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王都炎上篇
第15話 《すにーきんぐ・みっしょん》
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エネガルムの東西南北にはそれぞれ門が立っており、検問を実施している。隣街や別の大陸から来た者など、様々な人々がここを行き来しているのだ。エネガルムは水路に囲まれていて、検問は全て石橋の上で行われていた。
西の検問所。その橋の下で、イブキがなにやらひそひそとやっている。
(おっ、これかな?)
イブキの目前には、大きくくり抜かれた巨大な空洞があった。それはエネガルムへ向けて奥へと続いており、入り口は錆びた鉄柵で守られていた。日中ではあるが、この空洞は暗くてなにも見えない。
これこそが、シャルが言っていた地下水路に違いない。
イブキが錆びた鉄柵に触れる。力を入れてみるが、びくともしない。見た目はどうであれ、簡単に壊せそうにはなかった。
「……」
イブキは考えた。首元の紋章のタトゥーが赤く輝く。
直後、触れた鉄柵がゴムのように柔らかくなった。引っ張れば簡単に伸びるほどにだ。
柔らかくなった鉄柵を押しのけ、イブキは地下水路の中へと足を踏み入れる。通り過ぎると、鉄柵は元の性質に戻っていた。
続けて魔術を使う。
「魔力を目に集中……視覚補正、《暗視》……」
唱えると、真っ暗でなにも見えなていなかったのが嘘かのように、地下水路の奥まではっきりと見えるようになった。シャルの言葉通り、水が流れている気配はない。臭いは問題ないが、埃っぽくて息がしづらい。
イブキは、魔術の使い方をはっきりと把握しているわけではない。ただ、イブキが命令した通りに事象が引き起こされ、唱えたとおりに身体能力が向上する、という点だけは理解していた。もちろん、全てがそうなるわけではないが。
魔術にもできないことがあるのは事実だ。あの時、ドナーの傷を治せなかったのは、つまりはそういうことだろう。
魔術は、まだまだ実験が必要そうだ。
どんどん奥へと進んでいく。イブキの足音が、規則的に木霊する。暗闇の中を静かに歩く様はまるでスパイ映画そのものだ。
(ふっ、すにーきんぐ・みっしょん開始よ)
とかなんとかふざけながらも、イブキは歩みを止めない。
途中、分かれ道に出た。左右どちらも似たような道だ。
「どっちでも一緒かなぁ……」
呟いただけだが、イブキの声が反響する。近くの壁を小さな虫が這っており、イブキがひっと息を飲む。虫は苦手だった。
(早く抜けたい……どっちでもいいや!)
イブキはとりあえず左の道へ進むことにした。それから何度も分岐を繰り返し、ようやく登れそうなハシゴを見つけた。上から、かすかに光が差し込んでいる。イブキは小さな体でハシゴを上り、地上に耳を傾けた。
足音や話し声が聞こえる。ここから出でもしたら、《災禍の魔女》でなくても驚かれて氷花騎士団へ差し出されるのがオチだ。
イブキは仕方なく引き返し、別の道を探し始めた。
またどれくらいかして、ハシゴを見つけた。今度は、話し声も足音もしなかった。
マンホールを魔術の力で少し押し上げ、隙間から周囲を見渡す。四方を確認したが、人気はない。どこかの裏路地みたいだった。
イブキは地下水路から出て、マンホールを元の位置に戻す。もちろん、魔術で。
《暗視》の魔術を解いて、それからローブの埃を払い、フードを深く被った。これで、顔を隠せる。少し怪しいかもしれないが、《災禍の魔女》の代名詞でもある『紫髪』と『首元のタトゥー』を隠せればそれでいい。
「……さて」
イブキは幼女らしい大きな目で辺りに視線を配る。ここがどこなのかすらわかっていない。まずは、ブレインとやらに会いに行きたいところだが、肝心の墓地がどこにあるのか、地図がほしいところだ。
(誰かに訊くわけにもいかないし、広場になら案内板とかあるかな。あー……スマホがあれば……!!)
元の世界で愛用していたスマホを思い浮かべつつ、イブキは広場を目指し歩き始めた。
西の検問所。その橋の下で、イブキがなにやらひそひそとやっている。
(おっ、これかな?)
イブキの目前には、大きくくり抜かれた巨大な空洞があった。それはエネガルムへ向けて奥へと続いており、入り口は錆びた鉄柵で守られていた。日中ではあるが、この空洞は暗くてなにも見えない。
これこそが、シャルが言っていた地下水路に違いない。
イブキが錆びた鉄柵に触れる。力を入れてみるが、びくともしない。見た目はどうであれ、簡単に壊せそうにはなかった。
「……」
イブキは考えた。首元の紋章のタトゥーが赤く輝く。
直後、触れた鉄柵がゴムのように柔らかくなった。引っ張れば簡単に伸びるほどにだ。
柔らかくなった鉄柵を押しのけ、イブキは地下水路の中へと足を踏み入れる。通り過ぎると、鉄柵は元の性質に戻っていた。
続けて魔術を使う。
「魔力を目に集中……視覚補正、《暗視》……」
唱えると、真っ暗でなにも見えなていなかったのが嘘かのように、地下水路の奥まではっきりと見えるようになった。シャルの言葉通り、水が流れている気配はない。臭いは問題ないが、埃っぽくて息がしづらい。
イブキは、魔術の使い方をはっきりと把握しているわけではない。ただ、イブキが命令した通りに事象が引き起こされ、唱えたとおりに身体能力が向上する、という点だけは理解していた。もちろん、全てがそうなるわけではないが。
魔術にもできないことがあるのは事実だ。あの時、ドナーの傷を治せなかったのは、つまりはそういうことだろう。
魔術は、まだまだ実験が必要そうだ。
どんどん奥へと進んでいく。イブキの足音が、規則的に木霊する。暗闇の中を静かに歩く様はまるでスパイ映画そのものだ。
(ふっ、すにーきんぐ・みっしょん開始よ)
とかなんとかふざけながらも、イブキは歩みを止めない。
途中、分かれ道に出た。左右どちらも似たような道だ。
「どっちでも一緒かなぁ……」
呟いただけだが、イブキの声が反響する。近くの壁を小さな虫が這っており、イブキがひっと息を飲む。虫は苦手だった。
(早く抜けたい……どっちでもいいや!)
イブキはとりあえず左の道へ進むことにした。それから何度も分岐を繰り返し、ようやく登れそうなハシゴを見つけた。上から、かすかに光が差し込んでいる。イブキは小さな体でハシゴを上り、地上に耳を傾けた。
足音や話し声が聞こえる。ここから出でもしたら、《災禍の魔女》でなくても驚かれて氷花騎士団へ差し出されるのがオチだ。
イブキは仕方なく引き返し、別の道を探し始めた。
またどれくらいかして、ハシゴを見つけた。今度は、話し声も足音もしなかった。
マンホールを魔術の力で少し押し上げ、隙間から周囲を見渡す。四方を確認したが、人気はない。どこかの裏路地みたいだった。
イブキは地下水路から出て、マンホールを元の位置に戻す。もちろん、魔術で。
《暗視》の魔術を解いて、それからローブの埃を払い、フードを深く被った。これで、顔を隠せる。少し怪しいかもしれないが、《災禍の魔女》の代名詞でもある『紫髪』と『首元のタトゥー』を隠せればそれでいい。
「……さて」
イブキは幼女らしい大きな目で辺りに視線を配る。ここがどこなのかすらわかっていない。まずは、ブレインとやらに会いに行きたいところだが、肝心の墓地がどこにあるのか、地図がほしいところだ。
(誰かに訊くわけにもいかないし、広場になら案内板とかあるかな。あー……スマホがあれば……!!)
元の世界で愛用していたスマホを思い浮かべつつ、イブキは広場を目指し歩き始めた。
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