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1章 一日目 転入生
1-6 いつもどおり風味な下校時間
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そんなこんなで下校時間がやってくる。
* * *
「麗美さま、お迎えに上がりました」
どこから現れたのか、例の黒服が校門前で麗美のことを待っていた。
みんななんか見た目がそっくりだけど、たぶん別人だと思う。
双子とか三つ子の可能性もあるかもしれないけど。
「ありがとう是枝。悦郎さんもご一緒にいかがですか?」
そう言って麗美が促す先には、見たこともないような胴長な車が止まっていた。
「すげー」
「なにあれ」
周囲の耳目を集める俺たち。
隣にいた咲は、少しだけ引いているのか顔がじゃっかん硬直している。
緑青の方はいつもどおり、面白そうにクツクツと笑っていた。
「ありがとう。でも俺たち、電車だから」
「え? 電車? それって……ガタンゴトンですか?」
なぜか妙な擬音で電車を表現する麗美。
わずかに目がキラキラとしているような気がした。
「あ、ああ」
その迫力に少しだけ気圧されてしまう。
するとその引いた分だけ、麗美が踏み込んでくる。
「私も乗りたいです! 電車! 日本の電車はすごいと聞きました!」
「うおっ」
ものすごい迫力である。
まるですがりつかんばかりの勢いで、麗美が俺に迫ってきた。
「で、でもさ、車が迎えに来てるんだから」
「是枝! 私は悦郎さんたちと一緒に電車で帰ります。車は戻しなさい」
「わかりましたお嬢様。では、悦郎さまのご自宅の方にお迎えにあがります」
「そうしなさい」
「はい。失礼します」
現れたときと同じようにスーッと音もなく、黒服は去っていく。
高級車もほとんど音がしなかったのは、もしかしたら電気自動車だからなのかもしれない。
「ああ、私ずっと憧れだったんです。日本の電車に」
「そ、そうなんだ」
「とても長い車体が、ガタンゴトン揺れながら走るんですよね。ガタンゴトン~ガタンゴトン~って」
「う、うん」
麗美の新たな一面に、どう対処していいかわからない俺。
っていうかおい。咲。距離を取るんじゃない、距離を。
そして緑青。笑いが堪えきれてないぞ。
「さあ、早く参りましょう! レッツトレインですわ!」
興奮のあまりか、キャラが崩壊しつつある麗美。
そんな麗美に手を引かれ、俺は駅へと拉致されるかのように連れて行かれた。
「……すごいね麗美さんって」
「ふふふ。思っていた以上にキャラが濃い」
「ちょっと渋滞気味なくらい」
「咲もあんまり人のこと言えないと思うけど」
「そう?」
「知らぬは本人ばかりなり、なんちゃって」
* * *
地元の駅に着いた俺たちは、予想外の事態に対処しなければならなかった。
「う……うっぷ……とても、快適でした……わ」
「おいおい。電車酔いしながら言う台詞じゃないだろ」
「そうですよ麗美さん。はい、お水」
「あ、ありがとう咲さん」
駅前のベンチで横になる麗美。
そんな麗美を見守る俺と咲。
ちなみに緑青は、二人いれば大丈夫でしょと俺たちを置いてとっとと帰ってしまった。
まあ確かに、三人で残ってたとしても大してできることなんかなかっただろうしな。
「ふぅ……少し、落ち着きました」
しばらく横になっていた麗美が、身体を起こす。
まだ若干顔色が悪い気もするが、まあさっきよりはずっとマシだ。
「大丈夫? あの黒服の人呼びますか?」
咲がまだ心配そうに麗美の様子を見ていた。
最初のころは折り合いが悪そうな感じもしてたけど、意外とそうでもなかったみたいだな。
もうすっかり仲良しみたいだ。
『ぐふふ、そうかしら?』
「え?」
俺は風にのって緑青の声が聞こえた気がして、思わずあたりを見回してしまった。
「どうかした?」
「あ、いや。緑青の声がした気がして」
「ちーちゃんはもう帰ったじゃない。空耳でしょ」
「ああ、たぶんな」
「あの……」
「ん?」
「もしなんでしたら、お二人はもう帰っていただいても大丈夫ですよ? 私、ここに是枝を呼びますので」
「気にすんなって。よくなるまで付き合うから」
「そうよ麗美さん。どうせ家までそんなにかからないし、気にすることないわ」
「ありがとうございます」
いつもより(といってもまだ知り合って1日だったが)少し弱気な感じの麗美。
もしかすると、こっちの方が地なんじゃないかと言えるぐらいそのか弱そうな様子は麗美に合っていた。
今日のここまでのテンションの高さは、転校初日だったからなのかもしれない。
「そうだ。俺、コンビニで何か買ってくるわ。水、もうないだろ?」
「うん。そうだね。麗美さん、何か飲みたいものとか食べたいものとかある? あんまり重いのは無理だと思うけど」
「コン……ビニ?」
「え?」
「いま……コンビニと?」
「あ、ああ……」
麗美の雰囲気がガラッと一変する。
それは、ちょっと前に体験したあの麗美。
電車の話をしたときの麗美に、かなり告示していた。
「コンビニ! 私行きたいです! 日本のコンビニ! ずっと憧れていたんですっ!」
まるでそれまでの弱っていた様子が嘘のように、麗美は勢いよく立ち上がる。
周りで見ていた俺たちが、逆にベンチに腰を下ろしてしまうくらい。
「さあ行きましょう! コンビニ! どこにあるんですか? ラーソン? セバンイレブン? ファミリーモート? それとももしかしてパプラですか? ご飯大盛り無料のパプラなんですか!?」
麗美の中の日本像って、かなり偏ってる気がする……。
いや待てよ、これってもしかして……うちのとーちゃんの影響なんじゃないか? とーちゃんもかなりコンビニ好きだったし……いや、でも電車は違うか。
「ほら、なにやってるんです! 早く行きましょう! 悦郎さんっ!」
「お、おう」
すっかり元気を取り戻した麗美に手を引かれ、俺たちは駅前のコンビニへと向かう。
咲を駅に置いてきてしまったことに気づいたのは、自動ドアをくぐった直後だった。
「なに……あれ……」
* * *
「麗美さま、お迎えに上がりました」
どこから現れたのか、例の黒服が校門前で麗美のことを待っていた。
みんななんか見た目がそっくりだけど、たぶん別人だと思う。
双子とか三つ子の可能性もあるかもしれないけど。
「ありがとう是枝。悦郎さんもご一緒にいかがですか?」
そう言って麗美が促す先には、見たこともないような胴長な車が止まっていた。
「すげー」
「なにあれ」
周囲の耳目を集める俺たち。
隣にいた咲は、少しだけ引いているのか顔がじゃっかん硬直している。
緑青の方はいつもどおり、面白そうにクツクツと笑っていた。
「ありがとう。でも俺たち、電車だから」
「え? 電車? それって……ガタンゴトンですか?」
なぜか妙な擬音で電車を表現する麗美。
わずかに目がキラキラとしているような気がした。
「あ、ああ」
その迫力に少しだけ気圧されてしまう。
するとその引いた分だけ、麗美が踏み込んでくる。
「私も乗りたいです! 電車! 日本の電車はすごいと聞きました!」
「うおっ」
ものすごい迫力である。
まるですがりつかんばかりの勢いで、麗美が俺に迫ってきた。
「で、でもさ、車が迎えに来てるんだから」
「是枝! 私は悦郎さんたちと一緒に電車で帰ります。車は戻しなさい」
「わかりましたお嬢様。では、悦郎さまのご自宅の方にお迎えにあがります」
「そうしなさい」
「はい。失礼します」
現れたときと同じようにスーッと音もなく、黒服は去っていく。
高級車もほとんど音がしなかったのは、もしかしたら電気自動車だからなのかもしれない。
「ああ、私ずっと憧れだったんです。日本の電車に」
「そ、そうなんだ」
「とても長い車体が、ガタンゴトン揺れながら走るんですよね。ガタンゴトン~ガタンゴトン~って」
「う、うん」
麗美の新たな一面に、どう対処していいかわからない俺。
っていうかおい。咲。距離を取るんじゃない、距離を。
そして緑青。笑いが堪えきれてないぞ。
「さあ、早く参りましょう! レッツトレインですわ!」
興奮のあまりか、キャラが崩壊しつつある麗美。
そんな麗美に手を引かれ、俺は駅へと拉致されるかのように連れて行かれた。
「……すごいね麗美さんって」
「ふふふ。思っていた以上にキャラが濃い」
「ちょっと渋滞気味なくらい」
「咲もあんまり人のこと言えないと思うけど」
「そう?」
「知らぬは本人ばかりなり、なんちゃって」
* * *
地元の駅に着いた俺たちは、予想外の事態に対処しなければならなかった。
「う……うっぷ……とても、快適でした……わ」
「おいおい。電車酔いしながら言う台詞じゃないだろ」
「そうですよ麗美さん。はい、お水」
「あ、ありがとう咲さん」
駅前のベンチで横になる麗美。
そんな麗美を見守る俺と咲。
ちなみに緑青は、二人いれば大丈夫でしょと俺たちを置いてとっとと帰ってしまった。
まあ確かに、三人で残ってたとしても大してできることなんかなかっただろうしな。
「ふぅ……少し、落ち着きました」
しばらく横になっていた麗美が、身体を起こす。
まだ若干顔色が悪い気もするが、まあさっきよりはずっとマシだ。
「大丈夫? あの黒服の人呼びますか?」
咲がまだ心配そうに麗美の様子を見ていた。
最初のころは折り合いが悪そうな感じもしてたけど、意外とそうでもなかったみたいだな。
もうすっかり仲良しみたいだ。
『ぐふふ、そうかしら?』
「え?」
俺は風にのって緑青の声が聞こえた気がして、思わずあたりを見回してしまった。
「どうかした?」
「あ、いや。緑青の声がした気がして」
「ちーちゃんはもう帰ったじゃない。空耳でしょ」
「ああ、たぶんな」
「あの……」
「ん?」
「もしなんでしたら、お二人はもう帰っていただいても大丈夫ですよ? 私、ここに是枝を呼びますので」
「気にすんなって。よくなるまで付き合うから」
「そうよ麗美さん。どうせ家までそんなにかからないし、気にすることないわ」
「ありがとうございます」
いつもより(といってもまだ知り合って1日だったが)少し弱気な感じの麗美。
もしかすると、こっちの方が地なんじゃないかと言えるぐらいそのか弱そうな様子は麗美に合っていた。
今日のここまでのテンションの高さは、転校初日だったからなのかもしれない。
「そうだ。俺、コンビニで何か買ってくるわ。水、もうないだろ?」
「うん。そうだね。麗美さん、何か飲みたいものとか食べたいものとかある? あんまり重いのは無理だと思うけど」
「コン……ビニ?」
「え?」
「いま……コンビニと?」
「あ、ああ……」
麗美の雰囲気がガラッと一変する。
それは、ちょっと前に体験したあの麗美。
電車の話をしたときの麗美に、かなり告示していた。
「コンビニ! 私行きたいです! 日本のコンビニ! ずっと憧れていたんですっ!」
まるでそれまでの弱っていた様子が嘘のように、麗美は勢いよく立ち上がる。
周りで見ていた俺たちが、逆にベンチに腰を下ろしてしまうくらい。
「さあ行きましょう! コンビニ! どこにあるんですか? ラーソン? セバンイレブン? ファミリーモート? それとももしかしてパプラですか? ご飯大盛り無料のパプラなんですか!?」
麗美の中の日本像って、かなり偏ってる気がする……。
いや待てよ、これってもしかして……うちのとーちゃんの影響なんじゃないか? とーちゃんもかなりコンビニ好きだったし……いや、でも電車は違うか。
「ほら、なにやってるんです! 早く行きましょう! 悦郎さんっ!」
「お、おう」
すっかり元気を取り戻した麗美に手を引かれ、俺たちは駅前のコンビニへと向かう。
咲を駅に置いてきてしまったことに気づいたのは、自動ドアをくぐった直後だった。
「なに……あれ……」
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