悪役王子とラスボス少女(ただしバッドエンドではモブ死します)

高八木レイナ

文字の大きさ
12 / 31

12 魔物狩り

しおりを挟む
 騎士団は一日かけて北の森までやってきていた。
 ハーベルの天幕の中で、リーチェ達は明日の討伐の話し合いをしていた。ハーベルが皆に向かって問う。

「明日、森のどこにそれぞれの部隊を配置するかだが……何か良い案がある者はいるか?」

「従来通りで良いのでは?」

 そう言ったのはダン副長だ。しかし、他の団員が首を振る。

「しかし、森にバラバラに部隊を配置したら、リーチェ嬢の付与魔法が活かしきれません。効果が持続するのは一時間なのですから。戦闘が始まれば、すぐに効果が切れてしまいます。近くの部隊はまた付与魔法をかけてもらうこともできるでしょうが、遠い部隊はリーチェ嬢の掩護なしに戦うことになる」

「かといって一部隊のみで進めば魔物も気配を察して、討伐も難しくなるでしょう……ならば魔法効果は一時間と割り切り、ハーベル王子の率いる主隊にリーチェ嬢を同行してもらって、主隊への付与魔法は継続して行なってもらう、というのが最善ではないでしょうか」
 
 ダン副長の提案に、団員達は腕を組んで眉根をよせた。
 皆が囲んでいる机の上には森の地図があった。中央の川を挟んで、右側を騎士団が、反対側は魔法士団が討伐を行うエリアだ。

「リーチェは部隊の配置や戦略で、何か意見があるか?」

 ハーベルにそう問われて、リーチェは考え込んだ。
 彼を守ることが最優先だが、騎士団としての成果も出さねばならない。それにマルクの率いる魔法士団に負けるのは癪だ。

「そうですね……討伐が始める前に騎士団の皆さんに防護魔法や武器の硬化魔法を付与かけますが、効果が一時間ほどで切れてしまうので、戦闘中に再度、皆さんに付与魔法をかけたいと思います」

 リーチェがそう言うと、ダンが唸る。

「しかし、部隊を森の中に散り散りに配置している以上、全員に付与魔法を再度かけることは難しいだろう。ロジェスチーヌ令嬢をどこかで待機させるにしても、また付与魔法をかけてもらうために部隊を動かすのは時間のロスだし、危険もともなう」

 別の団員がうなずいた。

「やるとしたら、少人数のチームを組んでリーチェ嬢を守りつつ森を移動し、狼煙が上がったところに付与魔法をかけに行くとか……でしょうか?」

「いえ、そんな必要はありませんわ」

 リーチェの言葉に、ハーベルが「どういうことだ?」と眉を動かす。

「付与魔法をかけるために、わざわざ出向く必要はありません。私は崖などの高台に待機し、狼煙が上がったところに向かって広範囲の付与魔法をかければ効果はあります」

 リーチェの発言に辺りはシンとなる。ダンはあんぐりと口を開けているし、ハーベルも目を見開いていた。
 あまり良くないやり方だっただろうか、とリーチェが不安になってきた頃に団員達がざわめきだした。

「ロジェスチーヌ令嬢は離れていても付与魔法が使えるのですか!?」
「そんなことができる者がいるなんて聞いたことがないぞ!」

「えっと、でも至近距離で一人にかけるより効力は落ちてしまいますが……」

 慌ててそう弁明するリーチェに、ハーベルが尋ねる。

「その場合の効果はどのくらいなんだ?」

「……二割ほどに落ちてしまいます」
 
 リーチェの言葉に、周囲の団員達が唖然とした顔をしている。
 もともとが近距離で三割ほどの魔法付与だから、遠距離だとそれより効果が落ちてしまう。
 何かまずいことを言ったかな、とリーチェが思い始めていると、ハーベルが机を叩いた。

「素晴らしい! それで行こう」

「問題はロジェスチーヌ令嬢の魔力がどれくらい持つかだな……広範囲の付与魔法なんて大魔法をかけ続けたら魔力が尽きてしまうだろうし」

 ダンの台詞に、リーチェは目を瞬かせた。

「あ、それについては、よほどでなければ大丈夫だ思います。たとえば数日付与魔法を誰かに与え続けるとかでない限りは心配はいらないかと」

 リーチェはラスボスなのだ。
 これまでのリーチェの経験上、一日くらいなら休みなく付与魔法をかけ続けても大丈夫だろう。
 リーチェは伝説の大魔法士と呼ばれた祖父に幼い頃から魔法の訓練を受けていたし、祖父はリーチェに己と同じくらいの魔力量がある、と話していた。祖父は無尽蔵の魔力持ちと周囲から恐れられていたのだ。

 しかしリーチェの発言に団員達は「嘘だろ……」と天を仰ぐ。

「俺って、もしかして伝説級の大魔法士を前にしているのか?」
「付与魔法って、一般的な魔法士でも一日に数名が限界と聞いたのに……」
「練習中もいったい何人に付与魔法をかけるのかと驚いていたが……ロジェスチーヌ令嬢は本当にすごいな」

 惜しみない称賛を受けて、リーチェは顔が熱くなってくる。
(……そうか、私ができることって褒められることだったのね)

「では、さっそくリーチェの案で進めよう」

 ハーベルの言葉に、団員達が大きくうなずいた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...