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「やめろよっ、重いって! 大智先輩っ‼」
 潤太は大智の顔を両手で挟んで遠ざけると、眼力を込めてキッと睨みつけた。
 ところが正面から見据えた大智の眉間には、険しい皺が寄っていて。じっと見下されているうちに、潤太は彼をたじろがせるどころか、逆に困惑させられてしまった。

(もしかして俺が悪いの? 大智先輩、なんでそんな顔してるんだよぉ)
「もっかいだけ……、いいか?」
 しかも低く歪んだ声まで聞かされてしまい、潤太はなんだか胸が苦しくなる。大智がつらそうに見えるのだ。

(よくないよ。……俺だってほんとはしたいけど。だって、だってもう、チンコがやばくなってるんだもん。だからこれ以上はもう、絶対ダメなんだもん!)

 こんな他人ひとの家でそんなことになったら、いったいどうすればいいと云うのだ? せめて自分の家だったらなら、トイレに用を足しに行くふりをして、こっそり出してくることができたのかもしれないけども。

(断ってもいいよね? いや、断るしかないよね!)
 返事は決まっているのに、でも悩まし気な顔で見下ろしてくる大智に、「だめ」とは云いにくい。それにさっき俊明とあれだけたくさんのキスをしておいて、大智とは一回だけというのは不公平かもしれない。

「う、う~ん」
 しかしだ。俊明とは触れるだけのフレンチキスばっかりだった。場所は唇に限らなかったけど……。
(べ、べろは、一回だけ、ちょっとだけ、一瞬だけ入ってきただけだもんね。先輩は大智先輩みたいにベロベロ、ベロベロしてないもん!)

 俊明の舌は潤太の唇のあわいをたった数回、ヌルヌルと出たり入ったりしただけだ。そして最後にたった一度だけ、お互いの舌先が触れあった。

 このとき。うかつにも俊明のキスを反芻してしまった潤太の全身を、微弱な電流が走り抜けた。ぞくぞくぞくと全身を総毛だたせ、ピクリと震えた潤太を大智は見逃さない。

「なに? なんか思い出しちゃった? それとも俺に期待した?」
(ギャーッ、俺のバカバカ。なに勃たせちゃってるんだよぉぉぉ)
 結局自分の回想でフル勃起した潤太の股間を揶揄からかうようにして、大智が腹を擦りつけてきた。

「やっ!」
「それって、俺としたキスとかアレコレで? それともアイツのこと想像して?」

 低い声音で問われて。意地悪されている気すらしてくる。「知らないっ」とそっぽを向いた潤太に、大智は結局返事を聞かないで、唇を重ねてきた。強引に舌を差しこもうとしてくるのを、ぐっと歯を噛みしめて抵抗する。

「だめ、先輩、これ以上したら、俺、やばいって」
 顔を逸らして訴えた潤太の大きな瞳が涙に揺れる。
「そんなに嫌がることないだろ? それとっもそれって、やっぱアイツのほうが好きだから?」
「……へ?」

(こんなタイミングでなんでそんなこと訊くの?)
 大智と触れあっていて自分はこんなにもドキドキしているのに。こんなに熱い身体を持て余しているのに。

「なんでそん――」
「いいから答えろ。吉野は、俺よりも俊のほうが好きなのか?」
(やっぱり怒っている……)
 なんで大智先輩はそんなことを訊いてくるの? やっぱり自分はなにか失敗していた?
真剣な恋人の表情に潤太の目のまえがふいに暗くなる。
 自分の大智を好きという気持ちが疑われている? 彼に信用されていない?

(それともそう思わせる態度を自分がとっていた? どうしよう。どうしたらいいんだろう)
 そもそもこんな状態では自分はうまく答えられる自信がない。

 動揺する潤太の顎が大智に掴まれて固定されると、そこへまた彼の顔が下りてきた。ここで抵抗したら大智がどんな気持ちになるかまったくわからない。だから潤太はおとなしく瞳を閉じたのだ。
「ぅんっ……あっ……あっ……」
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