黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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6章  六日目 ろくしょう

6-7 いつもどおりと言えなくもない下校

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「モナカチョコジャンボが食べたい」
「え?」

帰りの電車の中、先頭車両から窓の外を楽しそうに眺めている麗美の隣で、俺はポツリと呟いた。

「わかる」

反対側にいた緑青も、俺のつぶやきに同意してくれた。

「時々無性に食べたくなるよな。なんなんだあれ」
「わからない。魔力的な何かかもしれない」
「えっと……私それ知らないです」

電車好きでコンビニ好きの麗美が、首をかしげている。
俺と緑青は、まさかという顔でそんな麗美を左右から見つめていたた。

「モナカチョコジャンボを知らない……だって?」
「コンビニマニアの麗美が知らないとは……」
「え? え? それってコンビニに何か関係あるものなんですか?」
「関係あるっていうか、どこのコンビニでも大抵は置いてあるよな」
「うん。モナカチョコジャンボはアイスの定番」
「アイスの名前なんですね! モナカチョコジャンボということは、大きいんですか?」

言われてふと気づいた。
そういえば別に、大きくはない。
なのになんであれは、モナカチョコジャンボなんて名前なんだろうか。
緑青も同じように思ったらしく、首をかしげながらこちらを見ていた。

「そういえば……大きくはないな。緑青、あれのミニサイズ版とか見たことあるか?」
「ない。箱に入ったお徳用とかも見たことない」
「うーむ……なぜジャンボなのか」
「???」

そんなことを話しているうちに、電車が最寄り駅に着く。

「よし麗美。コンビニに行こう」
「はいっ」

当然のように、俺と麗美はコンビニへと向かう。
俺は念願のモナカチョコジャンボを食べるために。
麗美はいまだ見知らぬモナカチョコジャンボと出会うために。
ちなみに緑青は反対側の駅の出口からろくしょうミートへと帰っていった。

「そうだ。咲さんにお土産を買っていきましょう。確か……熱があるんでしたよね」
「うむ。ということはつまり、やっぱりアイスを買うべきだ、ということかもしれないな」
「ふふふ、そうですね」
「ああ」

    *    *    *

「いらっしゃいませ~」

当たり前のように若竹が俺たちを出迎えてくれる。

「今日もお前がシフトの日だったか」
「あー、でもあと1時間で上がる。そのあと本業があるから」
「そうか」
「いつかは見に来いよな悦郎。チケット用意するから」
「なんだ、行っていいのか?」
「んー……前はちょっとヤだったけど、今は吹っ切れた。てか、そんなことも言ってられなくなった」
「なんだ? 困ったことでも起きたのか?」
「それなんだけどよ……」

若竹と話し込んでいる俺を置いて、ウキウキと軽いステップで麗美はアイスのコーナーへと歩み寄っていく。

「えーと……モナカチョコジャンボ……モナカチョコジャンボ……あった! 悦郎さん、これですね!」

パタパタとまるで少女のような足取りで、麗美がアイスのパッケージを持って俺の方へと駆け寄ってきた。

「ん? ああ、惜しい。これはモナカバニラジャンボだ」
「え? 違うのですか?」
「違うけどこれも美味いぞ。どれ、俺がちゃんと本家を見つけてやろう。って、探さなきゃないほどじゃないと思うけどな」

そう言いながら、俺は麗美と一緒にアイスのコーナーへと行く。

「……ん? おかしいな」
「ありませんか?」
「いつもならこの辺に……若竹~。モナカチョコジャンボないのかー」
「あー、ごめん。さっき近所の中学校の野球部が来て、買い占めていった」
「くっ! やられた」
「もしどうしてもモナカチョコジャンボがいいんだったら、7時以降にまた来てくれよ。そんときのトラックで持ってきてくれるはずだから」
「いや……たぶんそのときにはもう食べたさの波は収まってる」
「ああ、そういうやつな」
「そういうこと」

俺はトボトボとレジ前に戻った。

「あの、悦郎さん。じゃあこれは……」
「ん? ああ、モナカバニラジャンボな。咲がバニラ好きだから、これでも買ってくか」
「はいっ。じゃあ、私たちの分も合わせて3つ買いましょう」
「いや、2つで十分だ」
「え?」
「俺と麗美で半分でいいだろ。それ、けっこう食べであるぜ」
「わかりました。じゃあ2つで」
「毎度~」

俺と麗美はモナカバニラジャンボを2つ買い、コンビニを出て俺の家へと向かった。
帰りながら麗美と半分にして食べたモナカバニラジャンボは、いつもどおりの美味さだった。
チョコの風味がやっぱり欲しくなってしまったけれども。


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