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対決
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国王の直轄部隊は,武力国家カーンの中でも最強部隊と言われている。その最強部隊が,入念な準備の行い,出発した。
その壮大な行進に,カーン国民も驚くとともに,国家の力をまざまざと見せつけることに成功した。
国王軍10万に対して,相手は,ただの山賊であり,総数1万しかいない。それなのに,兵士の士気は今までにないほど高かった。
それは,総大将である国王のヨハンが,鬼気迫る檄を飛ばしたからである。
「いいか,これから我々が行う戦いは,このカーン国において最大の戦いとなる。負けることは絶対に許されない。わたしは,この戦いに不退転の決意で臨むものである。
いいか高潔なる兵士達よ。正義は我々にある。正しい道を進む限り,神は我々を見放すことはない。決して相手を侮らず,全力で相手を叩きのめすのみだ。
我に命を捧げよ。さすれば,戦いののちの栄達も思いのままだ」
ヨハンの声に割れんばかりの歓声が響く。
「待ってろよ,全力で叩きつぶしてやる」
ヨハンは,情報部隊を総動員し,情報を細かく収集して分析した。その情報をもとに,会議も繰り返し行って,作戦の完璧な遂行のために,各部隊に徹底させた。
山賊がいる国境の付近を見上げる。思いを馳せながら,はやる気持ちをどうにか抑え込むのだった。
「サラ様,明日にも戦闘に入りそうです。国王軍の士気は高く,順調に戦いに勝つと思われます。」
サラは,このタイミングを待っていた。あまり早すぎると,国王軍に公爵派の反乱を悟られる危険性があった。また,遅すぎては,国王軍を迎え撃つのに,不十分な体制で望まなくてはならない。ベストのタイミングが今だったのだ。
「山賊に勝利するのにどれぐらいかかりそう?」
「遅くても3日以内には,山賊を蹴散らすのではないかと考えます」
とするならば,迎撃するのに準備するに,3日はある。公爵派全員が集合するには,ちょうどいい。
「よし,今よ。我々公爵派が,すべてを掴むときです。全員に伝えなさい。計画通り実行しますと」
サラの目が爛々と輝く。ついに出発の時が来た。天下を獲る日がすぐそこまできているのだ。公爵派の昂ぶりが,街中を覆った。
国王軍の旗が,山を覆い尽くさんばかりに広がる。総勢10万の軍勢が,国境付近に集まった。
「こう見ると壮観ですね」
昨日までどこに行っていたのか,サマンサに指示され,いなくなっていた,ターナが,初めて見る景色に,驚いている。
「これすべて敵だぜ。どうやったら勝てるんだよ」
ターナの暢気な声を非難するように,大男が叫んだ。みんな同じように苛立っている。
「そんなに大声で叫ばなくても聞こえてるわ。サマンサ様からみんなに指示があったわ」
ターナが,厳かな声でみんなを向いて言った。ターナと一緒に仕事をするようになってから,彼女の有能ぶりにみんなが認めるようになっていた。
相手の心理を見抜き,味方に的確に指示を出して,作戦を遂行することに抜群の力を発揮するのだ。それが,自信になっていったのか,次第に生き生きと活動するようになっていた。今では,サマンサが,ターナに重要な仕事を任せるまでになっている。
そんなサマンサが認めた女だ。みんなが,息を飲んでターナを見つめた。
「サマンサ様から一言。絶対に攻撃するな。です」
「はぁ?」
ターナの言葉に,山賊たちは,みんな唖然となる。これだけの人数差なのだ。こちらから仕掛けなければ,絶対に勝機はない。なのに,攻撃するなというのだ。みんなは口々に文句を言い始めた。
「ふざけるなよ。攻撃するなって言うのはどういうことだよ」
「サマンサ様は,国王軍にびびっちゃったんじゃないか。オレ達の気合いを見せてやろうぜ」
「喧嘩は先手必勝なんだ。勝つ道をこちらから逃してどうするんだよ」
あちかちから怒号が聞こえてくる。
ターナは,目を閉じ,大きく息を吸う。
『おまえは汚れていない。何のために生きていくのかを探せばいい』
ありのままの自分を認め,今自分ができることする。自分ができることは少ないかもしれない。でも,仲間達を守りたい,カーンの国を守りたい,そして国王陛下を守りたい。その気持ちだけは,わたしの中で間違いがないこと。
それは自信を持って言える。
「静かにーーーーーーーー。静かにしなさい。いいですか,これはサマンサ様が,わたしたちのために考えたことです。不満を言う者は,サマンサ様に従えないということですか?」
ターナの声がどこまでも遠くまで響いた。まるでサマンサが乗り移ったかのように。
それまで騒いでいた者達が,一斉に静かになった。
ターナは,周りを見渡し,にっこりと笑みを浮かべ,
「それでいいのです」
コップに入れた紅茶を飲むのだった。
断崖絶壁の上にサマンサはいた。強い風に,サマンサの髪がたなびく。
王国軍の方をじっと見つめている。
「サマンサ様,みんなへ指示をしました」
ターナは,サマンサの前で跪いた。
「大変なことを頼んですまなかったね」
「いいえ」
沈黙の時間が流れる。ターナは,サマンサの言葉を待っていた。
「何のために生きるか見つけられたかい?」
思いがけない言葉に,ターナは言葉が詰まる。
「違うのか?オレからそう見えたんだけど……」
「見つけ…・・られたような気がします」
そう今の自分ならはっきり言える。生きてるって実感がするのだ。もしかしたら,明日には死ぬかもしれない。それでも,精一杯生きたいと思う。
「そうか」
サマンサからはたった一言だった。だが,その言葉が,とても温かく感じた。
「周辺にいた公爵派のスパイ達はどうなった?」
「すべて捕まえ,抹殺しました。情報が漏れる心配はもうないかと思います」
再び静かな刻が流れる。やがて,
「みんなに新しい指示を伝えてくれ。明日いよいよだ。ターナ,心の準備はいいかい?」
サマンサは振り向き,ターナへ手を伸ばした。奴隷として牢屋に入れられていた時,サマンサが手を伸ばしてくれたあの時のように。
ターナは,しっかりと手を繋ぎ,頷いた。
清々しい朝だった。様々な鳥の鳴き声が聞こえる。
その中で,サマンサを中心に山賊側は戦闘態勢をとった。張り詰めた緊張に,鳥の鳴き声だけが絶壁に反射して響き渡る。
ついに王国軍が動いた。流れるようなスムーズな動きに,山賊側も唾を飲んだ。王国軍の旗が揺れる。
国王軍の先頭に,国王であるヨハンの姿が見える。
熱く激しい戦いの一日が始まった。
万全の体制で,王国軍への迎撃の態勢が整った。総勢10万人にも及ぶ。突然の裏切りに王国側で,街に残っていた貴族達は驚いたが,多勢に無勢で,兵を立ち上げ,闘おうとはしなかった。様子を見守り,今後の動向を探っていた。
サラは,苛立っていた。
急に国境付近の情報が,全く入らなくなったからだ。ただ,計算通り進めば,すでに山賊は討伐され,国王軍は,戻ってくるはずである。
サラは,全軍に気を引き締めるように指示を出した。そこへ,
「公爵様,王国軍が戻ってきました。総勢5万です。どうやら,ずいぶん戦闘が激しかったようで,人数を減らしています。」
哨戒の報告に,作戦本部は,頷いた。予想以上に,有利な戦いになりそうで,ほくそ笑んだ。
「聞いたか?王国軍は最強とはいえ,わずか5万だ。それに較べ,我が軍は10万。正攻法でいけば間違いなく勝てる」
「そうですな。王道の戦い方を見せてあげましょう。そして,我が軍の勝利を高らかに宣言しましょう」
すでに,勝ったも同然という雰囲気が流れている。
サラは絶対の自信をもって,作戦の開始を指示した。
その壮大な行進に,カーン国民も驚くとともに,国家の力をまざまざと見せつけることに成功した。
国王軍10万に対して,相手は,ただの山賊であり,総数1万しかいない。それなのに,兵士の士気は今までにないほど高かった。
それは,総大将である国王のヨハンが,鬼気迫る檄を飛ばしたからである。
「いいか,これから我々が行う戦いは,このカーン国において最大の戦いとなる。負けることは絶対に許されない。わたしは,この戦いに不退転の決意で臨むものである。
いいか高潔なる兵士達よ。正義は我々にある。正しい道を進む限り,神は我々を見放すことはない。決して相手を侮らず,全力で相手を叩きのめすのみだ。
我に命を捧げよ。さすれば,戦いののちの栄達も思いのままだ」
ヨハンの声に割れんばかりの歓声が響く。
「待ってろよ,全力で叩きつぶしてやる」
ヨハンは,情報部隊を総動員し,情報を細かく収集して分析した。その情報をもとに,会議も繰り返し行って,作戦の完璧な遂行のために,各部隊に徹底させた。
山賊がいる国境の付近を見上げる。思いを馳せながら,はやる気持ちをどうにか抑え込むのだった。
「サラ様,明日にも戦闘に入りそうです。国王軍の士気は高く,順調に戦いに勝つと思われます。」
サラは,このタイミングを待っていた。あまり早すぎると,国王軍に公爵派の反乱を悟られる危険性があった。また,遅すぎては,国王軍を迎え撃つのに,不十分な体制で望まなくてはならない。ベストのタイミングが今だったのだ。
「山賊に勝利するのにどれぐらいかかりそう?」
「遅くても3日以内には,山賊を蹴散らすのではないかと考えます」
とするならば,迎撃するのに準備するに,3日はある。公爵派全員が集合するには,ちょうどいい。
「よし,今よ。我々公爵派が,すべてを掴むときです。全員に伝えなさい。計画通り実行しますと」
サラの目が爛々と輝く。ついに出発の時が来た。天下を獲る日がすぐそこまできているのだ。公爵派の昂ぶりが,街中を覆った。
国王軍の旗が,山を覆い尽くさんばかりに広がる。総勢10万の軍勢が,国境付近に集まった。
「こう見ると壮観ですね」
昨日までどこに行っていたのか,サマンサに指示され,いなくなっていた,ターナが,初めて見る景色に,驚いている。
「これすべて敵だぜ。どうやったら勝てるんだよ」
ターナの暢気な声を非難するように,大男が叫んだ。みんな同じように苛立っている。
「そんなに大声で叫ばなくても聞こえてるわ。サマンサ様からみんなに指示があったわ」
ターナが,厳かな声でみんなを向いて言った。ターナと一緒に仕事をするようになってから,彼女の有能ぶりにみんなが認めるようになっていた。
相手の心理を見抜き,味方に的確に指示を出して,作戦を遂行することに抜群の力を発揮するのだ。それが,自信になっていったのか,次第に生き生きと活動するようになっていた。今では,サマンサが,ターナに重要な仕事を任せるまでになっている。
そんなサマンサが認めた女だ。みんなが,息を飲んでターナを見つめた。
「サマンサ様から一言。絶対に攻撃するな。です」
「はぁ?」
ターナの言葉に,山賊たちは,みんな唖然となる。これだけの人数差なのだ。こちらから仕掛けなければ,絶対に勝機はない。なのに,攻撃するなというのだ。みんなは口々に文句を言い始めた。
「ふざけるなよ。攻撃するなって言うのはどういうことだよ」
「サマンサ様は,国王軍にびびっちゃったんじゃないか。オレ達の気合いを見せてやろうぜ」
「喧嘩は先手必勝なんだ。勝つ道をこちらから逃してどうするんだよ」
あちかちから怒号が聞こえてくる。
ターナは,目を閉じ,大きく息を吸う。
『おまえは汚れていない。何のために生きていくのかを探せばいい』
ありのままの自分を認め,今自分ができることする。自分ができることは少ないかもしれない。でも,仲間達を守りたい,カーンの国を守りたい,そして国王陛下を守りたい。その気持ちだけは,わたしの中で間違いがないこと。
それは自信を持って言える。
「静かにーーーーーーーー。静かにしなさい。いいですか,これはサマンサ様が,わたしたちのために考えたことです。不満を言う者は,サマンサ様に従えないということですか?」
ターナの声がどこまでも遠くまで響いた。まるでサマンサが乗り移ったかのように。
それまで騒いでいた者達が,一斉に静かになった。
ターナは,周りを見渡し,にっこりと笑みを浮かべ,
「それでいいのです」
コップに入れた紅茶を飲むのだった。
断崖絶壁の上にサマンサはいた。強い風に,サマンサの髪がたなびく。
王国軍の方をじっと見つめている。
「サマンサ様,みんなへ指示をしました」
ターナは,サマンサの前で跪いた。
「大変なことを頼んですまなかったね」
「いいえ」
沈黙の時間が流れる。ターナは,サマンサの言葉を待っていた。
「何のために生きるか見つけられたかい?」
思いがけない言葉に,ターナは言葉が詰まる。
「違うのか?オレからそう見えたんだけど……」
「見つけ…・・られたような気がします」
そう今の自分ならはっきり言える。生きてるって実感がするのだ。もしかしたら,明日には死ぬかもしれない。それでも,精一杯生きたいと思う。
「そうか」
サマンサからはたった一言だった。だが,その言葉が,とても温かく感じた。
「周辺にいた公爵派のスパイ達はどうなった?」
「すべて捕まえ,抹殺しました。情報が漏れる心配はもうないかと思います」
再び静かな刻が流れる。やがて,
「みんなに新しい指示を伝えてくれ。明日いよいよだ。ターナ,心の準備はいいかい?」
サマンサは振り向き,ターナへ手を伸ばした。奴隷として牢屋に入れられていた時,サマンサが手を伸ばしてくれたあの時のように。
ターナは,しっかりと手を繋ぎ,頷いた。
清々しい朝だった。様々な鳥の鳴き声が聞こえる。
その中で,サマンサを中心に山賊側は戦闘態勢をとった。張り詰めた緊張に,鳥の鳴き声だけが絶壁に反射して響き渡る。
ついに王国軍が動いた。流れるようなスムーズな動きに,山賊側も唾を飲んだ。王国軍の旗が揺れる。
国王軍の先頭に,国王であるヨハンの姿が見える。
熱く激しい戦いの一日が始まった。
万全の体制で,王国軍への迎撃の態勢が整った。総勢10万人にも及ぶ。突然の裏切りに王国側で,街に残っていた貴族達は驚いたが,多勢に無勢で,兵を立ち上げ,闘おうとはしなかった。様子を見守り,今後の動向を探っていた。
サラは,苛立っていた。
急に国境付近の情報が,全く入らなくなったからだ。ただ,計算通り進めば,すでに山賊は討伐され,国王軍は,戻ってくるはずである。
サラは,全軍に気を引き締めるように指示を出した。そこへ,
「公爵様,王国軍が戻ってきました。総勢5万です。どうやら,ずいぶん戦闘が激しかったようで,人数を減らしています。」
哨戒の報告に,作戦本部は,頷いた。予想以上に,有利な戦いになりそうで,ほくそ笑んだ。
「聞いたか?王国軍は最強とはいえ,わずか5万だ。それに較べ,我が軍は10万。正攻法でいけば間違いなく勝てる」
「そうですな。王道の戦い方を見せてあげましょう。そして,我が軍の勝利を高らかに宣言しましょう」
すでに,勝ったも同然という雰囲気が流れている。
サラは絶対の自信をもって,作戦の開始を指示した。
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