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王都炎上篇
第25話 《牢屋の中で》
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「う……」
どれくらいか経った頃、冷たい床の上でイブキはようやく目を覚ました。未だに頭がずきずきして、意識がぼうっとする。
手足には鉄枷をつけられている。どうにか起き上がると、周りを見渡した。
気を失う直前にいた書斎とは、場所が変わっている。コンクリートの壁と天井。正面には鉄格子がある。部屋の片隅には簡易トイレ。通路を挟んだ対面側にも、同じ構造の部屋があった。全体的に薄暗くて、じめじめしている。
(くっそ、捕まったのか、わたし……)
レーベの仕業で間違いないだろう。ここがどこなのかはさっぱりわからないが。
だが、こんな鉄枷も、牢屋も、イブキには無意味だ。いつも通り、魔術を使おうとする。だが、首元のタトゥーは輝かなかった。魔術が発動する気配もない。
(……だめだ。頭がクラクラして、集中できない……)
イブキは地面に座り込んで、壁に小さな体を預けた。薬が切れるまではじっとしているしかないだろう。そんなに、時間が残されているかもわからないが。
「あいつ、ふざけやがって……」
幼女姿に似合わない口調。いつものことだ。
悪態をついていると、声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか?」
対面側にある牢屋からだ。暗闇に紛れて見えなかったが、誰かがいる。魔術、《暗視》が使えない今、じっと目を凝らすしかなかった。
白い髪、褐色の肌、赤い瞳。竜人族の女性だ。年齢は参考にならないが。
イブキはかすれた声で応える。
「あなたは……?」
「私は、竜人族のフレイと申します」
竜人族が捕らえられているというのは本当のことだったらしい。ひとまずは、生きているだけでよしとしよう。
「フレイさん……わたし、イブキっていいます。――どれくらい、眠っていました?」
「丸一日とちょっと、くらいですかね。ここだと時間の感覚が無くて」
(そんなに眠っていたのか……)
レーベは予言の通りに進めているはずだ。もうすぐ、実験が成功してもおかしくはない。
「……フレイさんは、いつからここに?」
「一年前くらいから、ずっとですね。その度に、実験をさせられてきました。血を抜かれたり、《竜爪》を宿した腕を切り落とされたり……体が再生したら、またその繰り返しで……」
「そんなことまで……」
信じられない。自分の私利私欲のために、他人をそこまで無残に扱えるなんて。社畜時代の上司のほうが何倍もマシだ。
「早く、彼に会いたい……こんなところを抜け出して、早く……」
「彼?」
「ええ、エネガルム墓地で墓守をやっています」
イブキは目を見開いた。わずかだが、希望を見出せたからだ。
「もしかして、ブレインさんのこと?」
「え、ええ。なぜ、知っているのですか?」
イブキはこれまでのことを含めて全て話した。ハーレッドのこと。ブレインが、フレイを助け出そうとしていたこと。全て話し終えるまで、フレイはじっと聞いていた。
「そうですか、彼が……」
「はい。ブレインさんも、あなたの帰りを待っています。良かった、本当に、生きていて……」
イブキは、目頭が熱くなるのを感じた。イブキには恋愛なんて微塵もわからない。けれど、一年もの間、好きな人と離れ離れになるというのはとても辛いものなのだろう。
それから、ここで起きた出来事を教えてもらった。
フレイの予想によると、ここはエネガルムの東にある魔法研究所の地下らしい。最後に地上で入った建物が、その魔法研究所で、どんどん地下へ向けて連れて行かれたそうだ。
実験には、レーベだけでなく、他の職員も協力していた。躊躇する職員もいたが、レーベは恐怖の力で無理やり従わせていたらしい。
そして、何人もの竜人族が実験にあい、命を落とした者までいることもきいた。
「そんなこと、他の魔法七星が許さないんじゃないんですか?」
「はい。なので、他の竜人族を釣るための《捕虜》という目的で、私たちを隔離しているのです。まあ、実力のある魔法七星が管理する施設のほうが、いざという時に安心だったのでしょう」
「そう、なんだ……。ハーレッドの両親も捕まっているんですよね」
「ええ。王家の血を引くお二人は、より残酷な実験をさせられています。部屋も、別で隔離されていて、今どうなっているのか……」
「どうにか、魔法を使って抜け出せないかな」
「それは無理です。この施設に入る時に、コレをつけられたんです」
フレイの首には、怪しく輝くリングが取り付けられている。
「これは、魔法を封じるためのモノです。厳密には、加護との接点を無くしているだけなのですけど。《竜爪》も、加護を使って発動できる能力なので」
イブキは関心してしまった。こんなアイテムがあったなんて、知らなかったのだ。原理はよくわからないが、レーベはとことん用意周到らしい。イブキの首にそのリングが取り付けられていないのは、イブキが魔法を使えないから付ける必要が無い、ということだろう。
結果的に、イブキは捕らえられ、薬によって魔術を一時的に使えなくさせられている。
だが、これはチャンスだ。レーベはイブキの力を……魔術の力を見誤っている。
時が来たら、「あの時に殺しておけば良かった」と後悔させてやるのだ。それまで、地上のことは……竜人族の予言やレーベのことは《彼女》に任せるとしよう。
「頼んだわよ、シャル——」
どれくらいか経った頃、冷たい床の上でイブキはようやく目を覚ました。未だに頭がずきずきして、意識がぼうっとする。
手足には鉄枷をつけられている。どうにか起き上がると、周りを見渡した。
気を失う直前にいた書斎とは、場所が変わっている。コンクリートの壁と天井。正面には鉄格子がある。部屋の片隅には簡易トイレ。通路を挟んだ対面側にも、同じ構造の部屋があった。全体的に薄暗くて、じめじめしている。
(くっそ、捕まったのか、わたし……)
レーベの仕業で間違いないだろう。ここがどこなのかはさっぱりわからないが。
だが、こんな鉄枷も、牢屋も、イブキには無意味だ。いつも通り、魔術を使おうとする。だが、首元のタトゥーは輝かなかった。魔術が発動する気配もない。
(……だめだ。頭がクラクラして、集中できない……)
イブキは地面に座り込んで、壁に小さな体を預けた。薬が切れるまではじっとしているしかないだろう。そんなに、時間が残されているかもわからないが。
「あいつ、ふざけやがって……」
幼女姿に似合わない口調。いつものことだ。
悪態をついていると、声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか?」
対面側にある牢屋からだ。暗闇に紛れて見えなかったが、誰かがいる。魔術、《暗視》が使えない今、じっと目を凝らすしかなかった。
白い髪、褐色の肌、赤い瞳。竜人族の女性だ。年齢は参考にならないが。
イブキはかすれた声で応える。
「あなたは……?」
「私は、竜人族のフレイと申します」
竜人族が捕らえられているというのは本当のことだったらしい。ひとまずは、生きているだけでよしとしよう。
「フレイさん……わたし、イブキっていいます。――どれくらい、眠っていました?」
「丸一日とちょっと、くらいですかね。ここだと時間の感覚が無くて」
(そんなに眠っていたのか……)
レーベは予言の通りに進めているはずだ。もうすぐ、実験が成功してもおかしくはない。
「……フレイさんは、いつからここに?」
「一年前くらいから、ずっとですね。その度に、実験をさせられてきました。血を抜かれたり、《竜爪》を宿した腕を切り落とされたり……体が再生したら、またその繰り返しで……」
「そんなことまで……」
信じられない。自分の私利私欲のために、他人をそこまで無残に扱えるなんて。社畜時代の上司のほうが何倍もマシだ。
「早く、彼に会いたい……こんなところを抜け出して、早く……」
「彼?」
「ええ、エネガルム墓地で墓守をやっています」
イブキは目を見開いた。わずかだが、希望を見出せたからだ。
「もしかして、ブレインさんのこと?」
「え、ええ。なぜ、知っているのですか?」
イブキはこれまでのことを含めて全て話した。ハーレッドのこと。ブレインが、フレイを助け出そうとしていたこと。全て話し終えるまで、フレイはじっと聞いていた。
「そうですか、彼が……」
「はい。ブレインさんも、あなたの帰りを待っています。良かった、本当に、生きていて……」
イブキは、目頭が熱くなるのを感じた。イブキには恋愛なんて微塵もわからない。けれど、一年もの間、好きな人と離れ離れになるというのはとても辛いものなのだろう。
それから、ここで起きた出来事を教えてもらった。
フレイの予想によると、ここはエネガルムの東にある魔法研究所の地下らしい。最後に地上で入った建物が、その魔法研究所で、どんどん地下へ向けて連れて行かれたそうだ。
実験には、レーベだけでなく、他の職員も協力していた。躊躇する職員もいたが、レーベは恐怖の力で無理やり従わせていたらしい。
そして、何人もの竜人族が実験にあい、命を落とした者までいることもきいた。
「そんなこと、他の魔法七星が許さないんじゃないんですか?」
「はい。なので、他の竜人族を釣るための《捕虜》という目的で、私たちを隔離しているのです。まあ、実力のある魔法七星が管理する施設のほうが、いざという時に安心だったのでしょう」
「そう、なんだ……。ハーレッドの両親も捕まっているんですよね」
「ええ。王家の血を引くお二人は、より残酷な実験をさせられています。部屋も、別で隔離されていて、今どうなっているのか……」
「どうにか、魔法を使って抜け出せないかな」
「それは無理です。この施設に入る時に、コレをつけられたんです」
フレイの首には、怪しく輝くリングが取り付けられている。
「これは、魔法を封じるためのモノです。厳密には、加護との接点を無くしているだけなのですけど。《竜爪》も、加護を使って発動できる能力なので」
イブキは関心してしまった。こんなアイテムがあったなんて、知らなかったのだ。原理はよくわからないが、レーベはとことん用意周到らしい。イブキの首にそのリングが取り付けられていないのは、イブキが魔法を使えないから付ける必要が無い、ということだろう。
結果的に、イブキは捕らえられ、薬によって魔術を一時的に使えなくさせられている。
だが、これはチャンスだ。レーベはイブキの力を……魔術の力を見誤っている。
時が来たら、「あの時に殺しておけば良かった」と後悔させてやるのだ。それまで、地上のことは……竜人族の予言やレーベのことは《彼女》に任せるとしよう。
「頼んだわよ、シャル——」
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