89 / 171
10章 十日目 調理実習
10-8 そろそろ残り少ない謎の魚
しおりを挟む「いただきまーす」
「はい、召し上がれ」
帰宅した俺を待っていたのは、麗美の手料理だった。
「お昼にお魚の話したでしょ? 麗美さんが故郷の料理にちょっと似てるって。それで、もしかしたらバリエーション増やせるかなって調理法とか聞いてみたら、麗美さんが実際に味わっていただきたいって」
「是枝に頼んで必要な素材とかも用意してみました。違うのは、お魚だけであとは全部向こうの国で食べてたのと同じ……なはずです」
テーブルの上には、蒸し焼きにされた巨大な魚の切り身。
それの上に白いソースがかかっていて、そこに緑の細い葉っぱが添えられている。
「うん。すごいいい匂いだ。これ、一人前じゃないよな?」
「はい。切り分けるので、ちょっと待ってくださいね」
「おう」
うちはかーちゃんのところの練習生の姐さんがたが来る影響で、かなり巨大な皿が用意されている。
そして今日の魚は、そこからはみ出さんばかりの大きさだ。
それも、一尾とかじゃなく単なる切り身で。
「っていうか改めて思ったけど、この魚マジででかいよな。元はどんなデカさだったんだ?」
気になった俺は咲に尋ねてみた。
「それがね、切り分けるところまでは竜子さんがやっておいてくれたから、全体の大きさは私も知らないのよ」
「ふーん」
それにしても謎な魚である。
まあ、美味いからいいんだけど。
「はい悦郎さん、どうぞ」
「ありがと」
ナイフとフォークを使って丁寧に切り分けられた蒸した魚――ムニエルってやつなのだろうか。よくわからん――を俺は箸で一口大にほぐして口に運ぶ。
「もぐもぐ……うん。美味い」
「ふふふ、ありがとうございます」
「これはご飯よりもパンに合いそうな感じだな」
「そう言うと思って、麗美さんがちゃんと用意しておいてくれたよー」
麗美が妙におしゃれな籐のかごに入れられたフランスパンを運んできた。
それをちぎって白いソースをつけ、ほぐした魚を載せて口に運んでみる。
「もぐもぐもぐもぐ。うむ。ベストマッチだ」
「ふふふ。よかったです」
「あ、でもよく考えたら……」
俺はふとした事実に気づいてしまった。
「俺、昼もパンだ」
「あ……」
麗美がしまった、といった感じで口元を手で押さえている。
異国の料理はたしかに美味かったが、俺は結局のところご飯の国の人である。
やっぱり、夜は米が食いたい。
「大丈夫だよ、麗美さん」
「え?」
立ち上がり、咲がキッチンに向かう。
そうして丼に白飯をよそってくると、それとは別に謎のスープを運んできた。
「じゃじゃーん。こんなこともあろうかと、ご飯用のメニューも作っておいたのでした」
「咲さん、これって……」
「そう。さっき隣で煮込んでたお魚のスープ」
「魚のスープって……具っぽいものは何も入ってないが?」
「これはそういうのなの。お魚の食べないけど味のいい部分を煮込んで、スープにしたやつだから」
「つまり、ラーメンの鶏がらスープみたいなもんか」
「まあ……たとえはイマイチだけどそんなところ」
「で、それをどうするんだ?」
「まあ見てて」
咲は俺の前に丼飯をセットし、そこにほぐした魚の身を入れていく。そしておもむろに、その上から魚のスープを掛けていった。
「おー。お茶漬け的な」
「そう。絶対美味しいから」
「わー、すごくいい匂い」
「麗美さんも食べる?」
「はい。少しお願いできますか?」
「りょーかい」
――といった感じで、いつものようでいつもとちょっと違う夕食の時間は、ワイワイと過ぎていった。
ちなみに残りの巨大な蒸した魚の切り身は、当然のようにかーちゃんや美沙さんの胃袋の中に収まった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる