香菜さんの男子禁制酒場

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41歳の娘(2)

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そう言って由紀子をカウンター席に案内する女将は、
 キリッとした眉毛にキレ長な瞳を持つクールビューティー。
 長い髪を一本にまとめ、白い長袖シャツの上から濃紺色のエプロンをつけている。
 包丁より薙刀を持った方が似合いそうな、ピンと貼りつめたオーラが漂っていた。
 カウンターの隅に座る由紀子に女将は「飲み物は何にしますか?」とおしぼりを渡しながら聞く。
「この地方の地ビールってありますか?出来たら土地ものを頂きたいなと思って」
「ありますよ」
 
 女将が由紀子の前に小さな瓶ビールと薄貼りグラスを置いた。
「隣の海の町に小さな醸造所があって、そこで作られたペールエールなんです。
 ちょっと苦味が強目ですけど、コクがあって美味しいですよ」
 
 苦味、どんとこいである。
 今、自分は人生の苦味を味わっている真っ最中なのだ。 
 由紀子は手酌でグラスにビールを注ぐ。琥珀色の綺麗な色をしている。
 ビールの色を「綺麗」なんて思う自分に由紀子は驚く。今までそんな心の余裕なんてなかったのだ。
 一口のつもりが思わずグラスに半分ほど一気に飲んでしまう。
 今日は東京から四時間も車を運転してこの山の町に辿り着いたのだ。
 由紀子は体の芯から疲れていた。

 女将が由紀子の目の前に、藍色の小皿にのった茹で落花生を出してくれる。
珍しいお通しだなと由紀子は思った。
そういえばこの土地に来る前、落花生が名産だと何かの記事で読んだな。
何の媒体の記事だっけと思い出しなら口の中に放りこむ。
香ばしい甘さが口の中で弾ける。再びビールを一口飲んだ。

「おネエさん、どこから来たの?旅行?」
 カウンター席の一番奥に座った赤ら顔の中年男が由紀子に話しかけてくる。
 うわ、出た。由紀子は身構える。
 外で女が一人飲む時、一番煩わしいのが酔っ払った常連おやじに話しかけられる事である。

「ちょっと、やめましょうよ、タクさん」

 赤ら顔の男の隣に座った若い男性がたしなめる。
 色の白い、柔かな表情をしたイケメンである。
「すいません」と苦笑しながら小さく頭を下げる男性を見て、どうせ飲み屋で話しかけられるなら、
 こんな若いイケメンならいいのに由紀子は思う。
 
 同じ言動も、赤ら顔のおっさんからされると鬱陶しいが、若いイケメンの男性からされると嬉しい。
 こんな勝手な受け手の在り方。

 若くて綺麗な女を優遇する男社会と自分の価値観はさほど変わらないじゃないかと自嘲する。
 でも一方でこうも思う。アラフォー以上の女が若いイケメンを好むのは男社会への無意識な報復なのかも、と。
 
 また面倒臭い事をグルグルと考えてしまった。頭を空っぽにしたいから、
 こんな山あいの町まで車を走らせて来たのに。
「いえいえ。気にしてませんよ。東京から来たんです」
 由紀子は社交辞令を発揮して薄く微笑んで答える。
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