黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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10章 十日目 調理実習

10-7 いつもとは違うコンビニの店員さん

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「結構遅くなってしまった」

バイト……というか小遣い稼ぎのたんぽぽさんのお手伝いの帰り道、いつもよりだいぶ遅い時間の電車に乗って地元の駅へと到達した。
いつもよりかなり車内が空いていたのは、学生と社会人の帰宅ラッシュの時間差のせいかもしれない。
とか思ったけどよく考えたら上りと下り逆だったのを思い出したのは、改札を出てすっかり薄暗くなった駅前のロータリーで咲にそろそろ帰るメールを送ったころだった。

「ん?」

ポケットにしまった途端、スマホがバイブレーションする。
取り出して確認すると、そこには咲からの返信メールが届いていた。

「珍しいな。帰るメールには返信してこないことが多いのに」

と思ったところで気づく。

「ははーん。さては買い物ミッション発生だな」

時間的に咲は夕食の準備真っ最中なはず。
となると、足りないのは調味料か食材か。
それとももしかすると、ティッシュとかトイレットペーパーの買い出しかもしれない。
寮の方の何か生活用品という線も思い浮かんできた。

「正解はなんだ?」

立ち止まり、歩道の脇に避けてメールの内容を確認する。
咲からのメールを開封する。
その中に記されていたのは……。

「あー、コンビニで荷物の受け取りかー。そっちがあったかー」

最近はコンビニで何でもできるようになってきている。
公共料金の支払から雑誌の定期購読、食材の配達に、宅配便の受け取り、イベント事のチケット販売。聞いた話では、車やバイクの自賠責保険の加入手続きなんかもできたりするらしい。
ガセネタかもしれないけど。

「まさにコンビニエンスだな。俺には務まらん」

メールに添付された宅配便の受け取り表を確認しながら、いつものようにコンビニの自動ドアをくぐる。
ピンポロパンポンとおなじみにメロディーと、若竹の気合の抜けた出迎えの挨拶が……。

「イラッシャリマセー」

あれ?
って、そういえば若竹たちは今朝から地方周りしてたんだっけ。
そりゃコンビニでバイトしてるヒマはないわ。
俺は納得しながら、はじめましての店員さんにスマホの画面に表示された宅配便の受け取り表を提示する。

「これ、お願いしまーす」
「ン? ナニ?」
「え?」
「エ?」
「「……」」

しばらく見つめ合ったあと、店員さんはバックヤードへと視線を向けるとおなじみの店長さんに声をかけた。

「店長サーン。私コレワカリマセーン」

すると店の奥から店長さんが顔だけだして俺のことを確認すると、俺のスマホの方を指差して言ってきた。

「お客さん、それのやり方教えてあげて」
「は?」

思わず呆気にとられてしまう。
そんな俺に、はじめましての店員さんが期待に満ちた目を向けてきた。

「教エテくだサイ。コレ、ドウしますか?」

店員さんのネームプレートを見てあることに納得する。
ちょっとイントネーションと言い回しが微妙だなと思っていたが、どうやら海外からのバイトさんっぽい。

「しょうがないなあ……」

なんで俺がこんなことをと思いつつも、ここの店長さんがああいう性格なことは若竹から聞いていたので仕方なくそれを引き受ける。
ここでひと悶着起こしたとしても、俺にいいことなんかあるわけないし。

「えーっと、ですね。まずこの画面のバーコードを」
「フムフム」

ただ単にそれの操作を知らなかっただけで、店員さんの飲み込みはものすごく早かった。
まだイマイチな日本語の話し方で惑わされてしまうが、もしかしたらものすごく優秀な人なのかもしれない。

「トゥイトゥイ。わかったヨ。つまり、コウイウことな」

ピピッと何の問題もなくバーコードは読み取られ、俺はコンビニで咲から頼まれた宅配便の荷物を受取ることができた。

「アリガトござましたー」

言われてみれば若干海外っぽい顔立ちの店員さんに見送られながら、俺はコンビニを出る。
若竹が帰ってくるまでは、あの店員さんにお世話になるのか。


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