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「……届かないよねー」
王宮の本棚は何故こんなに高いのだろう。偉い王族が住むからって本棚まで高くする必要あるのだろうか。
欲しい本は手を伸ばしたところで到底届かないところに。まわりには、はしごとなるようなものは無い。頼るしかないか。
私の背丈ぐらいある長い杖でコンコンと地面を叩く。すると、
『はーい。呼んだ? アリシア』
ふわっと風を巻き起こる。人間の女性のような見た目をした風の精霊シルフだ。
「あそこの本取って。届かないの」
『えー、またそんなことで呼んだのー? ちょっとは人間に頼りなよー。そんなんだから、人間の友達出来ないんだよー』
「別に契約違反じゃないでしょ。精霊の方が優秀で気が楽だし。それとそういう事は言わないで。嫌なこと思い出すじゃない」
シルフがいらん事言うから嫌なこと思い出したじゃない。学生時代、友達も出来ず、イジメも受けてたことを。まあ、イジメって言っても、目を合わせてくれないとか無視されるとか、じゃれ合いレベルの魔法をぶつけられるとかの可愛いものだったけど。物が無くなったり、壊されたりしたのはさすがに嫌だったな。
『別にいいけどねー。呼んでくれるのは嬉しいしー。はい、本。せっかく来たんだから、読む前にあたしと遊んでよー』
「うーん、いいけど何する? 他の精霊も呼ぶ?」
くるくると私の周りを飛び回るシルフ。遊ぶって何しよう。シルフ元気だから、外飛び回りたいとかいいそうだなーとか考えていた時、
コンコン。
扉をノックする音が聞こえた。
「はいどうぞ」
「失礼します。アリシア様、殿下がお呼びです」
「……はーい」
ノックして入ってきたのはメイドだった。殿下がお呼びです、か。はいはい、行きますよ。
おっと、鏡で髪を直していこう。シルフが飛び回ったから風で乱れている。
私は鏡を見て、乱れを直す。腰ほどまで伸ばした銀色の髪に、紫がかった瞳。髪型よし、目ヤニなどもついてない。ひらひらのドレスも汚れ無し。オッケー。
きれいに整え、部屋を出る。
殿下の呼び出しか。どうせ、しょうもない事だろうけど。
「お前との婚約は破棄だ。そして、お前は国外追放だ」
「……は?」
呼ばれて行った第一声がこれだった。
「……理由を教えてください」
そもそも婚約自体、あなたから無理矢理決めたことでしょう。学校卒業直後に勝手に婚約を決め、国王命だとか言って逆らおうなら、反逆罪だとか言って。同じ学校の同級生だから、卒業まで待ってやったとか言ってたけど意味分かんないし。
「理由だと? お前が言う事を聞かないからだろう! 精霊姫と呼ばれていたから、婚約したというのに。お前はその精霊の力を、国の為に全く使わないだろうが!」
精霊姫。いったい誰が呼んだのか、それが私についたあだ名。精霊しか友達がいないことを馬鹿にした私のあだ名。……事実だから、否定もしにくい。
「魔物退治とかには協力していたじゃないですか」
「魔物退治なんか冒険者にでもやらせておけばいい! それよりも、隣国への侵攻に協力しろと何度も言っていただろう!」
「……はあ。戦争には協力しないと、何度言えば分かるのですか?」
そう、この男は私と精霊達へ戦争への協力を要求してくるのだ。確かに、精霊達の力は人間よりも遥かに強い。でも、だからといって彼らを人殺しの道具になんかさせたくない。
人を襲う魔物を退治するぐらいは協力してもらってるんだから、それで満足しろと何度言っても聞かないのがこの男。
「ああ。もう分かった。だから、お前との婚約は破棄だ。無能め。そして、我が国へ非協力的な非国民であるお前は国外追放だ」
「…………そうですか。では、荷物まとめたら出ていきますね」
元々気乗りしない婚約だったのだから、破棄されるのはむしろ好都合。国から追い出されるのは困るけど、戦争しようとしてる国に居る方がよくないかもしれない。
家族達にも伝えておこう。婚約破棄されました。国外追放になりました。みんなも逃げた方がいいよ。何かあっても精霊が守ってくれるようお願いしとくけど。
コンコンと杖で地面を叩き、シルフをもう一回呼ぶ。みんなによろしく伝えておいてね。さて、シルフも行ったし、私も行かないと。
もう用なんて無いと、部屋を出ようとしたその時、
「待て。その杖を置いていけ」
「は?」
殿下に引き止められた。杖? 杖ってこれ?
「お前が今持っているその杖だ。それを使って精霊を使役しているだろう。そんな物を持ったまま国外へ出ることは許さん」
私が精霊と契約する時に使っているこの杖。え? こんなボロボロの杖欲しいの? 色々使ってるからボロボロだよ?
「はあ。まあ、欲しいならどうぞ」
こんなボロボロの杖を欲しがる人がいるなんて。確かに、素材は良い素材だったと思うけど。これを持ってようとなかろうと何も変わらないのに。
殿下に杖を渡す。その杖を受け取り、ニヤリと殿下は笑みを浮かべた。
「フン。……クククッ。ついに俺に精霊を従える力が」
「……殿下、精霊術が使えたのですか?」
精霊は人間が住む世界とは別の世界に住んでいる。その二つの世界を繋げ、精霊を呼び契約を交わすのが精霊術。
精霊術は難易度が高い魔術になる。一般的な方法だと、まず複雑な術式と長ったらしい呪文で世界を繋げる。そして、現れた精霊と契約しなければならない。
この契約というのも一癖あり、精霊は人間より強大な生物だから、下等な人間なんか下に見て契約をしてくれない精霊が多い。そんな彼らには自分が対等な存在と認めさせた後、契約をする必要がある。
「フン、お前がしているところを何度も見ている。それに、来い、イザベラ」
「はい。殿下」
殿下が名前を呼ぶ。すると、一人の女性が現れた。あっ、この人……、
「お久しぶりね。アリシア」
「……お久しぶりです」
イザベラと呼ばれ現れた女性。この人、私をイジメてたグループのリーダーだ。色んな魔法をぶつけて来たのをよく覚えている。
「こんなところで再会するなんてね。学生の時は思いもしなかったわ」
「……本当ですね」
ふと思ったが、学生時代この人は何を思って、私をイジメていたのだろう。接点なんて何も無かったし、まともに話したことすら無かったのに。
「お前も知っているだろう? イザベラ=スカーレットだ。俺達、同じ学校で同級生だもんな」
それは知っているけれど。ああ、彼女に手伝ってもらうのか。
「お前との婚約も破棄できたからな。彼女と正式に婚約し、俺はこの国の王となる」
婚約破棄直後にもう新たな婚約者が。まあ、色んな女性がいることは知っていたけれども。陛下ももうお年だから、こいつが国王になってしまうのか。大丈夫か、この国。まあ、私にはもう関係ないか。
「あなたが心配せずとも、私が殿下を支えますので。もうあなたは用済み。さっさと消えてくださらない?」
「おいおい、言ってやるなイザベラ。もう会うことが無いかもしれないんだぞ? いや、また会うことがあるかもしれないがな。今度は奴隷として」
「ウフフ! そうですわ! 世界は殿下の物ですわ!」
「……では、お世話になりました」
高笑いする二人に見送られ、私は部屋を出た。その後、荷物をまとめ、王宮も出ていった。
王宮の本棚は何故こんなに高いのだろう。偉い王族が住むからって本棚まで高くする必要あるのだろうか。
欲しい本は手を伸ばしたところで到底届かないところに。まわりには、はしごとなるようなものは無い。頼るしかないか。
私の背丈ぐらいある長い杖でコンコンと地面を叩く。すると、
『はーい。呼んだ? アリシア』
ふわっと風を巻き起こる。人間の女性のような見た目をした風の精霊シルフだ。
「あそこの本取って。届かないの」
『えー、またそんなことで呼んだのー? ちょっとは人間に頼りなよー。そんなんだから、人間の友達出来ないんだよー』
「別に契約違反じゃないでしょ。精霊の方が優秀で気が楽だし。それとそういう事は言わないで。嫌なこと思い出すじゃない」
シルフがいらん事言うから嫌なこと思い出したじゃない。学生時代、友達も出来ず、イジメも受けてたことを。まあ、イジメって言っても、目を合わせてくれないとか無視されるとか、じゃれ合いレベルの魔法をぶつけられるとかの可愛いものだったけど。物が無くなったり、壊されたりしたのはさすがに嫌だったな。
『別にいいけどねー。呼んでくれるのは嬉しいしー。はい、本。せっかく来たんだから、読む前にあたしと遊んでよー』
「うーん、いいけど何する? 他の精霊も呼ぶ?」
くるくると私の周りを飛び回るシルフ。遊ぶって何しよう。シルフ元気だから、外飛び回りたいとかいいそうだなーとか考えていた時、
コンコン。
扉をノックする音が聞こえた。
「はいどうぞ」
「失礼します。アリシア様、殿下がお呼びです」
「……はーい」
ノックして入ってきたのはメイドだった。殿下がお呼びです、か。はいはい、行きますよ。
おっと、鏡で髪を直していこう。シルフが飛び回ったから風で乱れている。
私は鏡を見て、乱れを直す。腰ほどまで伸ばした銀色の髪に、紫がかった瞳。髪型よし、目ヤニなどもついてない。ひらひらのドレスも汚れ無し。オッケー。
きれいに整え、部屋を出る。
殿下の呼び出しか。どうせ、しょうもない事だろうけど。
「お前との婚約は破棄だ。そして、お前は国外追放だ」
「……は?」
呼ばれて行った第一声がこれだった。
「……理由を教えてください」
そもそも婚約自体、あなたから無理矢理決めたことでしょう。学校卒業直後に勝手に婚約を決め、国王命だとか言って逆らおうなら、反逆罪だとか言って。同じ学校の同級生だから、卒業まで待ってやったとか言ってたけど意味分かんないし。
「理由だと? お前が言う事を聞かないからだろう! 精霊姫と呼ばれていたから、婚約したというのに。お前はその精霊の力を、国の為に全く使わないだろうが!」
精霊姫。いったい誰が呼んだのか、それが私についたあだ名。精霊しか友達がいないことを馬鹿にした私のあだ名。……事実だから、否定もしにくい。
「魔物退治とかには協力していたじゃないですか」
「魔物退治なんか冒険者にでもやらせておけばいい! それよりも、隣国への侵攻に協力しろと何度も言っていただろう!」
「……はあ。戦争には協力しないと、何度言えば分かるのですか?」
そう、この男は私と精霊達へ戦争への協力を要求してくるのだ。確かに、精霊達の力は人間よりも遥かに強い。でも、だからといって彼らを人殺しの道具になんかさせたくない。
人を襲う魔物を退治するぐらいは協力してもらってるんだから、それで満足しろと何度言っても聞かないのがこの男。
「ああ。もう分かった。だから、お前との婚約は破棄だ。無能め。そして、我が国へ非協力的な非国民であるお前は国外追放だ」
「…………そうですか。では、荷物まとめたら出ていきますね」
元々気乗りしない婚約だったのだから、破棄されるのはむしろ好都合。国から追い出されるのは困るけど、戦争しようとしてる国に居る方がよくないかもしれない。
家族達にも伝えておこう。婚約破棄されました。国外追放になりました。みんなも逃げた方がいいよ。何かあっても精霊が守ってくれるようお願いしとくけど。
コンコンと杖で地面を叩き、シルフをもう一回呼ぶ。みんなによろしく伝えておいてね。さて、シルフも行ったし、私も行かないと。
もう用なんて無いと、部屋を出ようとしたその時、
「待て。その杖を置いていけ」
「は?」
殿下に引き止められた。杖? 杖ってこれ?
「お前が今持っているその杖だ。それを使って精霊を使役しているだろう。そんな物を持ったまま国外へ出ることは許さん」
私が精霊と契約する時に使っているこの杖。え? こんなボロボロの杖欲しいの? 色々使ってるからボロボロだよ?
「はあ。まあ、欲しいならどうぞ」
こんなボロボロの杖を欲しがる人がいるなんて。確かに、素材は良い素材だったと思うけど。これを持ってようとなかろうと何も変わらないのに。
殿下に杖を渡す。その杖を受け取り、ニヤリと殿下は笑みを浮かべた。
「フン。……クククッ。ついに俺に精霊を従える力が」
「……殿下、精霊術が使えたのですか?」
精霊は人間が住む世界とは別の世界に住んでいる。その二つの世界を繋げ、精霊を呼び契約を交わすのが精霊術。
精霊術は難易度が高い魔術になる。一般的な方法だと、まず複雑な術式と長ったらしい呪文で世界を繋げる。そして、現れた精霊と契約しなければならない。
この契約というのも一癖あり、精霊は人間より強大な生物だから、下等な人間なんか下に見て契約をしてくれない精霊が多い。そんな彼らには自分が対等な存在と認めさせた後、契約をする必要がある。
「フン、お前がしているところを何度も見ている。それに、来い、イザベラ」
「はい。殿下」
殿下が名前を呼ぶ。すると、一人の女性が現れた。あっ、この人……、
「お久しぶりね。アリシア」
「……お久しぶりです」
イザベラと呼ばれ現れた女性。この人、私をイジメてたグループのリーダーだ。色んな魔法をぶつけて来たのをよく覚えている。
「こんなところで再会するなんてね。学生の時は思いもしなかったわ」
「……本当ですね」
ふと思ったが、学生時代この人は何を思って、私をイジメていたのだろう。接点なんて何も無かったし、まともに話したことすら無かったのに。
「お前も知っているだろう? イザベラ=スカーレットだ。俺達、同じ学校で同級生だもんな」
それは知っているけれど。ああ、彼女に手伝ってもらうのか。
「お前との婚約も破棄できたからな。彼女と正式に婚約し、俺はこの国の王となる」
婚約破棄直後にもう新たな婚約者が。まあ、色んな女性がいることは知っていたけれども。陛下ももうお年だから、こいつが国王になってしまうのか。大丈夫か、この国。まあ、私にはもう関係ないか。
「あなたが心配せずとも、私が殿下を支えますので。もうあなたは用済み。さっさと消えてくださらない?」
「おいおい、言ってやるなイザベラ。もう会うことが無いかもしれないんだぞ? いや、また会うことがあるかもしれないがな。今度は奴隷として」
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