社畜OL(22)、魔女(9)になる~どうやら世界を滅ぼす魔女のようです~

ありすぶるー

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王都炎上篇

第18話 《一年前の予言 ①》

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「むふー……」

 シャワーを浴びて満足したイブキが、浴室から出てきた。体が温まったせいで、頬も紅潮している。着替えを持ってきていないので、仕方なくいつものTシャツにハーフパンツの格好だ。ローブだけは、壁に掛けさせてもらっている。

 この小屋は、イブキが住んでいる場所よりも快適だった。埃っぽさもないし、少しだけ広い。 
 ブレインがせっせと料理の支度をしている。すでに、テーブルが何品かの料理で埋め尽くされていた。水々しいサラダに、よく焼かれたなにかわからない肉。木の実を練り込んだパンもあり、いい匂いのするスープまで用意されていた。

「おおぅ」

 無意識の内に、よだれが出そうになってしまう。今までは氷花騎士団から配当されるものでしのいできたから、こんな美味しそうな手料理を食べる機会なんてなかった。イブキは料理スキルが壊滅的にダメなので、なおさらだ。

「さあ、食べましょう。料理の腕には自信があるんです」

 イブキは言われるがままに椅子に腰掛け、料理に食らいついた。肉はまるで柔らかい牛肉のようだった。本当は違うのだろうが、味は似ている。スープもコーンスープに似ていて、とても美味しかった。
 イブキが頬張る様子をブレインは楽しげに眺めている。イブキはフォークを持つ手を止め、申し訳なさそうに訊いた。

「……な、なに?」

「いえ。誰かと料理を食べるのなんて久しぶりなのでね。やはり、美味しそうに食べてくれる姿は、見ていてとても嬉しいものです」
 
「すごく美味しいですよ。お肉のこのソースも、大好きです」

「ありがとうございます。私は元々料理人でね。当時のレシピを参考にしているんです」

「料理人かぁ……今度教えてもらおかな」

「ええ、いつでもいいですよ」
 
 そしてブレインはにっこりと笑った。

 二人で料理を平らげると、今度はハーブティーを用意してくれた。甘い匂いがする。イブキは猫舌なので、根気強く冷ましているとブレインがそっと口を開いた。

「では……なぜ、私が竜人族へ協力したのか、お話しましょう」

 イブキはティーカップを置いて、ブレインの顔をじっと見つめた。ブレインは、机の上に視線を這わせている。まるで過去を思い返すように。

「少し、昔話をしましょう。何十年も昔、私は現役の料理人で、自分のお店を構えていました。ある日、新しいレシピのために、ここから北にある山……竜人族が住む山へ香草を取りに行ったんです。ですが道は険しく、前日に雨が降っていたこともあり、道から外れ滑落してしまったんです。気がつくと、私は谷底で倒れていました。片足を負傷し、歩ける状態ではなかったんです」

 ブレインが自分の膝に手を触れる。

「その山には人は寄り付きません。危険な魔物が出るとも噂されていました。絶望に打ちひしがれていたその時、私は『彼女』に出会いました」

「彼女?」

「ええ。竜人族の女性です。その女性は、怪我をした私を竜人族の里へ案内してくれました。竜人族は、人間である私を受け入れ、介抱してくれたのです。足が治るまでの間、私は里で暮らし続けました。代わりに、手料理を振る舞ったのです。あの時のみんなの顔は一生忘れません。料理人をやってきて良かったと思えた瞬間でした」

 イブキはようやくハーブティーに口をつけた。ハーブの香りと、はちみつのような甘さが口いっぱいに広がる。

 ブレインは続けた。

「私は竜人族と親密になり、そして、『彼女』と恋に落ちました」

「き、急ですね」

「恋なんてそんなものですよ」

(わたしが恋愛経験ないだけで、そんなものなのか……?)

 悔しくなってきたが、今は抑えるとしよう。

「竜人族の里を去る頃、『彼女』は私に付いてくると言ってくれました。里のみんなも賛成してくれて、私達は一緒に住むことになったのです。あの頃は、とても楽しかった。二人でお店を切り盛りしていたんです。竜人族である彼女は見た目も出会った頃から変わっていないので、年の差のカップルに見えたのかもしれないですけどね。そして……悲劇が起こりました」
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