サムのヘタレ異世界英雄譚

カカポ

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1話 転校初日に異世界転生

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 石畳の街路に、穏やかな朝の光が差し込んでいた。

 中世ヨーロッパを思わせる王都。

 白い城壁に囲まれたその街では、人々がいつも通りの一日を始めていた。露店が並び、子どもたちの笑い声が響き、空には不穏さの欠片もない。



 その時だった。



 轟音とともに、燃える塊が天から落ちてくる。

 隕石だった。



 次の瞬間、眩い閃光が街を包み込み、平和だった街並みは一瞬にして消し飛んだ。大地は抉られ、巨大なクレーターが生まれる。石と瓦礫が宙を舞い、悲鳴すら衝撃にかき消された。



 だが、王城だけは違った。

 城を覆う魔法の防御結界が淡く光り、隕石の衝撃を弾き返していた。



 城の高窓から、その光景を見下ろしていた一人の貴族は、言葉を失っていた。

 守られているという安堵よりも、目の前で壊されていく日常への恐怖が勝っていた。



 それだけで終われば、まだよかった。



 クレーターの中心にある隕石に、亀裂が走る。

 ひび割れはゆっくりと、しかし確実に広がっていき。



 やがて、隕石は真っ二つに割れた。



 中から現れたのは、明らかに生き物だった。

 巨大な人型。灰色の肌。顔と呼べる場所には、異様に大きな口が一つあるだけ。身体のあちこちから触手のようなものが伸び、ぬらりと蠢いている。



 その生き物の口が、三つに裂けた。



 ギィ゛ィ゛ィ゛ィ゛……!!



 空気を震わせる咆哮が響いた瞬間。



「はっ!」



 俺は目が覚めた。



「……はぁ……なんだ、夢か……」



 荒い息を整えながら、天井を見上げる。

 心臓の鼓動が、やけにうるさい。



 妙にリアルな夢だった。

 あの街、あの化け物。

 いや、考えても仕方ない。



「……そういえば、今何時だ?」



 枕元に目をやると、いつもの場所にある時計が主張してきた。



 08:30



「……って、おい!!」



 思わず叫び、反射的にベッドから飛び出した。



「時間やべぇ!初日から遅刻とか冗談じゃねぇよ!」



 今日は、新しい高校に転校して初日。

 絶対に遅刻しちゃいけない日だ。



 寝癖も直さず、身支度もそこそこに玄関へと駆け出した。



「いってきます!!」



 -----

 

 走って学校に着き、新しい教室の扉に行き、ノックした。



「転校生か、入りなさい」



 低く響く声に呼ばれ、俺は教室の扉に手をかけた。



 「ふぅ……間に合ってよかった……」



 開いた瞬間、俺は目を疑った。

 ……筋肉が服を着ていたんだ。



 視界に飛び込んできたのは筋肉がやたら主張している教師で、腕は太く、首も太い。

 シャツ越しでも分かるほどの圧がある。



「はい、それじゃあ自己紹介始めて」



 即座に言われた。

「えっ、俺、まだ黒板に名前すら書いてないんですけど……」



 まあ、いいか。



 遅刻一歩手前だったが、どうやらセーフらしいからな。



 深く考えるのはやめて、俺はとりあえず壇上へと歩き出した。

 教室中の視線が、一斉に集まる。



 ……ああ、胃がキリキリする。

 前の学校では不良なんかやっていて、少々修羅場をくぐってきたつもりだったが。

 このクラスの生徒達は、制服の上からでもわかるほど筋肉はデカい。

 極めつきには、みんなが同じ顔をしていてまるでモブキャラのそれだ。



 ……あれ、全員同じ顔? 



 惑わされるな、とりあえず自己紹介だ。



「俺の名前はサム。どこにでもいる普通の高校二年生だ。この物語は、親の転勤理由で引っ越すことになりここアキレス腱高校に転校してきたことから始まる。この俺サムの青春学園ストーリーだ」



「どういう自己紹介なんだ、これ」



 途中、黒髪の生徒から小さなツッコミが飛んできた。



 仕方がないだろ。

 一人称なんだからナレーターのセリフも俺の口からやるしかない。



「以上、転校生だ」



 そして俺は、自己紹介の途中で先生に遮られた。



「え、ちょっと待ってくださいよ!まだサムの英雄譚、自己紹介編の途中なんですけど!」



「なんだこいつ誰だ?いつうちの教室に入り込んだ?」



「あれ、俺学校間違えた?」



「冗談、冗談。そうマジになるなよ転校生。先生もマジになってぶん殴っちまうぞ」



「ぶん殴る方も冗談ですよね?」



「さて、このまま来週の校外学習の班決めに移るぞ」



「え? 校外学習の班決め? 先生、俺はどうすれば……」



 転校してきたばかりで、知り合いなんて一人もいない。

 嫌な予感しかしなかった。



「そりゃ、お前も班に入れてもらうか。

 自らがパーティリーダーになって、メンバー0人で出発するかだな」



「それ、パーティじゃなくてソロですよね?」



 俺は思わず頭を抱えた。



「今日転校してきたばかりの俺に、なんてハードコアな試練なんだ!!い、今からイージーモードに変更できたりしませんか!?」



「人生それができたらみんなやってるんだよ」



 さっきの黒髪の生徒がぼやいた。





 ――数分後――



「先生、案の定サム君だけ余りました」



 モブ顔の生徒が、やけに大きな声で報告しやがった。

 顔覚えたからな、モブ顔しやがって、この。

 あいつは今からモブ太郎ってことにしよう。

 まるでさらし首だ。



「ちくしょう!たった数行で俺以外の班決めが片付いちまった!」



 友達がいるわけもなく、見事にはぶられた俺はただただポツーンっと馬鹿みたいに立ち尽くすことしかできなかった。

 

「転校初日だもんな」



「友達ランキングで言ったら、今あいつより下のやついないし妥当だよな」



 黒髪の生徒とモブ太郎が、そんな会話を交わしている。



 妥当ってなんだよ、ちくしょう。

 クソ、まさか転校初日で涙を流すことになるとは思わなかった。



「サムのやつ、泣いてない?」



「サムだけ余ったか。仕方がないな」



「うわぁ、これはお決まりの先生とパートナーか?」



 クラスの視線が集まる中、先生はあっさりと言った。



「じゃあサムは、その日学校を休んでいいぞ」



「……え?」



「友達ができ次第、校外学習に参加ってことで丸く収めよう」



 角立ちまくりだろがおい。



 俺の転校初日はこうして、平和とは程遠い形で幕を開けた。



 -----



 「……ただいま」



 自分でも驚くほど、覇気のない声だった。

 玄関の扉を開けながら、今日一日の出来事が頭の中でリピートする。



 悲しいことがあった日だ。



 俺は靴も揃えず、そのまま自室へ直行した。

 鞄を放り投げ、椅子が大きく軋む勢いで腰を下ろし、乱暴にパソコンの電源を押す。



 少々感情が高ぶっているせいか、物に八つ当たりしちまっている。



「ちくしょう……ぜってぇ友達作ってやる!」



 吐き捨てるようにそう言って、画面を睨みつけた。

 現実でダメなら、別の場所を探すしかない。



 そんな気分で、たまたま目に入ったMMORPGを起動する。



「くっそぉ……ぜってえ友達つくってやる!ん?なんだこのMMORPG。新作か?……面白そうだな」



 現実では無理だった。

 だから俺は、ゲームの中で友達を探すことにした。



「インストール不要……ってことはブラウザゲームか?今どきMMORPGでそれは新しいな」



 画面に表示されたタイトルを眺める。



 『ヘタレ英雄譚』



「……勝手な偏見だけど、しょぼそう」



 そう呟きながらも、指は正直だった。

 俺は迷わず、画面中央の《ニューゲーム》をクリックする。



 その時だった。



 画面が、まばゆいほどの光を放った。



「うおっ!? なんだ!? 何が起きた!?ガンマ高すぎだろ!? なんも見えねぇ!!」



 視界が、一気に白で塗りつぶされる。

 同時に床が揺れた。

 いや、揺れたなんて生易しいものじゃない。



 鼓膜を震わせるほどの風のうなりが、耳をつんざく。



「うぉぉぉっ――!?」



 そして。



 眩しさが消え、恐る恐る目を開けたとき。



 そこは、もう自室ではなかった。



 乾いた赤土が、どこまでも広がっている。

 一歩踏み出せば、すぐそこには深い断崖。

 恐る恐る下を覗き込み、俺は息を呑んだ。



「はっ……? な、なんだよ……これ……」



 視界の先には、ありえない光景が広がっていた。



 魔法で浮かぶ巨大な水晶。

 中世の城壁に囲まれた都市。

 空に届きそうな塔。

 機械と魔術が融合したような、空飛ぶ船。



 どう見ても現実じゃない。



「ここ、どこだよ……俺、確か……自分の部屋で、ゲームしてたはずじゃ……」



 理解がまったく追いつかない。



「ここはどこだぁぁぁ!?」



 思わず叫んでいた。



 その時、背後から足音がした。



「あのう……旅のお方、ですか?」



 ご年配のような、落ち着いた声。

 だが、その声の主を見て、俺の思考は完全に停止した。



 振り返った先に立っていたのは、サイの顔をした常軌を逸した姿のモンスターだった。

 二本足で立ち、鎧のような皮膚が鈍く光を反射している。





 サムの異世界での冒険はこうして始まった。
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