黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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19章 十九日目

19-9 いつもとちょっとだけ話題が違う夜

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夜。
いつものように俺は咲と通話アプリをつないだまま、就寝前の時間をまったりと過ごしていた。

「そういえば結局そっちはどうだったんだ?」
「なにが?」
「補習。1個くらい引っかかったか?」
「あー、それ聞いちゃうんだ」
「そら聞くだろ。俺の夏のスケジュールにも関係するんだから」
「まあそうか」
「で?」
「1教科ダメだった」
「当ててやろうか」
「どうぞ」
「物理だろ」
「正解」
「やっぱな。咲、前から物理苦手だもんな」
「法則とか公式がねー」
「それ近藤も言ってたわ」
「ちーちゃんに言わせると、それさえわかれば簡単だって」
「似たようなこと近藤に言ったわ」

そんな感じで、俺と咲はいつものように夏の夜を過ごしている。

「そういえばさ」
「ん?」
「若竹さんにフェス来てくれるよねって確認された」
「あー、そっちもあったか」
「え?」
「ほれ、麗美……っていうか香染の方もあっただろ」
「あ、そっか。日程とか大丈夫かな」
「チラシ見てみるわ」
「うん」

俺は緑青から貰った学生アイドルフェス(GIF)の開催概要を確認した。

「あ゛……」
「え? どうかした?」
「これ、丸かぶりだぞ」
「うそ!」
「っていうか、同じような日程ですぐそばでやるみたいだ。関連行事なのか?」
「そういう感じじゃなかったけど……」

俺は若竹のところの子から押し付けられたチケットを確認する。

「うーん。実行委員会的な組織の名前は違うな。どっちかがどっちかを真似してわざとそばでやってるのかもしれないけど」
「客層近いだろうしね」
「ああ」
「一回入場しちゃえば出入り自由なら、ステージの時間に合わせて移動すればいいんじゃないかな」
「確かに……できなくはない距離だな」

若竹たちの出演するフェスの情報を、PCで検索して確認する。

「てかこれちゃんと調べたのはじめてだけどすごいな。ステージが5個とかあるみたいだぞ」
「うん。私も調べてびっくりした。っていうか、アイドルさんってそんなにいっぱいいるんだね」
「ああ」

GIFの方はまだそれほど情報は出ていなかったが、若竹たちの出る方……湾岸アイドルフェスティバル(WIF)の方では、すでにタイムテーブルが公開されていた。

「えーっと、若竹たちの出番は……」

うろ覚えのグループ名をタイムテーブルから探し出す。

「黒いキャンバス……黒いキャンバス……」
「漆黒のキャンドルだってば」
「ああ、そっちか」
「どっちよ」

スマホ越しに咲に突っ込まれながらも、俺は若竹たちの出番を見つける。

「朝早い時間と、昼過ぎの2回みたいだな」
「じゃあ、あとは麗美さんたちの出番次第だね」
「ああ」

とまで言ったところで、俺はコンビニで見かけたアイドル部の1年生の子を思い出した。

「そういえば、コンビニで見かけた子いるじゃん。若竹のこと見に来てた感じの子」
「あ、うん。背が高くて髪の長い子ね」
「あの子もステージ立つのか? アイドル部の1年だって麗美が言ってたけど」
「どうなんだろう。アイドル部ってそんなに人数いないって話だし、やっぱりメンバーなんじゃないかな」
「だよな」

確かに素材は良さげだった猫背の子。
あの子がステージに立つとどんな風になるのか。
俺には想像がつかなかった。
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