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王都炎上篇
第14話 《幼女さんはどうにか王都へ入りたい》
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竜人族との戦闘が、つい昨日のこと――。
「うーん……」
草原にぽつんと立つ、古びた木造の家。時刻は昼時。
《災禍の魔女》イブキは、自宅横の地面を睨みつけながら、唸っていた。
「もうちょっと、こっち……ここかな」
独り言をぼやきながら、イブキが地面に手の平を触れる。すると、地面が小さくうねり上がり、独りでに土地が耕され始めた。これも魔術の力である。イブキは、この異世界生活に順応するべく、自給自足の生活を試みようとしていたのだ。
(だって、《災禍の魔女》さんは王都に入れねーし……)
ちっ、と舌打ちをしつつ、耕された畑を眺めてなにを植えるか思案する。この間もらった野菜から、種を取り出して植えてみるか? うまくいくかはわからないが、時間はたっぷりあるし、試してみてもいいかもしれない。
延々とうなり続けていると、イブキの耳元で吐息混じりの声が聞こえた。
「なにやってるんですか、イブキさん」
「ぬわあっ!」
集中しすぎていて、誰かがこんな近くまで接近していたことに気づかなかった。イブキは情けない声を上げて、紫髪を揺らしながら振り返る。
綺麗な金髪に、細身の体。胸はそこそこあり、凛々しい目をしている。青と白の、見慣れた制服に身を包んでいた。
氷花騎士団第2部隊隊長、シャル=リーゼロットだった。
イブキは空いた口をそのままに、シャルへとまくし立てる。幼女らしい、舌足らずの口調で、
「び、びっくりさせるな、シャル! もっとふつーに話しかけろ!」
「イブキさんが呼んだんじゃないですか。頼まれていたことについて、調べてきたんですよ」
「たしかにわたしが呼んだけど……ってまあいいや。助かるよ、シャル」
「私、頑張って調べましたよ」
「ああ……わかってるよ、ありがとう」
シャルの整った顔が、どんどん近づいてくる。美人に見つめられると、同性のイブキだって恥ずかしい。シャルは、美人が台無しになるくらい「でれー」っと笑って、
「だから……えへへ……、ぎゅーさせてください。私たち二人きりですよ。ほっぺたもぷにぷにさせてください。ほら、イブキさん……」
また、シャルの可愛いものに目がないビョーキが発動している。たしかに、そんなことを条件に調べ物をしてもらっていたっけ、と思い返しつつも、イブキはシャルの顔を押しやる。
「あ、後でね! 先に、調べた内容を教えてよ」
「……」
シャルが半目になり、じとっとした視線を向けてくる。「約束、破るんですか?」とでも言いたげな目だ。こうなっては仕方ない。イブキはほっぺたを差し出し、好きなだけぷにぷにさせた。すごく、恥ずかしかった。
どれくらいかして、満足したシャルが凛々しい表情を取り戻す。二重人格なのか? この人。
「こほん。まず一つ目ですが……ブレインさんは、たしかにエネガルム墓地の墓守でした。直接話してはいませんが、老人の方みたいですね」
「ふむ。早とちりはいけないけど、ハーレッドの言うことは、嘘じゃなさそうね。そいつが、竜人族となにか関わりを持っていることは間違いない……。予言の件は?」
「予言を統括している大司教は、塔の中にいて面会できなさそうです。少なくとも、私たち氷花騎士団では、権力すら及びませんでした」
「やっぱり、そうだよなぁ……」
イブキは、雲ひとつない青空を見上げ、ため息をついた。
イブキの計画を達成するためには、どうしても王都エネガルムへ入る必要がある。ブレインと会い、大司教とも会う必要がある。だが、イブキは嫌われ者の《災禍の魔女》だ。検問で止められるに決まっている。
たとえそれが氷花騎士団の隊長であるシャルが付いていても、だ。
(シャルにこれ以上迷惑は掛けられないし……)
シャルには、なにをするつもりなのかは全て伝えているが、こればっかりは巻き込むわけにはいかない。
悩みこくっていると、イブキは「あっ」と声を漏らした。大事なことを忘れていた。
「ドナーは大丈夫なの?」
シャルも思い出したように「ああ」と呟いた。ドナー、可哀相すぎないか?
「ドナルド副団長は無事ですよ。すでに治療を受け、今ではリハビリを続けています」
「不死身かよ。昨日今日でリハビリ必要ねーじゃん」
おっと、また口が悪くなってしまった。シャルは苦笑した。
「また、ドナルド副団長と遊びに来ます。……では、私は氷花騎士団本部へ戻ります。立場上、エネガルムへの侵入については、協力できませんが……」
イブキは身振り手振りで「そんなことない!」を体現した。
「その気持ちだけで嬉しいわよ。私を信じてくれて、ありがとうね」
「いえ。リリスも、あなたのことが気に入ったようですし。――ところで、これは私の独り言なのですが、今は使われていない地下水路が、エネガルムには存在しているようですよ? 街の中から外へと繋がっているみたいですけど、古い水路なんか、誰もチェックしてないでしょうね」
そしてシャルはにやりとした。まったく、この度胸と対応力が、シャルを今の立場まで押し上げたのだろう。
イブキも、わざとらしくため息をついた。
「あーあ。エネガルムに、どうにか侵入できないかなぁ?」
「うーん……」
草原にぽつんと立つ、古びた木造の家。時刻は昼時。
《災禍の魔女》イブキは、自宅横の地面を睨みつけながら、唸っていた。
「もうちょっと、こっち……ここかな」
独り言をぼやきながら、イブキが地面に手の平を触れる。すると、地面が小さくうねり上がり、独りでに土地が耕され始めた。これも魔術の力である。イブキは、この異世界生活に順応するべく、自給自足の生活を試みようとしていたのだ。
(だって、《災禍の魔女》さんは王都に入れねーし……)
ちっ、と舌打ちをしつつ、耕された畑を眺めてなにを植えるか思案する。この間もらった野菜から、種を取り出して植えてみるか? うまくいくかはわからないが、時間はたっぷりあるし、試してみてもいいかもしれない。
延々とうなり続けていると、イブキの耳元で吐息混じりの声が聞こえた。
「なにやってるんですか、イブキさん」
「ぬわあっ!」
集中しすぎていて、誰かがこんな近くまで接近していたことに気づかなかった。イブキは情けない声を上げて、紫髪を揺らしながら振り返る。
綺麗な金髪に、細身の体。胸はそこそこあり、凛々しい目をしている。青と白の、見慣れた制服に身を包んでいた。
氷花騎士団第2部隊隊長、シャル=リーゼロットだった。
イブキは空いた口をそのままに、シャルへとまくし立てる。幼女らしい、舌足らずの口調で、
「び、びっくりさせるな、シャル! もっとふつーに話しかけろ!」
「イブキさんが呼んだんじゃないですか。頼まれていたことについて、調べてきたんですよ」
「たしかにわたしが呼んだけど……ってまあいいや。助かるよ、シャル」
「私、頑張って調べましたよ」
「ああ……わかってるよ、ありがとう」
シャルの整った顔が、どんどん近づいてくる。美人に見つめられると、同性のイブキだって恥ずかしい。シャルは、美人が台無しになるくらい「でれー」っと笑って、
「だから……えへへ……、ぎゅーさせてください。私たち二人きりですよ。ほっぺたもぷにぷにさせてください。ほら、イブキさん……」
また、シャルの可愛いものに目がないビョーキが発動している。たしかに、そんなことを条件に調べ物をしてもらっていたっけ、と思い返しつつも、イブキはシャルの顔を押しやる。
「あ、後でね! 先に、調べた内容を教えてよ」
「……」
シャルが半目になり、じとっとした視線を向けてくる。「約束、破るんですか?」とでも言いたげな目だ。こうなっては仕方ない。イブキはほっぺたを差し出し、好きなだけぷにぷにさせた。すごく、恥ずかしかった。
どれくらいかして、満足したシャルが凛々しい表情を取り戻す。二重人格なのか? この人。
「こほん。まず一つ目ですが……ブレインさんは、たしかにエネガルム墓地の墓守でした。直接話してはいませんが、老人の方みたいですね」
「ふむ。早とちりはいけないけど、ハーレッドの言うことは、嘘じゃなさそうね。そいつが、竜人族となにか関わりを持っていることは間違いない……。予言の件は?」
「予言を統括している大司教は、塔の中にいて面会できなさそうです。少なくとも、私たち氷花騎士団では、権力すら及びませんでした」
「やっぱり、そうだよなぁ……」
イブキは、雲ひとつない青空を見上げ、ため息をついた。
イブキの計画を達成するためには、どうしても王都エネガルムへ入る必要がある。ブレインと会い、大司教とも会う必要がある。だが、イブキは嫌われ者の《災禍の魔女》だ。検問で止められるに決まっている。
たとえそれが氷花騎士団の隊長であるシャルが付いていても、だ。
(シャルにこれ以上迷惑は掛けられないし……)
シャルには、なにをするつもりなのかは全て伝えているが、こればっかりは巻き込むわけにはいかない。
悩みこくっていると、イブキは「あっ」と声を漏らした。大事なことを忘れていた。
「ドナーは大丈夫なの?」
シャルも思い出したように「ああ」と呟いた。ドナー、可哀相すぎないか?
「ドナルド副団長は無事ですよ。すでに治療を受け、今ではリハビリを続けています」
「不死身かよ。昨日今日でリハビリ必要ねーじゃん」
おっと、また口が悪くなってしまった。シャルは苦笑した。
「また、ドナルド副団長と遊びに来ます。……では、私は氷花騎士団本部へ戻ります。立場上、エネガルムへの侵入については、協力できませんが……」
イブキは身振り手振りで「そんなことない!」を体現した。
「その気持ちだけで嬉しいわよ。私を信じてくれて、ありがとうね」
「いえ。リリスも、あなたのことが気に入ったようですし。――ところで、これは私の独り言なのですが、今は使われていない地下水路が、エネガルムには存在しているようですよ? 街の中から外へと繋がっているみたいですけど、古い水路なんか、誰もチェックしてないでしょうね」
そしてシャルはにやりとした。まったく、この度胸と対応力が、シャルを今の立場まで押し上げたのだろう。
イブキも、わざとらしくため息をついた。
「あーあ。エネガルムに、どうにか侵入できないかなぁ?」
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