黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

文字の大きさ
87 / 171
10章 十日目 調理実習

10-6 いつもとは違うひとりの放課後

しおりを挟む

放課後。
俺はいつものようにオカルト研究部に顔を出す予定だったが、突然の呼び出しでそちらはキャンセルすることになった。
まあ、うちの部は自由参加だから出ても出なくてもどっちでもいい感じなんだけどな。
俺ですら一度も顔を合わせたことのない男の先輩とかもいるし。
洋子先輩によると、授業中に部室にくるとたまに会えるらしい。
っていうか、そういう部室の使い方の方が生徒会にバレたらやばい気がする。
まあ、聞かなかったことにしておくか。

それはともかくとして、俺は咲たちよりひと足早く下校して、いつもとは違う駅で下車して、いつもとは違う場所へと向かっていた。
その場所とは……。

「このビルに来るのも……しばらくぶりだな」

いつ建てられたのかわからないくらいの古い雑居ビル。
かといってレトロだったりアンティークだったりといったような、趣は一切ない。
ただ単に古いだけ。
5階建てなのにエレベータもなく各部屋にトイレもついていない。
そんな不便なビルの5階に、俺の目的地はあった。

「うへぇ……たった5階とはいえ、階段だけで上がるのはけっこう疲れるんだよなあ」

ようやくたどり着いた5階の事務所。中を見通すことのできない曇りガラスには、『多和泉探偵事務所』というプレートが掛けられている。

「こんちわー。呼ばれたので来ましたー」

鍵もかかっていない建てつけの悪いドアを開け、俺は中に足を踏み入れる。
いろいろな資料なのかそれとも単なる紙ゴミなのかわからないようなものが雑然と積み上げられた机の向こうに、俺を呼び出した人物がいる。

「待ってたぞ、助手」
「いやいや、助手はあなたでしょ。たんぽぽさん。っていうか所長はまだ戻らないんですか?」
「ちょっと! その呼び方やめてって言ってるでしょ!」

机の向こうでプリプリと怒り出した女性こそが、俺を呼び出した人物。
時々俺がバイト……というか小遣い稼ぎをさせてもらっている『多和泉探偵事務所』の、朝倉たんぽぽさんだ。

「いい名前だと思うけどなあ、たんぽぽって」
「でも私は嫌なの。仕事のときは、ちゃんと名刺に吸ってある名前で呼んで」
「はいはい。利音(たんぽぽ)さんね」
「なんか……妙な含みを感じる」
「気のせいですよ、利音(たんぽぽ)さん」
「むぅ……」
「で、所長は?」

所長の椅子にたんぽぽさんが座っていることからその不在はほぼ推測できるが、とりあえず尋ねてみる。

「まだ塀の中」
「先月までじゃなかったんですか?」
「もうしばらくかかるって連絡があった」
「大丈夫なんですか? 利音(たんぽぽ)さん一人じゃお仕事回らないんじゃ」
「だから呼び出したんじゃない。素人の悦郎くんでも、いないよりマシかなって」
「あー、帰ろうかなー」
「待って待って。ごめんごめん。ちゃんといつも役立ってくれてるから」

帰りかけた俺をダッシュで捕まえ拝み倒してくるたんぽぽさん。
まあ、もとから帰るつもりなんてないんだけどね。

「で、俺に用って?」
「うん。依頼の手伝い」
「今日のターゲットは?」
「ターゲットはね、この写真の子」
「ほうほうほう」

俺はたんぽぽさんと入念な打ち合わせをしてから、探偵事務所を出た。

    *    *    *

数時間後、依頼は無事達成される。
迷子のボルゾイ犬は、川沿いにある材木店に保護されていた。
高そうな犬がウロウロしてるから、一応保護しておいたとは、材木店店主の刈谷さんの談である。
助かりました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...