46 / 61
母親になって後悔している(3)
しおりを挟む
「今夜はね、ケアマネージャーでもなく母親でもなく女でもなく『ジャスト陽子』になって、子供が嫌いそうなものをバリバリ食べてガンガン飲んでやる!」
陽子さんは残りのビールも飲み干し「もう一本!」と香菜さんに空の瓶を差し出す。
「『ジャスト陽子…』」
思わず祐介が口に出す。只の陽子。それがそれほど陽子さんにとって大切なのだろうかと祐介にとってはよく分からない。結婚した事も親になった事もないからだろうか。
自分はいつだって『ジャスト祐介』でいられる。
でも数年おきに母親から連絡が来ると、一気に胃が重くなる。それは「息子」という社会的な自分の一面を感じるからだろう。陽子さんが脱ぎ捨てたいのはそういった重さなのかもしれない。
「女も面倒になっちゃいますか?」
香菜さんがビール瓶を渡しながら聞いた。
「うん、面倒臭いよ。仕事バリバリやっても上が男だと煙たがられるから、いちいちたてないといけないし」
「陽子さん、利用者の人に人気ありますからね」
「それはありがたいんだけど、変な噂をたてられるし。女を使ってるとかね。ケアマネージャーで女を使ってるも何もないじゃない」
「うわあ。私の編集者時代と同じだなあ。男が仕事で嫉妬すると、そういう事良いますよねえ」
祐介とタクさんはお互い顔を見合わせて、首を傾げる。
地元のスーパーで働く二人は仕事で女性に嫉妬などした事はない。しかしスーパーで
働く女性の殆どはパートタイムで働くアルバイト雇用である。立っている場所が全然違うから嫉妬しないのかもしれない。
「そう言われるの面倒だからわざわざツーブロックにしてるのに」
なんと、陽子さんの清々しいツーブロックヘアは好みや仕事しやすい為ではなく、ハラ
スメント対策であったのだ。祐介は驚いた。
「あー分かる。私も今着ている作務衣は体の線が見えないように、なんですよね。エプロンとか着ていると面倒な酔っ払いのオヤジにいじられて面倒だから」
「あーはいはい。男のエプロン幻想ね。まあ母性の象徴みたいなものだしねえ」
「俺は別にいじった事ないから!」
タクさんが語気を強めた。
「別にあんただって言ってないわよ」
香菜さんは藍色が美しい作務衣を着ている。それはこの古民家を改造した内装に合わせ
てる為と祐介は思っていたが、どうやらそんな悠長な事ではないらしい。
「結構女を打ち消して仕事しているのに、今度は利用者のお爺ちゃん、お婆ちゃんが一人で寂しいでしょうって見合い話持ってくるし『今度、紹介するよ』って挨拶のように言ってくるし」
「ああ、私もたまにあるなあ。地方で女一人暮らしあるあるですよね」
「勝手にシンママを寂しい女にしないで欲しい訳よ!母でも女でありたいから恋したいでしょ?みたいな論調に人を巻き込まないで欲しい訳よ!」
陽子さんの語気がどんどん強まった。ケアマネージャーはいろんな人の愚痴や悩みを聞
く仕事でもあるから日頃、よっぽど溜まっていたのかもしれないと遼介は思った。
陽子さんは残りのビールも飲み干し「もう一本!」と香菜さんに空の瓶を差し出す。
「『ジャスト陽子…』」
思わず祐介が口に出す。只の陽子。それがそれほど陽子さんにとって大切なのだろうかと祐介にとってはよく分からない。結婚した事も親になった事もないからだろうか。
自分はいつだって『ジャスト祐介』でいられる。
でも数年おきに母親から連絡が来ると、一気に胃が重くなる。それは「息子」という社会的な自分の一面を感じるからだろう。陽子さんが脱ぎ捨てたいのはそういった重さなのかもしれない。
「女も面倒になっちゃいますか?」
香菜さんがビール瓶を渡しながら聞いた。
「うん、面倒臭いよ。仕事バリバリやっても上が男だと煙たがられるから、いちいちたてないといけないし」
「陽子さん、利用者の人に人気ありますからね」
「それはありがたいんだけど、変な噂をたてられるし。女を使ってるとかね。ケアマネージャーで女を使ってるも何もないじゃない」
「うわあ。私の編集者時代と同じだなあ。男が仕事で嫉妬すると、そういう事良いますよねえ」
祐介とタクさんはお互い顔を見合わせて、首を傾げる。
地元のスーパーで働く二人は仕事で女性に嫉妬などした事はない。しかしスーパーで
働く女性の殆どはパートタイムで働くアルバイト雇用である。立っている場所が全然違うから嫉妬しないのかもしれない。
「そう言われるの面倒だからわざわざツーブロックにしてるのに」
なんと、陽子さんの清々しいツーブロックヘアは好みや仕事しやすい為ではなく、ハラ
スメント対策であったのだ。祐介は驚いた。
「あー分かる。私も今着ている作務衣は体の線が見えないように、なんですよね。エプロンとか着ていると面倒な酔っ払いのオヤジにいじられて面倒だから」
「あーはいはい。男のエプロン幻想ね。まあ母性の象徴みたいなものだしねえ」
「俺は別にいじった事ないから!」
タクさんが語気を強めた。
「別にあんただって言ってないわよ」
香菜さんは藍色が美しい作務衣を着ている。それはこの古民家を改造した内装に合わせ
てる為と祐介は思っていたが、どうやらそんな悠長な事ではないらしい。
「結構女を打ち消して仕事しているのに、今度は利用者のお爺ちゃん、お婆ちゃんが一人で寂しいでしょうって見合い話持ってくるし『今度、紹介するよ』って挨拶のように言ってくるし」
「ああ、私もたまにあるなあ。地方で女一人暮らしあるあるですよね」
「勝手にシンママを寂しい女にしないで欲しい訳よ!母でも女でありたいから恋したいでしょ?みたいな論調に人を巻き込まないで欲しい訳よ!」
陽子さんの語気がどんどん強まった。ケアマネージャーはいろんな人の愚痴や悩みを聞
く仕事でもあるから日頃、よっぽど溜まっていたのかもしれないと遼介は思った。
0
あなたにおすすめの小説
明治かんなぎ少女の冥契 五百年の時を超えて、あなたに愛を
花籠しずく
キャラ文芸
――ですが、わたくしは生まれました。あなたに会うために。
月のものが来るようになってから、琥珀は不思議な夢を見る。誰かに探されている夢。きっと大切な人だったことは分かるのに、目が覚めると朧気で何も思い出せない。婚約者である志貴の言いなりの人形になる生活をし、生家とは会うと脅され、心が疲弊していたある日、家からひとり抜け出すと、妖魔のようなものに出会う。呪術師である志貴に、一時祓ってもらいはしたが、不思議と心が痛む。夢に美しい男が現れ、声に導かれるようにして、ある山のふもとの、廃れた神社の中に入ると、そこには苦しそうに蹲るあの妖魔がいた。琥珀はそれが夢に現れた、蘿月という男だと直感する。全身が黒い靄で包まれた彼の、靄を払う方法を、どうしてか琥珀は知っていた。口づけをし、息を吹き込むように、生きて、と願った。
帰ってすぐに志貴に殴られ、月のものがはじまっていたことが志貴にばれる。琥珀を穢そうとする志貴の様子に恐ろしさを覚えて、助けてと叫んだその瞬間、闇を裂くようにして、蘿月が現れた。
「琥珀は、俺が五百年待ち望んだ花嫁だ」
これは、時を超えて紡がれる愛の物語。そして虐げられた少女が、愛を知り、愛のために生きる自由を選ぶ物語。
※R-15っぽいゆるい性描写があります。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる