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2章 二日目 カレーは別腹
2ー8 いつもと違う帰宅後の団らん
しおりを挟む「ただいまー」
途中でスーパーに寄って、今度は咲の買い物に付き合い、俺たちは黒柳家へと帰宅した。
「おじゃましまーす」
「おじゃまいたします」
俺に続いて咲と麗美が玄関に入ってくる。
「さすがに今日は緑青いないのな」
「あとで来るって言ってたよ」
「なに!?」
「麗美さんの作る料理に興味があるんだって」
「え? 今日は麗美が作るのか?」
「はい。と言っても私ひとりではなくて、咲さんに手伝ってもらってです」
「そうか」
俺たちは三人連れだって、リビングへと上がってきた。
「あの……今日はお母様は?」
「かーちゃん? あれ?」
「んもう。今朝言ってたでしょ? 今日からアレだって」
咲に言われて、頭の中で朝の光景を思い出す。
ああ……そういえば言ってた気がする。
そんで、あとで咲に確認してみようって思ってたんだった。
「で、アレってなんだ?」
「あのねえ……」
呆れ顔の咲。
しかしながら事情がわからない麗美が、俺に変わって咲に尋ねてくれる。
「あの咲さん。アレというのは?」
「あ、うん。麗美さんは知らなくて当然だもんね。アレっていうのはね、地方巡業のこと」
「地方巡業?」
「あー、アレってソレだったか!」
ようやく気づいた俺に、咲の突っ込みが入る。
「まったく……自分の家族のスケジュールなんだから、そのくらい把握しといて」
「へへっ」
「それでその、地方巡業というのは」
「ああ、うん。鉄子さんが女子プロレスラーだっていうのは知ってるよね?」
「はい。戦うときの覆面も見せていただきました」
「その試合を、地方でするのよ。日本のいろいろなところで」
「あー、なるほど。サーカスみたいな感じですね」
「そうね。だいたいそんな感じかな」
「じゃあ今日からこの家には……」
「俺ひとりってことだな。とーちゃんもまだ日本には帰ってこないし」
「なるほど……」
なにか考えているような様子で立ち止まった麗美を咲が促す。
「ま、それはそれとしてお料理がんばろっ。麗美さんの故郷のメニューも教えてね」
「あ、はい。任せてください」
キッチンへと向かう女子2人と、制服を着替えに部屋に戻る俺。
家の中からいつもと違う静けさが感じられるのは、かーちゃんが留守にしているせいだろう。
* * *
いつの間にかやってきた緑青と、リビングでカードゲームなどに興じていると、咲と麗美が夕食の準備ができたことを告げてきた。
そしてテーブルの上を片付け、全員でキッチンから食事を運んでくる。
「ほー、なんか変わった料理がある」
「あ、それは麗美さんに教えてもらって作ってみたの」
「はい。私の国の料理です。ちょっと材料が違っているので、まったく同じとは言えないですけど、とても美味しくできたので食べてみてください」
「へー」
麗美の見た目とは違った、かなり地味な料理。
何かの葉っぱで、これまた何かをすっぽりと包み込んでいる。
そこに白っぽいソースが掛かっていて、若干チーズのような香りが漂っているような気がしなくもない。
事前に何も聞いていなければ、日本のどこかの田舎料理を思いつきで適当にアレンジしてみた咲のアイデア料理の一品だと思ったかもしれない。
「じゃ、いただくとするか」
全員分の料理を配膳し終え、俺は席に着く。
「えつろー。手洗ってない」
「あ、そうか」
俺は緑青に指摘され、キッチンで手を洗ってくる。
ついでに緑青も俺に続いて手を洗っていた。
「今度こそいいな」
「うん」
テーブルには俺、咲、麗美、緑青の四人が並んでいる。
いつもならここにかーちゃんと、たまにトレーニングに来ているかーちゃんのところの練習生の人なんかが加わったりするが、今日はこの四人だけだ。
「ってかちょっと気になったんだけど、黒服の人たちっていいのか?」
「え?」
「ご飯とかさ、どういうタイミングで食べてるんだろうって」
「詳しくは知りませんけど、たぶんローテーションで順番に休憩を取ったりしてるんじゃないかと……」
「ふーん」
俺は勝手によく目にする三人が麗美のお付きの人なんだろうと思ってたけど、もしかしたらそれは間違いだったのかもしれないな。
三人なように見えてたけど、よく似てるだけで実は五人とか六人なのかもしれない。
それだけいればシフトを組むのも楽だし、休みだってしっかり取れたりしそうだ。
もしかすると、若竹の仕事よりも楽かもな。
「ほらほら、その話はあとでもいいでしょ? 冷めないうちに食べちゃおう」
「そうだな。んじゃあ、いただきまーす」
「「「いただきます」」」
いつもとちょっと違う雰囲気の、夕食がはじまった。
っていうかめちゃくちゃ自然な流れになってたから気にもしなかったけど、麗美がうちで夕食食べるのこれから毎日になるのか?
まあ、別にいいけど。
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