3 / 7
1曲目②
しおりを挟む「鈴音(すずね)! お疲れ様!」
今日の舞台が終わり、いつものように安堵が充満する楽屋。
「何か食べてから帰る?」「明日、どっか遊びに行こうよ」そんな声が飛び交う中、声を掛けられた私は、鏡に映る後ろに立った同僚に視線を向けた。
「お疲れ様」
「今日も最高の舞台だったね! 明日も頑張ろうね!!」
すでに2公演も終えているのに、まだまだ元気いっぱいの同僚。
彼女はこの公演が初めての舞台。毎日が新鮮に見えるのかな?
「鈴音、どうしたの? 元気ないね?」
「そ…そう?」
「明日は休演日だよ! どこか遊びに行く?」
「う~…ん……ちょっとやりたい事があるから、ごめんね」
「そうなんだ。じゃあ、今からご飯食べにいこ!」
「この後も用事があるんだ。ごめんね」
「え~? 鈴音、付き合い悪いぞ!」
こつんと軽く頭を叩いてくる同僚。
私、この子苦手なんだよね。
いくら同期だからって、馴れ馴れしいんだよ。ちょっとは相手の事を思いやる心をもってくれないかな?
でも、まあ、この子も今ではアイドルグループの主要メンバーに選ばれているからね。いつもセンターの子の隣に立っているポジションにまで上り詰めたし、そこは尊敬するかな?
「この穴埋めはいつかするから。じゃあ、お先に失礼するね」
「はぁ~い。鈴音、また明後日ね!」
「お疲れ様」
一度も同僚と実際に目を合わせる事なく、鏡越しで話し終えて、私は楽屋を出た。
ドアを閉める直前「鈴音って、本当付き合い悪いよね~」と話す同僚の声を背に…。
私が所属しているのは、大きなアイドルグループと同じ事務所に設立された劇団。毎公演その大きなアイドルグループのメンバーの誰かが主役を演じるので、その界隈ではとても有名。
私も一時期、そのアイドルグループの一員だったこともあり、歌よりも演劇に目覚めてこの劇団に移籍してきた。設立当時からのメンバーってことで、主役をサポートする役を毎回いただいている。
でも、最近、演劇がつまらなくなってきた。
確かに定期的に舞台に立ち、自分とは違う役を演じられる喜びはある。
だけど、毎回アイドルグループの名前が売れている子で、演劇をまったく知らない子たちが主役を演じるため、作品を作る楽しさを忘れてしまった。「名前さえ売れていれば、演技は棒でもいい。客は作品を見に来ているのではなく、出演しているキャストを見に来ているんだ!」そんな事を言う演出家にも呆れてきた。
ここには私の居場所はない。
もっと外の世界で演劇を学びたい!
そう願っているのに、事務所は私を辞めさせてくれない。
誰が主役をサポートするんだ!って怒鳴られた。
今回もアイドルグループのセンターを務める子が主役を演じている。毎日大盛況で、座席は全公演完売。ここはコンサート会場か?というほど劇中でも声援が飛び交っている。
これが演劇なの?
私が求めている物はこれなの?
そんな疑問さえ感じる。
駅に着いた私は、いつも乗る電車の到着をホームで待った。
電車が来るまであと5分。
カバンからスマホを取り出し、イヤホンを耳に付ける。
そしてある動画を再生する。
画面に映し出されたのは、アマチュアバンドの動画。
偶然見つけたこのバンドの曲は、いつも私を励ましてくれる。
爽やかな青春ポップスから、激しいロック、アコースティックギターとヴォーカルのしんみりした曲など、色々な曲を演奏している。
このバンドの曲を聞いている時だけ、私は笑顔になれる。
劇団にいる間、舞台に立っている間は作られた笑顔。
いつか、この動画を見ている時みたいな自然な笑顔を見せる事はできるのかな?
<つづく>
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる