21 / 25
王都炎上篇
第21話 《次の手がかり》
しおりを挟む
イブキは咳払いをして、単刀直入に訊くことにした。
「一年前の予言についてだけど」
最後まで聞かずに、フィオは床を――正しくは、下の階層を指差した。
「じゃあ、下にれっつごー」
「えっ、教えてくれんの? ふつー、《災禍の魔女》には教えなくない?」
我ながら本末転倒な事を言っているとイブキは自覚していたが、言わずにはいられなかった。だってこの子、おかしい。
「お友達が欲しかったから、全然いいよぉ」
(なんでそうなる? 一悶着覚悟してたのに!)
フィオは続ける。まあ、今回は良しとしよう。
「でもあたし、丁度その時期に入れ替わりで大司教になったから、その頃の予言は詳しくは知らない。前任の大司教が、急にいなくなっちゃったんだよねー。下の本棚に、世界中の予言を時系列ごとにまとめてあるから、見に行こー」
あの本棚に予言がまとめられている? 確かに、本がずらりと並んでいたが、あんな方法で管理されているとは。
フィオを追って、イブキも階段まで戻っていく。どれくらいか降りて、降りて、降りて――フィオが一つの本棚の前で立ち止まった。
「一年前の予言は、ここー。どの予言を《災禍の魔女》は探してるのー?」
首をかしげて純粋無垢な仕草で問いかけるフィオ。イブキは棚を見上げながら、
「竜人族に関する予言よ。エネガルムを竜人族が火の海にする、っていう……」
「わかった。あたしも一緒に探すー」
背の小さい二人には、高い位置の本棚が届かないと思われた。だがその心配は杞憂で終わった。近くのパネルで、本棚の上段と下段を入れ替えることができるようになっていたからだ。便利……。
取り出した本には目次があった。そこに、大まかな予言の内容が書いてあり、そのページまでめくると、詳細が書いてあった。
自然災害が起きる予言、別大陸で起こる感染症についての予言など、様々だ。
しかし、肝心の竜人族に関する予言が見当たらない。2時間ほど掛けて、管理されている本の目次を全て網羅したが、情報が全く無い。
イブキは隣で眠りこけているフィオへ疑いの眼差しを向けた。
「予言が見当たらないわよ。全然管理できてないじゃん。うちの『総務部門』が知ったら激おこ案件よ」
いつも、稟議申請と、備品管理と、経費管理と……総務部門とは激戦を繰り広げてきた。まあ、イブキは入社してまもなかったので、観戦していただけだが。
「そーむ……? 全ての予言は、ここにあるはずだよー」
フィオは当たり前のように言い切る。一つ、予言についてのシステムで、確認したいことがあったのを思い出した。
「そういえば、リムル神のお告げは、どうやって世界中に広められるの?」
「大司教が、各大陸の司教にそれぞれの予言を伝えるんだよー。そして、大陸ごとの代表組織に伝えられるの。この大陸なら、魔法七星。別の大陸なら、別の組織、ってねー。このヴォルシオーネ大陸では、予言は大司教から直接魔法七星に伝えられてるよー」
これは初耳だった。全大陸の予言を統括しているのが『大司教』で、個別に大陸の予言を統括しているのが『司教』らしい。うーむ、難しい。
「誰かが、『本』を持ち出すことはありえる?」
「魔法七星の誰かなら。貸し出した履歴を探ってみるねー」
フィオは、近くのパネルを操作して、ログを遡り始めた。そして、「おぅ」と変な声を上げた。
「一人、竜人族に関する予言の本を、一年前から借り続けてる人がいるー」
「やっぱちゃんと管理できてないじゃん!! 一年って!!」
「入れ替わりの時期だったから、仕方ないよぅー」
フィオが操作するパネルを覗き込む。そこには、ある人物の名前が記載されていた。イブキは声に出して読み上げてみた。
「……レーベ=シルビオ? 誰?」
「魔法七星の一人だよー。シルフの加護……風魔法を使うよ」
「どこにいるの?」
イブキは会いに行く気満々だ。このレーベとやらが怪しい。まずは直接会って話をしたいところだ。そいつが、竜人族討伐の指揮を取った魔法七星なら、囚われた竜人族たちの手がかりもあるかもしれない。
正直、竜人族の件はイブキには直接関係のない話だ。だが、関わった以上放っておくことはできない。
イブキが努めていたブラック企業でも、そうだった。
『仲間を見捨ててはいけない』。誰かがサビ残する時は、みんなも一緒だ。今回の件も、似たようなもの?だ。
イブキの問いかけに、フィオは「んー」と小さく唸った。
「レーベは、お酒大好き。この時間はいつも、広場前の酒場で呑んでるらしい」
「ありがとう。早速、行ってみるわ。ところで……一つ聞きたいんだけど。《災禍の魔女》の予言って、本当なの?」
「うん」
「即答かい!」
希望を一ミリも持たせてくれないフィオ。
「お告げを聞いたの、あたしだもんねー」
「……予言なんて、信じね―」
イブキはいつもどおりの悪態を付く。
すると、フィオは階段に視線を落とした。
「あたしも、こんなこと、したくない」
「じゃあなんで……」
「大司教になるには、前任者が予言を受けて、後任を指名するのー。けど前任者が行方不明になったから、代わりの誰かを探す必要があった。適正があったのが、あたしだけだったから、仕方なく」
どうして、こんな少女が大司教に選ばれたのかイブキはわかっていなかった。だが、なるほど。魔法と同じで、お告げを聞くのにも素質が関係しているということだろうか。
「家族は、賛成してくれたの?」
「ううん。家族はいないよ。あたしは、孤児だったからねー」
当たり前にいうフィオに、イブキは言葉を失った。どうにか取り繕おうとしていると、フィオが不器用な笑みを浮かべた。
「早く行かないと、レーベに会えないよー」
「わ、わかってるわよ」
フィオに急かされ、イブキは階段を降り始める。だが途中で足を止めた。まだ、フィオが見送ってくれている。
イブキは少しだけ声を張り上げた。
「また、遊びに来るから!」
フィオの反応を伺う前に、イブキは駆け出す。
魔法七星、レーベ=シルビオ――。いったい、どんな人物なのだろうか?
「一年前の予言についてだけど」
最後まで聞かずに、フィオは床を――正しくは、下の階層を指差した。
「じゃあ、下にれっつごー」
「えっ、教えてくれんの? ふつー、《災禍の魔女》には教えなくない?」
我ながら本末転倒な事を言っているとイブキは自覚していたが、言わずにはいられなかった。だってこの子、おかしい。
「お友達が欲しかったから、全然いいよぉ」
(なんでそうなる? 一悶着覚悟してたのに!)
フィオは続ける。まあ、今回は良しとしよう。
「でもあたし、丁度その時期に入れ替わりで大司教になったから、その頃の予言は詳しくは知らない。前任の大司教が、急にいなくなっちゃったんだよねー。下の本棚に、世界中の予言を時系列ごとにまとめてあるから、見に行こー」
あの本棚に予言がまとめられている? 確かに、本がずらりと並んでいたが、あんな方法で管理されているとは。
フィオを追って、イブキも階段まで戻っていく。どれくらいか降りて、降りて、降りて――フィオが一つの本棚の前で立ち止まった。
「一年前の予言は、ここー。どの予言を《災禍の魔女》は探してるのー?」
首をかしげて純粋無垢な仕草で問いかけるフィオ。イブキは棚を見上げながら、
「竜人族に関する予言よ。エネガルムを竜人族が火の海にする、っていう……」
「わかった。あたしも一緒に探すー」
背の小さい二人には、高い位置の本棚が届かないと思われた。だがその心配は杞憂で終わった。近くのパネルで、本棚の上段と下段を入れ替えることができるようになっていたからだ。便利……。
取り出した本には目次があった。そこに、大まかな予言の内容が書いてあり、そのページまでめくると、詳細が書いてあった。
自然災害が起きる予言、別大陸で起こる感染症についての予言など、様々だ。
しかし、肝心の竜人族に関する予言が見当たらない。2時間ほど掛けて、管理されている本の目次を全て網羅したが、情報が全く無い。
イブキは隣で眠りこけているフィオへ疑いの眼差しを向けた。
「予言が見当たらないわよ。全然管理できてないじゃん。うちの『総務部門』が知ったら激おこ案件よ」
いつも、稟議申請と、備品管理と、経費管理と……総務部門とは激戦を繰り広げてきた。まあ、イブキは入社してまもなかったので、観戦していただけだが。
「そーむ……? 全ての予言は、ここにあるはずだよー」
フィオは当たり前のように言い切る。一つ、予言についてのシステムで、確認したいことがあったのを思い出した。
「そういえば、リムル神のお告げは、どうやって世界中に広められるの?」
「大司教が、各大陸の司教にそれぞれの予言を伝えるんだよー。そして、大陸ごとの代表組織に伝えられるの。この大陸なら、魔法七星。別の大陸なら、別の組織、ってねー。このヴォルシオーネ大陸では、予言は大司教から直接魔法七星に伝えられてるよー」
これは初耳だった。全大陸の予言を統括しているのが『大司教』で、個別に大陸の予言を統括しているのが『司教』らしい。うーむ、難しい。
「誰かが、『本』を持ち出すことはありえる?」
「魔法七星の誰かなら。貸し出した履歴を探ってみるねー」
フィオは、近くのパネルを操作して、ログを遡り始めた。そして、「おぅ」と変な声を上げた。
「一人、竜人族に関する予言の本を、一年前から借り続けてる人がいるー」
「やっぱちゃんと管理できてないじゃん!! 一年って!!」
「入れ替わりの時期だったから、仕方ないよぅー」
フィオが操作するパネルを覗き込む。そこには、ある人物の名前が記載されていた。イブキは声に出して読み上げてみた。
「……レーベ=シルビオ? 誰?」
「魔法七星の一人だよー。シルフの加護……風魔法を使うよ」
「どこにいるの?」
イブキは会いに行く気満々だ。このレーベとやらが怪しい。まずは直接会って話をしたいところだ。そいつが、竜人族討伐の指揮を取った魔法七星なら、囚われた竜人族たちの手がかりもあるかもしれない。
正直、竜人族の件はイブキには直接関係のない話だ。だが、関わった以上放っておくことはできない。
イブキが努めていたブラック企業でも、そうだった。
『仲間を見捨ててはいけない』。誰かがサビ残する時は、みんなも一緒だ。今回の件も、似たようなもの?だ。
イブキの問いかけに、フィオは「んー」と小さく唸った。
「レーベは、お酒大好き。この時間はいつも、広場前の酒場で呑んでるらしい」
「ありがとう。早速、行ってみるわ。ところで……一つ聞きたいんだけど。《災禍の魔女》の予言って、本当なの?」
「うん」
「即答かい!」
希望を一ミリも持たせてくれないフィオ。
「お告げを聞いたの、あたしだもんねー」
「……予言なんて、信じね―」
イブキはいつもどおりの悪態を付く。
すると、フィオは階段に視線を落とした。
「あたしも、こんなこと、したくない」
「じゃあなんで……」
「大司教になるには、前任者が予言を受けて、後任を指名するのー。けど前任者が行方不明になったから、代わりの誰かを探す必要があった。適正があったのが、あたしだけだったから、仕方なく」
どうして、こんな少女が大司教に選ばれたのかイブキはわかっていなかった。だが、なるほど。魔法と同じで、お告げを聞くのにも素質が関係しているということだろうか。
「家族は、賛成してくれたの?」
「ううん。家族はいないよ。あたしは、孤児だったからねー」
当たり前にいうフィオに、イブキは言葉を失った。どうにか取り繕おうとしていると、フィオが不器用な笑みを浮かべた。
「早く行かないと、レーベに会えないよー」
「わ、わかってるわよ」
フィオに急かされ、イブキは階段を降り始める。だが途中で足を止めた。まだ、フィオが見送ってくれている。
イブキは少しだけ声を張り上げた。
「また、遊びに来るから!」
フィオの反応を伺う前に、イブキは駆け出す。
魔法七星、レーベ=シルビオ――。いったい、どんな人物なのだろうか?
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる