29 / 171
4章 四日目 芸術鑑賞会
4-2 いつもと違う荷物の通学風景
しおりを挟む「おはよう二人とも」
「おはよう緑青」
「おはようちーちゃん」
地元の駅で、俺と咲は緑青と合流する。
「そういえばさっき、美春に会った」
「なんだアイツ。今日は朝までのシフトだったのか?」
「ううん。深夜からスタジオ練習だったんだって」
「え? バンド……じゃなかった。アイドルさんって、そんなことまでしてるの?」
「してるんじゃないか? 歌って踊るのって、思ったより大変だし。咲、できるか?」
「うーん……言われてみれば確かに。華やかな世界だけど、地味な努力も必要なんだね」
「そりゃそうだろ」
ホームで電車を待ちながら、去年まで同級生だった若竹の話をした。
緑青の話どおりなら、きっと今頃アイツは家に帰って熟睡しているはずだ。
なにしろ、今日もたぶん夕方からコンビニでバイトだからな。
アイドルとバイトの二足のわらじか。
学校を辞めたからって、一日中暇になったりはしないんだな。
……まあ、やりたいことがあって辞めたんだから当然か。
「電車来たよ」
「おう」
朝のラッシュの影響か、ほんの少しだけダイヤの乱れたいつもの時間の電車がホームに滑り込んできた。
ホームドアが開き、電車を降りる人たちがホームに降りてくる。
その人たちを避けてドアの脇に立ち、流れが一段落したところで電車に乗り込んでいく。
「いつもよりなんか混んでるな」
「そうだね。ダイヤが乱れてるから、そのせいかも」
「緑青大丈夫か? ちっこいから埋もれてるぞ」
「うぐぐぐぐ……今日はちょっと厳しい。咲、少しガードして」
「うん」
背の低い緑青をかばうように咲が立ち、その咲に直接人波が押し寄せることのないように俺がガードする。
俺もそんなに身体の大きい方ではないが、こういうときはあのかーちゃん譲りの体幹の強さが活きてくる。
もっとも、それがスポーツ方面で活かされたことはそんなにないけれども。
そうして俺たちは、いつものように学園前駅へと向かった。
* * *
「おはようございます、悦郎さん、咲さん、緑青さん」
「おはよう麗美」
「おはよー」
「おはよう、麗美さん」
学校についた俺たちは、教室ではなく校門前で麗美に出迎えられた。
そして他のクラスメイトたちも、校門付近にパラパラと集まっている。
「バスで行くんですね」
「ああ」
学校前にある大きめの駐車場に、今日のために借りられた大型バスが数台、並んで停められていた。
残念ながらバスガイドさんのようなものはいない。
何でも数年前にセクハラまがいの事件を起こした生徒がいるらしく、それ以来うちの学校ではこの手の行事のときにバスガイドさんを同行してもらわなくなったとか。
(まあ、観光とかじゃないから関係ないしな)
「ぐふふ。そういえばさ、麗美」
「はい?」
「バスはそんなに好きじゃないの?」
「え?」
「ほら、電車とかみたいに」
「ああ、バスはそれほどでもありませんね。もしかすると、私の国バスの方がずっと発達していますし」
「へー」
麗美の国がどういう感じなのかはいまだによく知らないが、まあお国柄というのもあるのだろう。
電車よりもバス。
線路が引きづらいとか、いろいろあるのかもしれない。
『古代遺跡が多いからだぞ』
一瞬頭の中にトンチキ考古学者のとーちゃんの声が聞こえた気がしたが、まあそれはそれとして。
「はーい、うちの子集合ー」
みどり先生の呼びかけに答えて、クラスの連中が集まっていく。
周りに視線をやれば、それぞれのクラスが似たようなことをはじめていた。
「そろそろ出発なんですね」
「そうだな」
学校にいるのにチャイムと違う時間の区切りで行動する。
いつもどおりじゃないソレが、なんとなく俺を興奮させた。
「ふふふっ。楽しいですね、こういうの」
「ああ」
校庭の片隅で出席を取り、そのままバスへと移動する俺たち。
この間のホームルームで決めた通りに席に座り、そして学校をあとにする。
いつもの時間にいつもの場所にいない。
それだけでこんなにも心がワクワクする。
いつもどおりなのもいいけど、たまにはやっぱりいつもおどりじゃないのもいいかもしれないな。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる