黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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4章  四日目 芸術鑑賞会

4-7 ほぼいつもどおりな下校風景

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「はい、じゃあ気をつけて帰るように。解散」

みどり先生の言葉で、芸術鑑賞会の全スケジュールが終わる。
バスは学校までは戻らずに、学園前駅で解散。
普段は路線バスやなんかが止まっているロータリーをしばらくの時間俺たちの乗ってきたバスが占領していた。

「まっすぐ帰るのよー」

生徒たちを見送るみどり先生。
先生たちはこのまま学校に戻るらしいが、俺たちはそうではない。
電車に乗って帰るもの、別のバスに乗って帰るもの、車がお迎えに来てるもの、自転車置場で愛車にまたがり帰るもの。
そして、俺たちといえば……。

「駅のホーム、今日はいつもよりも空いてますね」
「そうだな。まだ帰宅ラッシュまでだいぶあるしな」

俺と咲、麗美、緑青のいつものメンバーで駅のホームで電車を待っていた。
ちなみに陽ちゃんは高崎と待ち合わせをしてどこかに消えた。
白藍は自転車通学らしい。
その割には妙に身体が弱かったりするが。

「この時間だとまだ学生さんもそんなにいませんね」
「確かに」
「学校ではまだ六時間目やってるころだしね」
「ちょっと得した気分だ」
「ぐふふ。でも、そのかわり今日の感想レポート書かなくちゃいけないんだよ。覚えてる、悦郎」
「うっ……そういえばそうだった」
「ふふふ」

そうこうしているうちに電車がホームに滑り込んでくる。
いつもの時間とは違う、いつもと同じ電車。
乗っている人たちの顔ぶれもかなり違う感じがして、いつもと同じ路線なのに少しだけ不思議な気がした。

そして、電車が地元駅に着く。

「じゃあ、また明日」
「お疲れさまでした」
「またねちーちゃん」
「おう。レポートやれよ」
「そっちこそな」

西口側に出る緑青が、一足早くホームで俺たちと別れる。
階段を降り、ちょっとだけ地下通路を歩き、東口改札を抜けて地上に出る。

「うーん。まだ明るい」
「この時間だとまだ若竹さんシフト入ってないかもね」
「そういえばそうだな」

すっかりおなじみになりつつあった元同級生の若竹は、駅前のコンビニに夕方から夜のシフトでほぼ毎日入っていた。
俺はそんなコンビニにでも寄るかと、麗美の方を見た。
しかし……。

「では今日は私はこれで」
「え? 帰っちゃうの?」
「はい。少し荷物が多いので」
「あ、そういえばそうだったね」

確かに麗美の荷物は多かった。
今日は授業がなく芸術鑑賞会だけだったために、俺や咲はかばん一つ。しかも、弁当が入っていないためにその中身も少ない。
ところが麗美の方は、いつものかばんに加えて小さめのキャリーバッグを引いていた。
なんでも、なにかあったときのために色々用意していた、ということだ。

「そっか。今日は麗美さん帰っちゃうんだ」

いつになくしょんぼりとしている咲。
俺の方も、咲ほどではなかったが妙に物足りないような気はしてしまう。
いつの間にか麗美の存在は、それくらい俺たちにとって自然なものになっていた。

「お嬢様、おまたせしました」

いつの間に現れたのか、是枝さんが麗美の妙に長い車とともに駅前のロータリーに現れた。
周りに止まっているタクシーの運ちゃんたちが、ポカーンと口を開きながらこちらを見ている。

「では悦郎さん、咲さん。また明日」
「ああ、また明日な」
「またね、麗美さん」

バタムと高級そうな音を立てながら、麗美の乗る車のドアが閉まる。
中から麗美が手を振っている風なシルエットが見えるが、うっすらとスモークがかかっているためにハッキリとはしない。
そして、麗美の車が静かにスーッと俺たちの前を離れていく。

「んじゃあ俺たちも行くか」
「うん」
「コンビニはいいよな、別に」

若竹がもう出ているかもわからないし、麗美もいないのであれば、無理してコンビニに顔を出す必要もない。

「その代わり、スーパーお願いね。夜のおかず買っていくから」
「おう」

かなり久しぶりな気がするが、よく考えてみればそうでもない咲との2人歩き。
とはいえ、夕食の買い出しに2人で行くのは久しぶりかもしれない。
すっかり、3人で行動するのが当たり前になりつつあったからな。


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