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10章 十日目 調理実習
10-8 そろそろ残り少ない謎の魚
しおりを挟む「いただきまーす」
「はい、召し上がれ」
帰宅した俺を待っていたのは、麗美の手料理だった。
「お昼にお魚の話したでしょ? 麗美さんが故郷の料理にちょっと似てるって。それで、もしかしたらバリエーション増やせるかなって調理法とか聞いてみたら、麗美さんが実際に味わっていただきたいって」
「是枝に頼んで必要な素材とかも用意してみました。違うのは、お魚だけであとは全部向こうの国で食べてたのと同じ……なはずです」
テーブルの上には、蒸し焼きにされた巨大な魚の切り身。
それの上に白いソースがかかっていて、そこに緑の細い葉っぱが添えられている。
「うん。すごいいい匂いだ。これ、一人前じゃないよな?」
「はい。切り分けるので、ちょっと待ってくださいね」
「おう」
うちはかーちゃんのところの練習生の姐さんがたが来る影響で、かなり巨大な皿が用意されている。
そして今日の魚は、そこからはみ出さんばかりの大きさだ。
それも、一尾とかじゃなく単なる切り身で。
「っていうか改めて思ったけど、この魚マジででかいよな。元はどんなデカさだったんだ?」
気になった俺は咲に尋ねてみた。
「それがね、切り分けるところまでは竜子さんがやっておいてくれたから、全体の大きさは私も知らないのよ」
「ふーん」
それにしても謎な魚である。
まあ、美味いからいいんだけど。
「はい悦郎さん、どうぞ」
「ありがと」
ナイフとフォークを使って丁寧に切り分けられた蒸した魚――ムニエルってやつなのだろうか。よくわからん――を俺は箸で一口大にほぐして口に運ぶ。
「もぐもぐ……うん。美味い」
「ふふふ、ありがとうございます」
「これはご飯よりもパンに合いそうな感じだな」
「そう言うと思って、麗美さんがちゃんと用意しておいてくれたよー」
麗美が妙におしゃれな籐のかごに入れられたフランスパンを運んできた。
それをちぎって白いソースをつけ、ほぐした魚を載せて口に運んでみる。
「もぐもぐもぐもぐ。うむ。ベストマッチだ」
「ふふふ。よかったです」
「あ、でもよく考えたら……」
俺はふとした事実に気づいてしまった。
「俺、昼もパンだ」
「あ……」
麗美がしまった、といった感じで口元を手で押さえている。
異国の料理はたしかに美味かったが、俺は結局のところご飯の国の人である。
やっぱり、夜は米が食いたい。
「大丈夫だよ、麗美さん」
「え?」
立ち上がり、咲がキッチンに向かう。
そうして丼に白飯をよそってくると、それとは別に謎のスープを運んできた。
「じゃじゃーん。こんなこともあろうかと、ご飯用のメニューも作っておいたのでした」
「咲さん、これって……」
「そう。さっき隣で煮込んでたお魚のスープ」
「魚のスープって……具っぽいものは何も入ってないが?」
「これはそういうのなの。お魚の食べないけど味のいい部分を煮込んで、スープにしたやつだから」
「つまり、ラーメンの鶏がらスープみたいなもんか」
「まあ……たとえはイマイチだけどそんなところ」
「で、それをどうするんだ?」
「まあ見てて」
咲は俺の前に丼飯をセットし、そこにほぐした魚の身を入れていく。そしておもむろに、その上から魚のスープを掛けていった。
「おー。お茶漬け的な」
「そう。絶対美味しいから」
「わー、すごくいい匂い」
「麗美さんも食べる?」
「はい。少しお願いできますか?」
「りょーかい」
――といった感じで、いつものようでいつもとちょっと違う夕食の時間は、ワイワイと過ぎていった。
ちなみに残りの巨大な蒸した魚の切り身は、当然のようにかーちゃんや美沙さんの胃袋の中に収まった。
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