしゃい、ハヤト君。お店に来るなんて珍しいね」
カウンターの中からマーガレットさんが声を掛けてくれた。
「こんにちは。ミカエルも買い物で来たんですか?」
「仕立て直しよ。ローズちゃんが毎年冬に着るコートの手直しを依頼してきたの」
そう言いながらマーガレットさんはカウンターに置かれた一枚のコートを広げて見せてくれた。内側にもこもこっとしたボアが入っており、フードの中にもボアが付けられていた。外側はオレンジ色だけど、袖や裾にはレースがあしらっており、ボタンが薔薇の花を象っていた。
これはポールさんが作ったのかな?
「これはね、ミカエル君が初めてのお給料でローズちゃんに買ってあげた物なの。もう5年ぐらい前になるかな?」
「五年!? 物持ちがいいですね」
「ローズちゃんが勿体ないって言って、冬のイベントの時しか着ていなかったからね。でも、さすが王都で売られていた物ね。デザインも使っている物もいい物だわ。有名なデザイナーさんのコートを初任給で買うなんて、ミカエル君も奮発したものよ」
「え? そんなに凄い物なんですか?」
「ええ。ここにブランドのタグが付いているでしょ? このブランドは王室御用達で、歴代の王族の結婚式のお衣裳を担当している老舗なの」
そんな有名な店のコートなら大事にするよな。
でも、騎士団って本当に給料がいいんだな。老舗の王室御用達の店のコートをポーンと買えるんだから。
「おや、ハヤト君。いらっしゃい」
店の奥からポールさんがやってきた。
「こんにちは」
「うちに何か用かい?」
「あ、はい。実は二日後までに、ちょっとした余所行きの服が欲しいんです。既存の物でもいいので、見繕ってもらえませんか?」
「どこかにお出かけかい?」
「オルベリザス伯爵のお茶会に呼ばれました」
「まぁ! 伯爵のお茶会に!? 素晴らしいわ!」
うわぁ~…マーガレットさんのテンションが上がった~~。
「マーガレットは昔から伯爵に対してテンションが上がるね」
「ええ! ええ! 伯爵はわたしたちの間でもとても人気があったのよ! 直接お会いしたことはないけど、とても素敵で、カッコよくて、領民想いの素晴らしい方だと噂されているのよ!」
マーガレットさんは伯爵に対していいイメージを持っているんだ。なんか意外。村長とか村人はいいイメージを持っていなかったようで、この間のサツマイモ祭りの時の謝罪を見て、伯爵っていい人なんだっていう声が聞こえてきたぐらいなんだよね。
「マーガレットは、伯爵の領地に屋敷を構える貴族の屋敷で働いていたんだよ」
「へぇ~」
「二番目のお嬢さま付きのお衣装係をしていたんです。お嬢さまのお衣裳を仕立ててくださったのがポールで、何度か会うたびに恋仲になってしまいましたの」
ポッと顔を赤らめて自分の話をしだすマーガレットさん。
「一年前にお嬢さまのご結婚が決まって、嫁ぎ先には付いていけなくなったとき、ポールがプロポーズしてくれたのよ」
「お嬢さまも喜んでくださったね」
「ええ! 結婚のお祝いにってポールの作るドレスを沢山お嫁入りに持って行ってくださったの。春になったら遊びに行きますって、この間お手紙が届いたの」
マーガレットさんとポールさんは、お互いに顔を見合わせて「ね~♪」と声を揃えた。
これが俗にいうバカップルというものですか? 違いますか?
マーガレットさんは貴族の屋敷で働いていたのか。
ん? ってことは、お茶会とかに詳しいかな?
「あ…あの、マーガレットさん。貴族のお屋敷で働いていたってことは、お茶会も詳しかったりしますか?」
「ええ。給仕として何度か立ちあったことありますよ」
「もしよければ、お茶会のマナーとか教えてもらえませんか? 俺、貴族の屋敷に行くのも初めてだし、お茶会っていうのがどういうのかもわからないんですよ」
「あら、それは大変だわ。わたしでよければお教えしますよ」
「ありがとうございます」
「そうと決まれば、二日間で猛特訓しなくちゃね! ポール、ハヤト君の服も急いで作ってね!」
「もちろんだとも。それじゃ、寸法を測らせてもらうよ」
「え!? お…俺は既製品でもいいんですけど!」
「ダメよ。伯爵家にお呼ばれされたのなら、新調しなくちゃね! わたしは茶器の用意をしてくるわ」
「頼んだよ」
マーガレットさんはそれはそれは楽しそうに奥へと走り込んでいった。
ポールさんはというと……メジャーを両腕一杯に伸ばして、「にへへへ」と変な笑い声と共に、不気味な笑みを浮かべて俺に迫っていた。
俺、ちゃんと生きて帰れますかーーーー!!??
<つづく>
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