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「おい、吉野。おまえ今度はなんの作戦だよ?」
「へ? 特になんの企画もないけど?」
「そんなわけないだろうが。コレ着て、いったい俊明とどうするつもりだったんだ?」
「はぁ? 俺が着るわけないでしょ?」

 ちょっと怒ったふうな大智に、潤太は「なに云ってるの先輩ったら」と、手をぱたぱた振って笑う。 

「じゃあ、これ、どういうつもりで俊にやった? ふつう、こういうもんは彼女に着せてよろこぶもんだろうが?」
「えっ?」
 大智のセリフに笑いをひっこめ、眉根を寄せた潤太はぐりんと俊明に向く。

「先輩っ、彼女いたのっ⁉」
「いません。大智余計なこと云わないで」
 すかさずされた否定に、潤太は安堵して胸を撫でおろした。

「あー、びっくりした。大智先輩、驚かさないでよ。――こういうのは季節を愉しむためのものなんだよ? パーティで着たり、壁に飾ったりして使えばいいじゃないか」
「誰が壁に飾るんだよ。んなの、訊いたことないわ。よくもそんなモノ、プレゼントする気になったな? こういうのはな、彼女に着てもらうもんなんだ。もしコイツに彼女いたなら、今頃コレをその女に着せてエロエロしてただろうよ」

「え、えろ……えろ……? ?」
「それって自虐か? それとも吉野は、マジでそういうこと考えなかったのか?」
「ガッ、ガ――ン‼」

 ここまで云われてようやく潤太は、俊明に別の恋人がいたとしたなら、敵に塩を送ることになっていたのだと気づいた。

「先輩がフリーでよかったぁ。あっ、違う。俺がいるからフリーじゃない!」
「……本気で考えてなかったんだな。ふつう考えてると思うだろ? だからてっきり、俺はお前がまた、なんか企んでいるんかと思ったんだよ。馬鹿な作戦を!」
「あ、また俺のこと馬鹿って云った! でもなんで作戦なんかで、俺が女装なんかするんだよ? そんなのするわけないでしょ、やだなぁ大智先輩ったら、あはははは」
「お前なぁっ」
 大智が大きな溜息をついた。

「ついこのあいだ、スカート穿いて校内を走りまわっていたのは、どこのどいつなんだよ。もう忘れたのか? つうか、言葉遣い! 俺、お前の一個上! 先輩!」
「ああ。あれね。あのときのスカートは、女装じゃなくてを演出するのに穿いただけだから、ノーカンノーカン」
 別に女の子の恰好をするのが目的だったわけじゃない。

 それにしても、彼女がいなくてなおかつこれを飾らないとしたら、ほかになにに使おうか? 潤太は大智の手に移っていたワンピースの裾をひっぱると首を捻った。

「じゃぁ、兄ちゃんはなんでコレを見ていいなっていったんだろ?」
「だからそれは、おまえの兄貴がエロいってことだよ。どっかのキャバ嬢が着てるとことか考えたんだよ。もしくは、彼女にか?」
「むっかーっ! 大智先輩、失礼なこと云わないで! 兄ちゃんは、そんなひとじゃないですぅ」

 兄にはいま恋人はいないそうだが、いたとしてもあの立派な兄がこういった衣装をエロ目的で恋人に着せるわけがない。

「ほかに、うーん、なんに使えるのかな? ゴスペルのときの仮装?」
「だからエロだって」
「吉野、僕は吉野が云ったので正解だと思うよ」
 そこまで黙ってふたりのやりとりを聞いていた俊明が、大智からワンピースを取りあげた。

「それって? 飾って愉しむってこと?」
「そう。見て楽しむ。」
「ほらね! やっぱり。だってさ、大智先輩!」

 ほらみろよ、とでもいうふうに得意げな顔で潤太が大智を見ると、彼は呆れた顔をして「俊、お前なぁ……」と従兄弟を咎めた。

「……ただし、壁に飾るんじゃなくって着ているのを、だよ?」
「……だから、お前なぁ」
「というわけだから、はやく着て見せて、吉野」

 俊明が真顔でワンピースを差しだしてきた。
「へ?」
   意味が分からず潤太の目が点になる。
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