162 / 171
18章 十八日目
18-9 だいたいいつもどおりの夜
しおりを挟む今日の夕食は冷やし中華だった。
かーちゃんと美沙さんがごまダレか醤油ダレかで言い争っていたが、正直どうでもいい。
ごまダレでも醤油ダレでもうまいもんはうまいし、そうじゃないものはそうじゃないからだ。
だが一つだけ俺としては許せないものもある。
いくら冷えが足りないからといって、冷やし中華に直接氷を入れるのはダメだ。
あれは水っぽくなって全部を台無しにしてしまう。
まあ、咲はその手のミスは絶対にしないから大丈夫だけどな。
「って、話聞いてる?」
「ああ、すまん。冷やし中華のこと考えてた」
「あははー。あれか、夜ご飯のときの続き? 結局どっちか決着つかなかったもんね」
就寝前、いつものように俺は咲と通話アプリでダラダラとどうでもいい話をしていた。
「そういえばさ、あれ行くの?」
「あれ?」
聞かれてすぐにはそれがなんのことかわからなかった。
だが、机の上に出しっぱなしになっていたチケットを見て、それが若竹たちの出るなんとかアイドルフェスティバルのことだとわかった。
「んー、どうするかな。別段興味はないけどチケットもらっちゃったしな」
「そっか」
「咲も行くか?」
「えー、それって私にチケット買えってこと?」
「そうなるか」
しばし考える。
「じゃあ俺が半分出すか。このもらったチケット分俺だけ得するのもアレだしな」
「お、なんか珍しい」
「そうか?」
「いつもならどっかから融通してもらえとかいいそうじゃない? 美晴ちゃんからもらえとかさ」
「あ、その手があったか」
なんとか小豆さんからチケットを貰ってしまったことで、なんとなく若竹ルートは閉ざされてしまっているような気がしていた。
だがよく考えてみれば違う。
あれはなんとか小豆……っていうかいつまでもなんとかじゃ悪いな。今度若竹にちゃんと名前聞くか……さんから貰ったものであって、若竹からではない。
だとすれば若竹に言えば、一枚か二枚くらいは用意してもらえるような気もした。
「香染ルートってのはどうだろう」
なんとなく思いついた俺は、咲に提案してみた。
「それはないでしょ」
即答する咲。
さもありなんと思ったが、咲のない理由は俺とは違ったものだった。
「あの子は個人で参加するんだから、迷惑かけちゃダメだってば」
「あー、言われてみればそうか」
わりと前からずっとアイドル活動をするんだ的なことを言われていたから、香染もなんとなく若竹たちと同じカテゴリーで見ていたが、よく考えてみればまったく違うことは明白だ。
「なあ咲」
「なに?」
「もしかしてだけどさ、香染ってただのアイドルオタクなんじゃないか? 俺としてはアイドルの卵的なやつかなーとか思ってたんだけど」
「もしかしてじゃなくてそのものでしょ」
「あ、やっぱり?」
「まあノリ的には同人活動みたいな感じなのかもしれないけど」
同人活動……言われてみると、かなりしっくり来た。
若竹たちはギリギリプロの範疇に収まっている(と思う)が、香染は違う。
インディーズって単語も思い出したけれども、それとも違っているようにも思えた。
「ん?」
ピローンとスマホが電子音を鳴らす。
通話アプリで繋がっている咲からの、画像つきのメッセージだった。
「なんだよ急に」
「いいから見てみて」
添付されている画像をダウンロードした。
するとそこには、俺が夕方なんとか小豆さんから貰ったチケットと同じものを手にした咲の姿があった。
「はあ?」
「あははー。実は、美晴ちゃんから渡されてたんだ。一枚余っちゃうから、ちーちゃんでも誘ってみるね」
どうやら、俺は完全に遊ばれていたようだった。
たぶんこのなんとかアイドルフェスティバルとかいうのは、咲の中ではすでに夏休みのスケジュールに組み込まれていたのだろう。
一学期がもうすぐ終わる夏のはじめの一日は、こんな感じで過ぎていった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない
七星点灯
青春
雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。
彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。
しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。
彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話
そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん!
好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。
ほのぼのラブコメというか日常系小説
オチなどはなく、ただひたすらにまったりします
挿絵や文章にもAIを使用しております。
苦手な方はご注意ください。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる