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第3章
双類の記憶
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人生初の恋を今まさに体感している私は、毎日ジェットコースターのような目まぐるしい日々を疲れつつ、楽しみながら過ごしていた。
この一筋縄じゃいかない恋。五十鈴に彼女がいるのかも分からない。まず、彼女の有無を聞くところからかなぁ。
なんて楽しみなんだ。こんなに片思いは楽しいのか。五十鈴を見てるだけで幸せだ。
彼方にこちらへ背を向けた五十鈴が見える。ねぇ、ちょっとでいいから、こっちを向いてよ。
「榎本さぁん・・・?」
え、なんで目の前に鄒!?
嫌だ、私の恋の相手はひつじだ!近付いてくんなぁぁあ!
ーッダン!
振動が頭にびりびりと伝わり、その轟音は、私の鼓膜を貫く勢いで向かってきた。
振動と共に、大きく目を見開くと、そこには私の机に付いた手。あと、辺りを見回してみると、呆れる顔の鄒と、笑いを堪えてる菜摘。それと、酷く怖い顔をした先生。
「榎本。こんなんで今回のテストどうする」
その付いた手をふっと剥がし、とんとんと優しくノートを突っついた。
「どうするって・・・、なにが?」
その発言に目を丸くした先生は、大きく深い溜息をつき、気だるい声でこんな事を言った。
「いつからそんなに不真面目になった・・・、榎本」
ノートの日付を見てみると、今から1ヶ月前。その時からずっとノートを書いていなかった。
1ヶ月って、取り返しの使用が無いじゃん。
私まで呆れてしまって、先生と2人乾いた笑い声を教室に響かせた。
屋上の扉を開けると、思いもよらない強い風が吹いた。私の弁当を吹き飛ばしてしまいそうな勢いで。
「きゃあっ!なぁんだよこの風っ!」
後ろから少女らしい声が聞こえた。そこにいたのは菜摘で、私と同じく弁当を構えている。
「菜摘、丁度よかった!今日此処で食べれなそうじゃね?」
腕で風を凌ぎながら言う。
「そだなぁ。教室にすっか」
菜摘と意見も合ったとこで、2人は階段へ引き返した。勿論扉は閉めてね。
教室に着くと、そこには普段この時間には見慣れぬ人物が見えた。
「五十鈴じゃん!」
菜摘は真っ先に五十鈴のいる窓際へ走っていく。私もそうしたいけど、とても私にはそんな積極性・・・、無い。
「よう、菜摘」
五十鈴はパンを振って応答した。
っていうか、なんでこんな時間に学校にいるんだろ。
私は菜摘の元へ歩いて向かい、五十鈴とはなるべく目を合わせない様に、顔を伏せた。
「おい優姫。それはなんでも不自然過ぎっぞ」
ぷぷぷと笑う五十鈴の声が聞こえたので、カッとして勢いよく顔を上げた。歯を食いしばり、恥ずかしさに顔を染める私の顔、相当酷かったろうな。
「てゆぅさか」
菜摘は隣に立つ私の顔を下から覗き込む様にして体を傾けた。お辞儀してるみたいに。
「優姫いつから一人称私になったの?」
私?
「え、私だった?」
「うん、ばりばり。ねぇ?」
菜摘は、五十鈴に話を振った。しかし、五十鈴は曖昧な表情をして。
「俺と話す時にはもう既に私だった気がすっぞ」
頭を掻きながらそう言う。え、五十鈴と話す時にはもう“私”だった?
「ふ~ん」
菜摘が私の顔を覗き込んだままにやける。こいつまたなんかろくでもないこと考えてるな。
「ま、まぁさ!菜摘、食べよ?」
嫌な予感しかしないので、私は無理に話を断ち切った。変なとこ気付かれて無いよね?
ちょっと焦り気味で、近くの席を拝借し、弁当を開けると、思わず2人で声が出た。
「うわぁ・・・、これは酷い」
五十鈴はケラケラと笑ってる。
どうやら、さっきの強風で盾にされた弁当は中身がダイナミックな事になってしまったようで、そりゃもうぐちゃぐちゃ。あぁ、勿体なくてよ。
「今日・・・、無しかぁ・・・」
ガッカリと肩を落とした菜摘は、誰かの席にへばった。
私のお腹も、ぐるると悲鳴を上げている。ごめんよ、我が胃。今日の昼は無しだ。
「っはぁ、しょうがねぇの」
まだ半笑いを浮かべる五十鈴は、自分の隣にあったビニール袋からパンを2つ(片手で)取り出すと、私達に1つずつ投げた。
「わああっ、五十鈴ありがとっ!まじ救世主だわぁ」
菜摘は、五十鈴の事をうっとり見詰めた。あんなこと私は出来ないしっ。
菜摘にムスッとしながら、パンを大きな口で噛み付こうとした時。
ーむんず
五十鈴が私の両頬を挟む様に顔を掴んだ。むにゅむにゅされてる。ちょっと嬉しい。私はきっとだらしない顔をしているだろう。
「・・・なに」
だが、何故か五十鈴は大層怖い顔をしていた。
「なにじゃねぇ、お礼言わずに食うのかこの恩知らずが」
あー、むにゅむにゅが早くなった。細けぇないちいち。
「はいはい、ありがとね」
完全棒読みで、そう言い放つと、五十鈴の手を振り払って、パンに勢いよくかぶりつく。
メロンパン!んまぁい。
「ったくお前って奴は」
ちっ、と舌を鳴らす五十鈴。あぁ、ちょっといい気味かも。ふふんと笑って五十鈴を見た。
「あー・・・」
菜摘の声を久々に聞いた気がした。ってえぇ!?
なんと菜摘はもうパンを完食していた。1分たった!?え、50秒ぐらいな気がする。恐るべし。
「あんたら、あれよ」
水筒をふいふいと振ってうちらを指しながら、衝撃の一言を言い放った。
「付き合っちまえよ」
ごきゅんごきゅんと有り得ない音をたててその水筒の中身を飲みながら、にやりと笑ってこっちを見た。
私は唖然とし、五十鈴はなんともない・・・感じ?
「馬鹿じゃないの!?」
私は唖然から解き放たれると、大きな声が出た。これ、好きって言ってる様なもんだよね・・・。
周りもびっくりした様で、ざわめいてしまっている。あーぁ、恥ずかし。
「んあぁ、冗談よ」
最後の1口をごくんと飲み干すと、あっさりと冗談だと、言った。こっちがどれだけ動揺したと思って!?
「・・・知ってる」
五十鈴まで塩対応!?
私は悲しくなって、へなへなとその場に伏せた。
もおおおお、2人の笑い声聞こえるし!
付き合った方がいいのは・・・、そっちでしょ。
そんな事を考えたら、ちくんと、針が刺さったような痛みを感じた。
この一筋縄じゃいかない恋。五十鈴に彼女がいるのかも分からない。まず、彼女の有無を聞くところからかなぁ。
なんて楽しみなんだ。こんなに片思いは楽しいのか。五十鈴を見てるだけで幸せだ。
彼方にこちらへ背を向けた五十鈴が見える。ねぇ、ちょっとでいいから、こっちを向いてよ。
「榎本さぁん・・・?」
え、なんで目の前に鄒!?
嫌だ、私の恋の相手はひつじだ!近付いてくんなぁぁあ!
ーッダン!
振動が頭にびりびりと伝わり、その轟音は、私の鼓膜を貫く勢いで向かってきた。
振動と共に、大きく目を見開くと、そこには私の机に付いた手。あと、辺りを見回してみると、呆れる顔の鄒と、笑いを堪えてる菜摘。それと、酷く怖い顔をした先生。
「榎本。こんなんで今回のテストどうする」
その付いた手をふっと剥がし、とんとんと優しくノートを突っついた。
「どうするって・・・、なにが?」
その発言に目を丸くした先生は、大きく深い溜息をつき、気だるい声でこんな事を言った。
「いつからそんなに不真面目になった・・・、榎本」
ノートの日付を見てみると、今から1ヶ月前。その時からずっとノートを書いていなかった。
1ヶ月って、取り返しの使用が無いじゃん。
私まで呆れてしまって、先生と2人乾いた笑い声を教室に響かせた。
屋上の扉を開けると、思いもよらない強い風が吹いた。私の弁当を吹き飛ばしてしまいそうな勢いで。
「きゃあっ!なぁんだよこの風っ!」
後ろから少女らしい声が聞こえた。そこにいたのは菜摘で、私と同じく弁当を構えている。
「菜摘、丁度よかった!今日此処で食べれなそうじゃね?」
腕で風を凌ぎながら言う。
「そだなぁ。教室にすっか」
菜摘と意見も合ったとこで、2人は階段へ引き返した。勿論扉は閉めてね。
教室に着くと、そこには普段この時間には見慣れぬ人物が見えた。
「五十鈴じゃん!」
菜摘は真っ先に五十鈴のいる窓際へ走っていく。私もそうしたいけど、とても私にはそんな積極性・・・、無い。
「よう、菜摘」
五十鈴はパンを振って応答した。
っていうか、なんでこんな時間に学校にいるんだろ。
私は菜摘の元へ歩いて向かい、五十鈴とはなるべく目を合わせない様に、顔を伏せた。
「おい優姫。それはなんでも不自然過ぎっぞ」
ぷぷぷと笑う五十鈴の声が聞こえたので、カッとして勢いよく顔を上げた。歯を食いしばり、恥ずかしさに顔を染める私の顔、相当酷かったろうな。
「てゆぅさか」
菜摘は隣に立つ私の顔を下から覗き込む様にして体を傾けた。お辞儀してるみたいに。
「優姫いつから一人称私になったの?」
私?
「え、私だった?」
「うん、ばりばり。ねぇ?」
菜摘は、五十鈴に話を振った。しかし、五十鈴は曖昧な表情をして。
「俺と話す時にはもう既に私だった気がすっぞ」
頭を掻きながらそう言う。え、五十鈴と話す時にはもう“私”だった?
「ふ~ん」
菜摘が私の顔を覗き込んだままにやける。こいつまたなんかろくでもないこと考えてるな。
「ま、まぁさ!菜摘、食べよ?」
嫌な予感しかしないので、私は無理に話を断ち切った。変なとこ気付かれて無いよね?
ちょっと焦り気味で、近くの席を拝借し、弁当を開けると、思わず2人で声が出た。
「うわぁ・・・、これは酷い」
五十鈴はケラケラと笑ってる。
どうやら、さっきの強風で盾にされた弁当は中身がダイナミックな事になってしまったようで、そりゃもうぐちゃぐちゃ。あぁ、勿体なくてよ。
「今日・・・、無しかぁ・・・」
ガッカリと肩を落とした菜摘は、誰かの席にへばった。
私のお腹も、ぐるると悲鳴を上げている。ごめんよ、我が胃。今日の昼は無しだ。
「っはぁ、しょうがねぇの」
まだ半笑いを浮かべる五十鈴は、自分の隣にあったビニール袋からパンを2つ(片手で)取り出すと、私達に1つずつ投げた。
「わああっ、五十鈴ありがとっ!まじ救世主だわぁ」
菜摘は、五十鈴の事をうっとり見詰めた。あんなこと私は出来ないしっ。
菜摘にムスッとしながら、パンを大きな口で噛み付こうとした時。
ーむんず
五十鈴が私の両頬を挟む様に顔を掴んだ。むにゅむにゅされてる。ちょっと嬉しい。私はきっとだらしない顔をしているだろう。
「・・・なに」
だが、何故か五十鈴は大層怖い顔をしていた。
「なにじゃねぇ、お礼言わずに食うのかこの恩知らずが」
あー、むにゅむにゅが早くなった。細けぇないちいち。
「はいはい、ありがとね」
完全棒読みで、そう言い放つと、五十鈴の手を振り払って、パンに勢いよくかぶりつく。
メロンパン!んまぁい。
「ったくお前って奴は」
ちっ、と舌を鳴らす五十鈴。あぁ、ちょっといい気味かも。ふふんと笑って五十鈴を見た。
「あー・・・」
菜摘の声を久々に聞いた気がした。ってえぇ!?
なんと菜摘はもうパンを完食していた。1分たった!?え、50秒ぐらいな気がする。恐るべし。
「あんたら、あれよ」
水筒をふいふいと振ってうちらを指しながら、衝撃の一言を言い放った。
「付き合っちまえよ」
ごきゅんごきゅんと有り得ない音をたててその水筒の中身を飲みながら、にやりと笑ってこっちを見た。
私は唖然とし、五十鈴はなんともない・・・感じ?
「馬鹿じゃないの!?」
私は唖然から解き放たれると、大きな声が出た。これ、好きって言ってる様なもんだよね・・・。
周りもびっくりした様で、ざわめいてしまっている。あーぁ、恥ずかし。
「んあぁ、冗談よ」
最後の1口をごくんと飲み干すと、あっさりと冗談だと、言った。こっちがどれだけ動揺したと思って!?
「・・・知ってる」
五十鈴まで塩対応!?
私は悲しくなって、へなへなとその場に伏せた。
もおおおお、2人の笑い声聞こえるし!
付き合った方がいいのは・・・、そっちでしょ。
そんな事を考えたら、ちくんと、針が刺さったような痛みを感じた。
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