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#39 救出作戦
しおりを挟む48時間後。ついに、プラナ・ウェーブ発生装置が完成した。地下工房の奥、照明が青白く反射する中に、それは鎮座していた。高さ2メートル、直径1メートルほどの金属製円筒。表面には旧世界の文様が刻まれ、中央には淡く脈動するプラナ結晶――それはまるで生き物の心臓のように鼓動していた。
「……これが、俺たちの切り札か」
思わず息を呑む。ここまでの道のりを思えば、これがただの機械だとは思えなかった。
「ついに完成したな」
ドクター・ヴァインが満足そうに頷いた。彼の白衣は煤に汚れ、目の下には濃いクマが刻まれている。それでも、誇らしげな笑みは隠せなかった。
「各部の動作確認は?」
俺が尋ねる。
「完璧です。共振回路も、周波数制御も問題なし。
理論通り、チップ制御信号を上書きできるはずです」
「装置は3分割構造。運搬車で現地へ。15分で組み立て可能です」
デビットの説明にセシリアが補足する。
「冷却時間は3時間。
連続使用は不可能ですが、耐久性が十分です」
彼らの声を聞きながら、俺の胸は熱くなった――これで、俺たちはチップの制御を断ち切る手段を得た。
「いよいよだな」
「ああ、今夜だ」
オルフェンが現れた。表情はいつも通り冷静だが、瞳の奥には決意の炎が宿っている。
「西部基地メンバーの救出作戦を決行する」
---
作戦室。壁に投影された拘置施設の構造図を前に、俺たちは円卓を囲んでいた。
「標的は居住区北部の拘置施設。西部基地の仲間12名が収容されている」
オルフェンの声が室内に響く。
「警備は強化エージェント3名、通常8名。中庭を制圧できれば、内部は一気に瓦解する」
「プラナ・ウェーブの射程は?」
「半径100メートル。
外壁から発動しても、施設全域を覆えるはずだ」
カイの質問にヴァインは淡々と答える。だが、オルフェンの表情は険しかった。
「問題は――ライアン・ハリスだ。政府の特殊強化型エージェント。
EE計画の最新モデルでプラナ耐性チップを搭載している。
…つまり、ウェーブが効かない可能性がある」
「正面衝突は避けられない、ってことだな」
「私とミラで引き受ける」
眉を顰めているミラの肩に、ルナが手を置いた。
「レイは装置の操作とコネクトに集中して」
「……了解」
俺は静かに頷いた。
「作戦開始は22時。すべては、そこからだ」
オルフェンが告げると、室内の誰もが黙って立ち上がった。静かな空気の中、皆の目には確かに闘志が宿っていた。
---
2時間後、俺たちは拘置施設へと向かい、輸送車を走らせていた。暗い夜道の中、分割された装置が車の振動で揺れていた。
「調子はどうだ?」
「……正直に言って、めちゃくちゃ緊張してる」
そう運転席のミラが笑うと、俺は苦笑しながら答えた。
「当然だな。これはただの救出作戦じゃない。
今後の試金石になるからな」
ルナが後部モニターを確認する。
「政府の追跡なし。今のところ、順調」
俺は自分の頬を叩いて気合を入れた。
「よし、絶対に成功させよう」
---
施設外壁前までは無事に辿り着けた。冷たい風が吹き抜け、緊張が肌を刺す。
「組み立て開始」
俺の号令で各チームが動き出す。分割された装置が次々と連結され、回路を繋ぐと淡い光を放つ円筒が姿を現した。
「稼働確認、オールグリーン」
カイの声。
「内部の反応も検知。強化エージェント3、通常8。収容者は地下」
ルナが続けた。
「行くぞ。外壁を破砕する」
ミラが壁に向けて、パルス・ランチャーの銃口を向けた。
「ブラスト・ショット」
爆ぜるような青白い閃光が走り、分厚い壁が一瞬で吹き飛ぶ。
警報音が鳴り響いた。赤い光が点滅し、施設中に緊張が走る。
「プラナ・ウェーブ、発動!」
俺は装置の結晶に手をかざした。次の瞬間、全身のプラナが装置に流れ込み、空気が震えた。青い光が爆発的に広がり、世界が光に包まれる。
――来た!
見えない波動が周囲に広がり、地面が微かに震える。施設内部で、エージェントたちが苦悶の声を上げた。
「システム異常……制御不能……!」
「何が、起きて……いる……」
見張りの強化エージェント2名がその場で膝をつく。その目に、確かに困惑の色が宿っていた。
「成功だ……!」
俺の胸に歓喜が走る。だが――。
「……侵入者、発見」
冷たい声が、瓦礫の向こうから響いた。そこに立っていたのは、漆黒の強化スーツを纏った男。鋭い灰色の瞳、静かに構えたパルス・ブレード。その刀身が淡く光を放つ。
「特殊強化型兵士001、ライアン・ハリス」
彼は淡々と名乗った。
「精神耐性チップ、正常稼働。任務継続――対象排除を開始する」
平然としているその姿に、俺たちの空気が凍りつく――これが、対策チップの効果なのか。
彼の傍では2人の強化エージェントが制御を失い、錯乱したように呻いていた。
「……不適合者による精神干渉を感知。
標準型チップの無効化を確認」
だがそんな中、彼――ライアン・ハリスは淡々と呟いた。瞬間、彼の手に収まったパルス・ギアが高周波を放ち、赤い光が閃く。それはまるで、捕食者が牙を剥く瞬間のようだった。
「敵対勢力の排除を開始する」
低く冷たい声が、空気を切り裂く。
「来るわ!」
カイが叫ぶと同時にライアンが動いた。
「ディスク・アーツ《メテオフォール》」
次の瞬間、上空に無数の光球が出現し、隕石のように降り注いだ。地面が爆ぜ、衝撃波が空間を歪ませる。
「シールド!」
俺は咄嗟に防御壁を展開したが――耐えきれない。プラナの流出が一気に上がり、全身が焼けるように熱い。
「レイは装置の側を離れないで!カイはサポート!」
「了解!」
ルナの指示にカイが頷いた。
「私たちがライアンを引き受ける!」
ミラの言葉に、俺は歯を食いしばって頷いた。
---
「ルナ、一気にいくぞ」
「ええ」
ミラとルナが同時に跳び出した。2人のプラナが交差し、青と白の閃光が夜を切り裂く。
「ブラスト!」
「ストリーム!」
ミラ光弾が炸裂し――同時にルナの光の奔流が追撃する。だが、その両方を、ライアンは最小限の身動きでかわしていた。視線すら動かさず、まるで未来を読んでいるかのように。
「スプラッシュ!」
だが、回避が終わった瞬間、そこにカイが水流を放つ。さすがに避けきれなかったライアンは、後方へ押し流された。
「ブラスト・ショット」
ミラの銃から光の弾が連射され、ライアンはさらに距離をとる。
「目標の脅威レベルを修正。優先度を変更する」
ライアンの纏う空気が変わった。
「あっちの廃墟まで離れる」
「了解!」
ミラとルナは、連携を取りながらライアンを牽制していくが、ライアンは余裕を持って、その攻撃を捌いていた――まるで、データを収集するかのように。
「ディスク・ワード《クイック》」
その言葉に、あたりの空気が裂けた。ライアンの身体が光の残像を引きながら加速し、次の瞬間にはルナの背後に回っていた。
「速いっ!」
ルナがなんとか反応し、プラナ・ブレードで受け止める。パルスとプラナの光がぶつかり合い、火花が散った。
「くっ……!」
衝撃が広がり、空気が震える。
「ディスク・アーツ《サンダーボルト》」
雷光が走り、ルナを飲み込んだ。
「ルナっ!」
「シールドッ!」
辛うじて防御したルナだったが、吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
「……はぁ、はぁ……クソ、こいつ――化け物」
ライアンはその様子を冷静に観察していた。
「対象の戦闘能力を評価。脅威レベル、中。戦術レベルを上げる」
冷酷な声が、まるで処刑の宣告のように響く。
「ディスク・アーツ《サンダーストーム》」
複数の雷撃が同時に放たれ、空気が爆音で震える。
「ミスト!」
ミラはとっさに霧を展開した。白い煙幕が一帯を覆う。
「今だ、ルナ!」
「分かってる」
2人は霧の中で息を潜め、包囲するように動いた。しかし――
「熱感知システム起動。対象の位置を特定」
ライアンの目が赤く光った。
「ディスク・アーツ《フレア》」
閃光が爆ぜ、霧が一瞬で焼き払われた。
「しまった――!」
ライアンの姿が霧の中から現れ、次の瞬間、鋭い光の斬撃がルナを襲う。
「ディスク・アーツ《スラッシュ》」
再度、プラナ・ブレードと激突する。火花が散り、ルナの足元の地面が砕けた。
「ぐっ……!」
「ブラスト・ショット!」
ミラのプラナの銃弾が側面から飛ぶが、ライアンはそれを感知していた。軽く後方に跳び、2人の攻撃を同時にかわす。
「複数対象への同時対処が必要。戦術を変更する」
彼はそう呟くと、距離を取って構えを変えた。
「ディスク・アーツ《アイスランス》」
氷の槍が連続して放たれ、空気を切り裂く。鋭い氷柱が、まるで弾丸のような速度で2人を襲った。
「シールド!」「シールド!」
2人は必死に防御するが、氷の破片が肌を裂き、血が飛んだ。
「チップの制御による最適化ねぇ……無駄がなくて嫌になるわ」
ミラが息を切らしながら呟く。
「こっちの動きを常に先読みしてるみたい」
ルナが歯を食いしばった。
その間も、ライアンは微動だにせず、静かに相手の2人を観察していた。その沈着冷静な姿は、もはや戦闘兵器そのものだった。
---
俺は装置のそばで、混乱している2人の強化エージェントを見つめた。今なら容易にコネクトできるだろう――だが。
「レイ、コネクトを優先しろ」
通信機からオルフェンの声が飛ぶ。
「でも、2人が――」
「2人を信じろ。…時間との勝負だ。
プラナ・ウェーブの効果が切れる前に、チップを解除しろ」
俺は唇を噛み、決断した。
「……了解」
深呼吸して、心を落ち着かせる。
「ウェイクアップ」
意識が極限まで研ぎ澄まされる。俺は1番近くにいる強化エージェントに意識を向けた。
「コネクト」
プラナ・ウェーブに乗って、俺の意識が彼の深層領域へ沈み込む。灰色の精神世界のその奥――そこに、彼本来の人格と記憶があった。
『助けて……俺は……何をしてるんだ……?』
『家族に会いたい……妻と、子供に……』
『もう……誰も、殺したくない……』
その声は、途切れ途切れに震えていた。
「聞こえるか。今、チップの呪縛から解放する」
俺は制御回路に干渉し、ひとつひとつロックを解除していく。抑圧された人格が少しずつ蘇っていき、光が闇を押し返していくのが見えた。
『……ありがとう……俺は……やっと……』
繋がりが切れる直前、男の声が微かに震えた。
---
ミラたちとライアンの戦闘は、さらに激化していた。
「戦闘効率の低下を確認。出力を最大化。
トリプル・アーツ《メテオフォール》《サンダーストーム》《アイスランス》」
三種のアーツが同時展開され、空間そのものが爆ぜた。
「――っ、来るぞ!!」
「もう無茶苦茶」
「スプラッシュ!」「ミスト!」
2人は水流と霧を生み出し、一瞬だけ視界を隠す。それはすぐさま凍り付き、雷が弾ける。だが、隕石のように降り注ぐ光弾までは防げなかった。
「「シールド!」」
障壁を貫き、爆風が2人を吹き飛ばす。辺りに爆音が響いた。
「これはキツイ…」
壁にぶつかるのはなんとか「シールド」で防いたが、2人とも疲労が蓄積し始めていた。その一方、ライアンは全く疲れを見せない。
『時間稼ぎに徹しろ』
オルフェンの指示が飛ぶ。
『レイがコネクトを完了するまでなんとか持ちこたえるんだ』
「「了解」」
ミラとルナは廃工場の内部構造を利用しながら、ライアンを引きつけ続けた。
---
俺は歯を食いしばり、再びコネクトを発動した。もう1人の強化エージェントへ意識を飛ばす。その真っ暗な闇の中、怯えるような声が響いてきた。
『助けてくれ……もう、命令なんか聞きたくない……』
「大丈夫だ。もうすぐ自由になれる」
俺は残りのプラナを注ぎ込み、チップの制御信号を解除した。すると光が弾け、男の瞳に“感情の色”が戻る。
「ありがとう……本当に、ありがとう……」
彼は涙を流しながら俺を見た。
---
その頃、2人は限界を超えて戦い続けていた。
「ディスク・アーツ《エクスプロード》」
爆炎が爆発的に広がり、2人を飲み込む。
「スプラッシュ!」
「ブラスト・ショット!!」
ルナは咄嗟に水流を盾にし、ミラが銃撃で炎の残滓を吹き飛ばす。
「まだ……私たちは、やれる」
「この程度で、止まるわけないだろうが!」
2人のプラナが再び輝く。その光が、暗闇の中で一瞬だけライアンの無機質な瞳を照らした。
---
俺は2人目のコネクトを完了させ、息を吐いた。解放された2人が立ち上がり、俺に向かって頭を下げる。
「俺たちも手伝います」
「収容区画への道を案内できる」
「助かる。行こう」
3人で地下へと走る。背後では、雷鳴と炎がぶつかり合う轟音が響いていた。
収容施設の地下1階。そこに西部基地のメンバー12名が拘束されていた。
「レイ!」
リーダーのチェスターが俺を見て、歓喜の声を上げる。
「助けに来た。今すぐ拘束を解く」
『急いで!』
そこにカイからの通信が入る。
『プラナ・ウェーブの効果、残り5分!』
「分かってる!」
急ぎ全員を解放し、脱出ルートへ誘導を始めた。
「救出完了!支援部隊は2分後に撤収開始!
カイは2人の援護を!」
『わかったわ』
「ミラ、ルナ、それまで足止めを頼む」
『了解!』
通信の向こうから、2人の荒い呼吸が聞こえた。
発生装置は切り札だ――残していく訳にはいかない。撤収するにはギリギリだが、間に合うはずだ。
---
カイがミラたちに合流して、必死にライアンの足止めを続けていた。
「ディスク・アーツ《アイスランス》」
「ブラスト!!」
「「フレア!」」
ライアンの無数の氷の槍と、カイの放つ光弾。そして2人の放つ火球がぶつかり合う。死闘を続けていく内に、ミラとルナのプラナ・アーツは進化していた。
「ディスク・アーツ《サンダーボルト》」
「「ライトニング」」
雷撃と雷撃がぶつかり、周囲に弾けた。
「ストリーム!」
「ディスク・ワード《バリア》
その隙をついてカイの光の螺旋を放つが、ライアンは障壁でそれを防ぐ。ここに来て、何とか一進一退の攻防を繰り広げるところまで来ていた。
---
「分離完了です!」
「よし、撤退開始!トーマスたちは護衛だ。急げ!」
支援部隊の撤退を見て、俺は3人と合流する。
「撤退だ!」
「了解!」
「やっとかよ!」
「でも、あいつどうするの?」
ライアンは再度現れた俺を警戒しているようだった。
「敵の増援を確認。戦術を変更する」
「させない」
俺は、残ったプラナを振り絞り、ミストで周囲を覆った。
「無駄だ。熱感知システム作動………補足不可。再度実行」
霧の中で3人に「プロテクト」をかけて、音や熱を遮断した。そのまま一目散に撤退を開始する。
「ウォール」
霧の中に土の人影を作り出す――これで騙されてくれればいいが。俺たちは、急ぎその場から離れた。
その直後。
「ダブル・アーツ《サンダーストーム》《エクスプロード》」
ライアンが霧ごと周囲を吹き飛ばしたが、その時は俺たちは基地から脱出していた。
「敵の逃亡を確認…新たな命令はなし。基地の防衛任務に戻る」
---
「…なんとか振り切ったか!」
「まだ油断はできない。急ごう!」
しきりに後ろを確認するミラに、俺が叫ぶ。俺たちはそのまま走り続け、旧世界の地下トンネルに飛び込んだ。しばらく走ってから、ようやく足を止めた。
「……全員、生きてるか?」
俺の問いに、チェスターが頷く。
「負傷者はいるが、全員無事だ」
ミラとルナは壁に背を預け、疲労困憊のまま座り込んだ。
「はぁ……マジで死ぬかと思ったわ」
ミラが息を吐く。
「でも、やり遂げた」
「あれが“特殊強化型”……想像以上ですね」
ルナが微笑むが、カイの表情は固い。確かに、アイツはかなり厄介だった。
「次に戦う時は、こちらにも対抗策が必要だな」
---
なんとか全員で基地に戻ると、オルフェンが待っていた。
「西部基地メンバー12名、全員救出成功。
強化エージェント2名の人格解放。装置は有効。
…ただし、ライアン・ハリスにはプラナ・ウェーブは効きませんでした」
俺は報告を締めくくった。
「……やはりな」
オルフェンは深く息を吐いた。
「現在のプラナ・ウェーブでは、耐性チップを突破できない。
ならば――対抗手段を作るしかない」
その瞳には、確かな決意があった。
「プラナ・ウェーブの改良を進める。同時に、“コネクト対策チップ”を解析する」
「そして――セントラルタワー攻略計画を始動する」
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