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第3章
片方の記憶
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「はぁん・・・、憧れの応援団!中学のリベンジしたかったのよねぇ!」
休憩中の私は胸をときめかせていた。だって、中学の時やりそこねた応援団をやっと、高校でやることが出来たのだ。なれなかった理由は、まず親友の優姫が必死に止めてきたこと。なんで毎年毎年あんなに必死に止めてたのかな。
それがとても、謎だった。
「ほらー!声出せー!」
坤くんは応援長に何故かなっていて、本当に意外だと思った。私が他の女子団員と休憩している時でも、必死に練習に励んでいる。これは、なんかあるな?
私の目がキラリと輝いた。
「なぁに?菜摘ったらそんなに坤くんのこと見つめちゃって。まさかの?」
隣に座る他軍の女子からひそりと声を掛けられる。
「やだやめてよ!私彼氏いるんだからぁ」
そう、いつもこう言えば誤解は晴れた。過去には嘘ついてたときもあったけど、今は本当だもんね。
「え!?そうだったの!?知らなかったぁ」
にへぇと笑う彼女はとても可愛らしい。そっちこそどうせ彼氏いるんでしょう?
「おいー!戻ってこーい!」
「あ」
その友達の団長の集合がかかる。友達は、軽く私に手を振ると、女の子らしい走り方で去っていった。
「はぁあ・・・」
1人ぼっちになった思わず溜息が漏れる。皆頑張ってるんだなぁ。
「おい、菜摘」
ん!?菜摘やて!?
急に声を掛けてきたのは坤くん。あんまり話さないし、少し怖いけど、ここは、冷静に。私らしく。そう自分に言い聞かせ、大きく深呼吸した。
「なぁに?あ、飲み物飲む~?お疲れでしょう?」
この営業スマイル。そして、自分の水筒を差し出す。いい女過ぎて怪しいか?
案の定、演技っぽさが伝わってしまった様で、坤くんは表情をむっと曇らせた。
「いいから、そろっと練習戻れ。通すぞ」
そうとだけ言うと、元の配置に戻っていく。
な、何アイツ!私に冷たい男なんて初めて!
ずっと優しくされてきた。男の人は女の人に優しくしなきゃいけないから。当然の様に愛でられ、育ち、そのうち恋を覚え、その瞬間だけ愛した人との密接な関係も手に入れた。
手に入らない愛なんてなかった。
通し練習が終わると、もう汗だくだくで、私はまた休憩に入った。今度は皆でだけど。
そして私は、坤くんがいない事に気付く。
団員に聞いてみると、坤くんは鄒との会話後、呆れた表情で体育館を出て行ったらしい。なんかあったのかな?
私は立ち上がり、向こうで休んでいる鄒の元へ向かう。鄒は副団長だった。これもまた、らしくない。
「鄒?」
私が突然声を掛けたから、驚いたのか、鄒は飲んでいたお茶で咳き込んでしまった。
「だ、大丈夫?いきなりごめんね」
そっと、しゃがみ、背を抱えた。心配で、相手の顔を覗き込む。
「ヒッ・・・、大丈夫だから!」
小さな悲鳴なんて上げて、後ずさった。なに、コイツも私のこと嫌いなのかよ!?
本当に落ち込み気味で、質問をぶつける。
「坤くんなんだけど、どうしたの?」
鄒は、私との距離をとったまま、口を開いた。
「五十鈴は・・・」
鄒が話してる途中だったが私は声を上げてしまう。
「坤くんって名前五十鈴っていうの!?」
私は一気に笑顔になっちゃったよ。あんなに怖そうなのに、女の子みたいな名前してんだもん。
「そ、そうだけど・・・」
「ふーん」
私はしゃがんだまま頬杖をついた。あんな酷い奴、今度から呼び捨てしてやろ、と考えていたのだ。
「それで五十鈴は、榎本さんのこと送りに行ったよ」
「え゛っ!?」
榎本さんて、え、あの榎本さん?え、優姫!?
「なんでよ!」
私は何故かムキになって質問を強い口調で言ってしまう。
「え、榎本さん今日のHRの時保健室行ったんだ。それで、僕が送って行ったんだけど、帰り迎えに行くっていう約束もしてて・・・。それで僕がなかなか練習抜けるタイミングわかんなくて、つい遅くなっちゃって、ほら、この休憩始まってすぐに保健室向かったの。そしたら、廊下で榎本さん倒れてて・・・」
「ちょ、それなんで行ってあげなかったの?大丈夫なの優姫・・・?」
表情が強ばった。なんで練習を優先したのか、鄒を殴り掛かりそうになる腕を必死に抑える。
「ご、ごめん。それで、練習抜けて榎本さん家まで送って行っていいか五十鈴に聞きに来たら、アイツん家1駅先で知ってるから俺が送ってくって・・・。それでいないんだ」
「・・・」
優姫が心配になった。私は鉢巻を鄒に投げ捨てる。
「アンタがすぐに行ってあげなかったからでしょ!?私、行くから」
腹が立った。親友の体調を見ていられなかった自分と、鄒に。
唖然とする鄒を見捨て、私は迷わず体育館を出た。
そこから先は、いつものルート。もう五十鈴が出たのはだいぶ前だし、本当に家がわかっているのなら着いているはず。
電車早く動けとひたすら念じながら、いつもの駅に着くと走って駅を飛び出す。
駅から微妙な距離にある優姫の家まで、走って行った。体力に自身が無いわけでもない。
「五十鈴・・・」
私が丁度優姫の家に着くと、そこには家から出てきたらしい五十鈴がいた。やっぱり、少し迷ったんだろうな。
「五十鈴!ありがと!」
私は、汗だくだくの、女子力の欠片もあの時の演技っぽさもない姿で、五十鈴に頭を下げた。
「お、お前。来たのかよ」
驚いた表情で固まっている五十鈴を見て、ちょっと笑いそうになるが、抑えて。
「本当は私が行けばよかったんだと思ったけど・・・。団長なのに練習抜けさせてごめん」
頭は上げたものの、五十鈴の顔を見れずに、少しの間の後。
「別にお前のせいじゃないだろ」
ぽん、と頭に手が乗った。
「つーかお前意外な。もっと女子女子してるかと思いきやなんだよ、その夏バテしたオッサンみたいな姿は」
悪戯っぽい笑みを向ける五十鈴。私、いつの間にか、呼び捨てしてるし。
不思議な事に、嫌な感じはしなかった。やだ、私彼氏いるのに・・・。ときめいちゃったじゃん。巴瑠ゴメンね!
「さ、どーする。もう今日は帰るか?」
すっと手を離されると、寂しいと感じてしまった。しゅんとした顔を隠すことも出来ずに、か弱く、頷く。
「じゃ、私この近くだから」
笑顔ならどんな時でも“作れる”自身がある。
五十鈴はそっか、と行って私から目を逸らした。
「うん、じゃあね」
やっぱり寂しげな表情に見えたのだろう。五十鈴は、先ほどとは違う優しい笑顔で、手を振ってくれた。
私も手を振り返し、五十鈴の姿が見えなくなるまで見詰める。
そして、私はいけないことに気付いた。
あれ!?これ、恋しちゃったのかな!?
休憩中の私は胸をときめかせていた。だって、中学の時やりそこねた応援団をやっと、高校でやることが出来たのだ。なれなかった理由は、まず親友の優姫が必死に止めてきたこと。なんで毎年毎年あんなに必死に止めてたのかな。
それがとても、謎だった。
「ほらー!声出せー!」
坤くんは応援長に何故かなっていて、本当に意外だと思った。私が他の女子団員と休憩している時でも、必死に練習に励んでいる。これは、なんかあるな?
私の目がキラリと輝いた。
「なぁに?菜摘ったらそんなに坤くんのこと見つめちゃって。まさかの?」
隣に座る他軍の女子からひそりと声を掛けられる。
「やだやめてよ!私彼氏いるんだからぁ」
そう、いつもこう言えば誤解は晴れた。過去には嘘ついてたときもあったけど、今は本当だもんね。
「え!?そうだったの!?知らなかったぁ」
にへぇと笑う彼女はとても可愛らしい。そっちこそどうせ彼氏いるんでしょう?
「おいー!戻ってこーい!」
「あ」
その友達の団長の集合がかかる。友達は、軽く私に手を振ると、女の子らしい走り方で去っていった。
「はぁあ・・・」
1人ぼっちになった思わず溜息が漏れる。皆頑張ってるんだなぁ。
「おい、菜摘」
ん!?菜摘やて!?
急に声を掛けてきたのは坤くん。あんまり話さないし、少し怖いけど、ここは、冷静に。私らしく。そう自分に言い聞かせ、大きく深呼吸した。
「なぁに?あ、飲み物飲む~?お疲れでしょう?」
この営業スマイル。そして、自分の水筒を差し出す。いい女過ぎて怪しいか?
案の定、演技っぽさが伝わってしまった様で、坤くんは表情をむっと曇らせた。
「いいから、そろっと練習戻れ。通すぞ」
そうとだけ言うと、元の配置に戻っていく。
な、何アイツ!私に冷たい男なんて初めて!
ずっと優しくされてきた。男の人は女の人に優しくしなきゃいけないから。当然の様に愛でられ、育ち、そのうち恋を覚え、その瞬間だけ愛した人との密接な関係も手に入れた。
手に入らない愛なんてなかった。
通し練習が終わると、もう汗だくだくで、私はまた休憩に入った。今度は皆でだけど。
そして私は、坤くんがいない事に気付く。
団員に聞いてみると、坤くんは鄒との会話後、呆れた表情で体育館を出て行ったらしい。なんかあったのかな?
私は立ち上がり、向こうで休んでいる鄒の元へ向かう。鄒は副団長だった。これもまた、らしくない。
「鄒?」
私が突然声を掛けたから、驚いたのか、鄒は飲んでいたお茶で咳き込んでしまった。
「だ、大丈夫?いきなりごめんね」
そっと、しゃがみ、背を抱えた。心配で、相手の顔を覗き込む。
「ヒッ・・・、大丈夫だから!」
小さな悲鳴なんて上げて、後ずさった。なに、コイツも私のこと嫌いなのかよ!?
本当に落ち込み気味で、質問をぶつける。
「坤くんなんだけど、どうしたの?」
鄒は、私との距離をとったまま、口を開いた。
「五十鈴は・・・」
鄒が話してる途中だったが私は声を上げてしまう。
「坤くんって名前五十鈴っていうの!?」
私は一気に笑顔になっちゃったよ。あんなに怖そうなのに、女の子みたいな名前してんだもん。
「そ、そうだけど・・・」
「ふーん」
私はしゃがんだまま頬杖をついた。あんな酷い奴、今度から呼び捨てしてやろ、と考えていたのだ。
「それで五十鈴は、榎本さんのこと送りに行ったよ」
「え゛っ!?」
榎本さんて、え、あの榎本さん?え、優姫!?
「なんでよ!」
私は何故かムキになって質問を強い口調で言ってしまう。
「え、榎本さん今日のHRの時保健室行ったんだ。それで、僕が送って行ったんだけど、帰り迎えに行くっていう約束もしてて・・・。それで僕がなかなか練習抜けるタイミングわかんなくて、つい遅くなっちゃって、ほら、この休憩始まってすぐに保健室向かったの。そしたら、廊下で榎本さん倒れてて・・・」
「ちょ、それなんで行ってあげなかったの?大丈夫なの優姫・・・?」
表情が強ばった。なんで練習を優先したのか、鄒を殴り掛かりそうになる腕を必死に抑える。
「ご、ごめん。それで、練習抜けて榎本さん家まで送って行っていいか五十鈴に聞きに来たら、アイツん家1駅先で知ってるから俺が送ってくって・・・。それでいないんだ」
「・・・」
優姫が心配になった。私は鉢巻を鄒に投げ捨てる。
「アンタがすぐに行ってあげなかったからでしょ!?私、行くから」
腹が立った。親友の体調を見ていられなかった自分と、鄒に。
唖然とする鄒を見捨て、私は迷わず体育館を出た。
そこから先は、いつものルート。もう五十鈴が出たのはだいぶ前だし、本当に家がわかっているのなら着いているはず。
電車早く動けとひたすら念じながら、いつもの駅に着くと走って駅を飛び出す。
駅から微妙な距離にある優姫の家まで、走って行った。体力に自身が無いわけでもない。
「五十鈴・・・」
私が丁度優姫の家に着くと、そこには家から出てきたらしい五十鈴がいた。やっぱり、少し迷ったんだろうな。
「五十鈴!ありがと!」
私は、汗だくだくの、女子力の欠片もあの時の演技っぽさもない姿で、五十鈴に頭を下げた。
「お、お前。来たのかよ」
驚いた表情で固まっている五十鈴を見て、ちょっと笑いそうになるが、抑えて。
「本当は私が行けばよかったんだと思ったけど・・・。団長なのに練習抜けさせてごめん」
頭は上げたものの、五十鈴の顔を見れずに、少しの間の後。
「別にお前のせいじゃないだろ」
ぽん、と頭に手が乗った。
「つーかお前意外な。もっと女子女子してるかと思いきやなんだよ、その夏バテしたオッサンみたいな姿は」
悪戯っぽい笑みを向ける五十鈴。私、いつの間にか、呼び捨てしてるし。
不思議な事に、嫌な感じはしなかった。やだ、私彼氏いるのに・・・。ときめいちゃったじゃん。巴瑠ゴメンね!
「さ、どーする。もう今日は帰るか?」
すっと手を離されると、寂しいと感じてしまった。しゅんとした顔を隠すことも出来ずに、か弱く、頷く。
「じゃ、私この近くだから」
笑顔ならどんな時でも“作れる”自身がある。
五十鈴はそっか、と行って私から目を逸らした。
「うん、じゃあね」
やっぱり寂しげな表情に見えたのだろう。五十鈴は、先ほどとは違う優しい笑顔で、手を振ってくれた。
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