コスプレから始まる恋は本物ですか!?

白群

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第1部

第1話

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「全く、キミはまだ学生の気持ちのままだね!!」
ガミガミと少し頭が寂しい男が、1人の男性に怒鳴り散らかしていた。
男性は肩をしゅんと落としながら説教を全員に見られながら受けて…心の中で泣いていた。

彼の名は柊奏多ひいらぎかなた。普通のサラリーマンだった。

大学を卒業して第一志望の会社に内定が決まり、頑張ろうと意気込んでいたが上司ガチャは外れで要領が悪い奏多は目を付けられてしまい、ミスをする度にガミガミと全員の前で説教を受けていた。
周りも同じ目に遭いたくないのか奏多とは近寄ろうとする人がいなく、奏多は会社にストレスしかなかった。
やっと説教が終わり、席に着いてチラリと隣を見てしまった。すると同期と目が合ったが…すぐに避けられてしまい奏多は仕事に集中することにした。
就業終了時間になり1人、また1人と帰っていったが奏多は仕事を続けた。
「終わったー…」
そう呟いたがフロアにはもう奏多しか残っていなく、奏多は身支度を整えると急いで会社を出て家に帰った。

「ただいまー!もう疲れたー!」
家のリビングダイニングの扉を開けると母親が「おかえりーお疲れ様ー」と優しく声をかけてきて、ソファーでは妹で高校生の愛佳まなかが嬉しそうにニヤニヤ笑いながらスマホを見ていた。
チラリと画面の中を見ると、そこにはイケメンのキャラクターの画像があり奏多は勢いよく飛びついた。
「愛佳!今回のガチャ引いたのか!?」
「うん!だって最推しのガチャだったし!引かなきゃ損でしょ!」
「うう…俺も引こうかな…でもな…」
「お兄ちゃんは最推しのマルスの時に引きなよー」

今人気のアプリゲーム『Receive Insanelove』通称は狂恋。
色んなイケメンな王子様が出てくる乙女ゲームだが登場人物が全員狂っていたり性格がクソだったりして一癖も二癖もあるゲームであった。
奏多は可愛い物とイケメンが好きで愛佳に狂恋の話を聞いた時にすぐさまリリース予約をしてリリース日から毎日やっているのであった。
特に1番人気のマルス王子は何もかも完璧だが恋愛だけは分からないという王子で、奏多は一目惚れをしてしまったのだ。
「マルスの次のイベントいつなんだろう、めちゃくちゃ不安しかない!」
「マルスの時は皆の財布から万札は無くなるって言うしね!」
「奏多ー、ご飯食べなさーい」
母親の声に奏多は返事をして去ろうとしたが「あ、お兄ちゃん!」と愛佳が呼び止めてきて、止まって振り返って問い掛けた。
「どうした?愛佳」
「あ、あのね、後で私のお願い聞いてくれないかなー?」
「?いいよ?」
愛佳がお願いをしてくるはよくあるが、改まって聞いてくるのは少し不思議だったが…そこまで深くは考えず奏多は着替える為に自分の部屋に向かった。

「それで?何だ、改まってお願いなんて…」
夕飯とお風呂を済ませひと段落した奏多はソファーに座る愛佳の隣に座ってお茶を飲みながら問い掛けた。
だが、愛佳は何か話しづらそうにしており特に急かしたりはせずに待っていると決心したのかゆっくり口を開いた。


「お兄ちゃん、一緒にコスプレしない!?」

「え、えーーー!?」
まさかの事に奏多は驚いてしまいすぐに首を横に振って「無理無理!」と断った。
キャラになりきってポーズをとって写真撮影をするコスプレは、見るのは好きだったが自分はこんな綺麗に出来ないだろうなーと思っていた。まさか妹からお誘いされるとは思ってもいなかった。
「でもお兄ちゃん、肌綺麗だし身長普通にあるし絶対イケメンなマルスになると思うんだけどなー」
「しかも最推しのマルス!?無理だって、あんな美形イケメンになれないって!それにカツラとか衣装とかどうするんだよ!」
「私がバイトをしているのは課金もあるけど、コスプレの道具を集める為でもあったんだよ!」
妹の初めて知る趣味に驚きながらもどうしようか悩んでいると愛佳がしゅんと落ち込んでいるのに気づいた。
「私、お兄ちゃんと一緒にコスプレしたかっただけなのに…」
「え、あ、まな…」
「ごめんね、お兄ちゃん…私の我儘に付き合わせようとしちゃって…」
「っ…ま、愛佳…」
可愛い妹の落ち込む姿に奏多の胸はズキズキ痛み、がっくしと肩を落とすとボソッと呟いた。
「わ、分かった…やります…」
「ほんと!?わーい、お兄ちゃん大好きー!」
さっきまで落ち込んでいたのが嘘のようにパァっと表情を明るくして抱き着いてくる愛佳に奏多は乾いた笑いを上げるしかなかった。

こうして、奏多は人生初のコスプレをすることになってしまった…。
そして愛佳に言われて色々準備をしていき、数日後の週末には…

コスイベに参加をしていた。
「う、うわー…」
何処を見ても二次元からそのまま来たのではないかというくらい知っているキャラが居た。
準備を終えて愛佳を待っている奏多は周りをキョロキョロして見ていた。
するとそこに狂恋のキャラにコスプレをした愛佳がやってきて奏多の隣に立った。
「あ、愛佳…」
「!!!お兄ちゃん、すっっっごくイケメンだよーーー!!!」
目をキラキラ輝かせながら言ってきた愛佳に奏多は頬を赤らめながら照れた。
今回、奏多が選んだのは最推しのマルス…ではなく、マルスのライバル的存在で気怠げでワイルド系のイケメン王子のレオンにしたのであった。
最推しをやるのは流石に烏滸がましいと思ったのと、マルスと撮影をするとなったのなら…レオンが1番やっていて楽しいかなと思ったのであった。

「じゃあ撮影しよ!レオンに合わせてレオンの従者であるラッキー君にしたからさ!」
「う、うん、でもどうやって撮影すれば?」
キチンとポーズや表情を決めたりする周りに圧倒されてアワアワと慌てる奏多を見て愛佳はクスクス笑うと手を掴んで、歩きながら言った。
「大丈夫!とりあえず楽しめばいいんだよ!」
「え、あ、え!?」
何とか愛佳に着いていき、良い場所を見つけると荷物を置いて愛佳は本格的なカメラを用意しだした。
「え、そんな本格的なのか!?」
「お兄ちゃんがコスプレするってなったから買っちゃった!さぁさぁお兄ちゃん、ちゃんとレオンのポーズを取るんだよ!」
オドオドしていた奏多だったが愛佳の的確な指示で何とかポーズや表情を決めて撮っていった。
すると周りのレイヤーさんからお願いをされて一緒に撮影をすることになった。最初は慌ててしまった奏多だったがレイヤーさん達の優しいお言葉に、だんだん調子が良くなってきて決められたポーズや表情をこなして楽しんでいた。

「はぁ…疲れたー…」
近くのベンチに座って休憩する奏多に愛佳も隣に座って「お疲れ様ー」と声をかけた。
お茶を飲みながらふと会場内を見ていると、狂恋のキャラをやっているレイヤーさんが多かった。
最推しのマルスもいたが、奏多はまだ誰の撮影も出来ていなかったのだ。
それに気付いたのか愛佳が優しく声をかけてきた。
「お兄ちゃん、休むの終えたら次は撮影に回ろっか!マルス撮りたいでしょ?私も撮りたいし!」
「そうだな、でも俺、本格的なカメラじゃないけど大丈夫か!?」
数年前に変えたスマホを見せながら問いかけると愛佳は優しくポンと肩を叩いた。
「大丈夫だよー、さっき一緒に撮った方々もスマホだったでしょ?」
「そ、そっか…でも、どのマルスもかっこ良すぎて近寄り難い…!」
照れる奏多に愛佳がクスクス笑っていると会場内の空気が少し変わった事に気づき、2人はキョロキョロ周りを見るとそこに現れたのは…

イケメンすぎるマルスだった…。

隣にはマルスの従者であるリリィもいて、2人の美形っぷり、体型の良さ、顔の出来、身長差などなど完璧すぎて画面から飛び出してきたのかと思ってしまった。
そんなマルスに奏多はドキッと鼓動が早くなっていった。それは自分自身も分かっていた。

まるで恋に落ちた様な……。

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