黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

文字の大きさ
60 / 171
7章  七日目 ムツコとロン

7-6 いつものための取引な放課後

しおりを挟む

「レミーっ! 来たよーっ!」

放課後、相変わらず語尾に「っ」をつけまくりながら香染がオカルト研究部の部室にやってきた。

「どうっ! アイドル研究部に入る決心ついたっ?」

いつもどおり目をキラキラさせながら、かなりの圧で香染が麗美に迫っている。
俺は目当ての七瀬がいないのかと部室の外を確認した。

(いないじゃないか)

外には誰もいなかった。
香染を呼び出せば、お目付け役の七瀬も一緒に来ると思ったのに。

「でねっ、でねっ。これがいまイチオシのアイドルなのっ。今夜ライブがあるから一緒に見に行かないっ?」

振り返ると、香染が麗美にライブのチケットを押し付けようとしている様子が目に入る。
部屋には咲と緑青もいたが、香染の視界には入っていないようだった。

「すみません私、夜は門限がありますから」

ニコニコと笑顔を浮かべたままで、やんわりと香染の誘いを断っている麗美。
門限っていつもわりと遅くまでうちにいるじゃないかと思ったけど、もしかするとそれは除かれているのかもしれない。
なにしろ、一度はうちに泊まりに来たくらいだからだ。
こちらでの麗美の生活を取り仕切っている人(確かばあやさんだったか?)的には、うちはすでに麗美の家と同じような扱いなのかもしれない。
許嫁云々というのも、強く拒絶したりもしていないわけだしな。

「悦郎、あの話するんだよね?」
「そのつもりなんだが……七瀬来なかったな」
「七瀬さん、放課後は忙しいみたいだよ。生徒会のお仕事もあるみたいだし」
「ああ、そうか。四六時中アイツの面倒みてるわけにもいかないのか」

俺と咲と緑青は、ヒソヒソ……という程でもなかったが、小さな声で香染や七瀬のことについて話していた。
俺の今日の目論見としては、香染を呼び出して一緒に来た七瀬に査察について聞き、どうすればうちの部が廃部にならずに済むかをアドバイスしてもらうつもりだった。
最初は裏取引的なことも考えたが、緑青によればそういうのはあの生徒会長は一番嫌う手段らしい。
それよりも真摯な態度で廃部になってしまう条件などを聞き出して、それをクリアするにはどうしたらいいのかを相談した方がいいとか。
咲の方も緑青のその提案に賛成していた。
七瀬真朱という女子のことは俺はよく知らなかったが、なんとなく聞こえてくる噂から判断すれば2人のアイデアに乗るのが一番正しいような気がしていた。
そして、今日はそのために香染を呼び出したのだが……。

「わかったわっ。それじゃあ、日曜日の午前中っ。それなら、レミも一緒に行けるでしょっ!」

香染は相変わらず、麗美を口説き落とそうとあれこれがんばっているようだった。

「忙しいとこ悪いが、ちょっといいか香染」
「ダメっ」
「あのなあ……」
「香染さん。少しでいいので悦郎さんの話を聞いてあげてくれませんか?」
「わかったわっ!」
(おいおい……)

取り付く島もなさそうだった香染の態度が、麗美のひと言でまるっと入れ替わってしまう。
その変わり身の速さは呆れてしまいもしたが、ある種の尊敬の念のようなものも同時に抱いてしまった。

「でっ! なんの話っ?」
「生徒会の査察の話、聞いてるだろ? お前のアイドル研究部も、やばかったりするのか?」
「大丈夫よっ! だって私、こんなに一生懸命活動してるものっ!」

自信満々の香染。
確かに香染は、かなり熱心に麗美をアイドル研究部に誘ったりはしている。
しかしながら、それは本当に部の活動と言えるのだろうか。
部の本来の活動と、勧誘活動は違うはず。
であれば、アイドル研究部も生徒会の査察の対象になっているのではないだろうか。
そのへんを俺は、香染にも理解できるように噛み砕いて説明してみた。
説明してみたつもりだったが……。

「だーいじょうぶよっ。あんたって意外に心配性なのねっ」

まるでお話にならなかった。
俺としては同じような弱小部として危機感を共有してもらい、そこから七瀬の情報引き出してどうにか対策をとれないか……なんて風に思ったのだが。

(仕方ない。奥の手と行くか)

俺は準備しておいた、プランBを実行することにした。

「まあな。心配性だから、いろいろ準備しておきたいんだ」
「準備ってなにがよっ」
「うちはそんなに活発な活動してないからな。どうすれば生徒会の査察に引っかからないのか、七瀬に聞いてみたかったんだ」
「ふーん」

予想通りというかなんというか、香染は俺の話にはまったく興味がないようだった。

「でだ。七瀬と仲がいいお前に、そういうことを聞いてきて欲しかったんだが、もちろんただ頼めばお前が首を縦に振ってくれるとは思っていない。情報には情報ってことで、お前が興味をもちそうなアイドルの情報を仕入れてきたんだが……」

ずいっと香染が俺の方に身を乗り出してきた。

「その話、興味あるわっ」

まさに入れ食い。
香染の食いつき方は、まるで釣り堀の魚だった。

「漆黒のキャンドルってアイドルなんだけど……」
「黒キャンっ! なになになになになにっ! どんな情報っ! つながりっ!? 分裂っ!? なによなによなになによっ!?」

香染の言っている言葉の意味の半分もよくわからなかったが、それでも俺の思っていた以上に若竹に関する話は香染にとって魅力的だということがわかった。
俺は慎重に交渉を進めていく。

「まあ待て。さっき俺は言ったよな。情報には情報だって」
「そ、そうだったわねっ。それで、真朱の何が知りたいのっ? スリーサイズっ? 初恋の相手っ? いまだに1人でお風呂に入るのが怖い話っ!?」

もしかしてとは思っていたが、こいつ駆け引きとかこれっぽっちもできないやつだ。
このままうまく誘導するだけで、知りたいことは全部聞き出せるかもしれない。
……なんてことも思ったけれども、そこまで俺は悪党ではない。

「そういうことじゃなくってな。俺が知りたいのは……」
「ふむふむふむっ」

そして俺は、七瀬の連絡先をゲットすることに成功した。
とはいえそれは、咲のスマホに登録される。
いくらなんでも勝手に男に教えるわけにはいかない、というのが香染の言だった。
基本ハチャメチャな香染に意外と常識があったことに俺は驚いた。
そして、ヤツにとっては俺の方が常識のない人間と映ってしまったらしい。

「あのねえ……そんなアイドルのプライベート勝手に売り渡したりしたらダメに決まってるでしょっ? 今日のことは、私聞かなかったことにするからっ。あんたも、これ以上言いふらしたりするんじゃないわよっ?」
「お、おう」
「まったく……ステージのこととそれ以外のことはちゃんとわけなきゃダメなのっ。アイドルにだってプライベートは必要なんだからっ。あんた、それくらいのこともわからないのっ?」
「いや……友達だからいいかなって。それに、本人も……」
「そういうやつがわけのわからないデマを広めたりするのよっ。もしそれがストーカーみたいな厄介なファンに知られたりしたらどうするのよっ」
「それは……そうか。そういうやつもいたりするのか」
「まったく……これだからニワカはっ」
「……」

ともかく、これでなんとか生徒会長である七瀬とつながりを作ることはできた。
ここから先のやりとりは全部咲におまかせだ。
聞くところによれば、生徒会長は男子に対する態度の方が女子に対するそれよりもかなりキツいらしいからな。
交渉するなら、咲の方が適役だ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

処理中です...