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1年目
冬の月19日(金の曜日) 受け継がれる命
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ウォルフはまるで風のように森を駆け抜けた。
もちろん俺は地面を引きずられたままだ。
どれぐらい走ったか分からないけど、かなり森の奥の方に来てしまったらしく、ごつごつとした大きな岩が取り囲んでいる場所まで連れて来られた。
俺、よくこの岩場を生きて引きずられてきたな。やっぱり祖父ちゃんと祖母ちゃんが使っていた装備品のお蔭かな? 祖父ちゃん、祖母ちゃん、ありがとう。
ウォルフは岩場の奥まったところにある窪みに顔を突っ込んでいた。
何をしているんだ?
ゴソゴソと何かしているようなウォルフは、何かを咥えて俺の前に戻ってきた。
ウォルフが地面に置いたのは、子犬ほどの大きさの小さな小さなシルバーウルフだった。毛並みは青白く輝いており、ウォルフのようにふさふさだ。
でも、ぐったりとしていて、息もかなり荒い。
「この子はウォルフの子供?」
俺の問いかけに、ウォルフは大きく頷いた。そして鼻先を、子供の足元に近づけた。
あ、怪我をしているんだ。でも、このくらいの怪我なら命に別状はないはずなんだけど……もしかして毒の草で足を切ったのかな? それで体内に毒が回っているとか。
とりあえず、治療しなくちゃ。たしかまだ回復薬と解毒剤が残っていたはず。
俺は腰に身に着けていた小さなバックに手を伸ばした。
が、ここまで引きずられてきたからか、カバンがどこにもなかった。
まさかどこかに落とした!? 引きずられてきたから、ベルトが切れた!?
どうしよう、どうしよう!!
何かないかな、何かないかな!!??
パニックになりながら体中の色々なとこを探っていると、背中に何か感触があった。
なんだこれ?
マントの下から手を伸ばし、その感触のあった何かを掴んだ。
実際に触った感触は「ぷにっ」としていた。
……ぷにっ……?
なに、この感触。
もしかして、俺も怪我してる!?
その「ぷにっ」っとした何かを、俺は掴み背中からはぎ取った。
俺の目の前には、「でへへ」と笑っている緑色のスライムがぶら下がっていた。
お前、リーフ(No12)じゃないか。なんで俺の背中から出てくるんだ!?
はっ!! もしかして、最初から俺の背中にくっついてた!!??
「なんでお前がここに居るんだよ!」
俺の叱咤にも、リーフは「でへへ」と笑い続けている。
…なんか、一気に緊張感が無くなったんですけど……。
俺の手からに抜け出たリーフは、ピョンピョンと跳ねながら子供のシルバーウルフに近づいた。
そして、体を左右に揺らしながら怪我をしているシルバーウルフの子供の足を角度を変えて見ていた。
次の瞬間、リーフは子供のシルバーウルフの体を包み込んだ。
何をしているんだ?と眺めていると、透き通ったリーフの体の奥で、解毒剤の瓶が現れ、怪我をした場所で瓶が独りでに割れた。
他の場所に目を移すと、子供の口元で回復薬の瓶が現れ、やはり勝手に割れた。
しばらく見ていると、怪我をした足は元通りになり、荒い息も収まりつつあった。
これは、リーフによる治療ってことか?
体内で作った薬を取り出すだけじゃなくて、自分で包み込んで治療もできるってことなのか?
しかも見ただけでどんな状況なのか理解していた。
このリーフ(No12)、凄い個体なのか!?
子供のシルバーウルフが目を開けると、リーフは離れた。
目を覚ました子供は、近くで心配そうに覗き込んでいたウォルフの顔を見るなり、嬉しそうに飛びついた。
元気にウォルフに飛びつく子供を見て、俺は安心した。
「リーフ、ありがとうな」
お礼を言いながらリーフの体を撫でると、「<(`^´)>エッヘン!」と胸を張って威張った。ま、今はその態度を許してやるよ。無論、勝手についてきたことも。
「じゃあ、ウォルフ。俺は帰るよ。もう森の中をうろつくなよ?」
立ち上がって帰ろうとしたら、ウォルフがマントを強く引っ張った。もちろん、俺はその場に尻もちをついた。
「何なんだよ! もう俺の出番はないだ……ろ?」
振り返った俺が目にしたのは、ウォルフの隣に佇む長い黒髪の美少女だった。
『ハヤト、その子を連れて行ってあげて』
黒髪の少女は俺の脳に語り掛けてきた。
え? なに、これ!?
『ウォルフはもうこの世界にいられないの。お願い、その子と契約を結んで、貴方が育ててあげて』
「俺が…契約?」
まぁ、確かに今の俺ならもう一匹契約を結ぶことはできるけど……。
って、なんで契約の事を知っているんだ!?
それに俺の名前も知っていた!
何者だ!?
もう一度ウォルフの隣に佇む美少女を見た。
あれ? どこかで見たことあるような……どこで?
たしか祖父ちゃんが残した姿絵に一緒に描かれていたような……。
……ってことは……。
「まさか……祖母ちゃん!?」
『初めましてだね、ハヤト』
「祖母ちゃん…」
『わたしのお願い、聞いてくれる? ウォルフはその子を守るために、密猟者に殺されているの。でも、どうしてもその子を助けたくて、その執念がゴースト化してしまったの。もうこの地上では暮らしていけないわ。ゴースト化してしまうと、またいつ人間を襲うのか分からないもの。だからウォルフはわたしが連れて行くわ』
「連れて行く…って、どこに?」
『わたしたちがいる世界に。安心して、ユーキもそこにいるし、かつての仲間も沢山いるわ。でも、その子だけは連れて行くことが出来ないの。その子はまだ生きているから。だからハヤトが契約を結んでほしいの。ウォルフの子供だから、ステータスは最高に素晴らしい物よ。きっと役に立つわ』
俺は子供のシルバーウルフを見た。
ちょこんと座って俺の顔を見ながら尻尾を振っている姿は、どこからどう見ても子犬だ。毛の色が青白く輝いているのが違和感あるけど。
『契約のやり方は……わかるよね。すでに二匹と契約しているみたいだし。あ、それからハヤトに教えておかないといけない事があるの』
「俺に?」
『畑の北側に森が広がっているでしょ? その奥にユーキが作った採掘所があるの。そこは【選ばれた者】しか足を踏み入れる事が出来ない場所で、きっとあなたの役に立つと思うの。是非、訪ねてみて』
「祖父ちゃんが作った採掘所?」
『詳しい事は黒い表紙の書物に描いてあるから、頑張って解読してね♪』
今、教えてくれないのかーい!!
『今後の活躍、楽しみにしているわ。またね、ハヤト』
祖母ちゃんは笑顔を見せた。
「あ、祖母ちゃ…」
俺が手を伸ばそうとすると、祖母ちゃんの体が霧が晴れるように消え去ってしまった。
ウォルフも、子供の顔を優しく2~3回舐めると、霧が晴れるように消えていった。
青く澄み渡った空に、子供のシルバーウルフの遠吠えが吸い込まれていった。
その後、俺がどこかに落としたカバンを拾ったリックさんとガイが姿を見せた。
どうやら枝か何かにカバンをひっかけたらしく、穴の開いた箇所から一直線にカバンの中の荷物がこちらに向かって落ちていたらしい。それを拾いながら歩いていたら、ここに辿り着いたとか。
「で、この子犬は?」
リックさんは、俺の足元で尻尾を振って座っているシルバーウルフの子供を不思議そうに眺めていた。
「さっきまで暴れていたシルバーウルフに子供…だそうです」
「子供!?」
「この子の親は密猟者に殺されたそうなんです。でもこの子を守るために地上に残ってしまい、それがゴースト化しちゃったらしくて…」
「『らしい』? 誰かに聞いたのか?」
「えっと……祖母ちゃんに……」
「祖母ちゃんって、アスカ殿にか!? どうやって!?」
「それは説明しづらいです。俺も本当に祖母ちゃんだったのか信じられなくて…」
死んでいる人間と会話しただなんて、絶対に信じないよな~。
もっとマシな嘘を付いてごまかせばよかった。
「まあ、アスカ殿は生前も死者と会話したことがあるから、姿を見せても驚くことはないけど」
はぁ!? なんですか、それ!
「で、どうするんだ?」
「え? 何が?」
「この子供、連れて帰るのか?」
「あ……できれば契約を結びたいんですけど……一応、村長の許可を得た方がいいですか…ね?」
「契約しないで連れ帰るのなら村長殿の許可は必要だ。だが、契約してしまえばハヤト殿のパートナーなんだから、許可なんかいらないだろ」
「じゃ…じゃあ、ここで契約しちゃいます! 俺、この子を育てるって、祖母ちゃんと約束しちゃったから!」
「契約したとしても、一応村長に話はしておくことだな。育てて大きくなった時に、村長が卒倒しないように」
あ~……確かにシルバーウルフは大きくなるからな~。
名前、考えておかないと。
村に戻り、村長に人間を襲うシルバーウルフを退治した事を報告。村長は泣いて喜んでくれた。
これでギルドの依頼も元通りに戻るし、冒険レベルの低い人も森に行くことができる。だけど、また何かあったらいけないという事で、森に出かける時はAランクの冒険者を1人同伴する決まりが出来た。冬の間だけの対処だけど、ギルドがパーティのブローチを貸し出しているので、初心者にとっては経験値稼ぎには最高の決まり事だ。
また、近隣で大雪が降り、他の村に移動できなくなってしまい、村に滞在するレベルの高い冒険者も、いい小遣い稼ぎになると、喜んで同伴を引き受けてくれている。同伴はギルドから特別報酬を受けるので、依頼者が本来の報酬とは別に賃金を払う必要はないとか。
そして、ウォルフの子供は【ウォル】と名付けて、無事に契約を結ぶ事が出来た。
俺の手首に巻かれた紐を編み込んだアクセサリーは、緑と白の二色を使った物がウォルと契約を結んだ証となった。緑と白ということは風属性となる。どんなステータスなのか気になるんだけど、俺、魔物の鑑定って出来ないんだよね。誰かにやって貰おうかな。
なんて思っていたら、ミントさんがウォルの鑑定をしてくれた。
鑑定の結果、ウォルは風を起こす攻撃魔法と、竜巻を起こす攻撃魔法が使えるそうだ。しかもスキルレベルがMAXなんだと! 体力や魔力もAランクの魔物と同等。ついでに一緒に冒険に連れて行くと、魔物を倒した時のドロップアイテム取得率が20%も増えるとか。
お前、子供なのにそんなスキルまで持っているのか!?
祖母ちゃんが言っていた通りだ。ステータスは最高に素晴らしいと。
それに、ウォルのスキルは家事にも役立ったりしている。掃除をするときに弱い風を起こしてもらって、部屋のゴミを集め、弱い竜巻を使ってゴミ箱に入れたりできる。水を竜巻で巻き上げて、畑全体に降らせることも出来るようになった。ウォル自身が使い慣れていないから時々暴走するけど、訓練だと思って家事を手伝ってもらうと、俺がすごく楽になる。
「魔物のスキルを家事に使っていたのは、ユーキとアスカだけだと思ったわ。さすが2人の孫ね」
ミントさんは呆れた顔を見せていたけど、そんなの気にしない!
ウォルはスキルの勉強になるし、俺は面倒くさい家事から解放される。どっちも得して損する事なんかない!
春になって雪が解けたら、果樹園の整備に取り掛かろう。ノームやリーフ、ウォルがいれば整備もきっとすぐにできるだろう。
そして時間が開いたら、祖母ちゃんが言っていた採掘所ってところも探しに行こう。
【選ばれし者】しか足を踏み入れられないっていうのが気になるけど…。
<つづく>
もちろん俺は地面を引きずられたままだ。
どれぐらい走ったか分からないけど、かなり森の奥の方に来てしまったらしく、ごつごつとした大きな岩が取り囲んでいる場所まで連れて来られた。
俺、よくこの岩場を生きて引きずられてきたな。やっぱり祖父ちゃんと祖母ちゃんが使っていた装備品のお蔭かな? 祖父ちゃん、祖母ちゃん、ありがとう。
ウォルフは岩場の奥まったところにある窪みに顔を突っ込んでいた。
何をしているんだ?
ゴソゴソと何かしているようなウォルフは、何かを咥えて俺の前に戻ってきた。
ウォルフが地面に置いたのは、子犬ほどの大きさの小さな小さなシルバーウルフだった。毛並みは青白く輝いており、ウォルフのようにふさふさだ。
でも、ぐったりとしていて、息もかなり荒い。
「この子はウォルフの子供?」
俺の問いかけに、ウォルフは大きく頷いた。そして鼻先を、子供の足元に近づけた。
あ、怪我をしているんだ。でも、このくらいの怪我なら命に別状はないはずなんだけど……もしかして毒の草で足を切ったのかな? それで体内に毒が回っているとか。
とりあえず、治療しなくちゃ。たしかまだ回復薬と解毒剤が残っていたはず。
俺は腰に身に着けていた小さなバックに手を伸ばした。
が、ここまで引きずられてきたからか、カバンがどこにもなかった。
まさかどこかに落とした!? 引きずられてきたから、ベルトが切れた!?
どうしよう、どうしよう!!
何かないかな、何かないかな!!??
パニックになりながら体中の色々なとこを探っていると、背中に何か感触があった。
なんだこれ?
マントの下から手を伸ばし、その感触のあった何かを掴んだ。
実際に触った感触は「ぷにっ」としていた。
……ぷにっ……?
なに、この感触。
もしかして、俺も怪我してる!?
その「ぷにっ」っとした何かを、俺は掴み背中からはぎ取った。
俺の目の前には、「でへへ」と笑っている緑色のスライムがぶら下がっていた。
お前、リーフ(No12)じゃないか。なんで俺の背中から出てくるんだ!?
はっ!! もしかして、最初から俺の背中にくっついてた!!??
「なんでお前がここに居るんだよ!」
俺の叱咤にも、リーフは「でへへ」と笑い続けている。
…なんか、一気に緊張感が無くなったんですけど……。
俺の手からに抜け出たリーフは、ピョンピョンと跳ねながら子供のシルバーウルフに近づいた。
そして、体を左右に揺らしながら怪我をしているシルバーウルフの子供の足を角度を変えて見ていた。
次の瞬間、リーフは子供のシルバーウルフの体を包み込んだ。
何をしているんだ?と眺めていると、透き通ったリーフの体の奥で、解毒剤の瓶が現れ、怪我をした場所で瓶が独りでに割れた。
他の場所に目を移すと、子供の口元で回復薬の瓶が現れ、やはり勝手に割れた。
しばらく見ていると、怪我をした足は元通りになり、荒い息も収まりつつあった。
これは、リーフによる治療ってことか?
体内で作った薬を取り出すだけじゃなくて、自分で包み込んで治療もできるってことなのか?
しかも見ただけでどんな状況なのか理解していた。
このリーフ(No12)、凄い個体なのか!?
子供のシルバーウルフが目を開けると、リーフは離れた。
目を覚ました子供は、近くで心配そうに覗き込んでいたウォルフの顔を見るなり、嬉しそうに飛びついた。
元気にウォルフに飛びつく子供を見て、俺は安心した。
「リーフ、ありがとうな」
お礼を言いながらリーフの体を撫でると、「<(`^´)>エッヘン!」と胸を張って威張った。ま、今はその態度を許してやるよ。無論、勝手についてきたことも。
「じゃあ、ウォルフ。俺は帰るよ。もう森の中をうろつくなよ?」
立ち上がって帰ろうとしたら、ウォルフがマントを強く引っ張った。もちろん、俺はその場に尻もちをついた。
「何なんだよ! もう俺の出番はないだ……ろ?」
振り返った俺が目にしたのは、ウォルフの隣に佇む長い黒髪の美少女だった。
『ハヤト、その子を連れて行ってあげて』
黒髪の少女は俺の脳に語り掛けてきた。
え? なに、これ!?
『ウォルフはもうこの世界にいられないの。お願い、その子と契約を結んで、貴方が育ててあげて』
「俺が…契約?」
まぁ、確かに今の俺ならもう一匹契約を結ぶことはできるけど……。
って、なんで契約の事を知っているんだ!?
それに俺の名前も知っていた!
何者だ!?
もう一度ウォルフの隣に佇む美少女を見た。
あれ? どこかで見たことあるような……どこで?
たしか祖父ちゃんが残した姿絵に一緒に描かれていたような……。
……ってことは……。
「まさか……祖母ちゃん!?」
『初めましてだね、ハヤト』
「祖母ちゃん…」
『わたしのお願い、聞いてくれる? ウォルフはその子を守るために、密猟者に殺されているの。でも、どうしてもその子を助けたくて、その執念がゴースト化してしまったの。もうこの地上では暮らしていけないわ。ゴースト化してしまうと、またいつ人間を襲うのか分からないもの。だからウォルフはわたしが連れて行くわ』
「連れて行く…って、どこに?」
『わたしたちがいる世界に。安心して、ユーキもそこにいるし、かつての仲間も沢山いるわ。でも、その子だけは連れて行くことが出来ないの。その子はまだ生きているから。だからハヤトが契約を結んでほしいの。ウォルフの子供だから、ステータスは最高に素晴らしい物よ。きっと役に立つわ』
俺は子供のシルバーウルフを見た。
ちょこんと座って俺の顔を見ながら尻尾を振っている姿は、どこからどう見ても子犬だ。毛の色が青白く輝いているのが違和感あるけど。
『契約のやり方は……わかるよね。すでに二匹と契約しているみたいだし。あ、それからハヤトに教えておかないといけない事があるの』
「俺に?」
『畑の北側に森が広がっているでしょ? その奥にユーキが作った採掘所があるの。そこは【選ばれた者】しか足を踏み入れる事が出来ない場所で、きっとあなたの役に立つと思うの。是非、訪ねてみて』
「祖父ちゃんが作った採掘所?」
『詳しい事は黒い表紙の書物に描いてあるから、頑張って解読してね♪』
今、教えてくれないのかーい!!
『今後の活躍、楽しみにしているわ。またね、ハヤト』
祖母ちゃんは笑顔を見せた。
「あ、祖母ちゃ…」
俺が手を伸ばそうとすると、祖母ちゃんの体が霧が晴れるように消え去ってしまった。
ウォルフも、子供の顔を優しく2~3回舐めると、霧が晴れるように消えていった。
青く澄み渡った空に、子供のシルバーウルフの遠吠えが吸い込まれていった。
その後、俺がどこかに落としたカバンを拾ったリックさんとガイが姿を見せた。
どうやら枝か何かにカバンをひっかけたらしく、穴の開いた箇所から一直線にカバンの中の荷物がこちらに向かって落ちていたらしい。それを拾いながら歩いていたら、ここに辿り着いたとか。
「で、この子犬は?」
リックさんは、俺の足元で尻尾を振って座っているシルバーウルフの子供を不思議そうに眺めていた。
「さっきまで暴れていたシルバーウルフに子供…だそうです」
「子供!?」
「この子の親は密猟者に殺されたそうなんです。でもこの子を守るために地上に残ってしまい、それがゴースト化しちゃったらしくて…」
「『らしい』? 誰かに聞いたのか?」
「えっと……祖母ちゃんに……」
「祖母ちゃんって、アスカ殿にか!? どうやって!?」
「それは説明しづらいです。俺も本当に祖母ちゃんだったのか信じられなくて…」
死んでいる人間と会話しただなんて、絶対に信じないよな~。
もっとマシな嘘を付いてごまかせばよかった。
「まあ、アスカ殿は生前も死者と会話したことがあるから、姿を見せても驚くことはないけど」
はぁ!? なんですか、それ!
「で、どうするんだ?」
「え? 何が?」
「この子供、連れて帰るのか?」
「あ……できれば契約を結びたいんですけど……一応、村長の許可を得た方がいいですか…ね?」
「契約しないで連れ帰るのなら村長殿の許可は必要だ。だが、契約してしまえばハヤト殿のパートナーなんだから、許可なんかいらないだろ」
「じゃ…じゃあ、ここで契約しちゃいます! 俺、この子を育てるって、祖母ちゃんと約束しちゃったから!」
「契約したとしても、一応村長に話はしておくことだな。育てて大きくなった時に、村長が卒倒しないように」
あ~……確かにシルバーウルフは大きくなるからな~。
名前、考えておかないと。
村に戻り、村長に人間を襲うシルバーウルフを退治した事を報告。村長は泣いて喜んでくれた。
これでギルドの依頼も元通りに戻るし、冒険レベルの低い人も森に行くことができる。だけど、また何かあったらいけないという事で、森に出かける時はAランクの冒険者を1人同伴する決まりが出来た。冬の間だけの対処だけど、ギルドがパーティのブローチを貸し出しているので、初心者にとっては経験値稼ぎには最高の決まり事だ。
また、近隣で大雪が降り、他の村に移動できなくなってしまい、村に滞在するレベルの高い冒険者も、いい小遣い稼ぎになると、喜んで同伴を引き受けてくれている。同伴はギルドから特別報酬を受けるので、依頼者が本来の報酬とは別に賃金を払う必要はないとか。
そして、ウォルフの子供は【ウォル】と名付けて、無事に契約を結ぶ事が出来た。
俺の手首に巻かれた紐を編み込んだアクセサリーは、緑と白の二色を使った物がウォルと契約を結んだ証となった。緑と白ということは風属性となる。どんなステータスなのか気になるんだけど、俺、魔物の鑑定って出来ないんだよね。誰かにやって貰おうかな。
なんて思っていたら、ミントさんがウォルの鑑定をしてくれた。
鑑定の結果、ウォルは風を起こす攻撃魔法と、竜巻を起こす攻撃魔法が使えるそうだ。しかもスキルレベルがMAXなんだと! 体力や魔力もAランクの魔物と同等。ついでに一緒に冒険に連れて行くと、魔物を倒した時のドロップアイテム取得率が20%も増えるとか。
お前、子供なのにそんなスキルまで持っているのか!?
祖母ちゃんが言っていた通りだ。ステータスは最高に素晴らしいと。
それに、ウォルのスキルは家事にも役立ったりしている。掃除をするときに弱い風を起こしてもらって、部屋のゴミを集め、弱い竜巻を使ってゴミ箱に入れたりできる。水を竜巻で巻き上げて、畑全体に降らせることも出来るようになった。ウォル自身が使い慣れていないから時々暴走するけど、訓練だと思って家事を手伝ってもらうと、俺がすごく楽になる。
「魔物のスキルを家事に使っていたのは、ユーキとアスカだけだと思ったわ。さすが2人の孫ね」
ミントさんは呆れた顔を見せていたけど、そんなの気にしない!
ウォルはスキルの勉強になるし、俺は面倒くさい家事から解放される。どっちも得して損する事なんかない!
春になって雪が解けたら、果樹園の整備に取り掛かろう。ノームやリーフ、ウォルがいれば整備もきっとすぐにできるだろう。
そして時間が開いたら、祖母ちゃんが言っていた採掘所ってところも探しに行こう。
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