常世封じ道術士 風守カオル

坂崎文明

文字の大きさ
5 / 26
第一章 柊の木の呪い

闇凪の剣

しおりを挟む
「どうも、この家が『顔闇かおやみ』の井戸があるところね」

 風守かざもりカオルは黒のジャージに白いスニーカーという軽装で、その家の前に立っていた。

 黒いショートカットの髪に、少し大きめの目が印象的である。
 身体は痩せ型で、黒豹のような身のこなしで玄関の引き戸に手をかけた。

 背中に背負ってる直刀の鞘には十拳とつかの剣のひとつ「闇凪やみなぎの剣」が納められている。

 常世とこよへの道を塞ぐことのできる霊剣のひとつである。

 祖父の立石巌たていしいわおの依頼で、備前の一ノ宮である石上布都魂神社いしのかみふつみたまじんじゃから借り受けたものだった。

 彼女の父の実家であるその神社には、かつてはスサノオがヤマタノオロチを退治した布都御魂剣ふつみたまのつるぎが御神体としてあった。

 だが、崇神天皇の時代に大和の石上神宮いそのかみじんぐうへ移され、今は木製のレプリカだけがあるという。

 この石上布都魂神社には、未だに十拳とつかの剣の数本が秘宝として伝わっていた。



 風守カオルの右目には、いつも通りの玄関の光景がみえていたが、左目の霊眼には、薄黒い透明な液体状のものが居間の引き戸の奥からあふれてきてるのがはっきり見えていた。

 幼い頃から、彼女の左目には常世とこよの生物が見えていて、それが当たり前だと思っていた。それはどうやら彼女の血筋に関係があるらしかった。

 言い伝えによれば、吉備津神社に伝わる「温羅ウラ伝承」で有名な百済の皇子とも、鬼神とも言われている「温羅ウラ伝承」と、孝霊天皇の皇女であり、巫女でもある「ヤマトトトヒノモモソ姫」の間に三人の子供がいたという。

 讃岐の「鬼無きなしの里」で秘かに育てられ、ひとりは皇子で皇女がふたりいたが、その子孫からヤマトトトヒノモモソ姫の鬼道の力を受け継ぎ、普通は見えないものが見える巫女が多く生まれた。

 皇子の方はヤマトタケルの母方の血筋へと繋がっていき、彼の過酷な旅には副官として常に、武勇に優れた吉備武彦きびのたけひこが付き従った。

 風守カオルはどうやらそんな先祖返りのひとりであったようで、祖父の立石巌がそのことに気づき、「常世封じの道術士」として特別な修業を施していた。

 十拳とつかの剣のひとつ「闇凪やみなぎの剣」が使えるのも、鬼道の力を制御する道術のおかげだった。



 居間の引き戸を開けて中に入ると、直径1メートルぐらいの淡い光の柱が畳から天井まで立ち上っていた。

 その光の柱の中から薄黒い透明な液体状のものが、泉のように湧き出ていた。

 いわゆる「御柱みはしら」と呼ばれるもので、常世の生物というより「一柱の神」と呼んでもいい存在が、この世に降臨する前兆だと言われている。

 まずい、手遅れかもしれないと風守カオルは思った。

 おそらく、井戸の底にある封印の日矛鏡ひぼこのかがみは砕けていると思われた。

 カオルのジャージ上着の左ポケットに入ってる日像鏡ひがたのかがみで再封印するしかない。

 天照大御神の御姿を型取ったといわれる日像鏡ひがたのかがみ日矛鏡ひぼこのかがみは、作鏡連かがみづくりのむらじの祖神である石凝姥命いしこりどめのみことが三種の神器の一つの八咫鏡やたのかがみに先立って造った鏡とされる。

 ゆえに霊力が高く、「常世封じの道術士」の七つ道具のひとつである。



 カオルは光の柱を右手に持った闇凪やみなぎの剣で真横に切って、一瞬のうちに跳躍して柱の結界の中に侵入した。

 そのまま、ゆっくりと井戸の底に向けて沈んでいった。

 本当なら井戸の水があるはずだが、すでにこの空間は常世と繋がった異空間に侵食されているようだった。

 身体の周りには薄黒い透明な液体のようなものがまとわりついたが、気にしてるいとまはなかった。

 すぐに井戸の底に達して、左のポケットから日像鏡ひがたのかがみを取り出した。

 日矛鏡ひぼこのかがみは予想通りヒビが入っていて、日像鏡ひがたのかがみを上に重ねて再封印する。

 日矛鏡ひぼこのかがみの凸面と、日像鏡ひがたのかがみの凹面が合わさって、一対の鏡のようにぴったりと重なった。

 その刹那、光の柱は消滅して、薄黒い透明な液体のようなものも大地に吸い込まれるように消えていった。

「ふう、何とか間に合ったみたいね」

 カオルは安堵のため息をついた。

 が、次の瞬間、カオルの身体は黒い蛇のようなものに巻かれて、井戸の底に引っ張られていた。

 不意に地面が砂のように柔らかくなって、気づいた時には、彼女の下半身がのみこまれていた。

 両手が黒い蛇に拘束されているので 闇凪やみなぎの剣も振るえず、声を出す間もなく、彼女の姿は井戸の底の黄泉の闇に落ちていった。









-----------あとがき---------------------------------------------------

備前の一ノ宮である石上布都魂神社いしのかみふつみたまじんじゃというのは実在してまして、僕も初詣に行ったりします。

スサノオがヤマタノオロチを退治した布都御魂剣ふつみたまのつるぎも木製のレプリカがあり、ここの宮司さんは名物宮司さんでいろいろと古事記の話とかしてくれます。お茶とお菓子が出てきます。物部姓だったりします。

山頂は磐座で覆われていて結界が張られ、この山が古い聖山であることを示しています。

石上布都魂神社
http://www.genbu.net/data/bizen/hutumitama_title.htm

石上布都魂神社いそのかみふつみたまへ行ってきました!
http://blog.gokoh-sangyo.com/2012/05/post-269.html


日像鏡と日矛鏡
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E5%83%8F%E9%8F%A1

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...