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10章 十日目 調理実習
10-5 いつもよりかなり甘いケーキ
しおりを挟む「はいじゃあ、手順はそんな感じで。それじゃあみんな、作業開始~。特に男子がんばってね~。料理上手いとモテるわよ~」
午後の授業は、調理実習だった。
担当のおばちゃん先生は最初の説明だけをすると、あとは全部生徒の自主性に任せてくる。
まあ、実習なんだからそうするのが正しいのだろう。
「っていうか食後に調理実習って、なんか段取り悪くないか?」
「文句言ってないで手を動かす。ほら、メレンゲかき回して」
「うーっす」
カシャカシャとボウルに入れた卵白をかき回す。
文明の利器である電動泡立て器を使えばこんなの瞬殺だと思うのだが、授業ではその手の道具は使用が禁止されていた。
「咲ー、このくらいでいいかー」
そろそろ手が疲れてきた段階で咲に確認を頼む。
角が立つくらいとか言われていたが、正直なにが角なのかがよくわからない。
となれば当然、そのあたりの判断は料理番長である咲に丸投げだ。
「まだ全然ダメー。ほら、隣の班の砂川くんくらいしっかり泡立てて」
「おー、悦郎。ちゃんとできてるかー。角ってのは、このくらいピンと立つんだぞー」
お手本とばかりに、砂川が自分のボウルを見せつけてくる。
そこには、俺のものとは全く違ったしっかりとした角が立っていた。
「あいつめ……意外な才能を発揮しやがって。食べるの専門じゃなかったのか」
「ぐふふ。砂川はほら、バンドでドラムやってるから」
「なるほど。リストが強いのか」
「たぶん」
わかったようなわからないような緑青の分析を聞きながら、俺はさらにメレンゲを泡立てていく。
咲のオーケーが出たのは、それから5分後のことだった。
* * *
「はい完成」
オーブンでしっかりと焼き上げたあと、咲が生クリームでデコレーションし、ケーキが完成した。
その瞬間、なぜか男子たちがじゃんけんをはじめた。
「じゃんけんぽんっ! あいこでしょっ! ぐわー」
いったい何のじゃんけんをしているのかと思っていたら、どうやら咲のケーキを誰が食べるかで争っているらしい。
意味がわからず俺は争奪戦の真っ最中の近藤にたずねてた。すると、どうやら以下のような理由付けで自分たちも食べられるはずだと考えているようだった。
調理実習における班分けは6人一組。そしてケーキは8等分に切られる。つまり、2切れはかならず余るはず。
なるほどとは思ったが、確かおばちゃん先生が1切れは採点用に提出するようにと言っていた。
となればヤツラの目論見はすでに瓦解している。
俺はそのことを教えてやるかどうか、少し迷っていた。
なぜなら、放っておいたほうが面白いからだ。
「ぐふふ。さらにここでもう1つの罠を私が仕掛ける」
策士緑青が面白がるように笑っている。
そしていつの間に入手したのか、砂川たちの班のケーキを一切れ持っていた。
それを、咲の(正確には俺たちの班の)ものとすり替える。
(お前もグルだったのか)
砂川に視線を送ると、やつはグッとサムズアップした。
そんなこんなのいろいろがありながら、別腹の別腹ってどういう意味だろうと関係ないことを考えつつ、勝負の行方を見守る。
「やったー! 勝ったー!」
どうやら、近藤が争奪戦を勝ち抜いたらしい。
負けた男子生徒たちはうなだれ、同じ班の女子たちに足蹴にされている。
そして近藤に、緑青から勝利のケーキが手渡された。
微妙にデコレーションが違っていることには、どうやら気づかないようだった。
「それじゃあいただきまーす」
俺たちすら手をつけていないのに、真っ先に近藤がケーキを食べる。
もっともそれは、うちの班のものではなく砂川たちの班のものだったが。
それも、緑青の策謀入りの。
「あむ……うん。さすが咲ちゃん。しっかりと焼き上げられたスポンジと、生クリームの味が……んんっ!?」
近藤の目が唐突に見開かれる。
そして……。
「ぬおおっ! 超甘いっ! なにこれ! めっちゃ甘い! ぐわああああああああっ」
なるほどそういうオチか。
俺は近藤の顛末を見届けてから、自分たちの班のケーキに手を付ける。
「うむ。ちゃんと美味い」
背後では緑青が、近藤が悶絶するほどの甘さの激甘ケーキに舌鼓を打っている。
そう。やつは驚くほどの甘党。
その甘さに対する執着は、砂川にも匹敵するほど。
「うん。これはこれでイケる。でも、一緒に濃いコーヒーとか合ったほうがいいかな」
砂川も激甘ケーキを楽しんでいた。
っていうかそのケーキ、採点の方はどうなるんだろう。
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