お前らに絶対 Aliceの血は喰わせねぇ

楪 伊緒

文字の大きさ
10 / 11
Three phrase.*・゚ .゚・*.

3rd

しおりを挟む
 私は馬鹿だった。
 私は、お姫様なんかになったんじゃなくて、本当の自分の野心を心の奥に沈めて、ただ仮の姿を重ねて塗っていただけだったんだ。
 おばあちゃんの指導も、あのドレスも、ただ私を着飾るだけの飾りに過ぎない。そして、私も、心の奥の本当の自分を消すことは出来ない。
 私は、馬鹿だ。私は、アタシは。
 アタシはまた、あの時不良時代の自分に戻ってしまうことを許してしまったから。
 「アンタの好きにゃさせないよ」
 何処か響きの違う声が、このしんと静まり返った部屋に反響する。
 くい込んだ牙に痛みは感じず、ただ心地悪さを覚えた。
 アタシの首元に牙を突き立てる鏡夜が、アタシの血を吸う刹那。一気に、鏡夜の腹に蹴りを入れた。
 「うぐふっ!」
 アタシの体から離れると、暫くベットの上で動かなくなる。上手く蹴りが入ったようだった。
 「いつまでも可愛く怯んでるとでも思ったかよ」
 今度は、アタシの番。鏡夜の体に馬乗りになると、首を両手で勢いよく締めた。彼の唇には、微かに血が付いている。
 「なんだ・・・・・・よ、お前っ・・・・・・!」
 苦しむ鏡夜の顔を見てヘラっと笑うと、こう答えた。
 「アタシ?アタシは、Aliceになる前の煽姫アタシだよ」
 アタシは、より一層掌に力を込める。殺してしまう気でいた。でも、心のどこかがそれを許さなかった。それは女のアタシなのか、ただの良心なのかはわからない。
 一瞬手を緩めてしまうと、すぐに体が宙に投げ出される。そうだった、鏡夜は物を浮かせられるんだっけ。さっき浮かされたばかりだったのに。
 しかし、上手に着地して見せると、鏡夜は自分の首に触れて咳き込んでいた。
 「いい?アンタは空腹の獅子を突いたの。でも吸血鬼なんて、そう簡単には死なないんでしょ?」
 苦しげに何かを視線で訴えてくる鏡夜を哀れな目で見詰めて、すっと腕を上げて指さす。真っ直ぐに、指さすと、丁度鏡夜の顔が隠れて見えた。
 「すぐに部屋から出て行って。明日、アタシはこの家から出る」
 腕を下ろした瞬間、鏡夜の姿は無くなっていた。あるのはその向こうに揺れるカーテンと月夜を映し出す、開かれた窓だけ。アタシは、肩を竦めると、何事も無かったかの様にベットに潜って眠りについたのだった。



 どうせもう可愛くなんていられないんだから。密流学園に戻ろう。また凪絆達と騒ごう。
 そう思っていたのに。翌朝、荷物をまとめて玄関ホールに向かうと、羽衣が物凄く恐ろしい顔で立ち構えていたのだ。
 「煽姫ちゃん、何処へ行くつもり?」
 艶のある声が少しばかり殺気を含んでいた。この家は物騒なヤツらばかりなのか。
 「出て行く。文句ある?」
 羽衣の横を平然と通り過ぎて、扉へ向かった。すると、ぐっと腕が後ろに引かれる。
 「勝手に出ていかれると、僕が困るんだけどなぁ」
 後ろを振り向くと、羽衣が笑っていた。そういえば羽衣も、吸血鬼なのだろうか。
 そこで、アタシは仕方なく、昨夜の話を伝える事にしたのだ。
 「・・・・・・へぇ、鏡夜がねぇ」
 腕を組んでうんうんと頷くと、にやりと笑う羽衣。いやいや、アタシの話聞いてた?
 「なんで笑ってられんだよ。アタシ死にかけたんだけど、お宅の住居者さんに」
 キッと、獣の如く睨みを利かす。
 「ねぇ、煽姫ちゃん」
 そういうと、急に体の力が抜けたように、羽衣がふらふらとこちらに寄ってきて、壁際まで追い詰められてしまった。
 ドンッと、壁に手を付く。アタシは睨むことをやめないけど、これは明らかに壁ドンだ。
 「君は全然分かってない。吸血鬼は欲に逆らえない生き物。そんな中に君をほおりこんだのは誰だい?そう、君のお母さんや祖母様だろう?恨むなら、家族を恨め。君は、絶対にこの家からは出られないよ」
 どんどんと耳元で呟かれる言葉に、虫唾が走って、どんっと彼を押し退けた。
 ふざけるな。家から出られないだと?
 キャリーバッグ物をカラカラと引きずって、扉に勢いよくぶつかる。だが、扉は開く気配がしない。
 「なんで・・・・・・」
 何度も、何度もぶつかった。でも、無理で、後ろから嫌味ったらしい笑い声が聞こえるだけ。
 「開けろよッ!」
 その笑い声に対して、勢いよく後ろを振り返ると、怒鳴った。羽衣の口元は三日月のように歪んでいる。
 「なんで?君が居なくなると僕には損しかないのに、どうして君を逃がさなきゃなんだい?」
 ふふふっ、と口元を隠して笑う羽衣。
 「まぁまぁ、羽衣も煽姫ちゃんもその辺にしときなよ」
 奥の階段から段々と降りてくる足、体、顔。その人とは、棗だった。
 金髪で、初っ端からアタシに頬キスをかましたクソ野郎。
 「なんだよ棗、煽姫ちゃんを逃がしてもいいのかよ」
 「それは良くないけどさ」
 階段を軽やかに降り切ると、一瞬でアタシの隣に来た。目にも留まらぬ速さで、風も立てずに。
 「煽姫ちゃんなら僕が守るから、ね?」
 ツゥ・・・、と顔の骨格にそって、顎から流れるように頬を撫でられる。すると、反射的に、ふんっ、と腹パンをくらわせてしまった。
 「ごほっ・・・・・・、まぁ、安心して。吸血鬼は鏡夜だけだから」
 お腹を少し痛そうに抱えてクスクスと笑う棗は、少し楽しげに見える。羽衣も、肩を竦めて、重たげな口を開いた。
 「煽姫ちゃん。お願いだよ、この家に居て」
 その目には、明らかにアタシを見下している色がある。でも、これ以上仕方なくなって、こくんと頷いてしまった。
 「よかった。これからは、僕が守るからね、煽姫ちゃん。もう怖い思いはさせないよ」
 肩を抱いてそういう棗の手をペシッと叩く。
 「じゃ、そういうのもやめてくんない?」
 手をひらひらさせてごめんね、と謝る棗と、なんだか安心している羽衣。
 ところで、もうあの扉が開かないというのは、本当なのだろうか。アタシは、その扉を見詰めた。
 ・・・・・・鏡夜は、今何処に。
 「アタシ、部屋戻るね」
 ずっとこうしてる訳にもいかず、とりあえず部屋に戻って、このまとめた荷物を解かないと。
 二人と目を合わせない様に、素早く階段を上った。
 「なんで、羽衣はアタシが出て行こうとしてる事。わかったんだろ。なんで、玄関に・・・・・・」
 階段を上りながら、ふと疑問が浮かんだのだ。

・.━━━━━━━━━━━━ † ━━━━━━━━━━━━.・

 「羽衣、どうして煽姫ちゃんが出て行こうとしている事わかったの?」
 尖った八重歯を見せながら、笑う棗を睨みつけて答えた。
 「鏡夜から聞いたんだよ。昨夜、やらかした、って」
 さっさと立ち去ろうと思った。けど、棗が話を終わらせない。
 「へぇ、やらかしたなんて言うなら、鏡夜も最初からやらなきゃ良かったのにね?ましてや、“女の子”に」
 なんだよ、お前はまだあの事を引きずらせるのかよ。
 睨む目が痛い。でも、睨まないわけにはいかない。恨めしい棗を。
 「あの日の悲劇を、また繰り返すのかい?羽衣」
 にやりと笑うと吸血鬼の証が露骨に出た。
 前にここに住んでいた女の子。僕の片思いの女の子は。
 「お前らが殺したんだろ、茅夏チナツ先輩を」
 過去に、ここに住んでいた女の子が事故で死んだ。でも本当は、コイツらに食い殺されて死んだ。
 僕は止められなかった。吸血鬼の本気に、刃向かう勇気は無かった。
 苦しむ茅夏先輩の姿が目に浮かんで、消えた。苦しくなって、その場に倒れ込む。
 「あれぇ?大丈夫かなぁ。休んだら?」
 もう、悪魔の囁きにしか、聞こえなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...