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1曲目②

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「鈴音(すずね)! お疲れ様!」

 今日の舞台が終わり、いつものように安堵が充満する楽屋。
 「何か食べてから帰る?」「明日、どっか遊びに行こうよ」そんな声が飛び交う中、声を掛けられた私は、鏡に映る後ろに立った同僚に視線を向けた。

「お疲れ様」
「今日も最高の舞台だったね! 明日も頑張ろうね!!」

 すでに2公演も終えているのに、まだまだ元気いっぱいの同僚。
 彼女はこの公演が初めての舞台。毎日が新鮮に見えるのかな?

「鈴音、どうしたの? 元気ないね?」
「そ…そう?」
「明日は休演日だよ! どこか遊びに行く?」
「う~…ん……ちょっとやりたい事があるから、ごめんね」
「そうなんだ。じゃあ、今からご飯食べにいこ!」
「この後も用事があるんだ。ごめんね」
「え~? 鈴音、付き合い悪いぞ!」

 こつんと軽く頭を叩いてくる同僚。
 私、この子苦手なんだよね。
 いくら同期だからって、馴れ馴れしいんだよ。ちょっとは相手の事を思いやる心をもってくれないかな?


 でも、まあ、この子も今ではアイドルグループの主要メンバーに選ばれているからね。いつもセンターの子の隣に立っているポジションにまで上り詰めたし、そこは尊敬するかな?


「この穴埋めはいつかするから。じゃあ、お先に失礼するね」
「はぁ~い。鈴音、また明後日ね!」
「お疲れ様」

 一度も同僚と実際に目を合わせる事なく、鏡越しで話し終えて、私は楽屋を出た。
 ドアを閉める直前「鈴音って、本当付き合い悪いよね~」と話す同僚の声を背に…。




 私が所属しているのは、大きなアイドルグループと同じ事務所に設立された劇団。毎公演その大きなアイドルグループのメンバーの誰かが主役を演じるので、その界隈ではとても有名。
 私も一時期、そのアイドルグループの一員だったこともあり、歌よりも演劇に目覚めてこの劇団に移籍してきた。設立当時からのメンバーってことで、主役をサポートする役を毎回いただいている。


 でも、最近、演劇がつまらなくなってきた。
 確かに定期的に舞台に立ち、自分とは違う役を演じられる喜びはある。
 だけど、毎回アイドルグループの名前が売れている子で、演劇をまったく知らない子たちが主役を演じるため、作品を作る楽しさを忘れてしまった。「名前さえ売れていれば、演技は棒でもいい。客は作品を見に来ているのではなく、出演しているキャストを見に来ているんだ!」そんな事を言う演出家にも呆れてきた。

 ここには私の居場所はない。
 もっと外の世界で演劇を学びたい!
 そう願っているのに、事務所は私を辞めさせてくれない。
 誰が主役をサポートするんだ!って怒鳴られた。

 今回もアイドルグループのセンターを務める子が主役を演じている。毎日大盛況で、座席は全公演完売。ここはコンサート会場か?というほど劇中でも声援が飛び交っている。


 これが演劇なの?
 私が求めている物はこれなの?
 そんな疑問さえ感じる。


 駅に着いた私は、いつも乗る電車の到着をホームで待った。
 電車が来るまであと5分。

 カバンからスマホを取り出し、イヤホンを耳に付ける。
 そしてある動画を再生する。
 画面に映し出されたのは、アマチュアバンドの動画。
 偶然見つけたこのバンドの曲は、いつも私を励ましてくれる。
 爽やかな青春ポップスから、激しいロック、アコースティックギターとヴォーカルのしんみりした曲など、色々な曲を演奏している。

 このバンドの曲を聞いている時だけ、私は笑顔になれる。
 劇団にいる間、舞台に立っている間は作られた笑顔。


 いつか、この動画を見ている時みたいな自然な笑顔を見せる事はできるのかな?



   <つづく>



 
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