任せてもいいですかーあなたとモーニングキスがしたいー

也菜いくみ

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がらコーヒーを飲む春臣が、怒っているのか呆れているのか自分には判断が難しい。
 春臣は篠山の恋人であるのだから、今朝の自分たちの姿には、なにかしら思うことがあったはずだ。なにせいくら見張りのために篠山と自分がいっしょのベッドに寝ているのだとしても、彼に見られてしまったふたりの距離は、男同士にしては近すぎる。

 そもそも篠山のベッドはキングサイズで、充分にゆとりがあるのだ。にもかかわらず自分はべったりと彼に貼りつかれていた。しかも彼の腕を枕にして、素っ裸でだ。それを春臣が見て、快く思うはずはない。
(バレたかな? バレたよな? どうしよう。あれだけ春臣くんのまえでは、篠山さんと距離を置くように注意していたのに。よりにもよって、あんなところを見られてしまうだなんて)

 いつも情事のあとは神野がベッドに伏しているあいだに、篠山が身体を拭って残滓ざんしの始末をしてくれる。今朝もまったく記憶にはなかったが、神野の身体は清潔にされており、例え裸でくっついて寝ていたとしても、一見しただけではふたりがなにをしていたかだなんて普通なら気づかないだろう。
 しかし篠山がゲイだということを春臣が知っていて、しかも彼が篠山の恋人であるのならば、勘づいてもおかしくはない。むしろ自分たちになにもなかったとしても、あの状況を目のあたりにしたのならば、その恋人である春臣は疑ってしかるべきだ。

(春臣くん普段通りに見えるけど、実は怒ってたりする? それとも悲しんでたり……?)
 ぎりっと心臓が痛んだ神野は身を竦ませた。判決をまつ罪人はきっとこんな気持ちに違いない。いっそ白黒はっきりしてどっちつかずのこの状況から抜けだしたいのだが、さすがに春臣に自分たちのことに気づいていますか? と聞く勇気はなかった。

 彼にはいままでたくさん助けられているが、それがなくても自分は彼のことが大好きで、相性がいいと思えるはじめての友だちだ。せっかく親しくなれたのに、嫌われてしまうのは嫌だった。
 バレたとしても正直に話して自分と篠山とのあいだに恋愛感情が一切ないということをわかってもらえたら、許してもらえるだろうか。
 でももしまったく春臣が気づいていないのならば、このまま隠して通して一生の秘密にしておきたい。嫌われたくないのももちろんだが、なにより彼を悲しませたくなかった。
 そのためにも自分は篠山とのああいった関係は金輪際止めて、一刻でもはやくあの家を出なければならない。

 気鬱で箸が止まり気味な神野に、「はやく食べないと休憩おわるよ?」と春臣が声をかけてくれたが、罪悪感に打ちひしがれた神野は、重い顔を上げられないまま「うん」と返すだけで精一杯だった。
「祐樹、今日少しだけいつもの店につきあって」
 昼の休憩後、持ち場に戻る自分を見送ったあとは春臣は酒造工場に出かけると云った。彼はちょくちょく、そこに出いりするようになっていた。そしてよくあの梅酒を買ってくる。春臣が考えた梅酒を使ったカクテルが、今度店で提供されることになったそうだ。

「ついでに夕飯も店で食べて帰ろ? 匡彦さんには俺から連絡しておくから」
「……はい」
 返事に少し間があいてしまったのは、迷ってしまったからだ。彼の心の裡がわからないいまは、彼と長くいっしょにいることは心臓に悪い。
 しかしそんな春臣とよりも、自分がいまもっとも顔をあわせたくないのが篠山だった。少しでも帰宅時間が遅くなるのなら、正直ありがたいのかもしれない。



 昨夜は寝込みを襲われた。
 篠山が自分を起こしてまで挑んでくることはじめてのことだったので、その時も一瞬戸惑ってしまったのだが、そのあとあれだけ彼に焦らされたことには、本当に驚いていた。
 そしてどうやら篠山は神野の身体の最奥の部分の、どこがいいところで、どこをどうされるとどう反応するかを熟知しているらしい。昨夜のひどく揶揄的なセックスで、神野は自分の肉体がすっかり篠山に支配されていることに気づいたのだ。
 いつも射精するのにあんなに簡単に昇りつめられていたのは、篠山の巧みな手管と神野の肉体を網羅してのことだったのだろう。

「俺、早漏じゃなかったんだ……」
 思わず口から零れた言葉に、ぎょっとして周囲を見回した。幸いそれぞれが担当のプレス機についている。だったらいまの言葉はだれにも聞こえてはいないはずだ。みんな耳栓をしているのだから。
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