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#38 プラナ・ウェーブ
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研究施設への潜入から、3日が経った。旧生体工学研究所の地下工房では、プラナ・ウェーブ発生装置の建造が本格的に開始されていた。各地のレジスタンス組織から派遣された技術者たちが、昼夜を問わず作業を続けている。薄暗い照明の中、無数のケーブルが床を走り、コンソールのモニターには常にデータの数値が流れ続けていた。
「材料の調達は順調です」
北部地区から来たエンジニア、デビッド・スミスが報告した。顔には疲労の色が見えるが、その声は誇りに満ちていた。
「プラナ結晶の配列調整も完了しています」
南部チームのセシリア・ジョーンズがそう続ける。彼女の手は油と粉塵で汚れていたが、その目はまっすぐに輝いている。
俺はドクター・ヴァインと並び、中央テーブルに投影された設計図を見つめていた。立体ホログラムに映る装置は、まるで巨大な心臓のように見える。
「この装置は、特定の周波数帯のプラナ・ウェーブを広範囲に放射する」
「どんな効果が…?」
説明をするヴァインに、俺は尋ねた。
「マイクロチップの電子回路を一時的に麻痺させることができる。
影響範囲は――半径約100メートルだ」
「100メートル……か」
思わず息を呑んだ。単体の強化兵を無力化できるだけでなく、小隊単位の敵すら一掃できる距離だ。
「効果時間は?」
「10分から15分。その間、チップの制御機能は完全に停止する」
「つまり、その時間内なら、相手に“直接”コネクトできる」
「その通りだ」
ヴァインがにやりと笑みを浮かべる。
「チップによる防御システムが働かないため、対象者の本来の人格領域にアクセスできる」
――これならアヤも救えるかもしれない。胸の奥に、淡い光が灯った気がした。
---
その日の午後。基地全体に緊急招集のアラートが鳴り響いた。
「政府内部から新しい情報が入った」
オルフェンが管制室の中央で会議を開いた。声には重みがある。
「トレント副局長からですか?」
「いや、別ルートだ。
政府研究施設に所属していた技術者――マーカス・ブラウン。
EE計画の実態に嫌気がさして、我々に接触してきた」
俺が聞くと、オルフェンは端末を操作しながら応えた。
「内部告発、か」
ミラが低くつぶやく。オルフェンの表情は険しく、声が一段と低くなった。
「彼からの報告によると、深刻な事態が発生した。
……西部地区のレジスタンス基地が、政府に発見された」
一瞬、部屋の空気が凍りついた。西部基地――俺たちと情報共有を行っていた重要な拠点の1つだ。
「メンバーはどうなった?」
ルナが尋ねる。
「12名、全員捕獲された。現在は居住区北部の拘置施設に収容されている」
「なぜ発見されたんです?」
カイが不安そうに声を上げる。
「新型の追跡システムによるものらしい」
オルフェンがマーカスの報告書を読み上げた。
「プラナ反応を探知する装置……政府が新たに開発した技術だそうだ」
――プラナ反応を追跡?俺の背筋に冷たいものが走る。それはつまり、プラナを使うたびに位置が特定されるということだ。
「じゃあ……俺たちの基地も――」
「ああ、発見される可能性が高い」
オルフェンが重くうなずく。
「だが、問題はそれだけではない。
…もう1つ、重要な情報がある」
オルフェンが別の資料を開いた。
「EE計画の最終段階が、すでに動き出している」
「まだ続いてるんですか……?」
俺が思わず言葉を漏らす。
「ああ。最後の2名の強化処置が、三日後に予定されている」
「対象者は?」
「1人はライアン・ハリス。元エリートエージェントだ」
オルフェンが端末に映る顔写真を指した。
「もう一人の詳細は……不明だ」
胸の奥がざわついた――まさか、アヤなのか。
「アヤの情報は?」
俺が問うと、オルフェンはしばらく沈黙した。
「彼女は……通常のEE計画とは異なる処置を受けているようだ」
「異なる……?」
「“特別強化プログラム”。マザーが直接監督しているそうだ」
オルフェンの声が静かに落ちる。
俺の心臓が激しく打った。マザーが――直接、しかも通常とは異なる処置とは何を意味するのか。
「いつ完了するんです?」
「7日から10日後だ。その後、完全統合計画の中核を担うエージェントとして投入される」
アヤが――敵の中枢を担う。頭が真っ白になったと同時に、何処か納得もしていた。
マザーなら、俺への切り札としてアヤをそう配置してもおかしくはない。
「更に極めつけは、完全統合計画の実施方法だ」
「どうやって……全住民を制御するんだ?」
ミラが訊いた。
「居住区全域に特殊な電波を発信し、マイクロチップを一斉に更新するらしい」
一瞬、誰も言葉を発せなかった。しばしの後、リーナが震える声で質問する。
「物理的な接触なしに、遠隔で全員を支配するってこと……?」
「その通りだ。発信源は、セントラルタワー。居住区の中心にそびえる、あの塔だ」
「セントラルタワー……」
俺は思わずそう呟いた。居住区の象徴のようにそびえる建造物。まさか、最初からそれが目的で――
「タワーの状況はどうなりました?」
「地上50階、地下10階。最下層にマザーのコア・プロセッサがあるのは変わらない。
ただ警備は以前より強化され想像を絶する厳重さとなったそうだ。
通常エージェント、強化エージェント、そして自動防御ドローン……三重の防衛ラインがある」
「わざわざご苦労な事だ」
ミラがお手上げと言うように軽口を叩くが、空気は重い。
「電波発信を阻止する方法は2つ。
タワーの電源システムを破壊するか、発信装置そのものを無効化する必要がある」
「……どっちも簡単じゃないわね」
ドクター・ヴァインの説明に、カイが唇を噛んだ。
「そこで、プラナ・ウェーブ発生装置の出番だ。
強化エージェントのチップを同時に無力化できれば、タワー侵入の突破口が開ける」
オルフェンの戦略を聞き、俺は理解する――装置の完成こそ、全計画の鍵となる。
だが、オルフェンはさらに険しい顔で言葉を続けた。
「しかし政府はすでに、対策技術の開発を始めているらしい」
「対策……?」
俺が聞き返す。
「特殊なチップだ。どうやらアヤがコネクトを受けた事で、その対策に設計されたものらしい。
精神干渉の遮断する為、プラナ・ウェーブにも耐性を示す可能性がある」
「つまり偶然にしても、我々の計画には邪魔になりそうだな」
ヴァインが吐き捨てると、オルフェンも頷いた。
「すでに試作品が完成し、一部の強化エージェントに適用されているそうだ」
一瞬で空気が張り詰めた。せっかくの希望が、打ち消されるような感覚。
「どの程度の数が?」
カイが問う。
「現時点では少数だ。おそらく10名程度だろう。
……だが、量産が始まれば状況は一変する」
――時間がない。
アヤの強化が完了する前に、対策チップが量産される前に、プラナ・ウェーブ装置を完成させなければならない。
---
翌日、旧生体工学研究所の地下工房は、まるで別世界のような熱気に包まれていた。プラナ・ウェーブ発生装置の建造は順調に進んでいる。組み立てられた各パーツが連結され、内部のエネルギー回路には大型の封印型プラナ結晶が埋め込まれていた。俺はヴァイン博士と並んで、ホログラムに映し出された装置の設計図を確認していた。
「…なるほど。プラナ・ウェーブの制御は、通常のコネクトより単純みたいです」
俺が言うと、ヴァインは手元の端末を操作しながら視線を上げた。
「具体的には?」
「特定の周波数を維持するだけでいい。コネクトのような精神同調や記憶同期は不要です。
ただし、放射範囲が広い分だけ、消費するプラナは膨大になります」
「消費量の見積もりは?」
「15分程度の起動を保つには……俺のプラナの7割前後を消費するかと」
ヴァインの目が一瞬だけ鋭く光った。
「つまり1度使えば、その日の戦闘は厳しいということだな」
「ええ。ただ、体への負担は小さい。一晩休めば、完全に回復できると思います」
「……それでも十分だ」
ヴァインは静かに頷いた。
「これが成功すれば、戦況は一変する。レイ、君のコネクトが鍵になる」
俺は小さく息を吐いた。この装置が完成すれば、アヤの奪還だけでなく――人類そのものの解放にも繋がる。
---
その夜、作業の音が途切れた静寂の中、通信端末の警告音が基地に鳴り響いた。オルフェンが急ぎ端末を操作すると、それはマーカス・ブラウンからの緊急連絡だった。
「状況が変わりました」
スピーカー越しの声には、明らかな焦りが滲んでいた。
「何が起きた?」
オルフェンが問う。
「西部基地のメンバーに対する尋問が始まっています。
このままでは、数日以内にあなた方の位置も特定される可能性が高い」
「……時間がないな」
オルフェンの低い声が、管制室の空気をさらに重くした。
「もう1つ伝えたいことがあります」
マーカスが一度息を呑み、続けた。
「EE計画の最終処置が前倒しされました。予定より2日早く――明日の午後に実施されます」
「明日……だと?」
俺は思わず声を上げた。
「対象はライアン・ハリス。
政府最強のエージェントの1人であり、対プラナ耐性チップの初の搭載者になる予定です」
ミラが腕を組み、険しい表情になった。
「つまり、プラナ・ウェーブが通用しない強化個体が誕生する、ってことか」
「その通りです」
マーカスが答えた。
「このままでは、政府側が我々の対抗策を上回る可能性があります」
---
通信が途絶えた瞬間、オルフェンが立ち上がった。
「緊急作戦会議を開く」
会議室にはすぐ全員が集められた。壁のモニターには、居住区の地図と複数の施設データが表示されている。
「装置の完成はいつだ?」
オルフェンがヴァインに問う。
「48時間後には稼働可能だ。ただし、対策チップに関する対抗手段は確立してない」
「構わん。まずは標準型への対策を完成させる」
オルフェンは即答した。
「対策個体への対応は、その後で考える」
俺は頷いた。焦りはあるが、今の段階で無理をすれば逆にすべてを失う。
「西部基地が陥落した以上、ここが発見されるのも時間の問題だ」
オルフェンが言葉を続けた。
「よって、装置完成後、2つの作戦を同時に実行する」
「2つ?」
俺の問いに答えるオルフェンの声には、並々ならぬ覚悟が感じられた。
「まず一つは、西部基地メンバーの救出だ。
彼らは居住区北部の拘置施設に収容されている。
そこには強化エージェント3名が警備を担当している」
ヴァインが腕を組み、静かに笑った。
「実戦テストには最適だな。プラナ・ウェーブの有効性を確認できる」
「その通りだ。装置の稼働テストと仲間の救出――どちらも成功させる」
ミラが手を挙げる。
「もう一つの作戦は?」
オルフェンの視線がモニターの中央――セントラルタワーに移った。
「完全統合計画の中枢を叩く。
マザーのメインシステムであるコア・プロセッサを破壊する」
カイが眉をひそめた。
「でも、あそこは鉄壁の守りですよ。侵入なんて――」
「容易ではない」
オルフェンがうなずいた。
「だが、プラナ・ウェーブ装置があれば状況は変わる。
強化エージェントが無力化されれば、わずかでも突破口が生まれる」
「ただし。対策チップ搭載者には通用しない可能性がある。
彼らの存在が最大の障害になる」
ヴァインがそう補足するも、重苦しい沈黙が落ちた。だが、やるしかないという事だけはメンバー全員が理解していた。
会議は深夜まで続いた。拘置施設の構造、セキュリティの更新周期、監視システムの盲点――あらゆる情報を照合し、成功率を限界まで引き上げる。
最終的に、オルフェンが結論を下した。
「まずは救出作戦を最優先にする。装置完成後、48時間以内に決行する」
全員が頷いた。
俺はその中で、ひときわ強く拳を握った。この任務で――俺たちの未来が決まる。
---
翌朝、装置建造は最終工程に入っていた。技術者たちは目の下にクマを作りながらも、手を止めることなく作業を続けている。
「電力供給ライン、安定しています」
「プラナ結晶の共鳴率、目標値を突破しました!」
デビットの報告にセシリアの声が重なる。
俺は装置の前に立った。円筒形の本体には無数の文様が刻まれ、中央のプラナ結晶が淡く青白く光を放っている。
まるで、鼓動を持つ生き物のように。
「この装置が――俺たちの希望になる」
「そうだ」
オルフェンが隣に立ち、静かに言った。
「だが、これは始まりに過ぎない。今は行動の時だ」
「……わかっています」
オルフェンは頷き、肩に手を置いた。
「アヤのことも、だ。まずは実戦テストを成功させる」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
「はい。…そして、アヤも救ってみせます」
西部基地メンバーの救出に、プラナ・ウェーブ装置の初投入。
そしてその先にある、アヤの奪還と、セントラルタワー攻略。
装置が完成するまで48時間――俺たちの新たな戦いが始まろうとしていた。
「材料の調達は順調です」
北部地区から来たエンジニア、デビッド・スミスが報告した。顔には疲労の色が見えるが、その声は誇りに満ちていた。
「プラナ結晶の配列調整も完了しています」
南部チームのセシリア・ジョーンズがそう続ける。彼女の手は油と粉塵で汚れていたが、その目はまっすぐに輝いている。
俺はドクター・ヴァインと並び、中央テーブルに投影された設計図を見つめていた。立体ホログラムに映る装置は、まるで巨大な心臓のように見える。
「この装置は、特定の周波数帯のプラナ・ウェーブを広範囲に放射する」
「どんな効果が…?」
説明をするヴァインに、俺は尋ねた。
「マイクロチップの電子回路を一時的に麻痺させることができる。
影響範囲は――半径約100メートルだ」
「100メートル……か」
思わず息を呑んだ。単体の強化兵を無力化できるだけでなく、小隊単位の敵すら一掃できる距離だ。
「効果時間は?」
「10分から15分。その間、チップの制御機能は完全に停止する」
「つまり、その時間内なら、相手に“直接”コネクトできる」
「その通りだ」
ヴァインがにやりと笑みを浮かべる。
「チップによる防御システムが働かないため、対象者の本来の人格領域にアクセスできる」
――これならアヤも救えるかもしれない。胸の奥に、淡い光が灯った気がした。
---
その日の午後。基地全体に緊急招集のアラートが鳴り響いた。
「政府内部から新しい情報が入った」
オルフェンが管制室の中央で会議を開いた。声には重みがある。
「トレント副局長からですか?」
「いや、別ルートだ。
政府研究施設に所属していた技術者――マーカス・ブラウン。
EE計画の実態に嫌気がさして、我々に接触してきた」
俺が聞くと、オルフェンは端末を操作しながら応えた。
「内部告発、か」
ミラが低くつぶやく。オルフェンの表情は険しく、声が一段と低くなった。
「彼からの報告によると、深刻な事態が発生した。
……西部地区のレジスタンス基地が、政府に発見された」
一瞬、部屋の空気が凍りついた。西部基地――俺たちと情報共有を行っていた重要な拠点の1つだ。
「メンバーはどうなった?」
ルナが尋ねる。
「12名、全員捕獲された。現在は居住区北部の拘置施設に収容されている」
「なぜ発見されたんです?」
カイが不安そうに声を上げる。
「新型の追跡システムによるものらしい」
オルフェンがマーカスの報告書を読み上げた。
「プラナ反応を探知する装置……政府が新たに開発した技術だそうだ」
――プラナ反応を追跡?俺の背筋に冷たいものが走る。それはつまり、プラナを使うたびに位置が特定されるということだ。
「じゃあ……俺たちの基地も――」
「ああ、発見される可能性が高い」
オルフェンが重くうなずく。
「だが、問題はそれだけではない。
…もう1つ、重要な情報がある」
オルフェンが別の資料を開いた。
「EE計画の最終段階が、すでに動き出している」
「まだ続いてるんですか……?」
俺が思わず言葉を漏らす。
「ああ。最後の2名の強化処置が、三日後に予定されている」
「対象者は?」
「1人はライアン・ハリス。元エリートエージェントだ」
オルフェンが端末に映る顔写真を指した。
「もう一人の詳細は……不明だ」
胸の奥がざわついた――まさか、アヤなのか。
「アヤの情報は?」
俺が問うと、オルフェンはしばらく沈黙した。
「彼女は……通常のEE計画とは異なる処置を受けているようだ」
「異なる……?」
「“特別強化プログラム”。マザーが直接監督しているそうだ」
オルフェンの声が静かに落ちる。
俺の心臓が激しく打った。マザーが――直接、しかも通常とは異なる処置とは何を意味するのか。
「いつ完了するんです?」
「7日から10日後だ。その後、完全統合計画の中核を担うエージェントとして投入される」
アヤが――敵の中枢を担う。頭が真っ白になったと同時に、何処か納得もしていた。
マザーなら、俺への切り札としてアヤをそう配置してもおかしくはない。
「更に極めつけは、完全統合計画の実施方法だ」
「どうやって……全住民を制御するんだ?」
ミラが訊いた。
「居住区全域に特殊な電波を発信し、マイクロチップを一斉に更新するらしい」
一瞬、誰も言葉を発せなかった。しばしの後、リーナが震える声で質問する。
「物理的な接触なしに、遠隔で全員を支配するってこと……?」
「その通りだ。発信源は、セントラルタワー。居住区の中心にそびえる、あの塔だ」
「セントラルタワー……」
俺は思わずそう呟いた。居住区の象徴のようにそびえる建造物。まさか、最初からそれが目的で――
「タワーの状況はどうなりました?」
「地上50階、地下10階。最下層にマザーのコア・プロセッサがあるのは変わらない。
ただ警備は以前より強化され想像を絶する厳重さとなったそうだ。
通常エージェント、強化エージェント、そして自動防御ドローン……三重の防衛ラインがある」
「わざわざご苦労な事だ」
ミラがお手上げと言うように軽口を叩くが、空気は重い。
「電波発信を阻止する方法は2つ。
タワーの電源システムを破壊するか、発信装置そのものを無効化する必要がある」
「……どっちも簡単じゃないわね」
ドクター・ヴァインの説明に、カイが唇を噛んだ。
「そこで、プラナ・ウェーブ発生装置の出番だ。
強化エージェントのチップを同時に無力化できれば、タワー侵入の突破口が開ける」
オルフェンの戦略を聞き、俺は理解する――装置の完成こそ、全計画の鍵となる。
だが、オルフェンはさらに険しい顔で言葉を続けた。
「しかし政府はすでに、対策技術の開発を始めているらしい」
「対策……?」
俺が聞き返す。
「特殊なチップだ。どうやらアヤがコネクトを受けた事で、その対策に設計されたものらしい。
精神干渉の遮断する為、プラナ・ウェーブにも耐性を示す可能性がある」
「つまり偶然にしても、我々の計画には邪魔になりそうだな」
ヴァインが吐き捨てると、オルフェンも頷いた。
「すでに試作品が完成し、一部の強化エージェントに適用されているそうだ」
一瞬で空気が張り詰めた。せっかくの希望が、打ち消されるような感覚。
「どの程度の数が?」
カイが問う。
「現時点では少数だ。おそらく10名程度だろう。
……だが、量産が始まれば状況は一変する」
――時間がない。
アヤの強化が完了する前に、対策チップが量産される前に、プラナ・ウェーブ装置を完成させなければならない。
---
翌日、旧生体工学研究所の地下工房は、まるで別世界のような熱気に包まれていた。プラナ・ウェーブ発生装置の建造は順調に進んでいる。組み立てられた各パーツが連結され、内部のエネルギー回路には大型の封印型プラナ結晶が埋め込まれていた。俺はヴァイン博士と並んで、ホログラムに映し出された装置の設計図を確認していた。
「…なるほど。プラナ・ウェーブの制御は、通常のコネクトより単純みたいです」
俺が言うと、ヴァインは手元の端末を操作しながら視線を上げた。
「具体的には?」
「特定の周波数を維持するだけでいい。コネクトのような精神同調や記憶同期は不要です。
ただし、放射範囲が広い分だけ、消費するプラナは膨大になります」
「消費量の見積もりは?」
「15分程度の起動を保つには……俺のプラナの7割前後を消費するかと」
ヴァインの目が一瞬だけ鋭く光った。
「つまり1度使えば、その日の戦闘は厳しいということだな」
「ええ。ただ、体への負担は小さい。一晩休めば、完全に回復できると思います」
「……それでも十分だ」
ヴァインは静かに頷いた。
「これが成功すれば、戦況は一変する。レイ、君のコネクトが鍵になる」
俺は小さく息を吐いた。この装置が完成すれば、アヤの奪還だけでなく――人類そのものの解放にも繋がる。
---
その夜、作業の音が途切れた静寂の中、通信端末の警告音が基地に鳴り響いた。オルフェンが急ぎ端末を操作すると、それはマーカス・ブラウンからの緊急連絡だった。
「状況が変わりました」
スピーカー越しの声には、明らかな焦りが滲んでいた。
「何が起きた?」
オルフェンが問う。
「西部基地のメンバーに対する尋問が始まっています。
このままでは、数日以内にあなた方の位置も特定される可能性が高い」
「……時間がないな」
オルフェンの低い声が、管制室の空気をさらに重くした。
「もう1つ伝えたいことがあります」
マーカスが一度息を呑み、続けた。
「EE計画の最終処置が前倒しされました。予定より2日早く――明日の午後に実施されます」
「明日……だと?」
俺は思わず声を上げた。
「対象はライアン・ハリス。
政府最強のエージェントの1人であり、対プラナ耐性チップの初の搭載者になる予定です」
ミラが腕を組み、険しい表情になった。
「つまり、プラナ・ウェーブが通用しない強化個体が誕生する、ってことか」
「その通りです」
マーカスが答えた。
「このままでは、政府側が我々の対抗策を上回る可能性があります」
---
通信が途絶えた瞬間、オルフェンが立ち上がった。
「緊急作戦会議を開く」
会議室にはすぐ全員が集められた。壁のモニターには、居住区の地図と複数の施設データが表示されている。
「装置の完成はいつだ?」
オルフェンがヴァインに問う。
「48時間後には稼働可能だ。ただし、対策チップに関する対抗手段は確立してない」
「構わん。まずは標準型への対策を完成させる」
オルフェンは即答した。
「対策個体への対応は、その後で考える」
俺は頷いた。焦りはあるが、今の段階で無理をすれば逆にすべてを失う。
「西部基地が陥落した以上、ここが発見されるのも時間の問題だ」
オルフェンが言葉を続けた。
「よって、装置完成後、2つの作戦を同時に実行する」
「2つ?」
俺の問いに答えるオルフェンの声には、並々ならぬ覚悟が感じられた。
「まず一つは、西部基地メンバーの救出だ。
彼らは居住区北部の拘置施設に収容されている。
そこには強化エージェント3名が警備を担当している」
ヴァインが腕を組み、静かに笑った。
「実戦テストには最適だな。プラナ・ウェーブの有効性を確認できる」
「その通りだ。装置の稼働テストと仲間の救出――どちらも成功させる」
ミラが手を挙げる。
「もう一つの作戦は?」
オルフェンの視線がモニターの中央――セントラルタワーに移った。
「完全統合計画の中枢を叩く。
マザーのメインシステムであるコア・プロセッサを破壊する」
カイが眉をひそめた。
「でも、あそこは鉄壁の守りですよ。侵入なんて――」
「容易ではない」
オルフェンがうなずいた。
「だが、プラナ・ウェーブ装置があれば状況は変わる。
強化エージェントが無力化されれば、わずかでも突破口が生まれる」
「ただし。対策チップ搭載者には通用しない可能性がある。
彼らの存在が最大の障害になる」
ヴァインがそう補足するも、重苦しい沈黙が落ちた。だが、やるしかないという事だけはメンバー全員が理解していた。
会議は深夜まで続いた。拘置施設の構造、セキュリティの更新周期、監視システムの盲点――あらゆる情報を照合し、成功率を限界まで引き上げる。
最終的に、オルフェンが結論を下した。
「まずは救出作戦を最優先にする。装置完成後、48時間以内に決行する」
全員が頷いた。
俺はその中で、ひときわ強く拳を握った。この任務で――俺たちの未来が決まる。
---
翌朝、装置建造は最終工程に入っていた。技術者たちは目の下にクマを作りながらも、手を止めることなく作業を続けている。
「電力供給ライン、安定しています」
「プラナ結晶の共鳴率、目標値を突破しました!」
デビットの報告にセシリアの声が重なる。
俺は装置の前に立った。円筒形の本体には無数の文様が刻まれ、中央のプラナ結晶が淡く青白く光を放っている。
まるで、鼓動を持つ生き物のように。
「この装置が――俺たちの希望になる」
「そうだ」
オルフェンが隣に立ち、静かに言った。
「だが、これは始まりに過ぎない。今は行動の時だ」
「……わかっています」
オルフェンは頷き、肩に手を置いた。
「アヤのことも、だ。まずは実戦テストを成功させる」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
「はい。…そして、アヤも救ってみせます」
西部基地メンバーの救出に、プラナ・ウェーブ装置の初投入。
そしてその先にある、アヤの奪還と、セントラルタワー攻略。
装置が完成するまで48時間――俺たちの新たな戦いが始まろうとしていた。
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シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
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