お前らに絶対 Aliceの血は喰わせねぇ

楪 伊緒

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Three phrase.*・゚ .゚・*.

1st

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 ピピピと軽快な音楽が部屋中に響き渡る。それがスマホのアラームだと気付くのにそれほど時間は掛からなかった。
 すぐに、髪型を整え、アラームを止める。
 ドレスのしわを伸ばし、部屋の隅にあったドレッサーに座った。
 そこで全身の姿を確認する。
 「よし、いいわね」
 スマホを部屋のベッドに置きっぱにすると、その場を後にした。羽衣君に、夜皆が集まってから自己紹介をするように言われていたから。
 廊下をまだぼぉっとした頭で進む。視界が揺れて、前に進めているのかもよく分からなかった。目を擦ると、階段らしきものが見えて、真っすぐの廊下でも道があっていたことに安穏する。
 「皆様、何処にいらっしゃるのでしょう」
 階段を降りているうちに、そんな疑問が浮かんだ。そういえば、自分の部屋以外の場所を知らない。
 緩やかな螺旋階段のため、段々と玄関が見えてくると、それと同時に騒がしい声も聞こえてきた。
 「あっ、煽姫ちゃん!」
 私にいち早く気付いたのは、羽衣君。
 昼間と何ら変わらない笑顔で玄関ホールに集まる私をシェアハウスのメンバーの前へ迎えた。
 「さて、この子が新規さんだよ」
 羽衣君の手は私の腰に回されている。その気安さ、居心地がとても悪いけど、今この状況では振りほどけやしない。仕方なく、そのまま話を進めることにした。
 「私、枢壬 煽姫と申します。本日から此処でお世話になります。まだまだ怠らない所ばかりですが、皆様に迷惑だけはかけないよう努力して参りますので、どうぞ宜しく御願い致します」
 そう言った後に、深々と頭を下げる。
 「おぉ・・・」
 ぱちぱちと1つの拍手が聞こえた。微かだけど、はっきりと感じる歓迎の拍手。
 ゆっくり頭を上げて、その拍手の主を見てみると、その人は皆の1番前で私を見ているフードの少年だった。無造作な黒髪に、青い透き通るような空色の瞳。更に、黄緑色のパーカーがとても似合っていた。
 「僕、若月 淋ワカツキ リンっていうんだ。宜しくね」
 背が高い訳でもない私とほぼ同身長の淋君は、私の目の前に立って、可愛い笑顔を振りまいている。
 “向こう”にいた頃はいなかった、可愛い系の男子。
 その笑顔に見いだせるものは、明らかな癒しだった。
 「うん、宜しくね」
 その癒しにつけ込まれて、私までほんわかした状態のまま、咄嗟に次の人が私の前へずいっとやって来る。
 「煽姫ちゃん、可愛いんだね。本物のAliceみたいで・・・、興味あるかも。俺は桐生 棗キリュウ ナツメ。棗でいいよ」
 金髪、苺みたいな可愛い色の目をした棗君はそう言うと、自然な成り行きで私の頬にやって来て、軽くキスした。
 経験の浅いせいで、すぐに火照ってしまった私を嘲笑う前に棗くんを押しのける人物が現れる。
 「ちょっと!?誰よコイツ!アタシ以外に女なんて必要なの!?」
 お、女の子!?
 この家に女の子が居るなんて聞いてない。
 すると、脳内巡ってぐちゃっと混ざってしまった私の頭を一瞬ですっきりさせる一言が放たれた。
 「煽姫ちゃん、コイツ男の娘だから」
 羽衣君がコソッと耳打ちして来る。
 あぁ、成程。
 「ふんっ、アタシは菖蒲 初樹アヤメ ハヅキ!アンタみたいな弱っちい女に負けないからね!」
 ピンッ、とデコピンされて蹌踉ける。水色のショートヘアを揺らす初樹君は、もう完全なる女の子にしか見えない。身長は、少しだけ高めかもね。
 ・・・そういえば、あの人がいない。
 昼間私を退けて通り過ぎて行った赤髪の青年。
 気になって、隣の羽衣君に聞いた。
 「鏡夜の事言ってるの?なら、彼奴ならそろそろ帰ってくる筈・・・、ってホラ」
 丁度、ギギと扉が開く。その先に立っていたのは、鏡夜と呼ばれる赤髪の青年だった。
 「鏡夜!丁度いいな、この子が新規さんだよ。自己紹介して」
 気怠げに、歩いてこちらに来る鏡夜君は、面倒くさそうに頭を掻く。
 「はぁ?コイツ?あぁ、昼間の。お前だったのか、新しく来る奴って」
 目尻が、眠たいのかたらんと垂れ下がって、少し可愛らしいと思った。
 「はい、枢壬 煽姫と申します。宜しく御願い致します」
 本日何回言ったか分からないセリフを口にして、深々と頭を下げる。
 「ふぅん、煽姫ね。俺は八ッ賀 鏡夜ヤツガ キョウヤ
 名前だけ言うと颯爽と去ってしまう鏡夜君に目が釘付けになっていた。自分でも怖いくらいに。
 「なに、煽姫ちゃん鏡夜に興味あるの?」
 私は慌てる。
 「そっ、そんな事ありませんわ!」
 「ふふっ、まぁ好き勝手だけど、鏡夜はやめときな」
 最後が小声で本当に聞き取り難かった。その言葉を残して、羽衣君も去ってしまう。皆も個々の部屋へ帰る様だった。
 私も、戻ってお部屋の整理しなくちゃな。
 皆の後を追うように、階段を急ぎ足で上った。

・.━━━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━━.・

 ちょっとまだ残っている疲れを引き摺る様に、溜め息をつきながら無人になった廊下を歩いている。扉は完全に防音されているのか、中の音が全く聞こえない。人が居ないかの様だ。
 自分の部屋のドアノブに手を掛けると、不意に後ろから声をかけられる。
 「煽姫」
 その声は、多少の笑みを含んだ様な、軽快で爽やかな声だった。
 後ろを振り向こうと、ドアノブから手を離す。
 その瞬間、口は大きな手によって塞がれた。
 必死に抵抗するも、その手はビクともしない。ましてや、あまりに暴れるものだから、奴は私の両手を片方の掌だけで束縛してしまった。
 なんて力なのだろう。Aliceとなった私には対抗も出来ないのか。
 そう思うと、今までの女を磨くための訓練が無駄に感じる。いざという時の抵抗する術を捨てる代わりに、それを学んだと言うのなら、元のままでいい気もしてきた。
 あまりのパニック状態で、奴の顔を確認するのも忘れる。まだ初日。声だけで判別出来るほど、慣れ親しんではいない。
 首に精一杯力を込めて、ぐりんと回した。横目に相手の顔を確認する。
 ・・・鏡夜君?
 そこには、狂気の表情で私を見詰める鏡夜君がいた。いた、というより、奴とは鏡夜君だったのだ。
 「痛くされたくないだろ?なら、これ以上抵抗するんじゃねぇよ」
 その言葉が虫の様に私の背中を這う。抵抗するな、と言われようが、必死に腕に力を込め、動かした。外れる筈の無い、手錠を取ろうとするみたいに。
 そんな事なんて、相手にとって突っつかれる程の攻撃にも反抗にもなってないかの様に、簡単に私を、鏡夜君は自分の部屋に引き摺り込んだ。



 どさりという自分がベットに寝かされる音が、他の事のように感じる。
 恐怖で視界が定まらない。変な汗をかくし、涙は溢れるしこのままじゃいい事なんて1つも無いだろう。
 鏡夜君は、私のドレスの首元を乱暴にはだけさせると、ニヤリと笑った。
 何処からか光、月光が漏れていて、その歯を照らした。八重歯が特に光る。おかしいくらいに鋭い。
 「痛くても声出すんじゃねぇよ、殺すぞ」
 もう呼吸も苦しくなってきた。殺すの一言がどれだけ私の首を締めているか。抵抗なんてする気もしなかった。殺されるくらいなら、なにをされても良いと思ってしまう。
 あぁ、散々だ。こんな事になるなら、お祖母様の所に居たかった。
 鏡夜君の顔は段々と私の首元に近付いてくる。間髪入れずに、ぬろりと首元を舌が這いずり回った。
 「んっ・・・」
 擽ったいのに、両手をベットに押し付けられているためどうにも出来ない。
 詰んだ。
 そう確信する時、1つの声が脳裏に響いた。
 ーアンタ、いいの?そんな奴の好きにされて。
 強く逞しい、聞き覚えのある声。一瞬母かとも思ったが、違う。それは他でもない、過去の私だった。
 窮地に追い込まれて、過去の自分とお喋りなんて可笑しな話だが、本当に私の中で別人として話し掛けてきている。
 ー逃げないの?
 『逃げれる訳無いわ、もう追い込まれているのよ』
 だってほら、今にもあの鋭い牙が私の喉元を裂きそう。自己紹介の前の夢に見た通りの姿になってしまうのか。
 ー逃げれないんじゃないだろ?お前は完全に別人、女の子、になったつもりらしいが、アタシという人格を追い払っただけで、それアタシの体でもあるんだからね?勝手に汚されちゃ困るの
 その言葉を最後に、私の体は勝手に動いた。
 彼を1発で押しのけ、部屋を飛び出る。汚れを追い払った気分だった。何が、邪悪な物を動くと同時に何処かに捨ててしまうかのような。
 廊下に出ると、すぐさま自分の部屋に駆け込み鍵を閉める。案の定、ガチャガチャと扉の揺れる音が数秒響いたが、しばらくしてやんだ。
 こんな所、早く出よう。
 そう心に決め、ベットに寝転がった。
 これで終わらなかったんだ。安心した私が悪いかもしれないのだけれど。
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