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王都炎上篇
第24話 《母の予言》
しおりを挟むレーベは、喉の奥で笑った。手をひらひらとさせる、馬鹿にしたような仕草で。
「あらぁ? なんのことかしら」
「とぼけないで」
イブキは奥歯を噛みしめる。
予言の内容は、こうだ。
『レーベが、竜人族を使った《実験》を企む』
『竜人族がエネガルムを襲うという予言を逆手に、レーベが竜人族討伐隊を結成する(捕獲の目的)』
『竜人族の里を強襲し、何人かを捕獲する』
『捕獲した竜人族を使って、《実験》を開始する』
『実験の末、レーベは新たな力を手に入れる』
『囚われた仲間を救うため、竜人族がエネガルムになだれ込む』
『竜人族との激闘の最中、王都は火の海へ堕ちる』
『だがレーベは生き延び、新たな力を宿した最強の魔法使いとなる』
予言に書いてある、《実験》がわからない。イブキは予言の書の表紙をそっと撫でる。
「ここに、全部書いてあったわ。《実験》ってなんなの?」
「知りたいのかしらぁ?」
「黙って、答えなさいよ」
レーベはイブキをじっと見下ろしている。
「竜人族が持つ《竜爪》の力を、アタシの体に取り込む実験よ。まだ、未完成だけどね」
ハーレッドとの戦いで見たことがある。片腕に、竜の爪の力を宿すという竜人族ならではの力だったはずだ。あの強力な力に、ドナーもシャルも翻弄されていた。
「……最終的には、あなたはその力を手に入れるってことね」
「ええ。だから、予言の通りに事を進める必要があったのよ。そうすれば、アタシは最強の魔法使いになれる」
ここまでは想像ができる。ただ、一つだけわからないことがあった。
「――どうやって、あなたが黒幕だってことを隠し続けていたの?」
「簡単なことよ。当時、そのお告げを聞いた大司教は、アタシの母親だったの。母は、アタシにその予言を伝えてきた。アタシの気持ちを入れ替えさせ、未来を変えようとしたのよ。だけど、リムル神のお告げは絶対だわ。この予言を魔法七星へ伝えたら、アタシは間違いなく殺されるか、監獄島へと送り込まれる。だから、母は『竜人族が王都を火の海にする』という結果だけを伝えたのよ。ふふっ、大した息子愛でしょう? だけど、それが間違いだったってわけね。フィオちゃんは何も知らないから、誤魔化すのも簡単だったわ」
そんなこと、あっていいものなのか。
そういえば、現在の大司教であるフィオが言っていたではないか。前任の大司教が、丁度一年前に行方不明になったと……。
イブキは生唾を飲み込む。
「お母さんは、どうしたの……?」
「自ら命を絶ったわ。大司教としての責務を全うできなかった、とね。悲しかったわ。だから、母の遺体を庭に埋葬して誓ったの。母の命を無駄にしないためにも、最後の母の予言を守ろうとね。だから、この予言の書だけは処分しなかったのよ。母の、形見とも言えるものだから。そのせいで、あなたにバレたのだけどねぇ」
イブキはぞっとして、庭の方を一瞥し、レーベへと視線を戻した。
(狂ってる――)
レーベは、それこそが母のためになると本気でそう考えているのだ。
この予言をなかったことにするには、対象を消す――つまり、レーベを殺すしかないのか。
(いや……さっき、レーベは『殺す』か『監獄島へと送り込む』、って言っていたわ)
つまり、『監獄島』へ送り込むことも、予言を覆すのではなく、なかったことにするための手段なのかもしれない。
(だから、魔女裁判の時に、わたしを監獄島へ送り込もうとしたんだわ)
それなら話が早い。
イブキは意識を集中させる。まずは、レーベをこの場で捕らえ、氷花騎士団へと突き出す。監獄島へ投獄するのは、その後だ。
イブキには魔術がある。相手を捉えるなど容易いことのはずだった。
(……あ、れ?)
しかし、イブキの様子がどことなく違った。視界がぼやけ、レーベへピントが合わない。視界が、ぐにゃりと歪む……。
体から力が抜ける。イブキは、机にもたれ掛かりながら、自分の体になにが起きているのかわかっていなかった。
イブキの呼吸が荒くなる。幼女らしいふっくらとした頬が、まるで熱でもあるかのように紅潮していった。
「……っ。なん、で……」
レーベを見る。余裕たっぷりな表情。まるで「計画通り」と言わんばかりの態度。
「うふふ。さっきのジュースに、おまじないを入れておいたのよん。お子ちゃまには、効きすぎたかしらぁ?」
単純な思考もままならない。思考が、体が痺れる。
精神と体が分離されるような感覚。イブキは、そのまま床に倒れ込んでしまった。
「くっく……じゃあ、予言の続きを始めましょうか!!」
声たかだかにレーベが宣言する。
そこで、イブキの意識は途絶えた――。
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