黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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19章 十九日目

19-8 いつもとは違うコンビニの客

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いつものように四人連れ立って下校。
電車の中で楽しそうにしている麗美に、夏休み中の予定について尋ねた。

「フェスとかあるんなら、忙しいのか? アイドル部」
「フェスまでは忙しいみたいです。合宿とか」
「へー。合宿やるのか。楽しそうだな」
「私達もやる? 合宿」
「オカルト研究部で合宿ってなにやるんだよ。怪談の現地調査とかか?」
「ぐふふ。単なる肝試しになりそう」
「だよな」

トンネルを一つくぐり、最寄り駅まであと一駅になる。

「そういえば昼の流しそうめんのとき、だいぶ麗美喜んでたな。ああいうの嫌がるかと思ってたけど」
「どうしてですか?」
「みんなで同じ場所……っていっても流れてるけど、そういうとこからシェアしながら食べるのって、ちょっと雑多な感じするじゃない」
「そんなことありませんよ。とても楽しかったです。電車みたいで」
「え? 電車?」
「はい」

言われて昼間の光景を思い出す。
教室の中に設置された、そうめんスライダー。
そこを流れていく、そうめんの玉。

「あー、なるほど。ほんのちょっとだけ似てるかもな」
「はい」
「ってかあれ唐揚げ流したの誰だ? ベチョベチョになって俺が後片付けに食べさせられたぞ?」
「あははー。あれは近藤くんが」
「やっぱりアイツか」
「そうめんだけじゃパワーが足りないからって」
「そんなら自分で食べろっつーの」
「ふふふ」

そんな雑多な話をしていると、電車がゆっくりと速度を落としはじめた。
そして、見慣れたホームで電車のドアが開く。
いつものように、特に大したこともなく俺たちは最寄り駅へと到着した。

    *    *    *

「そういえばそろそろ夏休みだな」
「ああ。お前は夏もバイトか?」
「当然だろ?」

帰り際、いつものように若竹の働くコンビニに寄る。
定番のお菓子や新商品。
咲と麗美が気になったものをレジカゴに入れていく。

「うわ……ホントに黒キャンのみーちゃんだ」
「ん?」

店の一番奥の方。
レジカウンターから離れた場所で、商品棚に隠れるようにしながら若竹のことを見ている女子が一人いた。

(うちの制服? リボンの色からして……1年か?)

その女子にはあまり見覚えがなかった。
すべての女子に見覚えがあるとまでは言わないが、同学年であれば少なくとも多少の引っかかりは覚えたはず。
まあ……隣のクラスの体育委員の顔はわからなかったが。

「香染先輩にも言われたけど、プライベートだから話かけたりしたらダメだよね。知らないふりしないと」

(ああ……)

ぶつぶつと呟く彼女の独り言で、俺はその子がどういういジャンルの子なのかがわかってしまった。
どうやら彼女は、香染の後輩らしい。
ということは……。

「麗美、あの子知ってるか?」

俺は雑誌コーナーで鉄道の月刊誌を見ていた麗美に近づき、小声で尋ねた。

「はい?」

食い入るように見ていた雑誌から顔を上げ、コソコソと隠れるようにしながら若竹を見ている女子を、麗美が確認する。

「あっ、染子さん」

やはり、アイドル部の1年生だったようだ。
そう考えて見てみると、アイドル部に所属しているだけあってその子の素材はピカイチのようだった。
きれいな長い黒髪に、スラッとしたスレンダーな体型。
それでいて出ているところはそれなりに出ていそうな感じがする。
髪型のせいでだいぶ隠れてしまってはいるが、顔立ちもきれいなようだ。
声もアニメ声っぽくて、好きなヤツはかなりハマりそうだ。
ただ……猫背がすべてを台無しにしてしまっている。

「あの子、私はとてもかわいいと思うんですけど、絶対に自分はかわいくないって頑ななんですよね。香染さんも、そこさえクリアできればっていつもおっしゃってます」
「確かにな」
「ぐふっ……ぐふふっ……」

自分の背丈よりも低い商品棚に隠れながら、彼女は含み笑いを漏らしている。
きれいな見た目と可愛らしい声。
それらをすべて台無しにする、気持ちの悪い笑い方。

「行動だけならかなり危ない子に見えるな」
「香染さんにもあんな感じです。とても心酔してるみたいで」
「そういうタイプの子か……」

あまり触れないほうがいいかと、俺はその子をスルーする。
そしてレジで会計をすまして、コンビニをあとにした。
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