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2章 二日目 カレーは別腹
2-1 いつもどおりの朝
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いつものように朝が来る。
窓の外ではチチチと小鳥が鳴いて、枕元ではスマホがピピピピとアラームを鳴らしている。
俺は枕元のスマホに手を伸ばし、画面をタップしてアラームを止める。
「ふわぁぁぁぁ……今日はいい天気だ」
ボサボサの頭をかきながらベッドから降り、カーテンを開けると外からは眩しいくらいの朝の光が差し込んできた。
「咲のやつはもう起きてるみたいだな」
俺の部屋のちょうど向かいにある咲の部屋。
その部屋のカーテンはすでに開け放たれ、薄暗い部屋の様子が少しだけ見ることができた。
「あんまりジロジロ見るのはやめとこ。見つかったらまたいろいろ言われるし」
なんとなく今日は二度寝しないで起きられたのは、昨日食べたカレーのおかげだろうか。
スパイスだとか香辛料だとか。
(……スパイスと香辛料は同じか)
パジャマから着替えようとクローゼットに歩み寄ろうとした俺は、ほんの少しだけの違和感を自分のある部分に感じた。
「……あれ」
ここ数日の悩みが、解消した瞬間だった。
もちろんそんなのは今日だけのことで、明日になったらまた元に戻ってしまうかもしれない。
でも、それは大きな一歩だった。
「人類にとっては小さな一歩でも、俺にとってはこれは大きな一歩だ。いやあ、昔の人はいいことを言うなあ」
若干違っているような気がしないでもなかったが、それはそれで別に構わない。
なにしろ、俺はこのおかげでこの上なくいい気分の朝を迎えることができた。
これというのも、俺の日頃の行いがいいから……。
「って、そんなわけないか」
俺は今後のためにも、今日のこれがどういう理由でそうなっているかの原因を探ってみた。
あるとすれば、昨日の行動のどこかにヒントがあるはず。
(朝のことは関係ないだろうし、通学中とか学校でのこともたぶん関係ない。下校もいつもどおりだったし、夜は……)
「あっ」
少し前……二度寝のことを考えてたときと、同じ地点に俺は着地していた。
(もしかして、カレーのおかげか?)
香辛料とかスパイスとか、はたまた肉をガッツリ摂取したおかげか。
(でもなあ、カレーは割りとよく食べる方なんだけどなあ。咲がちょいちょい作ってくれるから)
結局、それが理由の一つかもしれないという推測はできても、本当に直接的な原因なのかどうかはハッキリしなかった。
(まあ、専門家でもない俺があれこれ考えても仕方ないんだけどな)
自分自身で元も子もないようなことを考えながら、俺はパジャマから着替えるべくズボンを下ろした。
ちょうどそのタイミングで――
「起きてるー、朝ごはんの用意でき――きゃーっ!」
あ、知ってるこのパターン。
別に俺が悪くないのに、なぜか怒られるパターンだ。
っていうか、朝起こしにくるならそういうタイミングかもしれないってことくらい予想してくれよ。
「な、なにしてるのよ! わざわざズボン下ろしてっ。
もしかして、私が来るの見計らってた? じゃないとドアを開けるタイミングで、そんな体勢にならないよね!?」
「いや誤解だし」
「はあ!?」
「なにもしてねーし」
「してるじゃない!」
「っていうか、そっちこそジロジロ見るなよ。俺はただ、着替えようとしてただけだぞ?」
「っ!!!」
顔を真っ赤にする咲。
いやまあ、すでに俺のその部分を見た段階で真っ赤にはなっていたけれども。
この真っ赤は、別の意味の真っ赤だ。
「し、知ってるわよ! そんなのすぐに気づいたんだから!」
逆ギレからの知ったかぶりパターン。
我が幼馴染のバレバレの言い訳。
いつものことながら、どうしてそこで強がるのだろうか、咲は。
「とにかく、朝ごはんの用意できてるからっ。着替えたらすぐに降りてきてねっ!」
「うえーい」
バタンと扉を閉めて咲が部屋から出ていく。
というか普通にノックすればすむ話な気がするんだが、アイツは一向にそれをしようとしないんだよなあ。
まあ、昔からの習慣でつい忘れてしまうのかもしれないが。
って、うちのかーちゃんもそういえばそうだったな。
「……」
ああ、俺も割りとそっちのタイプだった。
窓の外ではチチチと小鳥が鳴いて、枕元ではスマホがピピピピとアラームを鳴らしている。
俺は枕元のスマホに手を伸ばし、画面をタップしてアラームを止める。
「ふわぁぁぁぁ……今日はいい天気だ」
ボサボサの頭をかきながらベッドから降り、カーテンを開けると外からは眩しいくらいの朝の光が差し込んできた。
「咲のやつはもう起きてるみたいだな」
俺の部屋のちょうど向かいにある咲の部屋。
その部屋のカーテンはすでに開け放たれ、薄暗い部屋の様子が少しだけ見ることができた。
「あんまりジロジロ見るのはやめとこ。見つかったらまたいろいろ言われるし」
なんとなく今日は二度寝しないで起きられたのは、昨日食べたカレーのおかげだろうか。
スパイスだとか香辛料だとか。
(……スパイスと香辛料は同じか)
パジャマから着替えようとクローゼットに歩み寄ろうとした俺は、ほんの少しだけの違和感を自分のある部分に感じた。
「……あれ」
ここ数日の悩みが、解消した瞬間だった。
もちろんそんなのは今日だけのことで、明日になったらまた元に戻ってしまうかもしれない。
でも、それは大きな一歩だった。
「人類にとっては小さな一歩でも、俺にとってはこれは大きな一歩だ。いやあ、昔の人はいいことを言うなあ」
若干違っているような気がしないでもなかったが、それはそれで別に構わない。
なにしろ、俺はこのおかげでこの上なくいい気分の朝を迎えることができた。
これというのも、俺の日頃の行いがいいから……。
「って、そんなわけないか」
俺は今後のためにも、今日のこれがどういう理由でそうなっているかの原因を探ってみた。
あるとすれば、昨日の行動のどこかにヒントがあるはず。
(朝のことは関係ないだろうし、通学中とか学校でのこともたぶん関係ない。下校もいつもどおりだったし、夜は……)
「あっ」
少し前……二度寝のことを考えてたときと、同じ地点に俺は着地していた。
(もしかして、カレーのおかげか?)
香辛料とかスパイスとか、はたまた肉をガッツリ摂取したおかげか。
(でもなあ、カレーは割りとよく食べる方なんだけどなあ。咲がちょいちょい作ってくれるから)
結局、それが理由の一つかもしれないという推測はできても、本当に直接的な原因なのかどうかはハッキリしなかった。
(まあ、専門家でもない俺があれこれ考えても仕方ないんだけどな)
自分自身で元も子もないようなことを考えながら、俺はパジャマから着替えるべくズボンを下ろした。
ちょうどそのタイミングで――
「起きてるー、朝ごはんの用意でき――きゃーっ!」
あ、知ってるこのパターン。
別に俺が悪くないのに、なぜか怒られるパターンだ。
っていうか、朝起こしにくるならそういうタイミングかもしれないってことくらい予想してくれよ。
「な、なにしてるのよ! わざわざズボン下ろしてっ。
もしかして、私が来るの見計らってた? じゃないとドアを開けるタイミングで、そんな体勢にならないよね!?」
「いや誤解だし」
「はあ!?」
「なにもしてねーし」
「してるじゃない!」
「っていうか、そっちこそジロジロ見るなよ。俺はただ、着替えようとしてただけだぞ?」
「っ!!!」
顔を真っ赤にする咲。
いやまあ、すでに俺のその部分を見た段階で真っ赤にはなっていたけれども。
この真っ赤は、別の意味の真っ赤だ。
「し、知ってるわよ! そんなのすぐに気づいたんだから!」
逆ギレからの知ったかぶりパターン。
我が幼馴染のバレバレの言い訳。
いつものことながら、どうしてそこで強がるのだろうか、咲は。
「とにかく、朝ごはんの用意できてるからっ。着替えたらすぐに降りてきてねっ!」
「うえーい」
バタンと扉を閉めて咲が部屋から出ていく。
というか普通にノックすればすむ話な気がするんだが、アイツは一向にそれをしようとしないんだよなあ。
まあ、昔からの習慣でつい忘れてしまうのかもしれないが。
って、うちのかーちゃんもそういえばそうだったな。
「……」
ああ、俺も割りとそっちのタイプだった。
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