黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

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19章 十九日目

19-7 いつもより長いアイドル部の打ち合わせ

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夏休みの予定が決まったあとになっても、俺たちは部室でダラダラと涼みながら無駄話をしていた。
というのも、麗美がアイドル部の方からまだ帰ってこないからだ。
ちなみに、洋子さんはとっとと帰った。

「そういえば、アイドル部の方は夏休みどうなってるんだろうな」
「まあいろいろ活動するんじゃない? 向こうはうちと違って、ちゃんと目標とかあるみたいだし」
「目標?」
「学生アイドルフェスっていうのがあるらしい」

言いながら、緑青が一枚のチラシを見せてくれた。

「え……アイドル部って、うちの学校以外にもあるのか」
「ねー。それ私もびっくりした。まあ、うちだけじゃないとは思ってたけど、全国にそんなにたくさんあるだなんて思わなかった」
「ぐふふ。素人でもいろいろ発信できるようになったから。そういう活動、やりやすいんだと思う」
「あー。そういえばいたな。部室に乱入してきた自称ユーチューバーな人」

「呼ばれたような気がした!」
「おわっ!」

ガチャッと部室のドアを開けて、妙なゆらゆら揺れる装置に大きなカメラを載せた制服で仮面の女子が部室に乱入してきた。

「また来たんですか?」
「いーじゃないのー。どうせ暇してたんでしょ?」
「だからって学校に無断侵入してる元在校生の相手してる暇はありません」
「ギクッ」
「菊池先輩、美容学校はどうしたんですか?」
「ギクギクギクッ」
「先輩の配信チャンネル、登録しましたよ。動画は見てないですけど」
「なんでやねんっ!」

ビシッと仮面の動画配信者きくしんのツッコミが俺に決まった。
とはいえ、部室の中の誰にも受けていない。
まあ、咲は愛想笑いを浮かべて緑青はニヤニヤ生暖かい目で見守っているから、笑顔には溢れていたが。

「っていうかさ、夏のトレーニングはプールにしないか? 朝のランニングとかさすがにもうキツいし」
「あー、いいね。今度天田中さんに使える時間とかあるって聞いてみるよ」
「天田中? 誰だ?」
「んもー。もう忘れちゃったの? 1組の体育委員で、水泳部の」
「あー。メガホンで叩いてくる子な。思い出した」
「あれはそっちが遊んでたからでしょ? 近藤くんと一緒に」
「そりゃしょうがないだろ。プール掃除で遊ばずに何をするんだ」
「掃除に決まってるでしょ」

「あ、あのー……」

カメラを回し続けるきくしん先輩をほったらかして、俺は咲とよもやま話を再開していた。
所在なさ気なきくしん先輩を見ながら、緑青はクックと笑っている。

そんなことをしているうちに、麗美が帰ってきた。

「遅くなりました。すみません」
「いやいいって。そっちもいろいろあるんだろうしな」

俺はそう言いながら、学生アイドルフェスのチラシを麗美に指し示した。

「あ、ご存知でしたか」
「おう。これ、出るのか?」
「そうみたいです。香染さんが、いろいろ準備してたみたいで」
「そうか」

俺はもう一度チラシに目を通す。

「これ、俺たちも応援に行っても大丈夫なのか?」
「はい。大丈夫だと思いますよ」
「うむ。じゃあ、その予定を入れておこう」
「ふふふ。いいステージ見せられるように、がんばりますね」
「ああ」

そして俺と咲、麗美、緑青は部室の戸締まりをして帰路についた。
仮面の配信者の人は、適当にそのへんに放り出した。

「せ、せつない……」
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